マイ・ライフ・レッスン

母のがんのケアをするなかで感じたことなどを書いていた記録です。

柳原さん ありがとう

2008-03-22 23:53:41 | 母との日々~がん患者の家族として~
誰もが80まで生きられるわけではない。
当たり前のことなのだけれど、私の回りには高齢者が多いので
どうも人生って長い気がしてしまう。
がんに関する本を読むと、人生を惰性で生きるなよ、と言われている感じがする。
先月「がんの患者学」を読んだ時に発行が2000年になっていたので、
今現在のこの人はどうしているのだろうとふと思ったら
今月初め、新聞に柳原和子さんの訃報が載った。57歳。
柳原さんは「がんで亡くなった自分の母と同じ年齢でがんになる」と決意してその通り発病した。
かなり悪い状態だったにも関わらず、そこでへこたれずに、自分の闘病を通して見たこと感じたことをライターの才覚を発揮して世の中に発信し続けた。
最近はコタツの上に常時「がんの患者学」と「百万回の永訣」を置いていた母は
訃報の記事の切り抜きを渡すとショックを受けていたが、
二人で一緒に彼女の素晴らしさを称えた。
彼女の著書には“これでがんが治る”的なことが書いてあるわけではないが、
がん治療の局面ごとに彼女が感じることは他の患者にとっても共感できるものであり、
大いに力づけられた。
柳原さんはもういないけれど、著書やインタビューや対談の数々の記録は
これからも私達母娘をはじめ沢山の人達を励まし続けるだろう。
柳原さん どうもありがとう。これからもよろしくお願いします。
そして心より、御冥福をお祈りいたします。

健康至上主義の隆盛

2008-03-07 14:40:09 | 健康雑事
久しぶりに鍼灸学校の同級生と会った。
最初のうちこそお互いの子供ネタだったが途中で彼が、
先月のあの記事見た?と。
そうそうー 私も誰かとこの話がしたかったのよ。

医道の日本2月号 巻頭座談会「鍼灸は西洋医学の破綻を補完している!?」

内容は私には非常に新鮮であり、小さな衝撃でもあった。
冒頭から、「代替医療も”医療化(メディカライゼーション)の流れ”を促進的に貢献しているのではないか」と始まる。
医療化という言葉を私は初めて聞いた気がするが、説明によると医療化とは、
医学が、それまで病気とみなされなかったものを病気だと言い出し、
自分達で処理する現象だという。
何が問題なのかというと、医療のシステムが肥大化すると人々はシステムに依存するようになって
元々持っている自分を癒す能力や土着的な癒しの智慧を見失い、
不能化してしまう、社会の管理がどんどん強まってしまう、
ということらしい。
例えばそれを鍼灸の場合にあてはめてみると、
病気を気にしていない人に「肩がこっていますね」と言って治し、
その人が「これからは肩こりを鍼灸院で治してもらおう」と思うようになることは
鍼灸医療に依存する意識を形成してしまったということになる。

もっとも、これは対談であるので医療化の良い悪いについて明快に結論づけてはおらず、
医療化することを批判した人物としてイバン・イリイチ(哲学者・1926~2002)という人の名を挙げている。
「個々人の病むことのリアリティーを尊重し、自らが自らを治すことに価値を見出す人にとって"医療化”は病む人個人のリアリティーおよび治す力を奪ってしまうものであり、”医療化社会”は非人間的社会・脱能力化社会である」

"病むことのリアリティー”かあ・・・

何か、私が普段からぼんやりと感じつつどうしたらいいかわからない断片がこの対談の中にある。

所謂、「健診が病気を作っている」という指摘はある意味で正しいと思う。
本人に自覚症状もないのにも関わらず毎月内科に通い、
やれ血圧だ心臓だとで大量に薬を処方されている祖母を見ると
医術を施されているというより、製薬会社の商売だとしか・・・。
大した症状でなくてもとりあえず医療機関にかかるのは
病気・異常を全て排除し、健康(正常)をとことん追求する最近のヘルシズム(健康至上主義)の隆盛があるという。
ヘルシズムという言葉も初耳だが、
それこそ数値や検査で異常がなくても本人に訴えがあるのなら何でも対応しようとする私達鍼灸師の姿勢も、
この流れに乗っていると言えるのではないか。
松田氏の言うように、鍼灸には人々が医療化の罠から抜け出るための「脱・医療」的な要素があるのが魅力であって、もしそれを失ってしまうとしたら、普通の医療産業と変わらなくなって存在価値がないのではないか。

さて、この話をした彼も私と同じようなことを考えていたので議論にならず、
二人でう~ん、となってしまってすっきりした回答が出なかった。
「受けて心地よい感じ、幸福感、これは病院などの医療機関では味わえないものだからいい(価値がある)んだよね」
うっ。
そんな安易な結論でいいのか?
「脱・医療」の要素はどこにある・・・?

ちょっとこの対談は魚の骨が喉に引っかかったような読後感が。
今月号に対談の続きが載っているのだがまだ未読。
イリイチ的な考えは私も嫌いじゃないので、
「病むことのリアリティー」について、自分なりに考えていこうと思う。
私も痛くない、辛くない、楽、なのが好きだから、簡単じゃないけど。