
<排外的な主張が支持されるのはなぜか。注意すべきは、ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、極右政党の支持率が目立って上昇していることだ>
欧州議会の選挙が6月に迫っている。気になるのは、移民排斥を声高に叫ぶ極右勢力が議席を増やしそうなことだ。
排外的な愛国主義の波は南のポルトガルから北のスカンディナビア諸国にまで広がっているが、とりわけ憂慮すべきは、70年以上も前に率先してヨーロッパ統合への道を切り開いた6カ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)の右傾化だ。
イタリアでは、往年のファシズムの流れをくむジョルジャ・メローニが2年前に首相となり、今も高い支持率を誇る。オランダでは過激な移民排斥主義者ヘールト・ウィルダースの率いる自由党が昨年の総選挙で第1党に躍進した。
フランスでも各種の世論調査によれば、極右のマリーヌ・ルペン率いる国民連合が30%近い支持率でトップに立つ。
ベルギーでは極右民族主義政党フラームス・ベラングが強く、ドイツでも右派のドイツのための選択肢(AfD)が堂々の第2党。1952年に欧州石炭鉄鋼共同体を結成した6カ国のうち、今も中道路線を堅持しているのはルクセンブルクだけだ。
中には穏健な保守派のベールをかぶった政治家もいる。いい例がイタリアのメローニで、彼女は表向き西側陣営の結束を重視しており、内政の舵取りも巧みだ。
一般論として、世論が右傾化する背景には移民の増加と経済的苦境、格差の拡大があるとされる。しかし今は、こうした問題もおおむね改善に向かっている。
インフレで購買力が低下したのは事実だが、2008年に起きた世界金融危機の直後ほどひどくはない。
失業率も、ここ数十年では最も低い。格差も少しは縮まり、例えばフランスでは所得格差を示すジニ係数が10年から下降し続けている。
それでも排外的な主張が支持されるのはなぜか。まず注意すべきは、ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、こうした極右政党の支持率が目立って上昇している点だ。
陸続きの欧州諸国の人々は、あれを見て「冷戦終結以後」の国際秩序が崩壊へと向かう不気味な予感を抱いた。
冷戦の時代には、ソ連の影響力を最小限に抑えるため、西欧諸国の経済統合を進める機運が生まれた。89年のベルリンの壁崩壊で冷戦が終わると、東欧圏も巻き込んで政治的・経済的な統合を進めることが新たなミッションとなった。
そうして加盟国の増えたEUは自信をつけ、経済政策でも気候変動対策でも、自分たちが率先して模範を示せばいいと考え始めた。
しかし、そこにロシアによるウクライナ侵攻が起きた。中東でも戦争が始まり、アメリカではドナルド・トランプが大統領に復帰しかねない気配だ。流れが変わった。人々はその変化を察知し、この30年間とは異なる道を指し示す指導者を求め始めた。
ロシアがウクライナに攻め込むのを見て、自分たちの主権が完全なものではないと気付いた。気候変動対策を主導しようにも、今の欧州には必要な技術力がない。
今のところ、メローニは穏健なふりをしている。だが実際は、ひそかに既存の体制を崩そうとしているのではないか。現に政府の要職に続々と自分の支持者を送り込んでいる。
大統領と議会の権限を弱め、首相に権力を集中する憲法改正案も用意した。まずは国内を掌握し、次にEUを内部から変えていくつもりだろう。
だが欧州で広がる右傾化の核心に地政学上の不安がある以上、それに対抗するために必要なのは政治統合のさらなる深化だ。現状維持のままでは安全と主権を守れない。排外主義ではなく、統合推進こそが正しい道だ。
フェデリコ・フビーニ
FEDERICO FUBINI
1966年フィレンツェ生まれ。イタリアの有力紙、コリエレ・デラ・セラ寄稿者。専門分野は経済と国際関係。著書にグローバル化の脆弱性を検討した『火山の上で』(未邦訳)など。