The Wind That Shakes the Barley (2006)
英国の社会派監督ケン・ローチによる、アイルランド独立戦争とその後の内戦をテーマにしたドラマ。2006年カンヌ最高賞受賞作で、しかも私の専門(ウイスキーですが・・)アイルランド物、その上マイお気に入り登録済みのキリアン・マーフィー主演ですから。そして映画館が満員で3度も映画館へ通ってやっと座れたという盛況ぶりに、期待度500%で見た待望作。そして期待し過ぎて肩透かしくらったかも...しかし私は、何を期待していたのだろう?流れる感動の涙?ドラマティックな愛と友情の物語?今思えば、この映画の前に、そんな陳腐な期待など無駄な事。
←ダミアン(キリアン・マーフィー)。
ごく簡単にストーリー説明。英国の圧政下に置かれていた20世紀初頭のアイルランド、コークの田舎町に住むダミアン(キリアン・マーフィー)は、医者を志す聡明な青年でしたが、友人を悪名高き英国治安部隊「ブラック&タン」に目の前で殺され、アイルランド独立を目指すアイルランド義勇軍に参加します。そこにはすでに彼の兄テディ(パトリック・デラーニィ)が参加していました。義勇軍は力で制圧しようとする英国側と、血で血を洗うような報復をくり返します。その後、アイルランドと英国は休戦、条約を結び、「自治領」の権利を得るのですが、完全な独立では無く、その条約に満足しない人々は「リパブリカン:アイルランド共和軍(つまりIRAね)」として、条約を受け入れた「ナショナリスト:国民主義者」を英国の手先とみなし、アイルランドは内戦状態に。ダミアンはアイルランド共和軍、テディは国民主義者として兄弟同士で戦う悲惨な運命に・・・
←敵と味方に分かれてしまった兄弟ダミアン(左:キリアン・マーフィー)と兄テディ(パトリック・デラーニィ)。
ケン・ローチはこの映画でも極力ムダが無く、草の根の人々がいかに時代の波に飲まれて行くかを描きます。淡々と。余りに淡々としすぎていて、ドキュメンタリーを見ているような。印象が強烈では無いというのは、ストーリーが想定内であったことも理由の一つでしょう。しかしだからといって退屈だった訳では無く、このままダミアンたちはどうなって行くんだろう、最後はどうなるんだろうと考えてながら見てしまいました。
クライマックスはもちろんテディが敵であるダミアンを○○しなければならないシーンですが、非常に冷静に見てしまいました。私非常に涙もろいので本当なら滂沱の涙のはずなんですげど。でもこの場面、キリアンの表情はさすがに上手いです。唯一泣いてしまったのはダミアンが幼馴染みを処刑する場面。キリアンの押さえた演技が反ってリアルで胸を打ちます。とにかく全俳優演技相当押さえぎみです。キリアン以外に印象に残ったのは、ダン役のリアム・カニンガム。アイルランドでは中堅のTV俳優とのことですが、非常に迫力が有ります。特に映画中盤のアイルランド裁判所でのシーン、相手を圧倒する迫力は凄い。カニンガムの迫力あってこそ、この映画にめりはりついたと思うのですが・・・
←ダン(リアム・カニンガム)。
この映画、英国では酷評されましたが、それも当然でしょう、誰も自分達の過去の残虐行為なんて見たく無いです。ただしこの映画での英国治安部隊「ブラック&タン」の行為に誇張は有りません。(ニール・ジョーダン監督「マイケル・コリンズ」では少々あったんですけど。そこがアイリッシュ監督と英国監督の違いなのかな?)まぁ自分の国が他の国の人にした残虐行為は見るのは辛いですね。私も中国映画とかでそういうシーンは、辛いですから。しかしこの映画は、ちゃんとダミアンたちアイルランド共和軍の行為も描きます。戦争とはいえ、まだ少年の密告者や、やはりどう見ても少年の国軍兵士を殺す。どちらも同じということを、この監督は冷静に見せているのですがね。
アイルランド共和軍(IRA)は今でこそただの人殺しの集まりですが、最初はこの映画のように国民の側にたち、支持される立派なレジスタンスでした。その後の内戦で同胞同士殺しあう事になり、今に至っていることは皆さん御存じでしょう。現在はカソリックとプロテスタント宗教対立の感が有りますが、元はこの映画で描かれているアイルランドの完全独立を目標にしていた訳です。この映画でも重要になって来るイギリス・アイルランド条約(1921)、共和軍側は全く問題外だと一蹴しますが、冷静に見ても超大国の英国から取り付けるにはあれが限界なのでは?自治を得て、また段階を踏んで独立して行けばいいじゃないの?なんて思ってしまいますが、700年の辛~い屈辱の歴史からすれば論外なのでしょうね。ちなみに映画のなかで、ダミアンたちが牢獄で合唱するのは現在のアイルランド国歌。このころ国民に歌い次がれて来たこの曲をその後国歌にした訳です。歌詞はかなり英国人には怖い内容ですって。たしか「敵(英国軍)の死体を乗り越えて、行け行け」みたいな。アイルランドでパブに行くと、お店が終わりの時国歌が流れて、全員起立&合唱です。。
