「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

テロ脅威レベル最高に

2017-09-16 | 2017年イベント
BBCはもはやずっとテロ事件に関する報道(http://www.bbc.co.uk/news)を行っており、昨日9月15日の金曜日にロンドンを襲った衝撃の大きさを伝えています。テロ脅威レベルがmaxになり、在英国日本大使館からも下記ご連絡がありました。

「15日にロンドン南西部の地下鉄ディストリクト線パーソンズ・グリーン駅で発生した爆弾テロ事件を受け,英国政府はテロ脅威レベルを5段階中最高度の「critical」(危機的。テロ攻撃が差し迫っているとされるレベル)に引き上げました。これにより,警察と軍が連携し,公共交通機関等により多くの武装警察官が配置されるなど,英国内各所の警備が強化されることになりますが,引き続きテロへの警戒を怠らないようにしてください。

やむを得ずテロの標的となりやすい場所(公共交通機関や観光施設等の不特定多数が集まる場所等)を訪れる際には,周囲の状況に注意を払い,不審な状況を察知したら速やかにその場を離れる等,安全確保に十分注意を払ってください。」

地下鉄で爆発されても、たまたま近くに乗り合わせたら、もはや逃げ場がないような気もします。来月、国際学会へ向かう際にヒースロー空港を利用しますが、このような事態が続くと、大勢が集まるような場所に行くのはやはり気が引けますね。

昨日は、北朝鮮ミサイル発射もありました。
私の指導教官と会った時も「核実験の次は、またミサイルだね」と声をかけられました。彼は親日家なので、私の代わりにずいぶんとミサイル問題に怒っている様子でした(私は論文執筆中で今そちらの方にかなり気を取られてしまっています)。以前にJアラートの話をしたら、興味深く感じたようで、色々と聞かれたこともありました。彼は放射線生物学の大家ですから、北朝鮮の核実験、ミサイル実験の類については一家言をお持ちなのです。とくに先日の核実験の際には、来月の国際学会の準備で相当忙しいはずなのに、国際環境放射線モニタリング関連を調べていたようでした。
彼に限らず、こちらも英国民の関心は高い問題であるようです。

現在、世界は不気味に蠢いています。欧米でテロ事件は尽きず、極東の政治的緊張度も高まってきました。日本もいつまで平和でいられるでしょうか。

さよなら、カッシーニ

2017-09-15 | 2017年イベント
今日も今日とて世界は騒乱に満ちていますが、地上の醜い争いはすこし忘れて、遠い宇宙に想いを馳せたいと思います。今日はカッシーニの最期の日ですから。

土星探査機「カッシーニ」が打ち上げられたのは1997年(今から20年前! Windows95の時代ですね)とのことですが、恥ずかしながら私がカッシーニのことを知ったのは最近の2014年のことであり、「土星の衛星に海がある」という衝撃的なニュースがScience誌に掲載された時でした(下記の記事ですね)。衛星の地下に海があるならば生命も存在するかもしれないと、ちょっとした騒ぎになりました。

Kerr, RA. Planetary science. Cassini plumbs the depths of the Enceladus sea. Science 2014;344:17.

つまり、「この宇宙に私たち以外の生命が存在するのかもしれない」という証拠を初めて届けてくれたのがカッシーニだったのでした。20年もの永い間、孤独に宇宙を旅したカッシーニは、土星に関する情報を地球にせっせと送り続けてくれました。そして、長い長い旅を終えて、今日、土星大気圏に突入し、ひっそりと燃え尽きる予定とのことです。ちょっと切ない最期ですね。

私は「天文学の分野に進んでも飯は食えんだろうなあ~」という即物的すぎる考えもあり、宇宙・天文学の分野を進路に選ぶことはありませんでしたが、今でも母校の中高一貫校入試の理科の試験で天体に関する問題が出ていたことを覚えています。たぶんその大問は満点だったはずです。幼いころからそれなりに宇宙にロマンを感じてきましたし、宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999なども好きでした。
夜空を見上げて、遥かなる宇宙に想いを馳せるのがたしかに好きだったのです。

おそらく私が生きている間に外宇宙に行く機会はないでしょうけれども、いつか人類が宇宙に進出することはあるのではないかと、そんな夢を今は見ています。久しぶりに宇宙のことを想い起させてくれたカッシーニに感謝します。

