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南北朝(日本)時代と漫画家・車田正美先生の作品を瞑想する部屋。

【太平記】-第5回『危うし 足利家』-(2)

2009年07月12日 21時13分47秒 | 大河ドラマ『太平記』(1991年)

足利直義(高嶋政伸)は審問前から、「霜月の乱」の例もあるので蒙古、じゃない、北条の襲撃に備えて屋形内を武装するよう主張していましたが、兄のために、もはや長崎父子を奇襲して討つべし!と作戦を立てました。ここで足利一門の斯波、吉良、今川、畠山、石橋、仁木の名が挙がります。この石橋氏は斯波氏の流れのようですね。

     ┌―義重
義国―┤ (新田)              ┌―実国(仁木
     |       ┌―義清――義実―┤
     └―義康―┤            └―義季(細川)
       (足利) |
            |      ┌―義純(畠山)     ┌―満氏(吉良
            |      |      ┌―長氏―┤
            |      |      |      └―国氏(今川
            |      |      |                       ┌―高氏
            └―義兼―┼―義氏―┴―泰氏―┬―頼氏―家時―貞氏―┤
                    |              |                └―直義
                    └―義胤(桃井)     ├―家氏(斯波
                                   ├―義顕(渋川)
                                   ├―頼茂(石塔)
                                   └―公深(一色)

(『図説 鎌倉歴史散歩』河出書房新社)

しかし鎌倉において動かせる家来衆はそう多くなく、奇襲が破れた時は滅亡だぞ、という貞氏の意見もあり、どうすりゃいいのよ、そんな足利を救ったのは意外や意外、「北条」でした。

*

幕府・審問の間。
道誉は高氏の審問を見越して近江から下向したようで、淀ノ津から京屋形までのくだりは彼自身がレポートを提出したと思われます。

  • 先の大内記・日野俊基朝臣と洛中にて密会遂げたるは、そもいかなる意図のもとにや

について道誉は、密会は事実、謀反は無実、と証言できる。あるいは、謀反も事実、とも。
宮方を「裏切った」のは検非違使の理。大軍を擁する足利家を倒幕に巻き込んだのは近江源氏である佐々木家の理。この大枝で、彼流の「立花(りっか)」をどう仕立てるのか。

(評定衆)「佐々木殿にお尋ねいたす。佐々木殿は、日野俊基とはいかなるかかわりをお持ちか」
(道誉)  「ここに居並ぶお歴々もご存知のごとく、それがしは執権の君より内々の御旨を受け、長らくみやこの謀反の動きに目を光らせてまいった。日野は、それがしの網にかかった愚かな“友”でござる」

俊基を悪く云われ、あの夜のアトラクションからして罠だったんだな、と高氏は怒鳴りたかったかもしれません。それにしても友は朋。同心のこと。真偽50%、中道を闊歩する道誉の婆沙羅ワールドが炸裂しました。

(高資)「しからば、日野の謀反の仲間はよう存じておられような」
(道誉)「いかにも」
(高資)「9月18日の夕刻、日野が六波羅の手の者に追われ、佐々木殿の屋形に逃げ参ったか?」

わざとらしくうなずいて、

(道誉)  「淀ノ津で、仲間の若武者に助けられ、ともにわが屋形へ逃げ込んで参りました」
(評定衆)「その若武者とは」
(道誉)  「足利高氏」
(高資)  「その足利高氏とは・・・これに控えし足利よのう!」

高資が扇で、びしぃっ!と指した方を、うーむ、ともったいぶって見遣った道誉。BGMは葉擦れの音のみ、という緊張MAXの中、円喜はにんまり。終わった・・・と瞑目する貞顕。ところが。

(道誉)「いいや。ここに控えしお方は足利殿にあらず!」

なんですと! 皆、騒然。ホームゲームの9回表、ツーアウトで同点ホームランを打たれたようなもんでしょうか。口をぱくぱくさせる高資は金魚、円喜は髭のせいでどうしても鯰に見えるんですが、期待したのと180°逆の展開に2人は唖然。

(道誉)「わが屋形へ参られた足利という男は、鬼のような赤ら顔をした身の丈は六尺はあろうかという大男でござる。このお方とは似ても似つかぬお方じゃ。かかる不思議のあることよ! わが屋形へ参りし若武者は、まぎれものう足利高氏と名乗りしが・・・はてのう」
(高資)「判官殿、よくよくご覧あれ! これに控えしが足利高氏ぞ!」
(道誉)「いいや、違う! はて、みやこで会うた“足利”は・・・」

