桐野夏生『だから荒野』




 46歳の専業主婦が自分勝手で思いやりのない夫と二人の息子に愛想を尽かして家出する。何となくストーリーが読めるようでパスしてきましたが結構面白かったです。初期の頃の毒は薄れて、別の女性作家の作品と言われても分からないかもしれませんが、人間描写、世間の冷たさがリアルで、色々読む中で主題にノレない作品もありますが、三分の一まで楽しめると後は一気です。

 確か作者もファンと公言していたアメリカのアン・タイラーを想起させる日常からのちょっとした逸脱と冒険。モヤモヤした違和感や理不尽が積もり積もって限界を超える。目の前のうんざりが混沌とする中で家族が抱える本題へと迫真する展開も桐野夏生らしいです。

 自分勝手で無神経な自分に自戒を込めて。茹るような暑さの中での通勤には時間を忘れさせてくれる夢中になれる小説が必要です。その点でも快心作です。


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