一般財団法人「大隅基礎科学創成財団」

2017-09-13 | 2017年イベント
2016年ノーベル生理学・医学賞受賞者の大隅良典東工大栄誉教授が基礎科学を支援するため「大隅基礎科学創成財団」を創設したと伺いました。研究助成などを行って頂けるのであれば、若い研究者たちにとって研究助成申請の選択肢が増えるという意味で、とてもありがたいと感じます。大隅先生のように研究支援を目的とした財団や基金を立ち上げる研究者はまだ珍しく、私も他に幾つかの例をわずかに知っているだけですので、あまり一般的ではないといえるのかもしれません。とくに大隅先生が常に仰っているように、「一見して社会にどのように役に立つのか判らない」ような純粋自然科学を支援していく財団ということになると、それはもう稀有というべきでしょう。

「科学(研究)の発達 → 技術の応用 → 産業の展開」という大まかな流れがありますが、研究者の端くれとして言わせて頂くと、やはり0(無)から1(有)を生み出すという役割を担う科学が一番難しいと思います。しかし、源流である科学の面でいったん優位性を確保できれば、その後の技術応用、産業展開も主導権を握りやすいのは間違いありません。日本人はどちらかというと技術応用が好きで、独創性を要する科学推進は苦手なのかもしれませんが、いつまで経っても科学面で欧米を追いかける(坂の上の雲を目指して歩く)のではなく、これからの日本は逆に自らリードしていくつもりでやらないといけないと私は思います。つまり、科学は2番では駄目なのですね。
研究で1番になるためには「トライ&エラー」の過程がどうしても必要ですが、目先の応用や効率性ばかりにかまけているとどうしても歩留まりが多い「トライ&エラー」は敬遠気味になり、むしろ大胆なトライこそが大発見につながるにもかかわらず忌避され、結果として科学全体の営みは委縮してしまいます。今の日本が陥りつつあるのではないかと、大隅先生はじめ研究者の一部が危惧しているのがこの状況です。

向こう見ずな若者が大胆に挑戦しようとするのを温かく見守ってくれるような財団ができればいいですね。

プリンセスの婚約発表

2017-09-04 | 2017年イベント
先日、眞子内親王が婚約を発表され、こちら英国でもニュースとして報じられています。
お相手は民間人の小室圭氏とのことですが、大学時代に出会ったこと、女性皇族の結婚いわゆる「降嫁」について等、様々な情報が出てきています。眞子内親王は今上天皇の初孫に当たりますから、今回の婚約は日本の皇室の歴史においても一つの世代の移り変わりを象徴する出来事なのかもしれません。

「降嫁」という言葉が示す通り、やはり、結婚に伴って「皇籍を失う」というのは欧米では様々な受け取られ方をするようです。
女性蔑視とまでは言いませんが、男性皇族は結婚後も基本的に皇統の継承あるいは宮家の設立という形になるのに対し、女性皇族は基本的に(相手が民間人ならば)皇族という身分から離れるわけですから、男性と女性の間に明確な区別があるのは確かです。したがって、女性宮家論争も含めて、男女平等の観点から色々と議論したくなる人たちも当然出てくるのでしょう。
私は畏れ多いことですが「皇族でいることが必ずしもハッピーであるとは限らないだろう」と個人的に考えており、皇族という身分から離れられる女性の方が良いこともあるのではないかとさえ感じています。その一方で、「皇族というある種の特権から女性だけが追い出されている」という見方をする人にとっては女性皇族が結婚に伴って降嫁せざるを得ないという現行の皇室典範が許せないのかもしれないとも思います。
とはいえ、皇室典範も不変というわけではなく、時代の価値観や思想に合わせて、その内容もいずれは変化していくのではないでしょうか。今回の眞子内親王の婚約と降嫁が改正の議論を促すものになるのかもしれませんね。

BBCニュースに昭和天皇からの系譜が紹介されていましたが、こうして改めて見てみると、いずれ秋篠宮家に皇位が継承されていくとすれば、小室氏は未来の天皇陛下の義兄になる可能性があるのですね。
彼がどういう人物なのか、もちろん私はよく存じませんが、はっきり言って「凄い度胸あるな」と思います。
自由恋愛でプリンセスが結婚できる時代になったとしても、しがらみといいますか、やはり周囲への影響力は大きいでしょうから、なかなか二人で静かに暮らすというのは難しいでしょう。きっと様々な干渉だってあるでしょう。やりたいことがあったとしても、それが出来なくなることにもなりかねません。まあ、それでも、彼は愛を選んだということなのでしょう。
末永くお幸せになってほしいですね。

