4月27日(火)12時、参議院議員会館前でデジタル監視6法案に反対する国会前行動に参加した(主催:戦争させない・9条壊すな総がかり行動実行委員会、共謀罪NO!実行委員会、デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク、デジタル関連法案反対連絡会、NO!デジタル庁、参加:130人)。この集会への参加は3月31日、4月13日に続き3度目だ。
じつは、わたしは3月半ばころまでデジタル法案の問題や危険性をほとんどわかっていなかった。「デジタル庁」という名前に惑わされ、てっきり縦割り組織で世間より遅れている官公庁の事務作業デジタル化を促進する法案かと思っていた。しかし3月半ば、ある勉強会でこの法案には市民の情報民主主義(情報主権)という側面が完全に欠如し、さらに日本政府のセキュリティ水準は低いという話を聞き、どうやら社会全体に影響を及ぼす怪しい法案のようだとうすうす気づいた。しかも菅政権は6月の会期末ではなくもっと早くこの法案を成立させようとしていることも知り、驚いた。
それで3月末の集会に出てみたのだった。
福島みずほ議員(3月31日)
すると福島みずほ議員(社民・参)から「まさに国民監視の法で、デジタル庁は内閣直属の特殊な役所で総理の目となり、耳となる」、近藤昭一議員(立民・衆)から「6本どころでなく、じつは64本もの法律を一括審議しようとする束ね法で、各自治体の個人情報保護など2000本の条例を無視するものだ」とか、本村伸子議員(共産・衆)から「母体となる内閣官房IT総合戦略室は300人の人員のうち非常勤が130人、うち120人以上が民間の人間でLINE、ヤフー、ヤフーの親会社Zホールディングス、ソフトバンクの社員も含まれる。給料も民間会社支払いのほうが多く、一部の営利企業のための役所をつくってよいのか。また個人情報の利活用を旗印にしているが、これまでも住宅金融支援機構が住友信託の住信SBIネット銀行に118万人分のデータを売り渡した「実績」があり、その対価や単価も秘密のままだ」、高良鉄美議員(沖縄の風・参)から「監視は、主権者が国に対して行うもので、こんな形で国民を縛るものではない」といった衝撃的な発言が続いた。また大江京子弁護士(デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク)の「なぜこんなに急ぐのか。コロナのどさくさに紛れ菅の看板政策を実現しようとしているのではないか」という発言も腑に落ちた。
その後、あれよあれよという間に4月2日内閣委員会通過、6日本会議で成立してしまった(ただし「地方公共団体情報システムの標準化法案」のみ総務委員会の扱いで4月15日委員会採決、16日本会議成立)。審議時間はたった27時間だった。論戦は参議院の場に移り14日の本会議で趣旨説明があった。
柚木道義議員(4月13日)
4月13日の国会前行動では、宜野湾市役所で10年以上システム設計に携わった体験をもつ伊波洋一議員(沖縄の風・参)が個人情報を保護し権利を守る仕組みを着実につくるべきだと語った。「消費者問題に関する特別委員会」にも所属する柚木(ゆのき)道義議員(立民・衆)は「デジタルといえば、なんでも便利になってよい、というものではない。デジタル問題3法案として、このデジタル監視法以外に、業者(たとえばメルカリ、ヤフー、アマゾンなど)の責任をたんなる努力義務にするプラットフォーム新法、紙の契約書をなくしサギ被害の証拠が残らなくなる特定商取引法改正案も審議中」とアピールした。福島みずほ議員(社民・参)は「中央官庁と自治体の仕様が共通化するので、従来より個人データを容易に取り出せるようになる。個人の同意なしで、しかも行政の長は目的外使用もできる。一方、個人情報保護委員会がすべての情報をチェックできるわけではないのでチェックの仕組みがないといっても過言ではない」と危険性を指摘した。
海渡雄一弁護士(デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク)は「デジタル庁は怪しい役所だ。昨年10月段階ではトップは担当大臣あるいは長官だった。それがいまは総理になっている。内部に部も課もないアメーバのような組織になっている。そしてトップの下の担当大臣は他の省庁に「勧告」できる(デジタル)独裁型の組織だ。戦前の内務省の復活を想起させる」とコワい話をした。
ちょうど朝日の世論調査(4月10、11日に電話で実施)でデジタル庁に「期待する 44」「期待しない 45」と拮抗する結果が出たばかりだった。
ただ、この法案について、わたしには問題点の全容がわからなかったのだが、この集会でよい資料をもらった。
「プライバシーが丸裸、国が個人情報を一元管理するデジタル監視法案はいらない」という2つ折りリーフは、法案の問題点を5つに整理しておりわかりやい。5つのタイトルを列挙すると「私たちの個人情報を国が一元管理」「個人の情報はマイナンバーで管理」「警察に情報が利用されたら大変!」「私たちの情報が企業の金儲けに利用!?」「自治体を国の出先機関化、地方自治が危ない」である(制作は共謀罪NO!実行委員会、NO!デジタル庁、日本国民救援会の3団体 このサイトでみることができる)。十数部いただき、小さな集会で配布した。
大門実紀史議員
元に戻り27日の国会前行動を報告する。大門実紀史議員(共産・参)から、企業が市民を監視し消費行動へ誘導する監視資本主義、わたしたちがわたしたちの情報を管理するデジタル民主主義という新たなキーワードが紹介された。福島みずほ議員(社民・参)から「デジタル監視法は、昨年成立したスーパーシティ法の政府版だ。スーパーシティは首長と業者が住民の関与なしに先端都市をつくるものだが、こちらは政府や自治体のもと個人情報を民間業者に利活用という名で売り渡すシステムだ。マイナンバー関係の契約がほとんど随意契約だったように、こちらも多くの「利権」を生み出す」と指摘した。柚木道義議員(立民・衆)は「盗聴法(通信傍受法 1999年成立)には、警察が通信会社に出向き、第三者の立ち会いのもとで盗聴するという歯止めがあったのに、いつのまにか警察署の内部で盗聴できるように変わっていた。政府が「デジタル」と名付けるものはうさんくさい。個人情報ダダ洩れで政府に悪用されないよう、しっかりチェックし歯止めをかけよう」と訴えた。
