とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

リウマチ足趾に対する骨頭温存手術の成績は良好

2021-03-21 22:22:08 | 整形外科・手術
少し前まではリウマチ足趾の手術というと、切除関節形成術resection arthroplastyがほとんどだったように思いますが、疾患活動性コントロール改善とともに、中足骨頭を温存した短縮骨切り術が(少なくとも日本では)主流となってきました。東京女子医科大学の矢野紘一郎先生らは、関節リウマチ53足に行った骨頭温存型手術の成績を後方視的に検討し、Self-Administered Foot Evaluation Questionnaire (SAFE-Q)の5 subscalesいずれも有意な改善が見られ、7年後の生存率(再手術不要)は89.5%という良好な成績を示したことを報告しています。創治癒遅延(すべて治癒)が20.0%、外反母趾再発が10.5%、内反母趾変形が3.8%、lesser MTPJの脱臼再発が7.7%に見られました。また再手術が不要だった症例の17.0%に有痛性胼胝再発あるいは残存が見られ、このような症例では胼胝無例と比較してSAFE-Qのうち3/5項目 (pain and pain-related, social functioning, shoe-related)で有意に低値でした。今後①術後の疾患活動性や使用薬物と再発との関係、②切除関節形成術との比較、などについても研究が進むことが期待されます。
Yano K et al., Patient-Reported and Radiographic Outcomes of Joint-Preserving Surgery for Rheumatoid Forefoot Deformities
A Retrospective Case Series with Mean Follow-up of 6 Years. J Bone Joint Surg Am. 2021 Mar 17;103(6):506-516.

前十字靭帯急性損傷に対しては早期手術の成績が良好

2021-03-11 23:44:14 | 整形外科・手術
前十字靭帯 (ACL)損傷は最も一般的なスポーツ外傷の一つで、その頻度は49ー75/100,000人・年とされています。過去には外科的治療と非手術療法を比較した臨床試験(KANON trial)が行われ、運動療法と組み合わせた保存的治療が良好な成績を示すことが示されています(Frobell et al., N Engl J Med 2010;363:331-42; Frobell et al., BMJ 2013;346:f232)。しかしこの結果出てからもACL損傷に対する手術は年々増加しています。これはKANON trialでは少なくとも半数の患者で再建術が不要であったためではないかと考えられています。今回のConservative versus Operative Methods for Patients with ACL Rupture Evaluation (COMPARE) trialでは、ACLの急性損傷に対して早期手術とリハビリテーション後に希望者に待機手術を行った場合との成績を比較しました。
受傷後2カ月以内のACL損傷患者 (18ー65歳)を早期(6週間以内)に再建術を行うEarly reconstruction (E)群、最低3カ月間のリハビリテーション後に不安定性が残存している、あるいは活動レベルに不満がある場合に再建術を行うRehabilitation with optional delayed reconstruction (R)群に振り分けて比較しました。研究に参加した患者は167人で、85人がE群、82人がR群に振り分けられました。E群のうち3名は再建術を受けませんでした(理由は手術に対する恐怖や手術時のpivot shift陰性)。78人はhamstring graft、4人は膝蓋腱 (BTB)を用いて再建されました。R群のうち41人が平均ランダム化後10.6ヵ月で再建術を受けました (38人がhamstring、3人がBTB)。手術は全て関節鏡視下で行われました。
Primary outcomeである術後24ヵ月以降のInternational Knee Documentation Committee scoreを用いた患者の自覚症状、膝機能、スポーツ参加の比較では、E群の方が有意に良好でした(群間差は5.3, 95% confidence interval 0.6 to 9.9)。3カ月後にはR群の方が良好な成績でしたが、点数は9ヵ月後に逆転しました。群間の差は12ヵ月後には小さくなりましたが、その後24ヵ月までE群が良好でした。Secondary outcomeである2年後のKnee Injury and Osteoarthritis Outcome sport score (P=0.039)、quality of life score (P=0.002)いずれもE群で有意に良好な成績を示しました。Lysholm scoreは6, 9, 12, 24ヵ月のfollow-upでいずれもE群で有意に良好でした。安静時および活動時の疼痛に群間差はありませんでした。半月板の処置が必要だったのはE群のうち24例、R群の17例でした。重篤な有害事象としては逆側のACL損傷 (E群で3例、R群で1例)、ACL再断裂 (E群4例、R群2例)。Post hoc analysisでは2年のfollow-up後にgiving wayを訴えた患者はR群で高頻度でした(E群2.5%, R群15.0%)。この研究結果は、ACL急性損傷患者に対しては早期の再建術が良好な成績を示すことを示唆していますが、R群との差は大きなものではなく、臨床的な意義を持つかについては議論の余地があるかもしれません。
Reijman et al., Early surgical reconstruction versus rehabilitation with elective delayed reconstruction for patients with anterior cruciate ligament rupture: COMPARE randomised controlled trial.
BMJ 2021;372:n375


