goo blog サービス終了のお知らせ 

Renaissancejapan

哲学と宗教、財閥、国際政治、金融、科学技術、心霊現象など幅広いジャンルについて投稿しています

山火事の街で感じた無力さ 温暖化最前線、カナダを歩く

2023-08-12 11:24:18 | 災害・自然災害・気候変動・異常気象・火災・温暖化

地球温暖化が目に見える形で生活に影響を及ぼしている。カナダやハワイでは過去最大規模の山火事が発生し、人命や産業に甚大な被害が出ている。地球規模で猛威を振るう災害に対し、なすすべはない。現地を歩くと住民の困惑と無力感が伝わってきた。

カナダ西部の都市、カムループス。2010年の冬季五輪の開催地となった港湾都市、バンクーバーから飛行機で45分ほどだ。8月、煙で薄もやのかかった小さな空港にタラップで降り立つと、熱気でむせかえりそうになった。温度計は37度を指している。

 


     カムループス郊外のキャンプ場から見えた山火事

 

空港から車で30分ほど。森林当局が「制御不能」としている山火事の現場の近くにたどり着いた。湖のそばのキャンプ場で、対岸にもうもうと立ち上る白煙が見える。目視だが、高さ数キロまで立ち上っている。「避難指示が出たらすぐに荷物をもって立ち去れるように」。入り口では担当者からこんな注意を受けた。

 


カムループス郊外のキャンプ場の入り口。すぐ避難できるよう警告を出している


キャンプ場に休暇で来ていたキャシー・コードニアさんは「こんなに近くで煙が上がっているなんて」と驚きを隠せない様子だ。ヘリがひっきりになしに飛来し、飛び火した新しい火災や、有人地区への延焼を食い止めている。



      カムループス市内に飛び火した山火事

 

火災はあまりにも大きく、明らかに人間の手で全体を消し止めることは不可能だ。地域全体が乾燥して燃え広がりやすくなり、市街地を含むあちこちに飛び火している。

これはカナダで起きている無数の山火事の一つにすぎない。同国では大規模なものだけでもすでに1200件以上発生。そのうち700件超が制御不能だ。

 

4月以降にカナダで発生した森林火災は1200件超

すでに日本の国土面積の3分の1超に当たる13万平方キロが消失。記録を遡れる中では最大となった。6月には普段は少ない東部のケベック州でも大規模な火災が発生し、米ニューヨークまで煙が立ちこめた。

カムループスが位置するブリティッシュコロンビア州で山火事の防災に従事するエリカ・バーグさんは「市街地などに被害が出ないようにすることを最優先にし、あとは自然鎮火を待つ」と話す。

 


森林当局の消防士エリカ・バーグさん。24時間体制で対応にあたる。背後は防火剤を散布する航空機「エアタンカー」

 

産業にも影響を及ぼしている

アンガス牛農家のダグ・ホートンさんの農場は放牧地が山火事で退避を余儀なくされ、500頭を別の場所に避難させた。しかし、避難先も干ばつで草が茶色に変色し、水は少ない。牛は見るからに痩せ細っている。

 

畜産業を営むダグ・ホートンさん。干ばつと山火事で仕事に深刻な影響がある

 

「1906年に祖母が英国から移ってきて、この農場を切り開いた。3代にわたって続けてきたがこの地を出なければならないかもしれない」。ダグさんは「誰を責めるわけにもいかないが、温暖化を止めるために規制強化は出来るのではないか」と話す。

本来、カムループスはカナディアンロッキーの山岳観光の拠点でもある。避難指示が頻繁に発令される中で、公園やトレッキングコースが閉鎖され観光客は激減。レンタカー会社社員のブライアン・クリステンセンさんは「なすがままにするしかない。山火事とはとても戦えない」と肩を落とす。

背景にあるのは地球温暖化だ。欧州連合の調査機関によると、地球の平均気温は今夏、過去最高を記録した。欧州やハワイでも山火事が多発し、多数の人命も失われている。社会の深刻な負担になっている。

 


 8月の米ハワイ・マウイ島の山火事では市民ら50人以上が犠牲になった=AP

 

欧州のコペルニクス気候変動サービスによると、2023年7月の世界の平均気温が観測史上で最高だった。干ばつが増加し、カナダやギリシャなど世界各地で大規模な山火事が多発して市民生活に影響を及ぼしている。

衛星の観測データによると、火災によって大量の二酸化炭素(CO2)が発生。カナダでの炭素排出量は8月時点で観測史上過去最高だった14年の2倍以上に達する。

 

2023年のカナダの山火事による炭素放出量(赤線)はここ数年の傾向をはるかに上回る(欧州コペルニクス気候変動サービス)

カナダの産業が放出するCO2量を大きく上回るだけでなく、火災で発生したCO2により温暖化に拍車がかかる、負の連鎖につながっている。

 


カムループスで暮らすシーラ・ロックウッドさん㊧。
「温暖化で苦しんでいる人がいることを世界に知ってほしい」と訴える


住民の声を聞こうと近隣に住むシーラ・ロックウッドさんを訪ねたときのことだ。取材を終えて車で去ろうとした記者に、シーラさんが追いすがるように駆け寄ってきた。

「今ここで起きていることを日本や世界のみんなに伝えてほしい」。無力のままではならない。窓越しに訴える切実な表情を見て、気候変動問題に世界全体が真剣に取り組まねばならないと痛切に感じた。

(カナダ西部・カムループスにて、朝田賢治、大島有美子 映像=槍田真希子、山本博文、大須賀亮)

 

日経記事 2023.08.12より引用

 

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。