高氏も空気の読める男で、とくとご覧ぜよ、てな感じで道誉に顔をじっくりと検分させるわけです。道誉は高氏だけに見えるよう、にやり、と笑い、

(道誉)「この目に狂いはない。さては、あの“足利”は偽者であったか。佐々木判官、なんたる不覚! 面目の次第もござらん!」

深々と頭を下げました。嘘が見え見え。見え見えの「嘘」は嘘なんでしょうか。これ、絶対に映像を観た方がいいですよ。大笑い。
審問後、あんた、話が違うじゃないの、とぶすったれた円喜に、違わない、けど顔が違うとは思わなかったぜ、と苦笑した道誉は無敵の内管領を逆に脅しました。勘違いするな。俺の上司は執権殿だ、あんたの指図は受けん。
ぺし。
とどめの扇は、円喜が貞氏にやった無礼とそっくり同じ。ぬぐぐぐぐ、と憤る鯰。上には上がいるもんです。
罪状はかぎりなくグレーのまま、高氏は牢に戻されました。まだ首の皮一枚でつながっているくらいかな。無実だろうがなんだろうが円喜は高氏をぶった斬るつもりだから。
さて、評定衆として陪席していた守時が牢を訪ねてきて、

(守時)「家を出る時、妹が申しました。足利殿が公家の謀反に与したというのはおかしい、東国で生まれ、東国で育った武士がわずか数日のみやこの旅で易々と公家に与して東国に弓を向けるであろうか、にわかに信じがたい、と。率直にお答えいただきたい。それがし、家へ帰り、そのことにつき答えねばなりませぬ」

妹が惚れた男の器量を兄が見定めに来た。高氏は率直に答えました。

(高氏)「妹君にお伝え願いとうござる。東国で生まれ育った武士が、わずか数日みやこを見ただけで東国に弓を引くことは・・・あることだ、と」

この過激な「自白」は赤橋家、想いを寄せてくれた登子に累を及ぼさないためでもあるのでしょう。今なら無かったことにできる、忘れてくれてもいい、と。
ほかにもいろいろとぶちまけて、守時もまた、鎌倉は腐り果てている、と考える同心であったことを高氏は知ります。
牢を出た守時は帰宅。あいつのどこがいいんだ、と登子(沢口靖子)に質しました。

(守時)「良いとはどれほど良い。嫁に行け、と云えば行ってもよいと思うほどの人物と見たか」
(登子)「はい!」

お兄ちゃんに見つめられて、あ・・・と俯く登子ちゃんが初々しいんだわ・・・今、北条一門から足利家に嫁する女性は命懸けです。その目利きの確かさと覚悟を守時が買った。

(守時)「よし。足利高氏、救うてみよう。このまま北条の敵とするには惜しい男よ!」

この時、鎌倉に2つのニュースがもたらされ、

  1. 奥州は津軽、安東季久⇔安東季長の跡目相続バトルを調停するはずの幕府軍が季長軍と交戦中
  2. 帝の書状を勅使が持参

これらが妙な具合に化学反応を起こして高氏に作用してしまうのです。

夜。足利屋敷。
奥州でやらかしている安東季長の一族、十郎(吉田将志)を伴ってなぜか新田義貞(萩原健一)がやって来ました。十郎は遠縁の義貞を頼って今朝、鎌倉に忍び入ったばかり。差し出された足利殿宛の季長の書状を、勝ち目はあると思うのか、と問うた貞氏は火桶にくべて焼き捨ててしまいました。煙い。

  • 幕府軍は非力と見える
  • 奥州の伊沢、葛西など幕府に不満を抱く一族も続々と季長軍に加わっている
  • 足利軍が呼応すれば幕府軍を挟撃してたたける

もって天下が動きまする!と、骨肉の争いを制したいはずの十郎がヤケに壮大な風呂敷を広げるので、足利家家臣の高師重(辻萬長)、南重長(河原さぶ)も怪しんでいます。鎌倉に対する宿怨、今度の長崎殿のやり方は足利殿が起つ理由になるでしょう、と奥州から出てきたばかりのパシリになんで云われなきゃならんのか。
これは、ばれていないだけで本物の謀反人である義貞の、足利を倒幕に巻き込む謀略なのでした。またか。季長の手紙も義貞がでっちあげたのかもしれません。貞氏はにっこり笑って、

(貞氏)「こは、新田殿の謀(はかりごと)よの」
(義貞)「新田は足利殿と違い、無位無官の貧乏御家人。力もなければ、思うところもございません」

新田家はカネがないからなりふり構っちゃいられない、でも、謀反を疑われるほどの力もないですよ、うまくやってたあんたのところと違って。カッコよかった16歳の小太郎が8年間のローン地獄でこんなに屈折してしまって・・・うっうっうっ。貞氏も義貞の姿に悲哀を覚えたようです。義貞、借金をチャラにしたいんじゃなかろうか。倒幕で。

幕府ではもう1通の手紙が問題に。三方に乗っかった帝の書状を開封するのしないのと激論中。席次は↓。

       □北条高時

 金沢貞顕□  ■長崎円喜
 赤橋守時□  ■長崎高資
二階堂道蘊□  ■?     
 ?□  ■?
 ?□  ■?
 ?□  ■?

