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夢のあと

sakuraと申します。ゲームのプレイ感想と読書感想を書いています。

『宵夢 -yoiyume-』(「薄桜鬼」(千景×千鶴))

2011年05月20日 | 乙女ゲーム 二次小説
 風間家に仕えているという中年の女性に先導されながら、千鶴は篝火に照らされる廊下をゆっくりと歩いていた。
 今迄袖を通した事もないような上質な絹で仕立て上げられた白い夜着に身を包み、高鳴る心音に混ざって虫の音と時折篝火の爆ぜる音だけが耳に届く。

「――こちらです」

 数歩前を歩いていた女性が足を止め、一つの部屋の前でかしこまって頭を下げた。
 どうやら目的地に着いたようだ。
 千鶴はいよいよ覚悟を決め、ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「失礼致します。頭領様」

 既に部屋の中にいる筈の人物に向かって、女性が声を掛ける。しかし、返事を待つことなく障子戸に手を掛けると、音を立てることなく横に引いた。
 千鶴がちらりと盗み見ると、畳が広がるだけの部屋の中には誰の姿もなかった。

「――待ちくたびれたぞ。こっちだ」

 突然、隣の部屋から聞こえた声に、千鶴は思わずびくりと肩を震わせた。
 意を決して部屋の中に足を踏み入れると、背後で障子戸の閉まる音が聞こえた。

「あ・・・っ」

 振り返った時には、千鶴をこの部屋迄連れて来てくれた女性の姿は消えていた。

(・・・ど、どうしよう)

 この場に座って千景を待つべきか、それとも千景の傍に行くべきか。
 分からずに千鶴がその場に佇んでいると、隣の部屋から千景が声を掛けてきた。

「何をしている。こっちに来い」
「ひゃっ・・・ひゃい!」

 突然、声を掛けられて、千鶴の声が裏返ってしまう。
 恐る恐る声のした方を見ると、更に隣の部屋を通り越して千景は縁側に座っていた。千鶴と同じく、上品な白い夜着に身を包んでいる。
 ――その手前に一組の布団と二個の枕が並んでいた事は、とりあえず見なかった事にしよう。
 千景は手に杯を持ちながら驚いたような顔をしていた。

「何を素っ頓狂な声を出している。早くこっちに来て酌をしろ」
「・・・はい」

 千鶴は布団を視界に入れないように横を通り過ぎると、縁側に座っている千景の隣に正座した。壁に背を預けながら片膝を立てて座っている千景の近くには、盆の上に置かれた徳利が置いてあった。
 特別に何かを意識している訳ではない自然体の千景を見て、千鶴は何だか拍子抜けした。
 自分だけがこんなに緊張しているだなんて、何だか馬鹿らしく思えてきたのだった。

(千景さんもお酒を飲んですっかりくつろいでいるし・・・。もしかしたら、もう今夜は何事もなく寝ちゃうのかもしれない)

 千鶴は内心で安堵しながら徳利を持つと、千景の手の中で空になった杯に添えた。

「どうぞ」
「ん」

 千景は顔をこちらに向けることなく杯を持つ手だけを徳利に近付けた。杯が酒で満たされると千鶴は徳利を離した。
 すぐに千景は杯を口に持っていくと、僅かに顎を上げ何かを見ながら酒を飲み始めた。
 一体何を見ているのだろうと思った千鶴は、千景の視線の先を追った。

「・・・綺麗」

 見上げた先には弧を描いた月と、今にも頭上に降り注ぎそうな満天の星空が広がっていた。
 千景は月見酒ならぬ「星月見酒」をしていたのだった。
 千鶴が息を呑み見入っていると、傍らで千景の静かな声が聞こえた。

「何もない山の中だが、この眺めだけは気に入った」
「・・・はい。本当に綺麗です。こんなにたくさんの星が大きく見えて、とても近くに感じます。まるで、手を伸ばせば届きそうな――」

 千鶴は夜空に手を伸ばすが、その手は空を彷徨うだけだった。
 その様子を千景は何も言わずに暫く見つめていたが、千鶴が諦めたように手を下げると口を開いた。

「――酒を」
「・・・あ、はい」

 千鶴が慌てて酒を注ぐと、千景はまた無言で口元に持っていった。千鶴が飽きることなく夜空を見上げていると、またぼそりと告げるような千景の声がした。

「今日は慣れぬ格好をした所為で疲れたのではないか」
「・・・え?」

 何のことだろうと思って隣に座る千景を見た。しかし、千景は杯を口に運んだまま目を瞑っており、次の言葉を発しようとはしない。千鶴は首を傾げながら先程の千景の言葉の意味を考える。

