とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

腱板損傷に対するplatelet-rich plasmaの有効性

2020-12-22 06:19:46 | 整形外科・手術
腱板損傷に対するステロイド注射とplatelet-rich plasma(PRP)の有効性についてのRCTの結果が報告されました。6カ月後の疼痛は変わらないものの、DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand) scoreおよびoverall functionそして外旋角度はPRPで優れていたという結果です。ステロイドは即効性があるもののその後の改善はあまり見られず、一方でPRPは徐々に改善が見られるという結果です。


リハビリテーション医療の重要性ーGlobal Burden of Disease Study 2019よりー

2020-12-09 05:46:44 | 整形外科・手術
Global Burden of Disease Study 2019から、リハビリテーション医療の重要性を指摘した論文がでました。24億1千万人(95% UI 2·34–2·50 billion)において疾患に対してリハビリテーションが有益な効果を有し、障害生存年数(years lived with disability: YLD)にして310 million (235–392) YLDsの効果があること、疾患の中では筋骨格系疾患に対する寄与が最も大きく17億1千万人、149 million YLDsの効果があること、中でも腰痛は最も重要な疾患であることを明らかにしています。リハビリテーション医療の定義をどのようにしているのか(日本でよくあるような腰痛に対して「電気をあてる」ような治療も含むのか)については疑問が残りますが、リハビリテーションの有用性を数値として指摘した点で重要な論文です。
Cieza et al.,  Global estimates of the need for rehabilitation based on the Global Burden of Disease study 2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. Lancet. 2020 Dec 1:S0140-6736(20)32340-0. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32340-0.

腱板損傷の治療についてのRCT

2020-12-05 23:25:36 | 整形外科・手術
腱板損傷(rotator cuff disease, RCD)は高齢者に多い疾患で、保存療法が奏功しない場合には、しばしば外科的治療が行われます。この論文では実臨床に即した方法で保存療法と外科療法を比較するRCTを行っています。
著者らは3カ月以上の保存療法に抵抗性であったRCD患者に対して腱板の損傷程度を明らかにするために造影MRI (MRI arthrography, MRA)を撮像した後、保存療法群と外科療法群にランダムに振り分けて治療による差を検討しました。
Primary outcomeはランダム化2年後のVAS scoreで調べた疼痛の変化、Constant score(CS)で調べた肩関節機能の変化です。Secondary outcomeとしてはRAND 36-Item Health Surveyで測定した健康関連QOLを調べました。
ランダム化されたのは187人190肩で、95肩が手術群(全層RCD50肩、うち44肩は棘上筋腱単独損傷)、95群が非手術群(全層RCD48肩、うち44肩は棘上筋腱単独損傷)に振り分けられました。保存療法が失敗した(強い痛み、機能不全あり)患者に対しては手術療法が勧められ、12肩(13%)で手術が行われました。また手術群のうち36肩(38%)は手術前に疼痛が改善したため手術をうけませんでした。結果として75%がプロトコール通りの治療をうけました。
(結果)2年後のVAS scoreは非手術群で31(95% CI 26 to 35)、手術群で34(95% CI 30 to 39)減少し、両群に差はありませんでした。Constant scoreは非手術群で17.0、手術群で20.4改善し、これも有意差はありませんでした。部分RCDのsubgroupで検討した場合も疼痛、CSの改善に有意差はありませんでしたが、全層RCD患者ではVAS score改善が非手術群24、手術群37と手術群における改善が有意に良好でした(mean difference: 13, 95% CI 5 to 22; p=0.002)。CSの改善も13.0 vs 20.0と手術群が良好でした(mean difference: 7.0, 95% CI 1.8 to 12.2; p=0.008)。全層RCD subgroupにおいて、RAND-36で調べたQOL scoreは非手術群、手術群で有意差はありませんでしたが、疼痛スコアは手術群で有意に良好でした。
全層のRCDに対する保存療法、外科療法を比較した過去のRCTの結果は必ずしも一定しておらず、両治療法に差がないとするものもいくつかあります。本研究とそれらとの違いは、外傷性の損傷を17%含んでいること、十分な保存療法後に部分損傷、全層損傷両者を対象にしてランダム化したことなどが挙げられていますが、このような点にも手術を対象にしたRCTの難しさがあるように思います。
外科療法の有効性を検証したRCTにおいて、しばしば手術が無効であるという結果が報告されています。実際に無駄な手術をしている場合もひょっとしたらあるのかもしれませんが、外科医としては何らかの効果を実感しているから手術をしてきたはずです。おそらくこのようなケースの多くは、手術が無駄という訳ではなく、「手術が有効なsubgroupを同定できていない」ことが原因ではないかと思います。
もちろん全症例を解析しても有意差がでるような素晴らしい手術も少なくないのかもしれませんが、何らかのsubgroupでは成績に差が見られるが、全体で解析すると有意差がなくなってしまう、というような場合も多いのではないでしょうか。今回の研究では部分損傷か、全層損傷かという比較的わかりやすいところで差が出たわけですが、例えば腱板損傷の部位や関節拘縮の程度などによっても差があるかもしれません。将来的に外科療法が生き残るためには、手術が本当に有効なsubgroupをしっかりと同定すること、すなわち適応となる症例の選別をしっかり行うことが重要になってくるのではないかと思います。
Cederqvist et al., Non-surgical and surgical treatments for rotator cuff disease: a pragmatic randomised clinical trial with 2-year follow-up after initial rehabilitation. Ann Rheum Dis doi: 10.1136/annrheumdis-2020-219099.

