真珠の女
コローは、風景画を多く描いた。
いかにもコローらしくてよく知られているものは、「朝、ニンフの踊り」にみられる銀灰色と深い緑で木々と水辺などを描いたもの。
靄がかった湿潤な空気があたりを満たし、鬱蒼とした木々や草むらに、時々迷い込んでしまったかのような人や動物たち。
この、しっとりとほの暗い絵もいいけれど、固まってしまったかのような女性の絵や、からりと乾いた陽を浴びた建物の絵を、自分としては好んでいる。
コローの絵は、どれも静寂が満たしているが、特に人物と建物の絵は、はにかんだ静かさがこの絵には漂っているのだ。
「真珠の女」は、コローなりのダ・ヴィンチへのオマージュなのか、初々しい乙女のモナ・リザになっている。
「ローマ コンスタンティヌ聖堂」の、明るく乾いた光が照りつける蜂蜜色の建物と、ライトブルーの空の色の対比が控えめな美しさを表している。
このような画風の絵は、基本中の基本的な絵として、コローだけの専売特許ではない。
そうだとしても、だからこそにじみ出てくるコローのシャイな雰囲気があって、惹かれてしまうのだ。
湿潤な森の絵と、はにかんだような人物と建物の絵は、対極にあってバランスを取っている。
でも、どちらもコローという器の中の出来事。
どちらも知って、コローとなる。
それが、やさしい静けさが満ちるコローの絵になるのだ。
ローマ コンスタンティヌ聖堂
朝、ニンフの踊り