(慣れぬ格好って・・・花嫁衣装のこと?それとも・・・)

「鬼の姿のことだ」

 千鶴の考えていることが伝わったように、千景が言を継いだ。

「ああ!そっちのことですか!」

 千鶴が両手を叩きながら頷く姿を、千景は杯を口に当てたままじっと見ていた。心の中迄見透かされそうな紅い瞳に見つめられ、千鶴は思わず逃げ腰になる。

「・・・な、何ですか」
「何を逃げている。体が後ろに下がっているぞ」
「に、逃げてません!」

 千鶴はむきになって、半分後ろに反っていた体を千景の方に近付けた。

「――くっ。まあ、良い」

 千景はそう呟くと、手にしていた杯を盆の上に置いた。

「『鬼は格式と伝統を重んじる』と以前に言ったな?」
「・・・え?は、はい」
「その為、一族の血を後の世に存続させるという意味もある大事な婚礼の儀では、本来の鬼の姿に戻り皆の前で誓いを立てることが、大昔からの習わしとなっているのだ」
「はい。式の説明を受けた時に、そう説明されました」

 江戸から隠れ里に着いて、すぐに千景との婚礼準備が進められた。千景の告げた通り既に前々から準備がされていたようで、千鶴が特に用意する物もなく何だかあっと言う間に今日に至った気がする。
 しかし、千鶴はそれを少し心苦しく思っていた。
 本来、二つの家がそれぞれ準備するであろう支度等を全て風間家が仕切ってくれたのである。

「西の頭領である俺が、東の雪村家の娘を娶るのだ。普通の式とは重みが違う」
「・・・はあ、そうなんですか」

 千景は真剣に告げるがつい最近迄自分が鬼だとは知らずに育ち、まして東の鬼一族を統べていた直系の生き残りだったという自覚がない千鶴には、自分との婚礼がそんなに重要な物だとは思えなかった。

(そりゃ、千景さんは西の鬼の頭領なんだもの。その千景さんが結婚するっていったら、大変な出来事なんだろうけど・・・。私は特に・・・)

 千鶴の返事から察したのであろう。千景が軽く溜め息を吐いた。

「自覚がないのも困りものだな。雪村の直系が生き残っていると知って、我が一族はいたく感激していたぞ」
「え、そうなんですか」

 かつて、鬼達を巻き込みながら日本全土で繰り返された戦の果てに統一が成されると、数を減らした鬼達は東と西に散り散りに分かれた。
 それから交流はほとんどなかったであろうに、東の鬼達のことを想ってくれている西の鬼の人達の心遣いに、千鶴は目頭が熱くなるのを感じた。

「雪村の生き残りの娘を風間家の嫁にすると告げた時、皆は諸手を上げて喜んでいた。特に口うるさい長老達が感極まって泣いているのを見た時は、腹の底から笑ってやった。あれは気分が良かった」
「・・・千景さん」

 くっくっと心底楽しそうに笑う千景を見ながら、千鶴は呆れた。分かってはいたけど、彼の性格の悪さは筋金入りだ。いや、一種の愛情の裏返しというか、天の邪鬼だと思えば思えるのだろうか。彼は何処となく、子供をそのまま大人にしたような印象があった。

「鬼の姿で婚儀の席に現れたお前を見て、皆が息を呑んでいたぞ」
「え!?そ、そんなことはありません!」

 あの時の気恥ずかしさは覚えている。
 自分が鬼だと自覚してからは、意識すれば鬼の姿に変われるようになった。
 銀色の髪。額に現れる二本の角。金色の瞳。
 鏡の中に映る自分の姿は別人のようで、まだ慣れない。いつか自然と受け入れられる時が来るのかもしれない。
 式には白無垢と綿帽子姿で臨んだ。頭が重く、目深に被っている綿帽子の所為であまり顔を上げる事は出来なかったが、式場となった風間家の大広間に足を踏み入れた時、その場にいる人達が少しざわめいたのは分かった。
 思わず足が止まりそうになったが、介添え人役の女性に手を取られながら向かう先には、鬼の姿で毅然と座る千景の姿を見て勇気付けられた。
 自分が歩いて行くのはあの美しい人の隣だと思えば、不思議と力が漲り自然と足を踏み出せる事が出来た。

