Doll of Deserting

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偽造釈明。(ギンイヅ)

2005-09-18 16:27:50 | 過去作品(BLEACH)
*この小説には、原作沿いの多大な捏造が含まれております。ご注意下さい。




 門の内。そこは門の外に暮らす者達には、時折皮肉を込めてそう呼ばれることがあった。それはあまりにその場所が閉鎖的であり、ある一定の人種以外を受け付けることがないという由縁からである。門の内に住む者達は特にそれをどうとも思わず、むしろただの嫉妬だと嫌でも理解出来たので否定もしていない。むしろ内の住人は、外の住人が必要以上にここを敬遠するようになってから昔よりも更に絶対的な配備の元、門の外の住人が門の内に侵入出来ないようにしてやった。
 ただ、一つ難を言えば、門の内の住人の中には元々外の住人だった者がいる。そういった者達は、故郷に戻る度にその場所との距離が深くなっていくのを感じ、侘しく思うのだった。しかし言ってみれば、外の住人の出身で帰る家のある者などそうそういないのだ。


仄白い風が吹き付ける中、飄々と立つ痩身の男、この市丸 ギンのように。


 ギンは、閉じ直された門の扉を見て笑う。元々細められた瞳から見れば、元から笑っていたようにも思えたかもしれないが、それは正しく面白おかしそうに笑っていた。しかしそれは、たった今追い返した現世からの侵入者や、左腕を失くした門番に対してなどではない。ギンは門の方に身体を向けたまま、無粋にも物陰に佇んでいる人影に嘲笑しながら、呼びかけた。
「えらい無粋なお人やねえ。どこの子ォやろ。」
 そう言いながらも、正体などすっかり知れてしまっている。向こうもそれを知っているのだろう。ギンから名を呼ばれるのを待つかのように、未だひっそりと声を潜めている。
「…怒らへんから、さっさと出てきい。阿散井クン。」
「…やっぱアンタにはバレてたんだな。」
「隠れる気もなかったくせに?」
 クックッと笑うギンから視線を逸らし、恋次はふと門を見つめた。閉じてはいるが、それはあくまで今の話だ。先刻まではしっかりと開いていた。それもこれも全て、現世から訪れた侵入者のお陰だ。そして恋次は、彼等の目的を不鮮明にではあるが知っている。
 ギンのしたことは、一概に言えば正しいのかもしれない。一概と言っても恋次が、というわけではなく、この世界が、ということだ。しかし、やはりその勝手な単独行動は許されたものではないし、おそらくあの侵入者達は死んではいないということを、恋次は知っている。確かにここは、明らかに閉鎖的である。しかし通常ならば閉鎖的な空間に生まれるはずの神聖な空気などというものは、尸魂界には一切ないと恋次は思っている。門の外の住人は、この血生臭さを本当の意味で理解していないからこそ、門の内に憧れを抱くことが出来るのだ。門の外の住人は、大抵門の内に訪れると、必ず一度は絶望を覚える。門の内ならば楽に息づくことが出来ると思っていたのに、いざ入ってみると、あまりの酸素の浅さに息苦しさを覚える。決して空気が薄いわけではないのだが、おそらくそれは中に住む住人達から発せられる霊圧のお陰だ。


「…で、阿散井クン、何しに来たん。」
「別に何も。…さっきの奴等、死んだんスか。」
「さァ、どうやろねえ。」
 ギンは分かって言っている。本当はあの者達が、死んではいないということを。恋次もそれは理解していたが、あえて皮肉めいた言い方で返してやった。
「あんまりホイホイ殺してると、イヅルが泣きますよ。」
「…阿散井クン、君何やカン違いしとるみたいやけど、イヅルはそないに弱い子やあらへんよ。」
 弱くないのではない。強くなった、というべきだ。近頃のイヅルは何者を殺めなければならないことがあろうとも、気丈に微笑んでいる。そしてそのままの表情で跪かせたかと思うと、一瞬悲愴感を見せてから首を刈るのだ。恋次はそんなイヅルを強くなったと認める反面、このままで良いのかと危ぶむ素振りも見せている。
「知ってますよそんくらい。」
「あァ、でもアレやなあ。」


「イヅルが泣くんは、嫌やなあ。」


 僅かに眉を緩め、切なげに歪むその表情は、明らかに悲痛だ。恋次はギンのそんな表情を見るのは初めてだったが、イヅルはいつもこんな表情を拝ませてもらっているのか。それならば庇護欲の強いイヅルが、この男に惹かれるのも無理はない。そう思うことにした。
「そろそろ帰るわ。」
 一瞬で面持ちを正し、足取りも軽やかに踵を返すギンを、恋次は神妙な顔で見送った。




 
 目に蒼い宵闇が夜風を誘い、またその夜風が木々を誘い、震わせる。煌々とした月が、朧に浮かぶ人影を嘲笑うかのように夜に共鳴していた。恋次と対面した、その日の夜のことだ。
 また、朝が来る。例えこの夜が幾ら人を脅かそうとも、必ずあと数時間ほどすれば、空が明るむ。そう思うと可笑しくなり、夜空に浮かぶ月に嘲笑を返してやった。最も、昼であれば昼で、人をその熱の裏に嚥下しながらも、すぐに闇に侵食されてしまう太陽を同じように嘲ってやっているのだが。とかくギンは、月や太陽の持つ魔力といったものを信用しない。それに縋る者の気持ちも分からなくはないが、ギンには、非現実的なものをまるでそれが義務であるかのように否定するくせがついてしまっている。
 ただ、そのような絵空事に対して、縋り付いてみたいと思う心もなきにしもあらず。なぜならば今、現実的に物事を考えたとするならば、自分の願いなど叶うことはないと嫌でも理解出来るからだ。
「…イヅルが泣くんは、嫌やなあ。」
寝巻き用の着流しに着替えながら、自室でもう一度呟く。隊主会での一件も終わり、ギンの行動についても不問となった。それはそれで良かったはずなのに、ギンはどこか妙な気分だった。いっそ何かになじってほしいような、そんな気分だったのだ。