その他、主催団体の方から「自分の情報はだれのものでもなく、自分のものだ。情報提供は、必要があれば自分でする」とのスピーチがあった。もっともな話である。日本の個人情報保護法では、スマホに残る位置情報やキャッシュレスで買い物をしたデータは個人情報とはみなされないそうだ。自分がどこからどこへ移動したか、いつ何を買ったかが企業や官庁に知られたり、勝手に利活用されたりしていい気持ちがしないのは当然である。
またこの日、委員会採決されようとしているRCEP協定に反対し座り込みを続けている農民連(農民運動全国連合会)の方が「いまも食料自給率37.5%と低いのに、衆議院参考人の試算で5629億円も生産額が減少することが明らかになった。デジタル監視法案廃案とRCEPストップ、ともにがんばろう」とアピールした。
講師の原田富弘さん
引き続き午後、衆議院第二議員会館地下で院内集会が開催された。この日の講師は原田富弘さん(共通番号いらないネット)、マイナンバーの問題点に詳しい方だ。タイトルは「デジタル法案衆議院審議の検証」。
内閣委員会で審議された法案は、デジタル社会形成基本法、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律、デジタル庁設置法、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律、預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律の5つ。総務委員会で地方公共団体情報システム標準化法が審議された。
デジタル社会形成基本法は20年前に成立したIT基本法を廃止し全面改正するものだ。「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」は個人情報保護法、マイナンバー法など60本に近い現行法を一部修正したり大幅に追加したりするもの。デジタル監視法案説明資料に45か所もの誤りがあったことが話題になったが、大部分はこの法案関係だった。全国の自治体の個人情報保護条例を「いったんリセット」する条文もこの整備法にある。しかも一本化するにあたり、厳しい基準に合わせるのではなく、ゆるい国の基準に合わせようとするものだ。
6本それぞれ、どんな論点が議会で問題になり、どのように平井担当大臣や政府参考人が答弁したかを解説する内容だった。監視社会、デジタル庁、個人情報保護関連3法の一本化、自己情報コントロール権、匿名加工情報、預貯金口座への付番、個人情報保護委員会の監督権、「デジタルの利用は国民・事業者の義務か」など個々の論点の質疑紹介と解説があった。
たとえば「監視社会」について「国会議員や幹部官僚の情報収集(盗聴、メール情報等)はやっていないか」と野党議員が質問すると首相は「法令にのっとって適正に情報収集はやっているが、法令に載らないことはやらない」と答える。内閣情報調査室から総理へのレクに個人情報はあるか」と聞くと「個人情報保護法8条に基づく情報で、関係法令にのっとって適正に行われている」と答える。しかしさらに突っ込みどんな法令か問うと「事柄の性質上、お答えすべきではない」とあいまいになる、などだった。28本もの附帯決議が付くくらいなので、問題点は多岐にわたる(なお附帯決議に法的効力はない)。
さらに国会では質疑がなかったが、問題だというものにも言及された。たとえば地方公共団体情報システム機構(J-LIS)は地方共同法人だったので住基ネットが国民総背番号制でないことのひとつの論拠とされたが、今回の「整備法」(57条)で「国及び地方公共団体が共同して運営する組織」と「国」が入るよう変更されたため、国機関化する。
わたしにとっては初めてみる条文で、公的基礎情報データベース(ベース・デジストリ)、データの標準化、Gov-Cloud(ガバメントクラウド)といった専門用語も出てくるし、質疑も何とか斜め読みしたところへ、それに対する講師のコメントだったので話の筋に追いついていくだけで精一杯だった。
しかも1時間あまりという時間的制約があり、かなりの駆け足で、講師の方も大変だったと思う。逆にいえばやはり衆議院での審議が不十分だったことが明らかになったともいえる。詳しいことを知りたい方はこのサイトで動画を見られる。
参議院では4月14日(水)本会議で趣旨説明、20日(火)、22日(木)、27日(火)に内閣委員会(27日午前は内閣・総務連合審査会)で審議された。次回は連休明けの5月6日(木)に参考人を招致して審議される。その次の10日(月)に委員会採決、11日本会議ともウワサされる。
2015年の安全保障関連法(戦争法)も18年の働き方改革関連法も束ね法だった。
いま見つかっている論点はすべて明らかにすべきだし、いまはまだ隠れている問題も多くありそうだ。今後一般市民にも大きな影響を及ぼすことは確実なので、法案の性急な成立はなんとしても阻止し、ぜひ慎重審議、逐条審議させるべきだ。
2017年6月に強行採決された共謀罪(改正組織的犯罪処罰法)のときには全国的に反対運動が盛り上がったが、このデジタル監視法もそれに劣らず危険な法だと思う。共謀罪はすでに成立し、これにデジタル監視が加われば、政府(とりわけ内閣)のやりたい放題になる。
「市民のプライバシー、個人情報を侵害するデジタル監視6法案の制定に反対します」という団体署名が5月4日(火・祝)締切りで集められている(このサイトからメールで送ることもできる)。
その他、9年の歴史をもつ「秘密法と共謀罪に反対する愛知の会」の会員から活動報告があった。
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