「千景さんの堂々とした姿に皆さん見とれてたんだと思います。・・・きっと、私がちびで童顔であまりに子供だから、皆さんが想像していた【雪村の娘】と違ってがっかりしたんだと思います」

 俯きながら少し苦笑気味に告げると、千景が再び溜め息を吐くのが分かった。

「・・・だからお前は自覚がないと言うのだ。俺の姿など皆見慣れている。あの時は、お前の鬼としての美しさと纏う気高さに皆が息を呑んだのだ。『天晴れ、流石は雪村家の娘だ』・・・とな」
「・・・え?で、でも、私の顔は皆さんからはほとんど見えなかったと思いますよ?」
「我等は鬼だ。【気】で分かる」

 全く思いもしなかった千景の言葉に、千鶴は顔を上げた。すると、千景が優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「婚儀の後の宴の席を覚えているか。お前を一目見ようと、屋敷の庭に迄人が溢れていた」
「・・・あ、はい。子供達もいたので、お饅頭をあげました。とても喜んでくれたので私も嬉しくなりました」

 堅苦しい婚礼の儀が終わると、大広間はそのまま宴会場と化した。千鶴も重い綿帽子を脱ぎ、角隠しへとお色直しをしたのだった。

「あの時、皆の相手をしにお前が俺から離れた時、じじい共が俺に寄ってきて告げた。『慈悲深く美しい魂を持っていることが纏う空気から見て取れる。好き勝手なことばかりするお前に頭を痛めていたが、あのような娘を娶ることが出来たお前を珍しく褒めてやろう』などと言っていた。全く、ふざけた狸じじい共め」
「・・・え、えーと」

 千景の言う『じじい共』とは、恐らく先程の話に出ていた長老達のことだろう。そして、長老達の千景に対する評価も複雑だった。少しは分かると言えば分かるのだが・・・。
 きっと長老達も、千景の行動にはかなり頭を悩ませていたのだろう。しかし、千景なりに一族のことを考えての行動だとも知っている為、真っ向から反対することも出来ずに、お目付け役として天霧や不知火を傍に付かせていたのだろう。

「庭に祝いに来ていた者達は、村の者達だ。広間には入れないが、皆には酒や料理を振る舞った。残念だったのは引き出物か。折角の風間家頭領の婚礼なのだ。俺が用意したかった物を、ことごとくお前が変更させてしまったのは未だに口惜しい」

 恨みがましい目で見つめられながら、千鶴は笑顔で返した。

「ですが、今はこちらに移ってきたばかりで何かと物入りです。私達も贅沢は出来ません。村の皆さんの暮らしが安定するよう、そちらにお金を掛けましょうということに落ち着いたんですよね?」

 千景の考えていた引き出物の数々――風間千景の絵姿が描かれた絵皿、土鍋、家紋入り箸と箸置き、人形、千景顔型落雁――を、千鶴がそう告げて止めたのだった。
 しかし、本気でそんな物を引き出物として皆に配る気だったのだろうかと、千鶴は首を傾げるばかりだ。

(えーと・・・何とか理由を付けて止めて貰って良かった)

「それに、家紋入りの箸と箸置きだけは渡すことが出来たんですから、千景さんの考えた引き出物が全部無駄になってしまった訳ではないでしょう?」

 少しは千景の考えも入れてあげないと後々面倒な事になりそうな予感がした千鶴は、千景の考えた引き出物の中でも比較的まともな物を残す事にしたのだった。

「・・・それは、そうだが」

 それでも何処か納得出来ないらしい。暫く不貞腐れていた千景だったが、何かを思い出したようにぽつりと呟いた。

「皆、美しい花嫁に見惚れていたな」
「え!?そ、そんなことはありません!きっと、花嫁さんが珍しかったんですよ!」
「俺も見惚れた」
「・・・・・・」

 思わぬ千景の言葉に千鶴は固まる。

(え、え、え~~~!?ど、どうすれば良いの、この雰囲気!?)