この映画、歴史的な知識が無くても、内戦に巻き込まれ、敵と味方に分かれてしまった兄弟の辛い運命にいろいろ考えさせられることは間違い有りません。この現代にも繋がる重いテーマを、一切の装飾とムダを省いた直球で、見る人に問題提起しています。なぜ今このテーマなのか、それもローチ監督は考えて作成したのに違い無いと思うのですが。その押さえた表現の裏に隠された問題提起を感じ取ったからこそ、カンヌ・パルムドール賞に輝いたのだと思います。そして間違い無くアイルランド近代史を学ぶ人々にとっては必見の1本ですね・・・
PS:題のリールとジグはアイリッシュ・トラッドのスタイルです。
←この映画のプレミアのキリアン・マーフィー。この人いつも眠そう。草食だからか?
英国の社会派監督ケン・ローチによる、アイルランド独立戦争とその後の内戦をテーマにしたドラマ。2006年カンヌ最高賞受賞作で、しかも私の専門(ウイスキーですが・・)アイルランド物、その上マイお気に入り登録済みのキリアン・マーフィー主演ですから。そして映画館が満員で3度も映画館へ通ってやっと座れたという盛況ぶりに、期待度500%で見た待望作。そして期待し過ぎて肩透かしくらったかも...しかし私は、何を期待していたのだろう?流れる感動の涙?ドラマティックな愛と友情の物語?今思えば、この映画の前に、そんな陳腐な期待など無駄な事。
←ダミアン(キリアン・マーフィー)。
ごく簡単にストーリー説明。英国の圧政下に置かれていた20世紀初頭のアイルランド、コークの田舎町に住むダミアン(キリアン・マーフィー)は、医者を志す聡明な青年でしたが、友人を悪名高き英国治安部隊「ブラック&タン」に目の前で殺され、アイルランド独立を目指すアイルランド義勇軍に参加します。そこにはすでに彼の兄テディ(パトリック・デラーニィ)が参加していました。義勇軍は力で制圧しようとする英国側と、血で血を洗うような報復をくり返します。その後、アイルランドと英国は休戦、条約を結び、「自治領」の権利を得るのですが、完全な独立では無く、その条約に満足しない人々は「リパブリカン:アイルランド共和軍(つまりIRAね)」として、条約を受け入れた「ナショナリスト:国民主義者」を英国の手先とみなし、アイルランドは内戦状態に。ダミアンはアイルランド共和軍、テディは国民主義者として兄弟同士で戦う悲惨な運命に・・・
←敵と味方に分かれてしまった兄弟ダミアン(左:キリアン・マーフィー)と兄テディ(パトリック・デラーニィ)。
ケン・ローチはこの映画でも極力ムダが無く、草の根の人々がいかに時代の波に飲まれて行くかを描きます。淡々と。余りに淡々としすぎていて、ドキュメンタリーを見ているような。印象が強烈では無いというのは、ストーリーが想定内であったことも理由の一つでしょう。しかしだからといって退屈だった訳では無く、このままダミアンたちはどうなって行くんだろう、最後はどうなるんだろうと考えてながら見てしまいました。
クライマックスはもちろんテディが敵であるダミアンを○○しなければならないシーンですが、非常に冷静に見てしまいました。私非常に涙もろいので本当なら滂沱の涙のはずなんですげど。でもこの場面、キリアンの表情はさすがに上手いです。唯一泣いてしまったのはダミアンが幼馴染みを処刑する場面。キリアンの押さえた演技が反ってリアルで胸を打ちます。とにかく全俳優演技相当押さえぎみです。キリアン以外に印象に残ったのは、ダン役のリアム・カニンガム。アイルランドでは中堅のTV俳優とのことですが、非常に迫力が有ります。特に映画中盤のアイルランド裁判所でのシーン、相手を圧倒する迫力は凄い。カニンガムの迫力あってこそ、この映画にめりはりついたと思うのですが・・・
←ダン(リアム・カニンガム)。
