醜貌 [盧杞を懼れる郭子儀]
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盧杞は宰相懐慎の孫、安史の乱の忠臣である奕の子である。
すこぶる有能であり德宗に認められ将来の宰相と目されていた。
建中年間のある日、杞は帝命をうけ病気の郭子儀を見舞った。
「杞が来る、準備はできておるか」
「はっ、殿様。料理も舞姫達も・・・万全です」
「女はすべて去らせよ、一人とて出してはならぬ」
「杞様は、女嫌いなのですか」
「バカな、あの顔をみて、もしも女達がクスリとでも笑ったらどうなる」
「奴は恐ろしく執念深く、誇り高いのだ」
「恥をかかされたと思ったら、徹底的に我家に仇をなすだろう」
「次代の宰相は奴なのだ。禍は避けなければならん」
杞の容貌は青鬼のようであり、服装はだらしないので有名であった。
子儀はただ独り、杞の来訪を受けた。
*******背景*******
祖懷愼は玄宗時の宰相、父奕は東都留守として安禄山に捕らえられ殺された。
杞は佞臣の典型で德宗皇帝に深く信任され、楊炎・張鎰・顔眞卿などを讒言して陥れ、奉天の役の原因を作り、李懷光に弾劾されて失脚した。しかし德宗はなおも杞の再登用を望み、群臣の反対により阻止された。
慎重な子儀は杞の性格を知り、禍を防ごうとしたのであるが、その死後には杞の策謀があったようである。