 千景が熱い眼差しを向けてくるのだが、千鶴は逆に背筋に冷や汗が流れ始めていた。

「ふっ・・・」

 やがて、千景が視線を外して鼻で笑った。

「お前の反応はいちいち面白いな。からかい甲斐がある。――酒をくれ」

 盆の上から杯を手に取ると、千鶴の方に差し出した。

「も、もうっ!からかったんですね!本当に相変わらずですね、千景さんは・・・!」

 千鶴は胸を撫で下ろしながら徳利を手に取ると、千景の杯に注いだ。

「そういえば、これで何本目ですか?というか、宴の時から飲んでましたよね?」

 先程からぐいぐいと酒を飲んでいるように見えるのだが、目の前の千景は酔っているようには見えない。

(確かに千景さんて、お酒に強そうなのよね・・・。もしかして、いくら飲んでも酔わない体質とか?鬼なんだし、有り得るかも!)

 千鶴が徳利を持ちながら考えていると、千景が空を見上げながら告げた。

「・・・今夜はいくら飲んでも酔えん。もしかすると、緊張しているのかもしれん」
「え?」

 千景の口から彼に似つかわしくない言葉が聞こえた事を不思議に思い、千鶴は思わず千景の顔をまじまじと見た。
 しかし、千景の横顔はいつもと同じで、彼が言うように緊張しているようには見えない。

(でも、千景さんが自分で言ってるんだから、そうなのかも・・・。確かに、今日は頭領としても重要な日だったんだから、今になって疲れが出ているのかもしれない。・・・よしっ!)

 そうと決まれば話は早い。千鶴はすぐに立ち上がると、部屋の中に戻った。
 千景は急に立ち上がった千鶴を何事かと思い、目で追った。

「千景さん。きっと今日は疲れていると思いますので、早く寝た方がいいと思います。お布団、もう一組出しますね」

 千鶴はそう告げると、部屋の押入の前に立った。

「きっと、この中にあると――」

 しかし、押入を開けようとした千鶴の手は、いつの間にか近くに立っていた千景の手に止められた。

「千景さん・・・?」

 千鶴は不思議そうに千景を見上げた。

「――お前は、俺に意地悪をしているのか?」
「はい!?」

 いつも意地悪をしているのは千景の方である。千鶴は千景の言葉の意味が分からず、まじまじと見つめ返した。

「俺が緊張していると言っただろう」
「は、はい。ですから、式の準備や今日一日で色々とお疲れになったんだろうと思って、お布団を別にしてちゃんと休んだ方が良いと思ったんです」
「・・・お前のそれは天然なのか」

 千景が片手で顔を覆いながら、がっくりと肩を落とした。

「は?て、天然って何がですか?」

 千鶴は掴まれた手を意識しながら、訳が分からず千景の言葉を待った。

「俺が緊張していると言ったのは――」
「・・・!?」

 千景は掴んだままの千鶴の手を自分の方に引き寄せると、体勢を崩して倒れ込んできた千鶴の体を抱き締めた。

「ようやくお前を、俺の物に出来る日が来たからだ」
「・・・なっ!?」

 千景の胸の中で千鶴は驚愕のあまり頭の中が真っ白になるのを感じた。そして、ついでに意識も遠のいていった。

「・・・?おい?」

 突然、腕の中でくたりとした千鶴に、千景は声を掛けた。

「どうした?しっかりしろ!」

 顔を真っ赤にして気を失う千鶴に、千景は必死になって声を掛けるのだった。


   *   *   *


「・・・・・・」
「・・・め、面目ありません」

 結局、あのまま気を失った千鶴は、千景によって布団に寝かさることになった。その横では千景が団扇で扇いでくれていた。

「この俺が何故こんなことを・・・」

 不本意だと文句を言いながら、千景は団扇を動かす手を止めることはなかった。
 千景の優しさが伝わってきて、千鶴は嬉しく感じた。優しい風が心地良かった。

(やっぱり、千景さんは優しい人だ・・・)

 横になっている千鶴の目に、夜空の星が飛び込んできた。

「・・・星が綺麗です」

 千鶴の言葉に、千景も星を振り仰いだ。

「そうだな」

 千景は一言だけ告げると暫く星を見つめ続けていたが、やがてぽつりと呟いた。

「夏になれば、この庭にも蛍が溢れているだろう」
「蛍、ですか?・・・そうなったら、空と地上の両方に星が溢れる事になるんですね。素敵です。千景さん、是非一緒に見ましょうね」