追記:
今夜は男子フットボールW杯欧州予選「北アイルランド代表 vs チェコ」の試合がありました。北アイルランド代表のホームであるBelfastで開催されたため、緑の代表ユニフォームを着た人たちが街にあふれかえる事態となりました。警察官の姿も今日は沢山見かけました。
そして、サポーターの懸命な祈りが天に届いたのか、北アイルランド代表が2-0で勝利し、とくにパブの周辺は大騒ぎとなっていました。ずっとボールを持って、試合を支配していたのはむしろチェコの側だったようですが、結局、北アイルランドはカウンターからの2発で試合を決めたようです。

来年W杯で北アイルランド代表と日本代表の試合が観られたら面白いですね。

北朝鮮がミサイル発射し、日本上空を通過!?

2017-08-29 | 2017年イベント
日本がミサイルを撃たれたということで、こちら英国でも大々的に報道されており、例えばBBCではトップに北朝鮮ミサイル問題が採り上げられています。英国は北朝鮮とも国交を結んでいるのですが、全面的に北朝鮮に対して厳しい論調で、今回の件を批判的に報じているようです。

北海道上空を通過したとのことで、はっきり言って、日本に対する宣戦布告と捉えられてもおかしくないほどの暴挙ではないでしょうか。
今回、領空通過を許したようにミサイル防衛は実際に困難であり、もし明日、東京に撃ち込まれたとしても防ぎようがないのではないかという印象です。「撃たれる前に撃つしかないのではないか」という気がしますが、容易に挑発に応じるのもいかがなものかという気もします。

Belfastにいる北朝鮮人に対してどのように接すればいいのか。
私もすこし困惑しています。

その時、歴史が動いた! 女子ラグビー日本代表15年ぶりのW杯勝利!

2017-08-26 | 2017年イベント
今日、私は歴史の目撃者になってしまいました。私の母校クイーンズ大学において、女子ラグビーワールドカップ2017大会11位決定戦、サクラフィフティーン(女子ラグビー日本代表、Sakura 15s)と香港代表チームの試合が行われたのです。



試合開始直前に円陣を組んで気合を入れてから試合開始。



試合は序盤から日本がリード。前半に3トライを決めて15-0になります。



その後も、香港代表チームの反撃を死守。1トライを許したものの、44-5で逃げ切り、香港代表チームに勝ちました。ワールドカップの舞台では15年ぶりとなる日本代表の勝利でした。歴史的快挙の興奮を会場で共有することができました。



素晴らしい試合をありがとうございました。まさか北アイルランドで日本代表の勇姿が観られるとは思いませんでした。数少ない日本人として、彼女たちの活躍に励まされる思いでした。お疲れ様でした。

女子ラグビーワールドカップ2017 アイルランド大会

2017-08-22 | 2017年イベント
全然知らなかったのですが、なんと本学のラグビー場で女子ラグビー日本代表とイタリア代表の試合が本日行われていたのでした。試合開催地がBelfastと聞いて、まさか本学の施設ではないか?と思ったら、やはりそうでした!

女子ラグビーについて全く興味がなかったので日本代表の動向を掴んでいなかったのですが、たしかに昨日ワールドカップウェルカムの看板を見て、「へ~、女子ラグビーのワールドカップって北アイルランドでやるんだね~」と思って、写真まで撮っていたのでした。
アイルランド大会なのに、北アイルランドの首都・Belfastでも試合が行われるというのが、まさに「アイルランド島クオリティー」ですね。英国なのか、アイルランド共和国なのか、はっきりしてくれ。

そして、本学で行われた日本代表の試合は負けたらしい……(´;ω;`)

