欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は次期欧州委執行部の人選に着手した=AP
【ブリュッセル=辻隆史】
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は防衛を担当する閣僚ポストを新設する。
ロシアやサイバー攻撃などの脅威に備える能力を引き上げるため、産業支援や各国との調整を担う。若年層の不満を高める一因となっている住宅価格の高騰に対処する閣僚ポストも検討する。
次期欧州委は今秋以降に発足する。再任を決めたフォンデアライエン委員長率いる執行部が、2029年までEUの政策立案・調整の役割を担う。
閣僚ポストは委員長を含めて27ある。加盟国からそれぞれ1人ずつを割り当てる。
新体制の人事は欧州議会の承認などを経て正式に決まる。フォンデアライエン氏は各加盟国に欧州委員の候補者を推薦するよう要請した。
1期目と同様に男女同数の委員構成をめざしている。EU外相にあたる外交安全保障上級代表にはエストニアのカラス前首相が就く人事が固まった。
フォンデアライエン氏は現執行部の枠組みを再編し、新たに防衛担当の欧州委員を任命すると明らかにした。
7月18日の欧州議会での演説で「今こそ欧州に真の防衛同盟を打ち立てるときだ」と訴えた。
ロシアのウクライナ侵略が長引き、ウクライナに提供する弾薬の不足はいっそう深刻になる。
加盟国はウクライナ支援に注力する一方、ロシアの脅威に備えて自国の防衛力を高める必要にも迫られている。
防衛担当の委員が中心となり、欧州防衛の将来像に関する白書を新体制が発足してから100日以内に取りまとめる。
欧州防衛の根幹である北大西洋条約機構(NATO)と連携し、サイバーや宇宙、偽情報といった領域での攻撃に関する知見を共有する。
防衛産業の後押しを狙い、無用な規制を減らして国境を越えた受発注を増やす。
新たな脅威に投資するための安定的な資金の確保も課題だ。防衛関連のEU基金を拡充するほか、フランスなどからEUレベルで「防衛債」を発行すべきだとの意見もある。
欧州委が対応を急ぐもう一つの課題は、高騰する住宅価格に関わる問題だ。
「何百万もの家族や若者が直面する住宅危機にも緊急に対処しなければならない」。
フォンデアライエン氏が18日に公表した政策集には、住宅を担当する欧州委員を置く方針を明記した。
欧州では家賃と住宅価格の高騰が続く。政策集は世帯収入に占める住宅費の割合が劇的に上昇していると指摘した。
住宅問題が若者らの不満を生み、各国で極右や極左が伸長する背景となっているとの分析がある。
担当の欧州委員は居住環境の改善に向けた計画を初めて策定する。欧州投資銀行(EIB)や加盟国と協力し、欧州全域で手ごろな価格の家を提供するための政策手段を練る。
「地中海担当」の欧州委員も新設する。アフリカや中東から押し寄せる移民・難民への対応や、近隣諸国との調整をする役割が期待される。
移民分野で知見のあるギリシャやキプロスがポスト獲得に関心を示す。
既存の欧州委員ポストのうち、半導体やデジタルといった産業政策分野を統括する域内市場担当や、IT(情報技術)規制などを手がける競争政策担当は企業のビジネス環境に影響を与える。
現在の競争政策担当はデンマーク出身のベステアー氏で、米テックへの厳しい姿勢で知られる。ブリュッセルのIT分野ロビイストらは人事の行方に関心を寄せている。
欧州委が提案したEUの法案を成立させるには、欧州議会の承認が要る。フォンデアライエン氏は6月の欧州議会選で議席数を伸ばした右派勢力の協力を得るため、閣僚ポストの選定などで一定の配慮をせざるを得ないとみられる。