スイスのアムヘルト大統領=在日スイス大使館提供
来日中のスイスのアムヘルト大統領が日本経済新聞に寄稿した。
国交樹立から今年で160年を迎え、科学技術分野の協力を深めて温暖化や高齢化などの地球規模の課題に対応することに意欲を示した。
160年前、新たな市場を開拓するために訪日した時計職人や貿易商のパイオニア精神に根ざしたスイスと日本の協力関係は、今なお活発だ。
経済面ではスイスは現在、対日投資額で第8位を占める。日本にとってスイスは9位の投資先であり、スイスの優れたイノベーション・エコシステムに魅力を感じる投資家が増えている。2024年は、09年に日本が初めて欧州の国と締結した2国間の自由貿易協定(FTA)の15周年でもある。
科学と学術もまた、両国関係を支える重要な柱だ。
日本は、スイス国立科学財団が助成するアジア最大の研究パートナーであり続けている。
気候危機、高齢化社会、グローバルヘルス、デジタルトランスフォーメーション(DX)といった喫緊の課題に取り組むため、協力してイノベーションに力を入れている。
人工知能(AI)、量子コンピューティング、グリーンテクノロジー、宇宙開発などは、戦略的に重要な分野だ。来年、大阪で開催される25年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のスイス・パビリオンは、両国の協力関係を披露する絶好の機会となるだろう。
世界的、地域的にも不安定な地政学的情勢を背景に、自由、民主主義、法の支配、そして平和的な対話による紛争解決という、両国共通の根幹たる価値観は、これまで以上に重要性を増している。
岸田文雄首相との交流の礎には、こうした価値観を守り抜くという共通の決意がある。
岸田首相が出席し、貢献した6月にスイスで開催されたウクライナの平和に関するサミットでは、 国連憲章と国際法の原則に従い、ウクライナの公正で恒久的な平和のために努力するという共同声明に80以上の国が署名した。
スイスと日本は23〜24年、国連安全保障理事会の非常任理事国の任を共に担う。手を携え効率性と実効性の向上を追求する。
ウクライナ、パレスチナ自治区ガザ、スーダンなどで激化する紛争を前に、紛争に巻き込まれた人々を国際社会が保護するための取り組みを強化する必要がある。
文民の保護や捕虜の待遇などを定めたジュネーブ諸条約は今年、75周年を迎える。日本とスイスはこの条約の強力な擁護者だ。
7日の岸田首相との会談では、あらゆる分野で両国関係を一層向上させ、経済と科学の進歩のために最適な環境を育むことで一致した。8日には天皇陛下に謁見する。
残念ながら今回の訪問で富士登山の時間はないが、登山愛好家として、世界の名山2座は日本とスイスにあると確信している。24年、両国関係樹立の160周年を祝うにあたり、富士山とマッターホルンを私たちの深く長い友情の象徴にしたい。
登山は、心の安らぎや環境への深い配慮を育み、先を見据え、新たな挑戦と可能性をもたらす。
時計製造からスタートアップ企業、貿易から外交、ハイジからハイテクに至るまで、両国の協力はさらなる高みへと上り続ける。
共有する価値観は、あらゆる頂上に到達するための揺るぎない基盤だ。登山は信頼できる適切なパートナーがいてこそ。日本とスイスはまさに輝かしい未来へと到達できる関係だ。
日経記事2024.08.07より引用