
トランプ氏は相互関税を発動したうえで各国に「取引」を呼びかけている=ロイター
トランプ米政権による相互関税が日本時間9日午後1時1分(米東部時間9日午前0時1分)に発動する。
中国製品には累計104%の関税をかける方針で、応酬は激しさを増す。打撃を和らげようと70カ国以上が個別交渉を申し入れるが、先行きは見通せず、世界経済への影響も計り知れない。
どの国とも「交渉する」
「相互関税は発効する。トランプ大統領は電話をかけてくるどの国とも交渉する。電話が鳴りやまないのは確実だ」。
レビット大統領報道官は8日の記者会見でこう述べた。
5日に適用した全世界一律10%の基本税率に加え、9日から貿易状況に応じて各国・地域ごとに税を上乗せする。

狙い撃ちするのは中国だ。中国が米国への報復関税を8日までに撤回しなかったため、トランプ政権は対中関税をさらに50%追加すると表明した。
すでに中国からの全輸入品には20%の追加関税を課している。これに2日発表した34%と今回の50%を上乗せすれば、合計の課税率は104%におよぶ。中国は「最後まで戦う」と引き下がらず、さらなる報復も示唆した。
「大統領は米国が攻撃を受ければ、さらに激しく反撃する。だから中国に対して104%の関税が発効する」。
レビット氏が記者会見で「104%」に言及すると、貿易戦争激化への懸念から、それまで上げていた株式相場は一転して売りが優勢となった。
トランプ政権は「まず発動、それから交渉」の方針を徹底する。トランプ氏は8日、韓国などが報復措置を取らず、交渉に乗り出していることを強調し、強硬姿勢をとる中国に「電話を待っている」と呼びかけた。
8日に連邦議会上院の公聴会に出席した米通商代表部(USTR)のグリア代表は、相互関税の成否は「国ごとに判断する」と述べた。
相手国の譲歩狙う
トランプ氏は課税を恒久化する国もあれば、交渉により引き下げる国もあるとしている。レビット氏は「(相互関税を発表した)2日以降、70カ国が交渉を申し出ている」と明らかにした。
国・地域ごとに米国に有利な貿易協定を結んで、高関税や非関税障壁の撤廃を目指す。
早々に譲歩を提案してきた国もある。インドは関税撤廃や規制の見直しを含む二国間の貿易協定締結に向けて、米国と交渉に入った。
46%の相互関税を課されるベトナムは米国製品にかける関税の全面的な撤廃を検討している。
49%と高関税の対象になっているカンボジアも4日、35%課税しているウイスキーを含む19品目の関税を5%に下げると米国に伝えた。
グリア氏はこうした動きを踏まえ「ほとんどの国は報復措置を取らない」との強気の見通しを示した。
グリア氏は8日、相互関税の例外措置にも言及した。自動車や鉄鋼・アルミニウム製品のように、すでに25%の分野別関税がかかっている製品は対象としない。
加えて半導体、医薬品など、これから分野別関税の対象になり得る製品も除外すると明言した。
米国内で「iPhoneつくれる」
トランプ政権は高関税があくまでディール(取引)の手段であって、最終的な落としどころは相手国次第だと強調する。
念頭には米国の製造業を復活させたいという思惑がある。iPhoneの組み立てラインが米国に戻るかを問われたレビット氏は「米国にはそれをできるだけの労働力や実行するための資源があると、大統領は信じている」と強調した。
だが不規則な関税攻勢は勝者のいない世界同時不況を招きかねない。貿易活動の停滞につながるだけでなく、企業の設備投資や個人消費にも打撃を与えるためだ。
世界貿易機関(WTO)のオコンジョイウェアラ事務局長はトランプ氏が相互関税を発表した翌3日、世界のモノの貿易量が2025年に1%縮小するとの見通しを示した。以前のプラス予想から4ポイントの下方修正だ。
声明で「報復措置の連鎖による関税戦争の激化がさらなる貿易縮小につながる可能性を深く懸念している」と述べた。
不確実性指数、ピークの3倍に上昇

貿易をめぐる不確実性の高まりは「貿易政策をめぐる不確実性指数」に表れる。
同指数は主要紙の記事に出てくる用語の頻度をもとに米大の研究者らが算出し、通商政策の先行きの読みにくさを可視化したものだ。3月時点で指数は5700超とトランプ政権1期目のピーク(19年8月)のほぼ3倍に達している。
