

トラックから降ろしたカートを引いて搬入口からそのまま店舗内に(埼玉県北本市の17号北本中丸店)
全国に約3千店を展開し、1日380万人に食を提供する日本マクドナルド。
その物流を一手に担うのは、従業員528人の物流会社、HAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパン(東京・中野)だ。マックの販売情報の把握から需要予測、在庫管理までサプライチェーン全体を支える。年13億個分のハンバーガー類の材料を日本中に行き渡らせる黒子に迫る。
2月末の平日午後3時ごろ。マクドナルド17号北本中丸店(埼玉県北本市)にHAVIのトラックがやってきた。
店舗の搬入口に最も近い場所に設けられた専用スペースに駐車した後、ドライバーは荷台から冷凍ポテトの箱を積んだカートを降ろし、そのまま店舗の冷凍庫へ。庫内でカートから棚に箱を積み替え、ポテトの納品が完了した。
この日はポテトの他にビーフパティ、レタスなどの野菜、紙コップなど冷凍・冷蔵・常温それぞれの温度帯の商品、カート計6台分を納品した。ドライバーは店舗の使用済みカートや炭酸ガスボンベなどを回収し、次の店舗に向かう。1店舗あたりの滞在時間は20分ほどで、1日あたり3〜4店舗を回る。
マックとの資本関係なし
これらの運搬を担当するHAVIグループは、世界数十カ国でマクドナルドの商品供給を担う物流会社だ。
日本法人のHAVIジャパンは2010年に米HAVIグループの100%出資子会社として設立。日本マクドナルドとは一切の資本関係がないにもかかわらず、専業の物流事業者として、協力会社とともにポテトやパティなどを全国の店まで届ける。
トラックドライバーの時間外労働の規制が強化される4月が目前に迫るなか、マクドナルドは物流網や商慣習の見直しを進めてきた。納品形態の見直しもその一つだ。

従来はドライバーが商品を店舗の倉庫にしまう納品形態を標準としてきた。だが「2024年問題」でドライバーの拘束時間が制限されることを見据え、店の搬入口で店舗従業員に受け渡しする方法に切り替えてきた。
冷蔵庫や冷凍庫を含む店の倉庫内までドライバーが納品する比率は19年の47%から23年は20%程度に削減。ドライバーの1日あたりの拘束時間は23年で平均10.4時間と19年から1〜1.5時間短縮した。
ただ、ドライバーの拘束時間だけでなく、店舗の客数増加などで店側の人繰りも難しくなってきている。そこで双方にメリットのある納品方法として広げたのが冒頭の倉庫内までのカート納品だ。
17号北本中丸店は23年6月に、約1キロメートル離れた場所にあった店を移転してオープンした。その際、搬入口から店舗倉庫までの段差をなくしたほか、倉庫スペースも約3倍の広さにした。
フランチャイジーとして同店などを運営するジェイアール(埼玉県久喜市)の福田誠レストランサポート部長は「納品時の店側の立ち会いがなくなり、負担が減った」と話す。
マクドナルドは数百店舗規模でこうした最適化をしてきた。トラックや荷物の動きに応じた設計にできるのは、新規出店や店舗移転の際にHAVIが関与しているためだ。
HAVIはマック店舗への配送だけでなく、バーガーのバンズやパティなどを作るメーカーの工場から商品を保管する倉庫、店舗の販売状況や在庫量の把握まで商流の川上から川下まで一元管理を任されている。
カートは輸入品のポテトの箱がぴったり入るよう作られた特注品で、トラックや店内倉庫にも無駄なく収まる。

