セントラル硝子が開発中のSiC基板
セントラル硝子はパワー半導体の先端素材である「炭化ケイ素(SiC)」の基板の新製法を開発した。
artience(アーティエンス、旧東洋インキSCホールディングス)も新たな接合材の実用化にめどを付けた。いずれも電気自動車(EV)の充電速度を高められるSiC半導体を安くできる。日本が強みを持つ素材技術がEVの普及を後押しする。
セントラル硝子はケイ素と炭素を含む溶液からSiC基板を製造する方法を開発した。高温で昇華させたSiCを使って単結晶を成長させる従来の方法に対し、基板サイズを大きくしたり品質を高めたりしやすい。基板の製造コストを1割以上削減でき、不良品率も大幅に減る。
2つの元素が混ざった溶液から均一な結晶を作るのが難しく、これまで実用化されてこなかった。セントラル硝子はコンピューターを使った計算化学を駆使し、溶液の動きなどを試算することで、口径6インチ基板の量産に成功した。
既に新製法で作ったSiC基板の採用に向け、欧米の半導体大手などと検討を始めているという。2024年夏にも顧客へのサンプル提供を始め、27〜28年に事業化する。
国内工場に数十億円規模を投じ、シェアで10%以上を目指す。30年にも8インチまで大型化したい考え。基板は大きいほど1枚で多くの半導体を作ることができ、生産効率が高い。
パワー半導体は充電器や小型家電、EVのモーターと電池をつなぐ制御装置に組み込んで、電力の制御などに使う。
SiCは現在主流のシリコンに比べ約10倍の電圧をかけられる。例えばEVの高速充電器に使うと、シリコン基板に比べ充電時間を90分から20分に短縮できるという。
一方で、SiCを使ったパワー半導体はシリコン製より価格が数倍高い。素材各社は、普及の足かせになっている製造コスト低減につながる技術の開発を急いでいる。
アーティエンスは、チップと基板を接合するのに使う「焼結型銀ナノ接合材」を新たに開発した。
SiC基板向けは高温に耐えられる銀を主成分にしたものを使う検討が進むが、接合性を高めるために圧力を加える工程が必要になる。
半導体メーカーは1台あたり1億円ほどの装置の導入が必要で採用を見送る企業も多い。
artienceがパワー半導体向けに開発した新しい接合材
アーティエンスが開発した接合材は、加圧しなくても接合性を高められることが特徴だ。
顔料で培った粒子の大きさをコントロールする技術や均一に銀を分散させる技術を応用した。
加圧が不要になることで、接合工程での生産設備への初期投資を従来の6分の1に抑えられる。加圧にかかる時間が削減でき、接合時の生産性が4倍に高まる効果もある。
既に半導体メーカーからの引き合いがあり、26年にも年間1トンを生産し、30年には3トンまで増やす計画だ。パワー半導体の接合のみに使う場合、1トンはEV約300万台分に相当する。既存のインキ工場の製造設備を転用する。
電力変換の効率を高められるSiCパワー半導体は、EV向けだけでなく人工知能(AI)などで需要が急拡大しているデータセンターで利用が拡大している。
富士経済(東京・中央)は、SiCパワー半導体の市場規模は35年に23年比8倍の3兆1510億円になると予想する。製造コストが下がることで、SiCパワー半導体の普及に弾みがつきそうだ。
日経記事2024.06.20より引用