 千鶴の言葉に、千景は一瞬驚いたような表情をして見せた。その顔はまるで、何故自分が考えていた事が分かったのかと問うようだった。勿論、千景の考えなど知らない千鶴は不思議そうに見つめ返していた。

「千景さん?」
「・・・ああ、そうだな。一緒に見よう」
「はい」

 千鶴は笑顔で頷くと、その風景をうっとりと想像した。
 夜空を見上げ続ける二人の間に沈黙が流れるが、部屋の外では虫の音が響いている為、心地良い空気に千鶴は包まれていた。

(・・・何だか眠くなってきたかも)

 千鶴の目がとろんとしてくると、それを察したのか千景が声を掛けてきた。

「おい、寝るなよ」

 千鶴は思わずびくりと震えて、慌てて返事をした。

「・・・へ?ひゃっ、ひゃいっ!ね、寝てまへん!」

 千鶴の返事に千景が目を開くのが分かった。

「・・・ぷっ。先程もそんな返事をしていたな。何だそれは・・・くっくっ」

 千景はおかしくて仕方ないといった感じで、肩を震わせて笑い出していた。笑った顔がとても優しくて、千鶴の胸が思わず高鳴る。

「気分はどうだ?落ち着いたか?」
「は、はい。暫く横になっていましたし、千景さんが団扇で扇いでいてくれていたので、火照りも治まったようです」
「・・・全く、緊張が極限に達し倒れるとは、知恵熱が出た子供のようだな」
「・・・はあ、すみませんでした」

 千鶴はゆっくり起き上がると、布団の上でしゅんとしながら正座をして謝った。
 不意に千景が顔を近付けてきた。

「なら、もう大丈夫だな」
「・・・へ?千景さん?」
「俺はもう待てぬ。存分に俺の相手をして貰うぞ。覚悟しろ」

 そう告げると、千鶴の肩を押して布団の上に再び寝かそうとする。

「え?えと、あの、ちょ・・・ちょっと待って下さい!」
「・・・何だ?待てぬと言ったであろう」

 千景の胸を両手で押して距離を取ろうとするが、千鶴の抵抗などお構いなしで千景は体重を掛けながら押し倒してくる。力では叶わない千鶴は、結局布団の上に仰向けで寝かされる事になった。見上げると千景の端正な顔がすぐ近くにあって、鼓動が大きく跳ね上がるのを意識した。
 
「そ、その、あの、私・・・は、初めてなんです!だから、その・・・どうしたらいいか!千景さんにも迷惑を掛けるかもしれません!だ、だから、ええと・・・!」

 目の前で起きている事が現実とは思えない千鶴は、自分でも何を言っているのか良く分からなくなってきていた。

(どうしよう・・・どうすれば・・・どうしたら・・・)

 頭の中は同じような言葉だけが繰り返され、とにかく混乱していた。
 すると、千景が少し驚いたように軽く目を見開いた後、顔を千鶴の耳元に近付けるとそっと囁いた。

「・・・知っている。俺に任せていれば良い。それに、俺も惚れた女を抱くのは初めてだ。安心しろ」
「・・・・・・っ!?」

 それは果たして安心していいことなのかと、混乱する頭の中で千鶴は思った。

「俺の隣に居ていい女はお前だけだ。そして、俺の子供を産むのもお前しかいない。他の女になど、そんな大役は任せられん。――だから、これからも何も心配などせず俺の隣で笑っていろ」

 ――それだけで良い。我が妻よ。

 何処迄も勝手な千景の言葉だったが、耳元で囁かれた言葉は温かくて千鶴は幸せを感じていた。

「――はい」

 千鶴は抵抗することを止めると、両腕を布団の上に下ろした。目を閉じるとすぐ近くに千景の優しい吐息を感じ、遠くに虫の音が聞こえた。

 やがて、千景の手が腰紐に触れると、千鶴の耳にはもう何も聞こえなくなっていた。


~了~




<あとがき・・・という名の言い訳>

最後迄ご覧頂き、ありがとうございます!m(__)m

二週間ぶりのブログ更新です。
皆さま、如何お過ごしでしょうか。
ツイッターの方ではちょこちょこと呟いていましたが、この二週間は二次創作に励んでいたり、『ペルソナ3ポータブル』を女主人公でプレイし始めたり、積読を読んだりしていました。

