ジョット キリスト降誕
静かな静かな星空の下、神の御子であるキリストは、人の世界にひっそりと生れ落ちた。
なんと厳かな命の出現。
天使たちの歓喜のざわめきは、人の耳には届かない。
牛にロバと羊、僅かな羊飼い達が、マリアと幼子イエスを優しく見守るだけだ。
青と温か味のある黄色と灰色で描かれたこの絵は、キリストの誕生を哀しいくらい美しく簡潔に表している。
かえってそれが、この場面を強く印象付ける効果を持つ。
よく見かけるキリスト降誕を描いた絵の中の、マリアの衣の豪奢さや仰々しいポーズは過剰な演出で、感覚を惑わす悪魔の手法とでもいうようだ。
あたかもジョットは、聖書に書かれたことに忠実に脚色無しに描くのが、人のなすべきことと信じ、神に忠実であろうとしているようにみえる。
そこから、聖書に書かれたことを、悪意はなくとも曲解して、いろいろな宗派が派生する人間の弱さ愚かさが、いつの世にもあることなのだと思わずにはいられない。
だから、キリスト降誕を描いた数ある絵の中で、ジョットの絵がひときわ強い輝きを放っている。
生まれる喜びを高らかに讃え、その使命の重さを予感させるのならば、ボッティチェッリの”キリスト降誕”もいいけれど、より聖書に近いといえば、このジョットにおいて他はないだろう。
キリスト教者でなくとも、明日に寄せて、このジョットの”キリスト降誕”をもう一度よく見てみようか。