QAZのつれづれ日記

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評伝 古賀政男 読了

2020年03月05日 | 読書


古賀政男の切手(2004年発行)

高橋功、菊池清磨による「評伝 古賀政男」三部作のうち菊池清磨著、最新作「日本マンドリン&ギター史」(副題)をやっと読み終えました。
三冊とも所有していますがこの最新作は一番の大作で、私の関心事である氏とマンドリンの関わりについて三冊のうち最も多くのページを割いて詳しく語られています。

古賀政男は日本の歌謡曲、演歌、流行歌作曲の巨匠として代表作「影を慕いて」はじめ多数の曲で知られていますが、マンドリンを趣味とする私には氏のもう一つの側面、出身団体である明治大学マンドリン倶楽部や名曲「丘を越えて」をより身近に感じます。
この本の著者、菊池清磨氏もまた明大マンクラのOBです。

古賀政男=演歌=ギターというイメージが強いですが、氏が初めて手にした楽器はギターではなく15歳のとき兄から思いがけず贈られたマンドリンでした。

古賀政男愛用のマンドリン(福岡の古賀政男記念館蔵)

氏は明大マンドリン倶楽部出身ですがクラブの創設者ではないようです。
著者は、古賀メロディの明朗性がイタリアのマンドリン作曲家カラーチェの明るくきらめく音色を特徴とするマンドリンから影響を受けたことによるものと考察しています。

古賀はカラーチェのマンドリン音楽芸術をこよなく愛し、昭和二年演奏会でカラーチェの有名な前奏曲第1番を独奏しています。
この曲は相当な難曲ですから氏のマンドリンの腕前が並外れたものであったこと、またマンドリンオリジナル曲への造詣が深かったことがうかがえます。
因みにベルギーの名マンドリニストRalf Leenenの演奏でこの曲を聴くことができます。

昭和三年の第十三回明大定演で氏は従来のマンドリンオーケストラの形態の常識を覆し、管楽器との融合によるオーケストラ編成という他のマンドリンオーケストラには見られなかったユニークな形態を作りました。
日本マンドリン界の父、武井守成はマンドリンと融合可能な管楽器をフルートのみに限定しました。
他の管楽器は音量の関係で融合させることはしませんでした。
レギュラーオーケストラ(管弦楽団)に近づこうとしたアメリカのマンドリンオーケストラの失敗を踏まえてのことでした。
ですが古賀は違いました。
このことが結局己の音楽の生命である旋律美を失い氏はマンドリンオーケストラの限界に突き当たったと記されています。

フルート、トランペット、ホルン、オーボエ、クラリネットなどの管楽器が入ると弦楽器を中心としたマンドリンオーケストラ(マンドリン古典曲の演奏)とはかなり距離できてしまい、これでは旋律を主体にしたマンドリンの繊細な感情表現は難しくなってしまいます。
明大マンドリン倶楽部からクラシックギター・マンドリンのナチュラルな響きやマンドリン本来の繊細な感情表現が消えていくのは時間の問題で、一体だったはずの古賀政男と明大マンドリン倶楽部はここで大きく乖離して行くことは氏にとって不幸なことでした。 

氏は楽器編成の新しい試みに果敢に挑みましたが自分で自分の首を絞める結果になったとも言え、この解決を自ら図ることなく74歳の生涯を閉じたのでした。
この本の巻末には160ページにもわたる非常に詳細な古賀政男のディスコグラフィー(作品目録)と年譜が掲載されていて賞賛に値します。

関連ブログ:
評伝 古賀政男(2016.08.01)


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