世界ランキング14位の日本はこれまで全敗とのこと。頑張ってください。
次は応援に行きますよ(たぶん)。

研究者と社会の関わり

2017-08-07 | 2017年イベント
最近、個人的に大変打ちのめされるような出来事がありました。
とてつもない幸運に恵まれたかもしれないと思っていたものの、やはりというべきか、最終的には駄目になってしまいました。天国から地獄へ急降下したような感じです。正直、なかなか立ち直れずにいます。しかし、この辛さもまた、人生ってやつでしょうか。
渡英後、はっきり苦戦を強いられています。「留学さえすれば前途が容易に開けていく」という夢みたいなことはなくて、苦しい状況をどうにかしたいと思っているのですが、助けてくれる救世主がいるわけもなく。ずっと、苦しいままです。ただ、流れは自分で持ってくるしかないと判ってはいます。
「こういう展開でこそ、オレは燃える奴だったはずだ」と。
いま必死に、自分で自分に言い聞かせているところです。

さて、先週から生命科学研究の業界を揺るがすニュースが続いています。
一つは日本発、東京大学分子細胞生物学研究所の捏造問題です。
NatureやScienceなどのトップジャーナルでも既に報じられており、日本にとって大変不名誉なニュースが世界中に届けられてしまいました。同研究所ではかつて加藤研究室で行われた捏造問題(加藤茂明元教授はじめ研究室スタッフらに懲戒免職相当処分)が発覚し、適切な対応が図られていたはずにもかかわらず、今回、染色体研究で知られる渡邊研究室において捏造問題が明らかになりました。はっきり言って、失態というべきでしょう。

「シュゴシン」の発見で世界的に高名な渡邊嘉典教授の進退も気になりますが、不問とされた東大医学部からの論文に対する疑義も個人的にはとても気になっています。
昨夏に公開された告発文にも目を通しましたが、医学部発の論文が抱える幾つかの問題点について、今回の東大調査委員会の回答が果たして適当といえるのかどうか。
STAP細胞の騒動が記憶に新しい中、東大が今後、このような研究不正に対してどのように対応していくのか。

多額の研究費が投じられてきた成果が及ぼす影響を鑑みて、とくに生命科学研究の成果は医療応用などの観点からも期待されるところが大きいわけですから、研究者の倫理観は社会にとって重要であるということが今回の一件から改めて考えさせられました。実際、英国はじめ欧米各国では研究者の倫理教育にはそれなりに力を入れている様子であり、日本は少し遅れていたのかもしれませんね。我が国のアカデミアはこれまであまりにも閉鎖的過ぎたのではないかとも感じます。
私も、自分自身がそのような過ちを犯さないようにするのはもちろんですが、例えば周囲に研究不正が存在した場合にどのように対処すべきか等、色々と思うところがありました。

もう一つは、既に各方面で話題に挙がっているようですが、先週、Natureにオンライン掲載された下記論文です。
Ma, H. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature23305 (2017).
簡単に言うと、「ゲノム編集技術を用いて受精卵に存在する異常遺伝子を正常遺伝子に置き換えた」という内容です。とんでもなく凄いことです。良い意味でも、悪い意味でも。ついに私たちはヒトの受精卵で遺伝子を実際に操作するレベルに来てしまったのです。もちろん、いつかこういう日が来るとは予想出来ていたとはいえ、「ついに来てしまったのか」というのが率直な印象です。
今回、アメリカの研究チームがこのような試みを成功させたということは、我々は今まさに「ヒトの遺伝子を自由に編集してしまっていいのか」という倫理的な課題を突き付けられたわけです。言うまでもなく、これは研究者だけが悩めばいい問題ではありません。現代社会を構成する私たち全員で考えなければなりません。

いったん新しい技術が生み出されると、研究者たるものはその新技術を利用して、これまでの限界に挑戦しようとします。
それは好奇心によるものであったり、必要に駆られてのものであったり、きっかけは様々でしょう。例えば、遺伝病に苦しむ子どもを懸命に育てている両親が「次は出来れば健康な子供を」と望むことがあるかもしれません。望んでしまうことがあるかもしれません。そう思ってしまう「弱さ」については賛否両論あるかもしれませんが、私はそう思ってもいいのではないかと感じています。その時に、医療従事者として何とかしてあげたい。ゲノム編集技術で何とかできるかもしれないならば、それに望みをかけたい。そういう思惑が働くことがあるとしても、私とて十分に、その機微を理解できます。
しかし、もちろん、どこかで歯止めたりえる「ルール」が必要でしょう。そして、そのルールはどのようにして決められるべきなのか。
個人的には、一研究者としてはむやみに研究を制限されるのは避けたいという思いもあり、線引きには慎重な姿勢を求めたいと考えています。

研究者あるいは医療従事者はヒト遺伝子を変えていいのでしょうか?
もし変えても良い場合があるならば、どこまで変えていいのでしょうか?

