せどり男爵数奇譚(梶山季之/夏目書房版)
まず、この本を読むに至った経緯を話したい。
私が最近ファンになった米澤穂信氏が直木賞をとったが、さすがに『黒牢城』はしばらく借りられそうにないので、図書館でみかけた『米澤屋書店』を借りてみた。内容は、推理マニア向けの読書案内だったので拾い読みでお茶を濁したが、その中で短編推理として紹介されていた本書は、署名、作者名ともに聞いたことがあったので、読むべし、と思い図書館で借りてみた。
(図書館の蔵書リストにはあったが、開架スペースになかったので、職員さんに聞いてみると、すぐに奥から出してきてくれた。図書館職員(司書?)に感謝。)
内容は6話の短編連作。各話のタイトルは麻雀の役名で(ちなみに、私の右手中指には、いまだに麻雀の「パイだこ」の名残がある。)内容も、数奇譚の名にふさわしく、古書をテーマとする物語の古典的名作の名に恥じない。先週に紹介したビブリア古書堂シリーズの、とある登場人物も、このような世界に迷い込んだのかもしれない。
さて。『米澤屋書店』は読みごたえがありそうで、これから何度か借りて、推理沼の深いところは避けながら好みの短編推理を探してみようと思う。今回、強く印象に残ったのは、「日常の謎」という言葉。推理小説のすべてが、殺人事件を扱わなければならない訳ではない。そう言われれば、私の好きな近藤史恵も米澤穂信も、作品の多くがその範疇に入るのだと思う。
改めてそういう目で見れば、世間には「日常の謎」を扱う作品が大量に出回っている。その中で読む価値をあるものを見つけるのは、結局、各人の偏った好みしかないのかなと思う。