人間が反対と摩擦から解放されてしまった時に
それはレールの上に油を塗って滑らした機関車のように、
上向することはできないで下向(げこう)するばかりである。
抵抗と摩擦とによって人間は自己をみがき上昇し向上する。
カントは鳩(はと)の例をあげている。
鳩は空気の抵抗によってその速力を減ぜしめられ、その飛翔を困難ならしめられる。
だから、もし空気の抵抗がなかったならば、
鳩は尚(なお)一層快速に、尚一そう容易に飛翔し得るだろうとも思えるが、
空気をぬいて真空のところを飛翔せしめて見るならば、
忽(たちま)ち鳩は飛ぶことができないで落下することは間違いはないのであると。
『 生長の家 』 誌 昭和二十四年七月号
「 困難の受け方に就いて 」 五日の法語 谷口雅春先生