『薄桜鬼』妄想二次創作(SS)第二弾、千景×千鶴カップリングです。
二人の祝言の夜を妄想した創作となっています。
『薄桜鬼 黎明録』<終章>【共に歩く、新たな道 ~風間の妻~】後設定で、前作『旅立ちの桜』の続編でもあります。

・・・ええと、自分の中では「こんなの発表しても良いの?」という話になっています(笑)。
前作のあとがきで「何か足りないと思うかもしれませんが(萌え?エロ?)、」と書いたのですが、実際に描いてみたらやたらと恥ずかしいです!!
うぎゃあーっ!(*ノノ)

今作はGWから描き始めていたのですが、スランプというのもおこがましいですが、途中から文章が描けなくなってしまいました。(´д`)
私の場合は二次創作は勢いで描いている事が多いので、その勢いが止まるとキーを打つ手も止まってしまいます。
しかし、『アニメ薄桜鬼 碧血録』のちー様のラストがあまりにも不憫すぎるので、せめて二次創作でちー様に美味しい想いをさせてあげないと、私の中で『薄桜鬼』という作品に区切りを付けて次に進む事は出来ないと思いました。
そんな理由もありこの度何とか完成させることが出来ましたが、作中色々と説明不足になっているかもしれません。
ちー様への溢れる愛だけは、たくさん注がせて頂きました!
・・・もしかしたら、後日に少し修正するかもしれません。orz
引き出物ネタは『遊戯録』からです(笑)。
やりたい放題のちー様が好きだー!

改めて読むと本当に恥ずかしい話になっていますが、ニヤニヤしながらご覧頂けたら本望です!
そして、出来れば最後のちー様の台詞は津田さんの声で再生して頂けると、より一層ニヤニヤして頂けると思います(笑)!
感想は大変怖いですが、もしよろしければ・・・何か頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。|д゜*)


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11 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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深夜に読んで (まみみ)
2011-05-20 04:12:51
ひとりはわわ~!となっておりました。
おはようございます、いやこんばんはでしょうか。わけのわからない時間にすみません。

祝言の夜キタ―!と、ものすっごくどきどきしながら読み始めたのですが、途中から浮かぶ情景がとても綺麗で、ふたりが穏やかで、幸せで、いいお話だなあ…としみじみしておりました。それだけじゃなくて、最後の方の押し倒しちー様とか…!ああもうさすがに我慢できないよね…!とにやにやにやにや…(エンドレス)。

引き出物にも笑いました。
それ、なんかのファンクラブグッズ!?みたいな(笑)。けどそれなりに需要ありそうです。わたしもネタとして欲しい気がします。オトメイト(最初「お留糸」と変換してました)さん出してみたらいいのに←脊髄反射的提案

これから蛍の季節です。
うちの近所ではすこーしだけ見られるのですが、たぶん見るときはこのお話を思い出すだろうなあという気がします。
本当に素敵なお話でした。ありがとうございました!
返信する
☆まみみ さま (sakura)
2011-05-21 00:57:38
こんばんは。
この度は『薄桜鬼』二次創作をご覧頂き、そしてコメントをありがとうございます!

>深夜に読んで
うおおっ!
深夜・・・というか早朝から凄い話をすみません!
零時にアップしようと思っていたのですが、本当に載せて良いものかと二時間近く七転八倒しながら葛藤した結果、思い切って載せる事にしました!

>浮かぶ情景がとても綺麗で、
細かい描写がとても不安だったのですが、想像力を働かせて下さりありがとうございました!(´;ω;`)ブワッ
満天の星空の下でたくさんの蛍が飛び交う風景は、夢のように綺麗だろうなと想像しました。
タイトルに「蛍」を入れようかとも思ったのですが、どうも「蛍の光」や「蛍の墓」を連想してしまい、二人の初夜話には相応しくないと考え直しました・・・。orz
「宵」には「初夜」という意味も含まれているようですので、色々な意味を込めて「宵夢」というタイトルに落ち着きました。

>ふたりが穏やかで、幸せで、
あ、ありがとうございます!(ノД`;)・゜・
もう、まみみさまにそう仰って頂いただけで、今作は救われました!
テーマは「(扱われ方が不憫な)ちー様を幸せにしてあげる」でしたので、敢えて新選組の事については触れませんでした。

>押し倒しちー様
強引に押し倒す所がリヒャルトとは違うんだな~と、描きながらしみじみ思いました(笑)。
ちー様の上から目線の俺様台詞が、今回は少し難しかったです。
最後の台詞は予想外に優しくなり、デレちー様が降臨しました!
ニヤニヤして頂けたなら本当に本望です!