私の答えはあえてここには書きません。
是非、皆さんも考えてみて下さい。

今回も拙ブログ記事を読んで頂きまして、ありがとうございました。

Carrickfergusで相馬を語る

2017-07-23 | 2017年イベント
Carrickfergus(カリックファーガス)という町があります。
北アイルランドの首府Belfastから東に電車で20分くらいでしょうか。広島県に本社を置くリョービグループ(岡山県の両備グループとは異なるらしい)のRyobi Aluminium Casting (UK) Ltdという支社がある関係で、日本人がおそらく北アイルランドで一番多く住んでいる町なのではないかと思います。


この町は米国第7代目大統領Andrew Jackson(アンドリュー・ジャクソン)の父親の出身地として知られており、後に大統領となるAndrewが産まれる数年前まで彼の両親はこの町で暮らしていたそうです。現在、父親の生家のあった付近(正確な場所は不明とのこと)に、上写真のような小さな記念博物館があります。私が訪れた時には残念ながら閉館時間でした。


アイルランド島屈指の名城として知られるCarrickfergus castle(カリックファーガス城)を訪ねました。綺麗な状態で保存されている城郭は一見の価値があると思います。生憎の雨模様ではありましたが、剽軽なガイドさんのおかげもあって、なかなか楽しく過ごせました。

Carrickfergusを訪れたのは、なんと福島県ご出身の日本人の方が住んでいらっしゃったからです。日本で働いていらっしゃった北アイルランド人のパートナーの方とご結婚されて、現在はパートナーの方の故郷でかわいらしいお子さんたちと一緒にご家族で暮らしているとのことで、私も招いて頂いたのでした。まさか、英国の片隅で、相馬の話題が通じるとは……It's a small world!
もちろん、原子力発電所事故のことは重要な関心事とのことで、私も自身の体験を交えて色々とお話をさせて頂きました。

やはり留学は広い意味での社会勉強であり、私も様々なことを学ばせてもらったような心地がしました。

がんばれ相馬!

2017-07-05 | 2017年イベント
相双地域を電撃訪問しました。
騎馬隊による急襲は相馬武士の十八番であるからして、私もそれを踏襲してみたのでした。残念ながら、今回の一時帰国は親類の不幸もあってドタバタしており、あちこちへの移動、出張が多く、相馬滞在もわずか数時間でした。しかし、懐かしい病院、懐かしいスタッフにお会いして、とても嬉しく思いました。限られた時間の中で知り合い全員にお会いできるわけもなく、また今度ゆっくりとお伺いしたいものです。

仮設住宅はなくなり、復興も徐々に進んでいます。常磐線も仙台から相馬まで初めて乗りましたが、1時間で移動でき、だいぶ便利になりましたね。

私自身は東北、日本を離れていますが、いつか被災地にも還元できるような科学的成果を得たい、貢献したいとはずっと思っています。今回は研究ではなく、情報発信において、東北被災地のために時間を割いて色々と行動しましたが、その結果として、すこしでも医療従事者不足に困窮する被災地医療に貢献出来ればと願っています。若い医療人がこれまで以上に東北被災地に来るようになるといいのですが…

余談その1
日本に帰ってきたら、やはり魚介類が美味しいです。
メシウマですね。英国もすこしは日本を見習うべきでしょう。


余談その2
中国外務省から名指しで批判されるなど色々と有名な「アパホテル」に初めて宿泊しました。
部屋の机の引き出しには、例のブツがちゃんと入っていました。観光地や主要都市のビジネスホテルに宿泊すると、最近は中国人旅行客の大群に遭遇することが少なくありませんが、今回はもちろんそういう光景を目にしませんでした。しかし、欧米系の白人旅行客は普通に泊まっているのを見ました。

