佞臣 [鄭注立身]
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「監軍殿より、厳重注意してもらえませんか」
「あの鄭注という奴には、がまんできません」
「なぜあんな奸物を、節度使殿は近づけるのかわかりません」
「上には媚へつらい、下には徹底的に傲慢になるやつです」
「わかった、李愬殿に注意してみよう」
武寧監軍王守澄はうなづいた。
そして愬の所に赴くと、聞いてきた注の悪い噂をつげて諫言した。
「名将といわれる殿ですが、文臣をみる目はなかなか甘いようですな」
「いや、そう言われるが注は奇才で捨てがたい人材ですよ」
「奸物ほどそういうものなのです。追放された方がよい」
「そうですかな、明日、注を監軍殿の所に行かせます、一度話を聞いてやってください。その上で問題があるなら追放もしかたがありませんな」
「まあ話ぐらいは聞いてやりますが・・・」
翌朝、注が謁見を求めてきた。
「奴め来たか、儂を丸め込めるとでも思っているのかな」
険しい表情の守澄であったが、注の話が始まると膝を乗り出し、数刻後には会うのが遅かったことを悔やむありさまであった。
翌朝、守澄は愬に言った
「なるほど奇才ですな」
そしてたちまち注は守澄の信頼を得て側近となった。
守澄はやがて中央に戻り枢密使となり、鄭注もどんどん引き立てられていった。
*******背景*******
鄭注は本姓魚氏、医術により李愬に取り入り、守澄に寵遇されその謀臣となった。宋申錫の事件を引き起こし、諸人から警戒されたが、ついには文宗皇帝にも寵遇されると、守澄を失脚させ、工部尚書・鳳翔隴右節度使まで栄進した。そして李訓と組んで宦官排斥を企てたが、訓は独走し甘露の変を起こして失敗し、注も殺された。
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