カートは輸入ポテトの箱がぴったり収まる特注品で、トラックの荷台にも無駄なく入る
外食業界では「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスなど物流子会社を通じて、商流を一元管理している例はある。
だが、マクドナルドとHAVIには一切の資本関係がないなか、ここまで任せられるのはなぜか。日本マクドナルドサプライチェーン本部の児島健治上席部長は「グローバルで築き上げた50年以上に及ぶ信頼関係がある」と話す。
米シカゴに本社を置くHAVIグループは1974年にマクドナルド社との契約書のない信用取引に基づいて創設された。「店舗数が少ない創業間もない時代から、ウィンウィンの関係で一緒に成長してきた」(児島氏)
物流側が店に発注量を提示
日本マクドナルドは70年代末からバンズの調達先であった現フジパングループの物流子会社の富士エコーに配送を順次、委託していたが、2012年に配送や在庫管理の効率化を進める目的でHAVIに契約を切り替えた。
効率化の要となるのがHAVIが世界で培った需要予測の知見だ。HAVIジャパンはマクドナルド全国約3000店舗のPOS(販売時点情報管理)データを収集。需要予測と各店舗の在庫量や保管余力に合わせて、次の配送量を決め、各店舗に提示する。
最終的には各店舗が発注量を確定するが、HAVI側で事前に配送量の見通しが立つため、トラックの手配や荷物の準備を計画的に進められる。
調達先に対しても、需要予測を基に数カ月先までの予測発注量を提示する。メーカー側は工場のラインが空いている時期などを活用してマクドナルド向けの商品を生産できる。メーカー側が末端の店舗の販売情報に基づいて生産量の予測を立てられるのは珍しいという。
マクドナルドとHAVIはトラックの積載率向上や台数削減も進めてきた。HAVIに切り替えた12年ごろからメーカーも巻き込んだ在庫の集約に着手。
従来は取引先ごとに倉庫を持ち、それぞれの会社で在庫を保管していたが、HAVIが管理する倉庫を全国に設置し、各社の在庫を集めた。
荷量の多いポテトや傷みやすい野菜などは配送センターに直送するが、物量の少ないソースなどはHAVIの倉庫に集約。HAVIの在庫保管型の倉庫から配送センターまでは必ずトラックが満載の状態で運ぶようにした。いわばマクドナルド向けの荷物をHAVIを通じてメーカーが共同配送する格好だ。
配送センターから店舗への物流の効率化に向け昨年、全店規模で店舗の運営データを基に配送計画を見直した。全体の約4割にあたる約1100店舗で売上高と保管できる在庫の量を踏まえ、品質が維持できる範囲の配送頻度を割り出し、平均約2割低くした。
「3本脚の椅子」
マクドナルドには「3本脚の椅子」という考え方が創業時から根付く。フランチャイジー、サプライヤー、日本マクドナルドの3者それぞれが強固であることで、力強いビジネスが展開できるという考えだ。サプライチェーン全体で配送方法や納品回数の見直しができるのは取引先や店舗との信頼関係があってこそだ。
HAVIもその例外ではない。マクドナルドは経営の根幹である販売データのほか、プロモーション計画などの情報を共有し、HAVIもそれに応える形で商品供給に責任を持つ。埼玉DCの伴場崇センター長は「マクドナルドで売り切れは基本的に許されない」と話す。昨年12月にハッピーセットの注文が殺到した際には、急きょ臨時便を出して各店舗へ配送にあたった。
一方で、HAVIのビジネスはマクドナルドに限定される訳ではない。現在、HAVIが物流を手掛ける国のうち約3割ではマクドナルド以外にもコーヒーチェーンや薬局、コンビニエンスストアなど様々な企業の物流も請け負っている。
日本マクドナルドの児島氏は「企業秘密の厳守やマクドナルドへのコミットは高く維持してもらう前提で、HAVIが他のビジネスをすることには制約はない。むしろ倉庫の稼働率を高めるなど効率を上げてもらうことで還元してもらえれば」と話す。
4月1日からの働き方改革関連法の施行では、トラックドライバーの時間外労働が年960時間に制限される。1日に輸送できる距離に制限がかかり、外食や小売りなど各社が配送計画の見直しを迫られている。野村総合研究所の試算では25年に全国の荷物の28%、30年には35%が運べなくなる可能性がある。
サプライチェーンの維持には荷主と物流会社、店舗が一体となって最適な物流の在り方を考え直す必要がある。マクドナルドとHAVIの関係は他の企業にとっても新たな選択肢になりうる。
(佐藤優衣)
日経記事2024.03.23より引用
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マクドナルドの物流を支えているHAVIという会社を初めて知った。 勉強になった。
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