東電旧経営陣と裁判

2017-07-01 | 2017年イベント
東電旧経営陣に対する刑事裁判が行われています。
争点はやはり、過失があったのか、事故を防げたのかになるのでしょう。原発事故被災者やご親族の方々の気持ちも推測することはある程度できますし、検察側の言い分もそれなりに判りますし、そして旧経営陣側の主張も、まあ、言わんとすることは理解出来ます。

裁判を争ったところで、失われたものは戻りませんが、しかし、今後の教訓は得られると信じたい。今回の事故に至った過程について、司法の判断基準で精査することは、きっと有意義なことでしょう。

福島の件の前に、我が国における大規模な原子力事故としては、茨城県東海村のJCO臨界事故がありました。あの時は事故で中性子線を大量に被ばくした作業員3名のうち2名が亡くなられて、JCOや関係企業の管理者側の刑事責任が問われ、有罪判決になりました。ただ、あの時は作業管理の工程がかなり杜撰であったことが明らかな人災であり、「事故は防げたもの」という司法判断は素人目にも妥当に見えました。
しかし、今回の福島の件は直接的な原因が1000年に一度の天災であり、「事故を防ぐことができた」と考えるのはなかなか容易ではないでしょう。果たして、彼らの責任者としての過失もどこまで問えるのか。後から色々と言うのはとても簡単ですが、事前に事故リスクを見極めて対応するのは相当難しかっただろうとも思うのです。

正直、この裁判はかなり長引くのではないかという印象を抱ています。

指定国立大学法人

2017-07-01 | 2017年イベント
東北大学、東京大学、京都大学が指定国立大学法人になりました。
指定国立大学法人の掲げる「世界のトップ大学と伍して戦える大学になろう」という意気込みはもちろん支持したいのですが、具体的にはどうすべきなのてしょうか?
評価項目としてそもそも世界大学ランキングとやらで高い評価を受けることが本当に良いことなのか。

欧米の世界大学ランキングには必ず留学生比率、外国人教員比率が項目に挙げられており、英語を中心とした国際化をある意味で強制するような評価姿勢が見えます。たしかに留学生は国際交流の担い手ではありますが、うがった見方をすればスパイでもあります。留学生に対する指導は、ある意味、ライバルを支援しているといえます。日本の大学でわざわざ他の競争国から来た学生さんを積極的に指導して育成する必要があるのかどうか、一度ちゃんと考えるべきなのかもしれません。鎖国する必要はありませんが、ランキングのために、外国とくに中国をはじめとするアジア諸国からの留学生を無理してまで集める必要があるのでしょうか?
もともと日本の大学には中国、韓国、台湾などのアジア諸国以外の留学生はほとんどいませんでしたし、その数も多くはありませんでした。つまり、日本語で講義をして、日本語で研究をして、それでも独創的な成果を生んできたのです。日本は欧米と比較して、良くも悪くも日本固有の学術風土がありますから、それを活かす方法もありなのかもしれません。個人的には、私自身が留学生ではありますが、留学生の多い大学が必ずしも良い大学だとは信じていないのです。
私には日本初の高水準の研究を展開するのに「日本語で学び、日本語で考えること」が必ずしも不利になるとは思えませんし、その言語的障壁が他国からの留学生を妨げたとしても、日本の科学技術の質を向上させることは可能なのではないかと疑っています。

日本の大学の存在感低下が、留学生比率だけではなく、純粋な学術成果の低下によるものだとしたら心配です。それを示唆するデータも見たことがあります。

しかし、手直しすべきは、そもそも「大学」なのでしょうか?

私は、特定の大学の学部レベルを強化するよりもむしろ全国の義務教育課程の数理科目の指導をもっと強化してボトムアップを図る方が効果的かもしれないと思います。
小中高の先生方のレベルは、失礼ながら、諸外国に比べて卓越しているとは思えません。もっと教員の質や教育体制の見直しが求められるのではないかという印象も私の中にあるのですね。とりわけ理系の教育については、小中学生の段階で、もっと改善の余地があるのではないか。

日本が科学技術立国を目指すならば、国際競争力を保つために色々とテコ入れが必要なのは確かです。しかし、それらは言葉遊びで終わるのではなく、中身が伴われなければなりません。従来の指標では、おそらく米国や中国にはもう物量で勝てないでしょう。

それならばどうするか?
日本独自の指標というか、日本語、日本文化の強みを活かす方法を模索すべきなのではないか。指定国立大学法人もあってもいいのでしょうが、そもそも日本の科学界の短所と長所を把握して、国全体で取り組んでいくことを考えるべきなのではないかという気がします。

「大学ランキングが低いならば大学に予算を投入すればいい」という発想は、正直、すこし稚拙ではないでしょうか?