頚椎症性脊髄症に対する前方手術vs後方手術

2021-03-10 17:14:57 | 整形外科・手術
頚椎症性脊髄症患者(cervical myelopathy, CSM)に対する手術療法において、前方手術が良いか?後方手術が良いか?という議論は神学論争的な趣きもあり、中々決着がつきません。これまでにいくつかの前向き研究は行われており、わが国でも東京医科歯科大学から両者を比較した優れた前向き試験が報告されていますし (Hirai et al., Spine. 2011;36(23):1940-7; Hirai et al., J Orthop Sci. 2018;23(1):32-38)、海外からも本論文の著者らの報告を含めていくつかの研究が発表されています (Ghogawala et al., Neurosurgery. 2011;68(3):622-630; King et al., Neurosurgery. 2009;65(6):1011-1022)。これまでの結果では前方手術のほうが良好とするものが多いようですが、ランダム化比較試験は行われていませんでした。
本研究はアメリカの14施設、カナダの1施設において、MRIあるいはミエロCTで確認された45歳~80歳のCSM患者をブロックランダム化によって前方手術群および後方手術群に振り分けました。C2-C7 kyphosis>5度、segmental hyphotic deformity、高度なOPLL、過去の頚椎手術歴、ASA class IV以上の患者は除外されています。前方手術は除圧・植骨およびプレートによる固定、後方手術については北米ではlaminoplastyに慣れていない脊椎外科医が多いということで、laminoplastyの技術がある8人の外科医は後方手術に振り分けられた患者は後方除圧固定術あるいはlaminoplasty(片開き式?)を自由に選ぶということになっています。Primary outcomeは1年後のSF-36のphysical component summary(PCS)の変化、secondary outcomeとしてはmodified JOA score, neck disability indexそしてEQ-5Dを用いたQALYs、休職期間等となっています。
458人の患者がスクリーニングされ、結果的に163人がランダム化されました。前方固定が66例、後方手術が97名(laminoplasty 28名、固定術69名)でした。術前の背景因子に有意差は有りませんでした。
結果は下記のとおりです。
①Primary outcomeである1年後のSF-36 PCSは前方手術群と後方手術群で有意差は有りませんでした (5.9 vs 6.2; P=0.86)。また2年後の変化も5.2 vs 6.0 (P=0.46)と有意差なしでした。Secondary outcomesの大半(6/7)で有意差なしでした。
②合併症は前方手術で有意に多いという結果でした (47.6% vs 24.0%; P=0.002)。主なものとしては嚥下障害 (41% vs 0%)、神経学的障害 (2% vs 9%)、再手術 (6% vs 4%)、30日以内の再入院 (0% vs 7%)などで、major complicationについては両者で差がありませんでした (22.2% vs 17.0%)。
③ランダム化されていない各術式間の比較では、laminoplastyのSF-36 PCS改善が有意に良好でした (laminoplasty, 後方固定、前方固定それぞれで1年後9.6, 4.6, 5.7 2年後10.1, 4.3, 5.0)。また術後合併症についてもlamnoplastyが有意に少ないという結果でした。
ということでこのRCTでは前方、後方手術の術後成績には差がないという結果でしたが、非ランダム化比較の結果およびlaminoplastyに慣れていない術者が多いということを考慮するとlaminoplastyに軍配が上がるような気がします。後方手術がメインである日本としては何となくうれしい結果です。後方手術を紹介する文献が獨協医科大学脳神経外科の金先生の論文なのは、本論文の著者がneurosurgeonだからでしょうか。。
Zoher Ghogawala et al.
Effect of Ventral vs Dorsal Spinal Surgery on Patient-Reported Physical Functioning in Patients With Cervical Spondylotic Myelopathy: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Mar 9;325(10):942-951. doi: 10.1001/jama.2021.1233.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2777236