高齢者に対するビタミンD、オメガ3脂肪酸、筋力増強運動の有効性

2020-11-11 08:53:28 | 整形外科・手術
高齢者の6つのエンドポイント((cardiovascular health, bone health, muscle health, brain health, immunity)に対するビタミンD、オメガ3脂肪酸、筋力増強運動(週3回の筋力トレーニングを柔軟体操のみと比較)の単独介入およびコンビネーションの有用性を検証したDO-HEALTH試験の結果が報告されました。2157人がランダム化され、平均年齢は74.9歳で61.7%が女性でした。そのうち1900人が研究を完遂し、平均フォローアップ期間は2.99年です。結果はいずれの介入も有効性なし(血圧、short physical performance battery, montreal cognitive assessmentおよび非椎体骨折について)というものです。ビタミンDのディスられ具合は相変わらずですが、最近は運動に関しても否定的な報告が多く、どうしたもんかと思います。

高齢者転倒・骨折予防に関する運動介入および多因子転倒予防評価についてのランダム化比較試験

2020-11-09 10:53:38 | 整形外科・手術
高齢者の転倒と、それに付随する大腿骨近位部骨折を始めとした脆弱性骨折は、患者の生命予後に影響する重篤な疾患であることが知られています。国内外で転倒予防の取り組みは数多く行われており、運動療法は転倒予防に有用であるという研究結果が報告されています。この論文ではイギリス全土の63の一般診療から70歳以上の9803人をランダムに選択し、①3223人はメールのみによるアドバイス、②3279人は転倒リスクスクリーニングを行い、メールによるアドバイスに加えて対象を絞った運動、③3301人は転倒リスクスクリーニングを行い、メールによるアドバイスに加えて、対象を絞った多因子転倒予防multifactorial fall preventionの3群に振り分け、その後の転倒や骨折を検討しました。Primary outcomeはランダム化後18カ月以上の時点における100人・年の骨折率、secondary outcomeは転倒率に加えてSF-12, EQ-5D-3Lなどを用いたQOL評価です。
(結果)参加者の平均年齢は78歳で、女性が53%でした。転倒リスクスクリーニング質問票は、グループ②3279人中2925人(89%)から返送があり、そのうち1079人は転倒のリスクが高く、運動介入への参加の招待状が送られました。グループ③3301人中2854人(87%)が転倒リスクスクリーニング質問票を返送し、そのうち1074人(28%)に多因子転倒予防評価への参加の招待状が送られました。転倒リスクスクリーニング質問票に回答しなかった人の方が、回答した人よりもフレイルの患者割合が高率でした。結果として介入の骨折予防効果は示されませんでした。グループ①に対するグループ②の骨折の割合は1.20(95%信頼区間[CI], 0.91-1.59)であり、グループ③は1.30(95%CI, 0.99-1.71)でした。また18ヶ月間の100人年あたりの転倒数にも有意差はありませんでした。運動介入は、健康関連のQOLのわずかな向上と全体的なコスト低下に関連していました。
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今回の結果は最近報告されたRCTの結果(Bhasin S et al., A Randomized Trial of a Multifactorial Strategy to Prevent Serious Fall Injuries. N Engl J Med. 2020 Jul 9;383(2):129-140. doi: 10.1056/NEJMoa2002183)とも一致するものであり、改めて転倒・骨折予防の難しさが証明されました。転倒予防、骨折予防については根本的に戦略を考えなおす(転倒しても骨折しないような介入を行うなど)必要があるのかもしれません。