「不確実性は企業の支出や雇用の先送り、あるいは削減につながり、潜在的な景気後退入りの経路となる」。モルガン・スタンレーのチーフ米国エコノミスト、マイケル・ゲイペン氏は指摘する。
関税が最終的にどう落ち着くか見通せない限り、企業は生産拠点をどこに置くか意思決定ができず、設備投資や採用の抑制に動く可能性が高まる。
さらに関税はインフレ再燃を招く。
ゴールドマン・サックスは実効関税率が1ポイント上昇するごとに、価格変動の大きい分野を除くコアの米個人消費支出(PCE)物価指数がおよそ0.1ポイント上がるとはじく。米国のインフレは1ポイント以上押し上げられるとの見方が多く、実質所得の減少は個人消費を圧迫する。
「6割」の確率で景気後退入り
JPモルガン・チェースは相互関税を踏まえて経済見通しを改定し、世界全体が25年に景気後退入りする確率を従来の4割から6割に高めた。
地域別では「震源地」の米国のダメージが大きい。25年7〜9月期と10〜12月期に2四半期連続のマイナス成長になり、景気後退に陥るという展開を基本シナリオに据えた。
報復関税に動くカナダも25年4〜6月期からマイナス成長になるほか、中国も4〜6月期以降に成長率が急減速すると見込む。
ドイツの財政出動が支えるユーロ圏や日本は1%前後の成長を維持すると想定するが、関税動向次第で下振れリスクが残る。
過去には世界的な景気悪化時に米連邦準備理事会(FRB)などの中央銀行が金融緩和に動き、経済の下支え役になってきた。
だが関税のもたらすインフレ悪化の側面を警戒し、FRBのパウエル議長は利下げを急がない姿勢を示している。世界経済は救済措置が見えないまま関税戦争の泥沼に入り込もうとしている。
(ワシントン=八十島綾平、ニューヨーク=斉藤雄太)
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日本工業大学大学院技術経営研究科教授
<label class="container_c93b8pm" data-option-container="true"><label class="container_c93b8pm" data-option-container="true">ひとこと解説</label></label>
電話がかかってくるのを待つだけで交渉の主導権を奪い取るトランプ氏のスタイルには、世界を動かす主役であることへのエゴのようなこだわりや交渉の舞台を常に見せるナラティブ重視が反映されている。
彼の資質から分析すると、しばらくすると一国ずつ連日のように発表や否認を繰り返す見せ球戦術を展開、自身の強さを演出するため、交渉成功例を次々と「広報」する一方で、特に抵抗する国への焦点化が始まるのではないかと予想される。
一部戦略物資等に限り除外→優遇輸入枠制度を導入し「優遇されたい国は交渉せよ」という形で取引拡大を逆用する可能性もあるだろう。
彼の資質が不確実性を高め、世界経済をリスクに晒すことになるのは遺憾だ。
(更新)
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東京財団政策研究所 主席研究員
ひとこと解説
これはほんとうのことならば、米中貿易は完全にストップすることになる。
アメリカ国内のコストコやウォルマートなどのスーパーで売る中国商品は大幅に値上げするか、姿を消すことになる。中国も困ることになる。
対米輸出の加工メーカーが廃業に追い込まれる可能性が高い。まさに喧嘩両成敗のゲームである。世界一番と二番の経済大国が激突するのは世界経済にとって悲劇になる。
トランプが口で強がる点は中国人とよく似ている。
習近平政権はどんな犠牲を払っても、譲歩しない姿勢である。実際に労働者が犠牲にされても、反発されることはない。残念ながらこのゲームはまだ始まったばかりである
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2025年1月に就任したトランプ米大統領が、関税引き上げの政策に動き出しました。中国などとの関税の応酬が激しくなるなど世界経済への影響が懸念されています。最新ニュースと解説をお伝えします。
日経記事2025.4.9より引用
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