なんで読んじゃいけないのよ、と不満げな高時に、

(道蘊)「いいや。封のままお返しするのが礼というもの」

僧体の二階堂道蘊(北九州男)は禅宗への帰依が篤く、天子が書状で身の潔白を立てるなど和漢に例がない、そこまでされたのだから、このうえ内容を検めるのは無礼、と諌めます。それはそのとおりで、ここで礼を失すれば幕府の品格もガタ落ちです。そういうことがわからないアホな高資は、二階堂殿のお頭(つむ)は古いのじゃ、と失礼なことをほざいて箱に手をかける。守時が止める。円喜も止める。

(円喜)「赤橋殿。御辺の案じておられることはようわかる。奥州に火のついた今、朝廷と事を構うるは不利との仰せであろう?」

では、鎌倉で足利と事を構えるのも不利ではないのか。利には利を。理をもって理を制する守時の戦いが始まりました。高氏を“罪人”とはしたが、足利を敵とした覚えはない、幕府が百数十年にわたって命運を保ったのは、身分の区別なく公平な裁きを行ってきたからだ、と胸を張る円喜の言葉を逆手にとり、その度肝を抜くスキャンダルをすっぱ抜く!

(守時)「奥州の内乱が、なにゆえ幕府への反乱と相なったかご存じか。津軽の大名、安東季久と季長の相続争いは、幕府に訴訟された折、各々に有利な採決を下し与えると密約し、こともあろうに両者から莫大なる金品を受けとり、両者の怒りを買った者がおりまする。奥州より逃げ帰った兵どもが口々に申しておりまする。このいくさの大元は、幕府内の不正にありと!」

なんのことはない、賂(まいない)をポッポにナイナイしたのは高資で、ここから長崎父子はメタメタに崩れていきます。

(高時)「誰じゃ! その不正を働きし者は」

おっと、執権さまがお怒りになりました。
なおも守時は畳みかける。安東一族は奥州の武士を内乱に引き込み、京周辺の大名にも蜂起を促している。これに帝×足利のコンボが加わったら鎌倉も無傷ではすまない。これは利か。

(守時)「他を疑う前に、われら自身がまず正しくあらねばならぬ。こは、他を裁く者の資格と存ずるが、いかが!」

良いことを云う。非の打ちどころがない理です。貞顕も、足利を身方につけて足もとを固め、奥州の内乱があちこちに飛び火することを防ぎましょうよ、それが幕府のためですよ、と後押し。これ以上抵抗したら、長崎父子の方が審問にかけられそうです。
とうとう高時の、わしは疲れた・・・という最強呪文で合議はお開きに。

(高時)「なにごとも穏やかがよいぞ、穏やかが・・・連署の申すとおりじゃ。足利とは仲良うにのう・・・それがよいぞ、それが・・・二階堂! それを勅使にお返しいたせ。もうよい!」

犬をけしかけておいてなに云ってんだ、という気もしますが。長崎は佐々木、赤橋に連敗です。なんだか暗くて狭いところに入った鯰は突然、アホな子鯰を扇で打擲。
ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!ぺし!

(円喜)「愚か者! 私利私欲で内管領が務まると思うか、この愚か者がぁあ!」

ぺし!ぺし! ひぃひぃ床を這いずりまわる高資が情けなさすぎ。
ある意味で円喜も潔い。まさかワイロがダメ、とは云わないでしょう。その使い方、私利で公利を損なった高資の本末転倒がダメらしい。
北条が傾いていることは自分がもっともよく知っている。北条が崩れれば幕府も倒れる、そうならぬよう、すべての泥をかぶり、血を流し、恨みを受ける長崎家の宿命をまったくわかっておらず、形だけを真似てシステムを知った気になっている、これが俺の跡継ぎか。
半泣きでくずおれる円喜にちょっと同情しました。いつまでもリタイアできないよ、これじゃ。

なんとまあ長い秋の夜でしたが、高氏はめでたく無実放免となりました。翌日、そのことを貞氏に知らせた貞顕も嬉しそうで、高氏はほんと、伯父さんに恵まれています。頼もしい義兄もできそうです。
家中は安堵し、極めつけは貞氏の両手両足を伸ばしたジャンプ。ぴょん、と跳んで直義や家臣達を笑わせました。一方、久しぶりにシャバの空気を吸った高氏も、しゃああっ!と侍所の縁から庭に跳び降りて伸びをし、DNAを見せつけるのでした。

この救出劇、『古今六帖』のコピーで高氏と登子を芽生えさせた清子がMVPかも・・・渦中、彼女は地蔵菩薩に祈っていただけですが。いやあ、よかったよかっ・・・
ああ、ちょっと!
右馬介を忘れていやしませんか? どこかにぶち込まれているはずなんですよ。誰か、出してやって。


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