様々な疾患の薬物療法が進歩した中、整形外科分野で大きな問題として残されているのが変形性関節症(osteoarthritis, OA)です。OAの治療が難しい主たる原因は、一旦失われた関節軟骨の再生が困難なことにあります。このような中、培養軟骨細胞の移植や間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)などを用いた再生医療などの試みが行われていますが、良質な軟骨を再生させることは困難であるのが現状です。外科的な手法としてmicrofracture(MF)という方法があり、軟骨が欠損して骨が露出した部位に外科的に傷をつけることで軟骨再生を促そうというものです。この方法は昔から行われていますが、ある程度の軟骨再生を誘導することが可能です。しかし多くはいわゆる線維軟骨fibrocartilageであり、関節軟骨の主成分である硝子軟骨hyaline cartilageの再生は困難です。
さて近年骨・軟骨細胞の起源として骨格幹細胞skeletal stem cells(SSCs)が同定され、注目されています。SSCsはMSCsとは異なって脂肪細胞へは分化せず、骨芽細胞、軟骨細胞、骨髄間質細胞に分化するbone cartilage and stromal progenitors (BCSPs)の起源になっている細胞です。著者らは以前からSSCの研究を行っていますが(Chan et al., Cell. 2015 Jan 15;160(1-2):285-98; Chan et al., Cell. 2018 Sep 20;175(1):43-56.e21など)、この論文ではMFによってSSCsのclonalな増殖が誘導されること、またBMP2+sVEGFR1の組み合わせでSSCs→軟骨細胞への分化誘導が可能であることを明らかにしました。
(方法および結果)著者らはまず生後3日齢(P3)およびadult(9-25週齢)マウス軟骨を比較し、加齢とともにSSC populationが減少することを示しました。興味深いことにadultマウスにMFを行うとclonalに増殖するSSCsおよびBCSPsが増加しました。この時出現するSSCs, BCSPsは血流を介してrecruitされるものではなく、局所で出現する細胞であることがparabiosisを用いた研究から明らかになりました。
MF後に現れる細胞は軟骨細胞やCOL1を発現する線維芽細胞などの混合細胞で、修復される軟骨は線維軟骨でした。SSC→硝子軟骨への誘導を促進するため、BMP2シグナルの促進、VEGFシグナルの抑制が重要であるとの仮説から、BMP2+soluble VEGF receptor(sVEGFR)をハイドロゲルを用いてMF部に投与すると、OAマウスの軟骨欠損部は主として軟骨で修復されました。またヒト胎児の指節骨を免疫抑制マウスに移植するモデルでもBMP2+sVEGFRの投与によって欠損部への軟骨形成が見られました。
以上の結果から著者らは、BMP2+sVEGFRがOA治療につながるのではないかとしています。以前当科の張先生が、メカニカルストレスによって軟骨にBMP inhibitorでもあるGremlinが発現し、これがVEGFR2に結合することを報告していますが(Chang et al., Nat Commun. 2019 Mar 29;10(1):1442)、GremlinのSSCに対する効果も興味深いところです。
Murphy, M.P., Koepke, L.S., Lopez, M.T. et al. Articular cartilage regeneration by activated skeletal stem cells. Nat Med (2020).