クワトロ郎

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読書感想文:Bleak House 「荒涼館」

2012-12-14 23:20:50 | 読書感想文
Bleak House (Charles Dickens)
Penguin Classics 1997年9月

 ディケンズ、1853年出版。ビクトリア朝の英国の遺産訴訟を軸に、社会システムが手続き優先で機能不全に陥った中で、いろいろなキャラクター達が、それにあるものは押しつぶされ、あるものは迎合し、あるものは超越し、自分の人生を生きようとする人間模様。
 スティーブン・キング(Stephen King)のBlack Houseを読んでいたら、その主人公がこの本を目の見えない友人に読み聞かせるシーンがたびたび出てくる。彼が本の中で登場させるぐらいだから、きっと面白いだろうと思って探してみたら、ペーパーバックで989ページある。読み終わるのに半年以上かかった。ディケンズで有名なのは、「クリスマス・キャロル」とか「デイビッド・カパーフィールド」とか「二都物語」だが、実は名前を知っているだけで読んでいない。(日本人お得意の暗記に留まり、実質には触れていない典型。)読んだのは、このBleak Houseが初めて。邦訳は「荒涼館」としてちくま書房から出ている。
 で書評だが、あらすじを書いてもしょうがないのでポイントだけ。
1.主人公のエスターが心優しく、誠実で、自分や他人が困難な状況に置かれても、自省しながら、ひとつひとつ解決していく。非常に前向きでポジティブなキャラ。ディケンズの理想の女(ひと)はかくやと思う。正直、僕もファンになった。
2.遅々として進まない訴訟裁判。遺産相続額よりも弁護士の手数料が多く、すべてを失ってしまう相続人や、裁判の傍聴をしながら自分の取り分を待つ老女や、依頼人の相続金を担保に金を貸す弁護士、古い過去(スキャンダルの種)をねたにゆする弁護士など。今の世と変わらぬ、悪意に満ちた人、虐げられる人、だまされる人、、、機械文明は進歩しても、人の有様は変わらない。
3.登場人物が多い!いろいろな階層、職種、官民、夫、妻、老人、若者、浮浪児、ドヤ街の労働者、礼儀作法学校の校長、などなど、当時の生活がしのばれる。
4.サブストーリである、主人公の母の保身に走る姿は痛々しい。築き上げた物が他人の悪意によって、危険にさらされたとき、大事なのはその築き上げた物か、それとも自分自身か?社会的、個人的にに、自分のかかわりのある人々はその築き上げたものと密接につながっている。それが無に帰する時、自分自身であることだけでは十分ではないのか?しがらみがそんなに大事か?心が自由であるということは、強靭な精神力が必要だ。彼女はしがらみを優先し、耐えられず、自分自身を葬る方を選ぶ。そのかわり作者は、娘であるエスターに、自分自身であり続けることが可能であることを静かに語らせる。
【総括】心の勝者であれば良い。体は鎖につながれようとも、心は自由でありたい。そうであれば、あると思った鎖も実はなかったことがわかるはずだ。

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