>引き出物
私も一式が欲しいです!
是非、ネタとしてアニメイトで売って欲しいです!
需要ありだと思います!
ただ、ちー様の顔型落雁は食べられそうにありません(笑)。
「お留糸」は、「お留さんの糸」みたいな感じで吹きました。
お留さんの正体は謎です。

>蛍・うちの近所ではすこーしだけ見られるのですが、
うわあっ!素敵です!
コチラでは見掛けないので、もう少し山の近くに行かないといないのかもしれません。
・・・ほんのちょっとでも、今作を思い出して頂けたら嬉しいです。

今作は迷走していただけにご覧下さる方の反応が怖かったのですが、まみみさまに感想を頂けて本当に嬉しかったです!
ありがとうございました!!m(__)m
返信する
素敵過ぎる!?その後のお話 (那智)
2011-05-21 02:17:12
こんばんは。
薄桜鬼の創作がありましたので急いで飲み物、用意してきました……!?
こ、ここっこれは!まさかのっ濡れ…あゎゎ初夜的な展開に?ニヤニヤどころじゃあないです(すでに前のめり!)
二人に、こんなゆったりした時間が流れるなんて(別の緊張感はともかく)(笑)。幸せそうな未来が見えてきます。良かったね、風間さん。千鶴チャンもオーバーアクションすることもないですねww。
蛍かぁ、いいですねぇ…。ガしかいないなァ・・・。
返信する
すいません。素敵なお話を読ませていただきましたお礼を忘れてしまって…。 (那智)
2011-05-21 02:33:32
ありがとうございました。^^
返信する
最高ですっ (あずき)
2011-05-22 00:10:42
こんばんわ。
突然ですが・・・
ちー様最高です!
緊張してるちー様可愛かったです・・・想像してしまいました(笑
気を失ってた千鶴ちゃんも可愛いです。・・・そうだよね、ちー様に抱き締められたりしたらね・・・

特に!最後のちー様が千鶴に囁いてた言葉はやばかったです。
もう、ニヤニヤが止まりませんっ!
素敵なお話ありがとうございました~
返信する
ちー様大好きです (りん)
2011-05-22 16:10:04
津田さんの声が基本的に 好きなのですが ちー様に俺様なちー様にかいま見える優しさに メロメロです 千鶴にヤケちゃいますね イイなぁ 一緒に蛍見たいです ご馳走様々でした
返信する
☆那智 さま (sakura)
2011-05-23 01:22:40
こんばんは。
この度も『薄桜鬼』二次創作をご覧頂き、そしてコメントをありがとうございます!
二週間も空いてしまい、大変失礼致しました。m(__)m

>急いで飲み物、用意してきました……!?
那智さまのコメントはいつも楽しくて大好きです。
自分のツボにハマりまくりです。
飲み物は吹き出さず飲めたでしょうか(笑)。

>ニヤニヤどころじゃあないです(すでに前のめり!)
勇気がなくて、ラストの展開以上には持っていけませんでした!orz

>幸せそうな未来が見えてきます。
はい。
ちー様が九州男児の所為で初々しい新婚の雰囲気はあまりありませんが、二人で手を取り合って西の鬼一族を守っていって貰いたいです。
ゆっくりと日々を過ごす二人が想像出来ます。

>良かったね、風間さん。
扱いが可哀想なちー様も、少しは報われたでしょうか。(´;ω;`)
・・・実は、創作内のちー様は千鶴に接吻すらしていないのです!
ちー様が美味しい思いをしているのは、前作は手を繋いだこと、今作は・・・押し倒しでしょうか。
今作はあと一歩のお預け状態なので、せめて接吻シーンを入れようかと思ったのですが、話の流れ的に止めておきました。
ちなみに、ボツになったシーンです。

千景「おい。とりあえず、接吻させろ」
千鶴「と、とりあえずって何ですか!」

・・・いや~。
敢えて接吻シーンを入れなくても、千鶴の腰紐解いたらその流れになるから良いかな?と思いました(笑)。
す、すみません!ちー様!
本当に大好きなのですよ!?