腹腔内のGATA6陽性マクロファージが組織修復および癒着に関与する

2021-03-06 08:25:07 | 整形外科・手術
体腔coelomic cavityが存在する無脊椎動物(例えばウニなどの後生動物metazoansなど)では、体腔の損傷が生じると食作用を有する免疫細胞である体腔細胞coelomocytesが速やかに損傷部位に集積して損傷修復を行うことが知られています。このような細胞集積は極めて速やかに生じ、哺乳類における血小板凝集による止血反応に類似した過程です。
哺乳類にも腹腔や胸腔、心嚢などの体腔が存在しますが、その損傷もやはり速やかに修復されます。一方腹腔内の手術後には約66%の患者で無菌的な癒着が生じ、これがイレウスの原因になるなど、様々な問題を起こすことが知られています。この論文で著者らは腹腔内のGATA6陽性マクロファージ (GATA6+Mφ)が、腹膜損傷の修復に関与するとともに術後の癒着にも関与することを明らかにしました。
マウス腹膜にレーザーで熱傷を起こすと、腹腔内の損傷部位にGATA6+Mφが接着・集積して細胞塊aggregatesを形成することで損傷修復を行います。この反応は15分程度で完成する極めて速やかな過程であり、血小板の凝集に匹敵するものです。GATA6+Mφの凝集過程は様々な点で血小板凝集に類似していますが、後者が血管内で生じるのに対し、前者は血管外で生じるという空間的な違いがありました。
このような腹腔修復に関与するGATA6+Mφは、腹壁に存在するGATA陰性Mφとは異なって正常状態では腹腔液中に浮遊状態で存在しますが、腹膜の損傷によってfluid shear stressを介して損傷部位へ接着・凝集します。In vitro細胞培養においてもGATA6+Mφは細胞塊を形成し、この過程は2価カチオンのキレート剤EDTAで抑制され、ATP添加で促進されました。
著者らはこのGATA6+Mφの凝集に関与する分子を検討しました。GATA6+Mφの凝集はインテグリンやセレクチン、そしてICAMなどのimmunoglobulin-like adhesion moleculesなど様々な接着分子をブロックしても変化しませんでしたが、ヘパリンによって抑制されました。海綿動物の体腔細胞において、scavenger receptor cystein-rich (SRCR) domainを有するSRCR superfamily proteinsが接着分子として働くことにヒントを得て、マウスのGATA+マクロファージの接着においてもSRCR family分子が関与する可能性を検討し、MARCO (macrophage receptor with collagenous structure)およびMSR1 (macrophage scavenger receptor)という2つのclass A scavenger receptorsのブロックによってGATA6+Mφの凝集が強力に抑制されることが明らかになりました。
最後に同様の現象が無菌的な腹腔内癒着にも関与する可能性を、マウス腹腔内癒着モデルを用いて検証し、3時間で癒着部位に多数のMφが集積し、この過程はscavenger receptorsのブロックによって抑制されることを示しました。
この研究は腹腔内GATA6+Mφが血小板と類似した動態を示して組織修復に働くこと、この過程にSRCR family分子が関与すること、またこの修復過程が無菌的癒着にも関与することをin vivo imagingを利用して見事に示したという点で非常に重要なものです。術後癒着は外科領域における大きな課題であり、SRCR family分子の抑制がその解決に寄与する可能性を示しています。
余談ですが、この論文を読んで、ずっと前に読んだscavenger receptorがMφの接着に重要であることを示した論文を思い出しました (Fraser I et al., Nature. 1993 Jul 22;364(6435):343-6)。しかしこの論文ではMφの接着はdivalent cation-independentとなっているのですが、この違いはどのような機序なのでしょう?
J. Zindel et al., Primordial GATA6 macrophages function as extravascular platelets in sterile injury. Science  05 Mar 2021: Vol. 371, Issue 6533, eabe0595 DOI: 10.1126/science.abe0595



WALANT techniqueの足関節骨折手術への応用

2021-01-22 16:43:31 | 整形外科・手術
WALANT (Wide Awake Local Anesthesia with No Tourniquet) techniqueはターニケットを使わず血腫内局所麻酔注入などによってターニケットなしで手術を行う手法で、手外科領域で用いられる手技です。この論文はWALANT techniqueを足関節骨折に応用したというパキスタンからの報告です。骨折型としてはtype-44Bおよびtype-44Cに限定して58例に行い(44B1: 4例、44B2: 11例, 44C1: 7例, 44C2: 36例)、良好な成績であったことを示しています。まず血腫内に3-5 mLのリドカイン注射を行い整復し、シーネ固定。WALANT tenchiqueに同意した患者に対して手術を行いました。腫脹がない場合は24時間以内に手術を行いますが、平均すると受傷から5日目に手術は施行されました。
WALANT techniqueの具体的な手技は下記のようなものです。
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(手技)生理食塩水30 mL +2% リドカイン(with エピネフリン) 30 mLを1:1で混合した麻酔液を使用(MAX使用量は7 mg/ kg/ mL)。約5 mLの溶液を皮切近位1 cm~遠位1 cmに25 G針で皮下注射。注射後20分程度待ってから手術開始。必要に応じてドリル刺入やスクリュー挿入前に、骨膜に追加の局麻10 mL投与。骨膜は可能な限り保存。脛腓間スクリューが必要な場合は、追加で5〜10 mLの局麻を腓骨の前面に注入。
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58例全例に実施可能で、必要な局麻は手術あたり37.81±2.8 mLで術中疼痛を感じたのはVAS 3が1名、2が2名でした(他は無痛)。VTEなどの合併症はありませんでした。
専門の麻酔医が不要ですので、日本でも医師不足の病院などでは有用な手技でしょうか。

Tahir et al., Ankle Fracture Fixation with Use of WALANT (Wide Awake Local Anesthesia with No Tourniquet) Technique: An Attractive Alternative for the Austere Environment. J Bone Joint Surg Am. 2021 Jan 12.
doi: 10.2106/JBJS.20.00196. Online ahead of print.