「失礼します。市丸隊長はおられますか?」
 襖の外から、落ち着いた声が聞こえる。ギンは、それが誰なのか声を聞いただけで理解した。元々人の顔や名前をなかなか覚えないことで有名な男だが、その声だけはおそらく一生、何があろうと忘れることはない。
「ええよ、おいで。」
 すすすと、美しい作法で襖を開ける音が聞こえる。相変わらず、どんな間柄になろうともこういったことに抜かりはない。そんなところが可愛らしく、そして憎らしくもあるのだが。
 着替えを済ませていなかったギンを見て、イヅルが「仰って下されば宜しかったのに」と文句を言ったが、ギンは動じない。仕方なしにそのまま腰を落ち着けると、そのまま目の前で丁度ギンは着替えを済ませた。
「…旅禍に、刀を向けたそうですね。」
「そうやけど。それがどないしたん?」
「…別に、どうとも。」
「何やのイヅルも阿散井クンも別に別にて。何かあるから来たんやろ?」
 澄ました顔で、イヅルが目を伏せる。ギンはそれを訝しげに見つめるが、イヅルはそのまま顔を上げようとはしない。たまらずギンが無理に顔を上げさせると、おもむろに口を開いた。
「…あなたが、もしかしたら誰かに責めて欲しいのではないかと、思いまして…。」
 どうせ僕には、そんなこと出来ませんけど。と言うイヅルに、ギンは瞠目する。イヅルはいつも言う。ギンは本当は優しい人間なのだと。ギンはそれに対して嘲笑を隠せなかったが、ここまで自分を理解してくれるのも悪くはないと思うことにした。
「まさか。」
「あの者達は死んではいませんでした。しかし、あなたが本当に殺したくなかったのは、あの者達ではないのでしょう?迎撃を激しくすれば、必ず向こうの流魂街に被害が出ます。―…あなたは、自分の故郷とも言える場所を、失うのが恐ろしかったのではないのですか。」
 ギンも流魂街の出身だが、流魂街の住人はギンのような死神を毛嫌いしている。自分が好かれるような性格でないことは分かっていたので、住人達にどう思われようと、どうなろうと知ったことではなかった。しかしあの町並みだけは、失いたくなかった。自分の還る場所はどこにもないのだと、暗に言われているような気がしてならなかったのだ。ギンのいた場所は更にひどかったが。
「―…いいんですよ。そんなに必死になって生きる場所など探されなくとも。三番隊が、あなたの家でしょう?あなたは三番隊の隊主であり、隊主とは隊の父とも同じこと。それならば、必然的に三番隊はあなたの還る場所になるではありませんか。」
 声が震えた。ギンは驚愕した顔を見せたが、すぐに眉をひそめ、イヅルの身体をひしと抱いた。イヅルは目を見開いたが、暫くすると穏やかな面持ちになり、背中に腕を回して身を委ねた。その腕に、ギンは微笑む。


「―…ご免な。」


 霞む声が、静かに響く。結局は自分のしたことは全て偽りで、自分の言うことは全て偽りであるのだ。しかしこの言葉だけは、偽りとして処理されることのないように、と切に願った。


《完》


【おまけ】

「なァイヅル、ボクが三番隊の父親いうことは、イヅルが三番隊の母親いうことやないの?」
「なっ…僕はそういうつもりで言ったわけではありませんよ!」
「(聞いてない)イヅルがもう心の準備しとってくれたやなんてボク感激やわあ。こないなこともあろうかと日頃からコレ懐忍ばせとった甲斐があったわ。(ゴソゴソ)」
「ちょっ…何勝手に婚姻届とか貰って来てるんですか!?」
「照れんでええって。そんでな、コレもちゃんと買うて来たで。」
「うわあ綺麗な指輪v…じゃなくて!!何で僕の指のサイズとか知ってるんですか!!」
「檜佐木クンちょーっと脅したら嫌々答えてくれたわーvv」
「ハァ!?先輩も何で僕の指のサイズとか知ってるんですか!!」

~居酒屋~
「ホントはなー、オレがなー、誕生日とかにアイツより先にやろうと思って阿近さんヅテでこっそり調べてやったのになーって聞いてんのか阿散井ィィィ!!」
「聞いてますよ!つうかアンタそろそろやめとけよ!」




 
 頑張った割りにとんでもないものが出来上がりました。しかもおまけで更に台無し☆(コラ)ホラやっぱお父さんという単語が出てきたからには…って!(汗)
 ギンイヅで恋イヅ友情なので修イヅをどうしても入れたいとは言っておりましたが、まさかこんなところで出すとは…!
 9巻読み返して市丸さん登場して、次の話との合間のページに恋次らしき人影がいるのを今更見つけまして、「おお!」と思い書いてみることにしたのでした。しかし市丸さんが現世組を殺さなかった理由は既に明らかになっているのに、市丸さんに夢見すぎなお陰でこんなものを…!(泣)

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