クワトロ郎

人生の彩りをアレコレ描いたり、歌ったり、知恵しぼったり、
牛乳しぼったり、  ん?  てな具合で
オヤジギャグ三昧

読書感想文:DORIS LESSING : THE GRANDMOTHERS

2015-10-30 00:10:08 | 読書感想文

2007年ノーベル文学賞女流作家Lessingの2003年の作。4つの短編集。集英社から邦訳「グランド・マザーズ」

1. The Grandmothers : 尋常ならざる二組の母親と息子達の物語。肉体と精神がモラルの領域を超えて交錯するとき、彼らの安寧が世の敵となる。人間の持つ原始的な情感を呼び起こさせて秀逸。
2. Victoria and the Staveneys:若くて美しい黒人女性と社会奉仕とリベラルであることが脅迫観念となった裕福な一家との顛末。もはやサクセスストーリーはこの世に存在しない。単純な幸福さえ得られない。貧しくとも、富んでいても、心の平安は得られない。理解し合えることは稀有な宝物だ。
3. The Reason For it:人類の前に人類あり、そのまた前に人類あり。起こりと滅びを繰り返す無間世界。老いた人間は、若者の無知と伝統の無視を嘆く。自分の築き上げてきたものは否定される。老人の悲しみの理由は、自分が若かった時のことを覚えていること。
4. A Love Child:第2大戦でインドに出兵した若いイギリス人が、輸送途中のケープタウンで、人生で一度きりの女(ひと)に出会う。人妻だが、インドに着任後、二人の子供が出来たことがわかる。二人に会うことだけが生きる目的となる。終戦でイギリスに帰り、他の女と結婚し娘ができるが、ケープタウンに会いに行く。妻もこのことを知るが理解を示す。戦争が精神を粉々にしそうになったとき、その救済がモラルにかなうもので無いとわかったとき、あなたはどうするか?あきらめるのなら、あなたの苦悩は本物ではない。あきらめないが、自分の行動で相手を破滅させることは出来ない主人公。思いを胸に抱いたまま生きていく。
【総評】どこにも勝者はいない。ただし敗者もいない。喜びも悲しみも単純ではない。すべてが渾然一体となった世を生き抜く人々。これらの物語は奇異な例外ではなく、誰もが持つ心の物語だ。

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