裏切り [朱全忠の成立]
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「降ってもはたして受け入れてくれるかな」
「俺の評判は極めて悪いし」と溫
「そんな事をいっている場合ですか」
「敵軍はどんどん増えているのに、こちらにはろくに援軍はきません」
「孟楷どもが殿を讒言しています。もう生命が持つかという問題です」と側近の謝瞳が叫んだ。
援軍を頼むために京師の黄巣のもとに派遣されが、まるで取り合ってもらえなかった怒りで顔が真っ赤である。
官軍に対する最前線の華州城では不穏な空気がただよっていた。
「河中の王重栄から密書がきています」
「都監の楊復光からもです。奴らも焦っているのです。」
「官軍につくなら今です」と部下達はすっかりその気になっている。
「しかしなあ・・・・、俺ではな・・・」
ひとかけらの土地もなく、農奴としてこき使われ
黄巣のもとで流賊となって久しい溫には
官に対する反発と警戒心が強い。
それに手下共も納得させなければならない。
しかし、四月溫はついに監軍嚴實を殺して王重栄に降った、追いつめられ降らざるえなかったといってもよい。
一緒に降ろうとした華州守將の李詳は発覚して殺されてしまった。
右金吾大將軍河中行營招討副使に任ぜられ、同華節度使とともなり、「全忠」と名を賜わった。
しかしそれだけである。今までの部下を引き連れて、まだまだ強大な黄巣軍と戦うのだ。
後梁の開祖朱全忠、中和二年十月のできごとである。
*******背景*******
廣明元年十二月黄巣は京師を陥し、僖宗皇帝を逐った。まもなく体制を立て直した唐軍に包囲される状況に陥った。黄巣は兵は多いとは言え領土は京師周辺の数州でしかない。
しかし包囲するほうの唐軍は寄せ集めの雑軍でしかなく、黄巣軍には勝てない。
都統王鐸、河中王重榮・忠武周岌などは京師を攻めあぐねていた。
そこで黄巣軍の中でその力を警戒されている朱溫に働きかけて寝返らせようとしたわけである。
だがまだまだ武力は不足し、蕃族の沙陀李克用の南下を求めることになっていった。
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