城壁の街に響く太鼓

2017-06-11 | 2017年イベント
北アイルランド第二の都市、城壁の街Derry(デリー、アイルランド語でDoiraデラと呼ばれる)を訪ねました。日本文化を紹介する交流イベントがあり、知人が参加されている関係で、私にもお声をかけて頂いたからです。Belfastからバスで2時間弱かけて、北アイルランドとアイルランド共和国の国境付近、1688/89の包囲戦で名高い城壁都市に初めて行ったのでした。



Derryといえば、Bloody Sunday(血の日曜日事件)でも有名な場所であり、Belfastほどではないとしても北アイルランド紛争の一大拠点として知られていました。現在も城壁外の住宅地ではmural(政治的なメッセージが書かれた壁画)が多く、今もなお、プロテスタント派とカトリック(ナショナリスト)派の対立がすこし感じられました。

街の中心部からすこし離れた公園の一角に、即席の日本文化紹介コーナーが作られており、地元の日本人や日本好きの方々の工夫が随所にありました。太鼓演奏や、盆踊りなどが紹介され、京都からいらっしゃった日本舞踊の方々が踊りを披露し、注目を集めていました。


たまには、こういうイベントも楽しくていいですね。異邦の地で、日本文化に触れると、すこし安心するというか、ほっとするような気持ちがありました。

過去最悪の内部被ばく!?

2017-06-07 | 2017年イベント
本学が大混乱している最中、日本で放射線被ばく事故が発生したというニュースがロイター(Reuters)を通じて報道されました。
5人の作業員の方が、日本原子力研究開発機構(JAEA)内での事故により、肺内に放射性物質であるプルトニウムを吸入し、内部被ばくに至ったとのことでした。この種の事故では過去最悪規模の放射能量とのことです。原因はよく判りませんが、作業手順等に問題があったのかもしれませんし、作業側の油断もあったのかもしれません。いずれにせよ、今後の健康影響が問題視されています。
福島原発事故とは全く関係がありませんが、原子力・放射線関連業務において日本でこのような事故が発生したということで、個人的には大変衝撃的でした。

今後は放射線医学総合研究所で、これらの作業員の方々の治療と、被ばく線量の評価を行っていくとのことですが、長期的な健康影響がどうなるのかも含めて注意深く見守っていきたいと思います。

副総長兼学長の急逝

2017-06-05 | 2017年イベント
Londonのテロ事件に震撼した翌日の日曜日、本学の副総長兼学長(Vice Chancellor and President)であるProf. Patrick Johnstonが急逝しました。
英国の大学では、総長職(Cancellor)は名誉職であり、大学運営についてはVice Chancellorが事実上の最高責任者になります。つまり、本学はトップを昨日突然失ったのでした。心臓の病が原因ではないかとのことでしたが、まだ50歳代の若さで、しかも在職中に亡くなられたので、本学には大きな衝撃が走りました。日曜日には地元新聞をはじめ多くのメディアが彼の死を採り上げたほどです。

Professor Johnstonは本学腫瘍学部門の教授として、長年にわたって、がん研究を推進してきただけでなく、私の所属するがん細胞生物学研究センターをはじめ北アイルランド内のがん研究推進基盤の設立のほとんどに携わってきた方でした。後者における貢献は社会的にも非常にインパクトが大きく、まさに彼が北アイルランドのがん研究界を率いて、その地位を欧州一流クラスにまで押し上げたといっても過言ではありませんでした。そして、彼が私の指導教官をここBelfastに招いたからこそ、今、私が本学で学び、研究しているわけです。つまり、私がBelfastに留学する遠因にもなった人物でした。

私は、直接の面識はありませんが、もちろん、お顔とお名前は存じ上げていました。
私の研究センターには彼に師事した研究者も多く、昨日から研究センターのメーリングリストでは情報が飛び交っていました。そして、本日の午前中にセンター全員が集まり、黙祷が捧げられました。
在学中にまさかこのような体験をするとは……。
ご冥福をお祈り申し上げます。