メローニ首相㊧は極論を封印し現実路線を歩む=ロイター
「ベルルスコーニの名が付けられた」。
7月11日、ポピュリスト政治家として知られるイタリア副首相兼インフラ相、マッテオ・サルビーニ(51)がイタリアの空の玄関口ミラノ・マルペンサ空港の改名を発表すると、激しい論議が巻き起こった。
2023年6月に死去した右派の元首相シルビオ・ベルルスコーニは汚職や脱税疑惑の絶えない政治家だった。
空港の改名にあたり野党や地元への調整も不十分で、ミラノ市長ジョゼッペ・サラ(66)は「決定は狂っている」と批判した。
協調や利害調整は後回しにして炎上覚悟で突破しようとする手法は、「極右」が権力を争うイタリア政治を象徴する出来事といえた。
改名を仕掛けたサルビーニは与党・右派連合の一角である「同盟」を率いつつ、ハンガリー首相ビクトル・オルバン(61)と欧州議会の極右新会派を結成した。
オルバンは欧州連合(EU)理事会の議長ながら、11月の米大統領選では前大統領トランプの支持を公言。
欧州議会の非主流派に甘んじるサルビーニには、オルバンと共に「親トランプ」を掲げて存在感を示す狙いがある。
一方、長期政権を率いたベルルスコーニを一時は政治の師と仰いだ首相ジョルジャ・メローニ(47)の立場は揺れている。
6月の欧州議会選では極右「イタリアの同胞」(FDI)を躍進させた。「イタリアは主要国で最も強力な政府だ」と息巻いたが、秋に発足するEU新体制の人事調整では極右嫌いのドイツやフランスから徹底して外された。
FDIは欧州委員長ウルズラ・フォンデアライエンの再選に反対票を投じた。
メローニは「イタリアの影響力低下にはつながらない」と強調したものの、伊大手紙のレプブリカは「イタリアは今後5年間、EUの重要な決断の蚊帳の外に置かれる」と批判的に論評した。
22年秋の就任から外交では現実路線を歩み、国際的な極右のイメージを覆してきた。いまさら「親ロシア」と目される他の極右勢力との連携もできない。
極論を並べた公約を引っ込めて穏健な道を歩もうとすれば、より過激な主張を振りかざす政治家が幅を利かせる。イタリアが直面するジレンマだ。(敬称略)
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辻隆史、北松円香、南毅郎、江渕智弘、田中孝幸が担当しました。
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ニッセイ基礎研究所 経済研究部 常務理事
新欧州議会では、右派の会派は2から3に増えました。
メロー二首相の与党が中核のECR、オルバン首相が旗振り役となった極右の新会派PfD、IDを除籍されたドイツのための選択肢が立ち上げた極右新会派ESN。
欧州議会の議論に大きな役割を果たす常設委員会の委員長、副委員長のポストの配分では、議会第4勢力のECRは、それなりのポストを得ましたが、第3勢力のPfDのポストは、最小勢力のESNとともにゼロ。
極右阻止の線はECRと他の2会派の間にひかれました。
記事にある首脳人事でのメローニ首相排除は、ショルツ首相やマクロン大統領ら議会選で負けた首脳らが集う構図となり、その映像に、若干の違和感を覚えました。
日経記事2024.08.01より引用