この映画、英国では酷評されましたが、それも当然でしょう、誰も自分達の過去の残虐行為なんて見たく無いです。ただしこの映画での英国治安部隊「ブラック&タン」の行為に誇張は有りません。(ニール・ジョーダン監督「マイケル・コリンズ」では少々あったんですけど。そこがアイリッシュ監督と英国監督の違いなのかな?)まぁ自分の国が他の国の人にした残虐行為は見るのは辛いですね。私も中国映画とかでそういうシーンは、辛いですから。しかしこの映画は、ちゃんとダミアンたちアイルランド共和軍の行為も描きます。戦争とはいえ、まだ少年の密告者や、やはりどう見ても少年の国軍兵士を殺す。どちらも同じということを、この監督は冷静に見せているのですがね。
アイルランド共和軍(IRA)は今でこそただの人殺しの集まりですが、最初はこの映画のように国民の側にたち、支持される立派なレジスタンスでした。その後の内戦で同胞同士殺しあう事になり、今に至っていることは皆さん御存じでしょう。現在はカソリックとプロテスタント宗教対立の感が有りますが、元はこの映画で描かれているアイルランドの完全独立を目標にしていた訳です。この映画でも重要になって来るイギリス・アイルランド条約(1921)、共和軍側は全く問題外だと一蹴しますが、冷静に見ても超大国の英国から取り付けるにはあれが限界なのでは?自治を得て、また段階を踏んで独立して行けばいいじゃないの?なんて思ってしまいますが、700年の辛~い屈辱の歴史からすれば論外なのでしょうね。ちなみに映画のなかで、ダミアンたちが牢獄で合唱するのは現在のアイルランド国歌。このころ国民に歌い次がれて来たこの曲をその後国歌にした訳です。歌詞はかなり英国人には怖い内容ですって。たしか「敵(英国軍)の死体を乗り越えて、行け行け」みたいな。アイルランドでパブに行くと、お店が終わりの時国歌が流れて、全員起立&合唱です。。
この映画、歴史的な知識が無くても、内戦に巻き込まれ、敵と味方に分かれてしまった兄弟の辛い運命にいろいろ考えさせられることは間違い有りません。この現代にも繋がる重いテーマを、一切の装飾とムダを省いた直球で、見る人に問題提起しています。なぜ今このテーマなのか、それもローチ監督は考えて作成したのに違い無いと思うのですが。その押さえた表現の裏に隠された問題提起を感じ取ったからこそ、カンヌ・パルムドール賞に輝いたのだと思います。そして間違い無くアイルランド近代史を学ぶ人々にとっては必見の1本ですね・・・
PS:題のリールとジグはアイリッシュ・トラッドのスタイルです。
←この映画のプレミアのキリアン・マーフィー。この人いつも眠そう。草食だからか?
こんにちは!
なるほど!キリアンは草食だから、心ここにあらずの顔をいつもしているのですね(笑)なんだか納得~!
IRAに関する知識が乏しかった私は、付け焼刃的にちょっぴり本を読んだり映画を観たりして自分なりに下地をつくってこの映画に臨みましたが、その文献を再現しただけのように思えてしまいました。
多分、きっと、その歴史的事実以上のモノ(感動?)を期待しすぎていたのでしょうね。いつかまたこの作品が見たくなる日が来たら、まっさらな気持ちで臨みたいと思います。
アイルランド映画は興味を持ちながらも、まだ少ししか見ることが出来ていません。どうぞご指導くださいませー。
わたしのアイルランドの知識は、映画を何本か観た程度で不充分なせいか、
母親目線が強いせいか、
政治的なことよりも、本来なら平和に暮らせていたはずの男たちなのに、
闘わずにはいられない人たちの心情を想像してしまい、
どのシーンも心が痛くなる場面ばかりでした。
キリアン・マーフィー、巧いですね。
『プルートで朝食を』も、ホントに巧くて可愛くて、
昨年は全く違うタイプの2本を観て、今まで以上にお気に入りになりました。
リーアム・カミンガムも数本しか観てないけれど、どれも眼力が強くて、印象に残っています。
今後益々、アイルランド作品を観る機会が増えたらいいですね。
色んな国の映画を見て“日本・日本人の描写が変だ”と思うくせに、映画の中の他国のことは“映画で見たような国や人”と思いがちですよね。 というか、違っていても知りようがない。
そういう点では、ケン・ローチ監督の作品には“信頼度が高い”との印象を持っています。
>この監督は冷静に見せている
>一切の装飾とムダを省いた直球で、見る人に問題提起しています
監督自身の考えや“正しい行為”を主張するのではなく、公平に描いたものを見せて、観客に何かを感じ・考えてもらいたい。という作品だと、哀生龍も感じました。
>その歴史的事実以上のモノ(感動?)を期待しすぎていた
この映画、期待するなといわれても、期待しちゃいますよね、カンヌ最高賞ですしね。