>千鶴チャンもオーバーアクションすることもないですねww。
笑いました(笑)。
これからは洗濯物を落とした時に、「駄目ー!」とスローモーションで洗濯物に手を伸ばす千鶴が思い浮かびますw

>蛍かぁ、いいですねぇ…。ガしかいないなァ・・・。
たくさんの蛍が飛んでいる景色を想像すると、風流ですよね。
私が住んでいる場所も、蚊しかいないです(笑)。
前作が四月の設定に対して、今作は二ヶ月後の六月頃の設定です。
山の中ですからそんなに蚊も多くないかもしれませんが、もう少し暑くなってきたら二人の寝室にも蚊帳が登場すると思います。

>すいません。素敵なお話を読ませていただきましたお礼を忘れてしまって…。
いえ!とんでもありません!
拙い二次創作をご覧下さり、コメントを書き込んで頂いただけで有り難いです!
こちらこそ、ありがとうございました!
返信する
☆あずき さま (sakura)
2011-05-23 01:23:27
こんばんは。
この度も『薄桜鬼』二次創作をご覧頂き、そしてコメントをありがとうございます!
二週間も空いてしまい、大変失礼致しました。m(__)m

>ちー様最高です!
私もそう思います!(`・ω・´)

>緊張してるちー様可愛かったです
ありがとうございます!
「・・・誰、これ?」状態のちー様だったと思いますが、可愛いと仰って頂けて嬉しいです!
ゲーム内でもデレたちー様を見たかったのですが、残念ながらお目に掛かれませんでした。orz
だったら二次創作で、拗ねるちー様(前作)、デレるちー様、不貞腐れるちー様、緊張するちー様、団扇で扇いでくれるちー様、優しく笑うちー様・・・といった数々の妄想ちー様を描こうと思ったのでした!
・・・こう書き出してみると、自分の妄想力半端ないです。(ノ∀`;)・゜・

>気を失ってた千鶴ちゃんも可愛いです。
千鶴も可愛いと褒めて頂き、ありがとうございます!
良かったです。

>ちー様に抱き締められたりしたら
良いですね~。
ちー様に抱き締められる妄想をしてしまいました(笑)!(*´ェ`*)

>最後のちー様が千鶴に囁いてた言葉はやばかったです。
千鶴に対して少し甘すぎかなとも思ったのですが、ようやく自分の物に出来るということで必要以上に甘くなった・・・ということにしておこうと思いました(笑)。
ちー様、結構饒舌ですよね。

以前にコメントで書かせて頂いた初夜のシチュエーションとはだいぶ違ってしまいましたが、ニヤニヤして頂けたのなら救われました。
こちらこそ、ありがとうございました!
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☆りん さま (sakura)
2011-05-23 01:24:07
こんばんは。はじめまして、sakuraです。
この度は『薄桜鬼』二次創作をご覧頂き、
そしてコメントを書き込んで下さり、ありがとうございます。

>ちー様大好きです
私も、ちー様が大好きです!
ちー様を大好きな方がいると嬉しくなります!

>津田さんの声
低く響くお声が素敵です。
もう、ちー様の声は津田さん以外は考えられません!

>俺様なちー様にかいま見える優しさに メロメロです
ちー様は本気で好きになった相手には、過保護な迄に優しくなるのではないかと妄想しております。
優しいちー様、素敵ですよね。(*´ェ`*)

>一緒に蛍見たいです
私もちー様と蛍を見たいです(笑)!
ちー様の声を時々聞きながら蛍を見られるなんて、至福の時間だと思います。
想像するとうっとりします。

拙い創作ですが、少しでも優しいちー様を表現出来ていれば嬉しいです。
ありがとうございました。
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お久しぶりです (千生)
2011-05-28 10:50:32
ようやくテストやらなんやらかんやらが終わり、久々に夢の中へ~~と拝見させていただいたら…
唯我独尊、ちー様の小説じゃないですかーー!!
もうテンションUP!です!

緊張してるとか!あの俺様が!萌えました~。津田さん声の変換もばっちりです!(笑)

ご馳走様でしたm( _ _ )m
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