>その文献を再現しただけのように思えてしまいました。
そうなんです、結局「アイルランド近代史を学ぶのに最適の一本」なんてコメントがつけてしまうのです。だからといって、ドキュメンタリーだっていい作品はありますし。キリアンの演技が見れただけでいいや・・・なんて今は思っていますが・・・
>どうぞご指導くださいませー。
たぶんご指導できるほど見てません(涙)・・とくに近年のは。もしよろしければアマゾンのリストマニアでアイルランド映画リストを作成していますので、ご覧いただけたらと思います。
「リストマニア アイルランド エメラルドの迷宮」
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89-%E3%82%A8%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%89%E3%81%AE%E8%BF%B7%E5%AE%AE/lm/R3PN1RUBD94K8Y/ref=cm_lm_pdp_title_full/503-0385904-5983925
さちさんにスペイン映画のご指導して欲しいです~またお邪魔してご相談いたしますので、よろしくお願いいたします!
>政治的なことよりも、本来なら平和に暮らせていたはずの男たちなのに、
私が思うには、基本のテーマは政情によって否応無くデッドエンドに向かってしまった普通の人々の物語なのかな・・・この作品は現代おこっている紛争問題も同じなんだ、って言いたいのだろうな、と思います。
>『プルートで朝食を』も、ホントに巧くて可愛くて、
『プルートで朝食を』見てないのですが、DVD買うつもりです!どちらかというと無愛想&不気味キリアンのファンなので、どんなんかいな?!とわくわくしてます。
リーアム・カミンガムももっと映画にでてもいい、存在感ある俳優ですね。
>ケン・ローチ監督の作品には“信頼度が高い”との印象を持っています。
実際にあったことを表現するのは、やり過ぎず、やり無さ過ぎず、注意深く、という意識が感じられました。特にそう思ったのは、シニードが髪を切られるシーン。もっと酷い展開を予想していましたが、髪を切られたのみでした。「ありゃ髪の毛切られただけ?」なんて一瞬思った私は、映画の中での過激な表現に麻痺してしまっているのですね。しかし実際にはあんなことされたら十分怖いことだし、それがかえって現実味を増していたんですよね。
それでは今年もよろしくお願いいたします!
弊ブログへのトラックバック、ありがとうございました。
こちらからはトラックバックが入らない様ですのでコメントのみ失礼致します。
この作品は、争いの激しい時代を舞台に、個人の絆と社会との繋がりを重く力強く描いた内容であり、出演者の皆さんの好演が特に印象深い一本でありました。
また遊びに来させて頂きます。
今後共、よろしくお願い致します。
ではまた。
「マイケル・コリンズ」とか「父の祈りを」とかいった映画と比べてみるのも一興ではないかと思った映画でした。
主人公が「こんなことをやって何になる」という意味の言葉をつぶやくシーンがありましたが、まさに「何になるのか」と疑問を持つような行為を続けなければいけないところが、まさに戦争なのだろうと思い、暗然とした気分になったものです。
それでは、今後ともよろしくお願いします。
たろさまのレビューにもある通り、群像としての映画ですね。それぞれが持っている持ち味をいかしつつも、相乗効果で全体の質を上げている感がありました。
たろさんのブログには初めてお邪魔いたしましたが、コメントに悠雅さんやアイマックさんのお名前を見つけて、みんなつながっているんだな~って思いました・・・
それでは、また改めて伺わせていただきますので、よろしくお願いいたします。
HNが印象的ですね!
副会長さんと同じく、私もローチ監督はもっと早くカンヌ最高賞をとってもよかったのでは、と思います。決してこの映画は彼の最高作品ではないとは感じていますが。
>「マイケル・コリンズ」とか「父の祈りを」
2つともアイルランド&アイリッシュVS英国人のコアな部分を知るためには必見な映画ですね。特に「マイケル・コリンズ」は、この映画の時代と重なっていますし、「マイケル・コリンズ」が歴史上の人物の伝記、「麦」が一般の人をテーマにした、という点でいい組み合わせですね。
それでは、また伺わせていただきますので、よろしくお願いいたします!