さて今回の事の始まりは飯山市がここ10年間続けてきた「皿川樋門開きっぱなし対応」を今回の台風19号でも「何の問題意識ももたずに」「従来通り」行った事によります。
千曲川本堤防の高さより皿川堤防の高さが低い事は周知の事であり、その値も地図で調べれば右岸で1.7m、左岸で2.0mほどにもなるという事はすぐにわかる事であります。
したがって、「皿川樋門を開いたままで台風の襲来を待つ」などという判断が出てくることがそもそも「おかしな事」、「常識はずれの事」なのです。
その事に気が付かずに「ただこの10年間はそうやってきて大丈夫だったから」というだけの理由で「今回もそうした」のでした。
しかし台風19号による千曲川の水位上昇はこの10年間にはなかったほどであり、そのために皿川にはバックウオーター現象が発生し、左岸、右岸共に越水、氾濫を引き起こしました。
そうして2時間後には右岸堤防の弱い部分を破壊し決壊に至ったのです。
この時点で皿川樋門は開いていましたから千曲川の逆流が始まったものと思われ、ほぼ無尽蔵の千曲川の泥水が決壊場所を通って飯山市内へと流れだしました。
そうしてこのような状態は13日の夕刻まで、皿川の水位が決壊場所の高さよりも低くなるまで続いた事になります。
そうでありますから、樋門操作の基本通りに「所定の水位に達したら皿川樋門は閉めて排水ポンプ車で排水を行う」というのが正しいやり方なのです。
その基本を無視し続けた飯山市のやり方のツケを台風19号が回収していきました。
それも「市役所から回収するだけ」なら分かりますが「飯山市内に暮らす住民からも回収していった」のです。
さてこのような事の次第でありましたが、「アドバイザーの立場にあった河川事務所」は飯山市の今回の水防計画「皿川樋門は開きっぱなしで水防の重点は今井川、広井川に置く」という方針に異議を唱えなかった模様です。(注1)
そうして飯山市が立てた計画に従って排水ポンプ車を「事前配置」させました。
その基本的な立場は「各自体の要請によって排水ポンプ車を出動させるのが河川事務所の仕事」としているからです。
このように「飯山市が立てたダメな計画」については河川事務所は「参考意見は言った」かもしれませんが、最終決定権は飯山市にありました。
それゆえにまた「今回の事態の最終責任もまた飯山市にある事になる」のです。
さてここでまた話は変わりますが、河川事務所は排水ポンプ車の出動については「自治体の要請に従う」と主張するのですが、自分が管理・操作担当になっている樋門については「これは当方の責任で開閉を行う」としています。
それゆえに今回河川事務所が主張している様な事態、「飯山市との事前合意を無視した形で樋門を閉める事もありうる」という事が起こり得るのです。
しかもその場合に「樋門操作と排水ポンプ車の出動については河川事務所は一体運用はしない」と言い切っていますから、「樋門は閉めたけれど後はどうなっても知らないよ」という「とんでもない事態も起こりうる事」になります。(注2)
そしてこれが現状のやり方がもつ大きな問題点となっています。
さてそのようにして「皿川樋門の開閉については河川事務所の責任」と言い切るものですから、「皿川樋門が開いたままで皿川が氾濫し決壊した」という事が公になりますと、当然ながら「なぜ樋門を閉めなかったのだ」と責め立てられるのは河川事務所という事になります。
「いや飯山市の立てた今回の水防計画に従ったまでだ」というのが事実であったとしても、その様な言い訳は通用しないでしょう。
その様に河川事務所はとらえたものと思われます。
それでまずは「10 月 17 日午後 4 時現在 第一報」として
『 13日 2:00 頃 皿川樋門(国管理、委託管理者から2:00 に閉鎖したとの報告があり)』
と公表しました。
(ちなみに後のやり取りから「報告を受けたのは国、河川事務所であり飯山市ではない」という事になっています。)(追記)
そうしてそれに引き続いて第二報では
「10 月 28 日(月)午前 10 時現在」
『13日 2:00頃 皿川樋門閉鎖(国管理、操作員から 1:44 に閉鎖したとの報告があり)』
と時間を微修正してきました。
しかしながら、いずれの報告においても「飯山市がいつ河川事務所から皿川樋門を閉めたという連絡を受けたのか」についての情報は公開されていませんし、現時点においても不明のままです。
そうして後日
・皿川の水門閉鎖、国交省が飯山市に通知せず 30分後越水し中心部浸水
http://archive.md/jBxn9
↑
このような報告が11月21日に河川事務所から信濃毎日新聞に出される事となりました。
さてそれで問題は
「なぜ40日も後になって」
「わざわざ言う必要が無いと思われる」
「自分たちが犯したミスについて」
「公表しなくてはならなかったのか?」
という事になります。
黙っていれば誰もそんな事には気が付かず、それでおしまいになったであろう事を、わざわざ世間に向けて公表しなくてはならない理由は何か?という事です。
「河川事務所は誠実な組織であり、どんな些細なミスでも公開するのだ」という意見は残念ながら即時却下されます。
どのような組織であれ、その様な態度を組織側に求める事は「世間知らず」と言うものでありましょう。
そうなりますとどこからか圧力がかかった、河川事務所に不利になるような情報の公開をせまる勢力が存在した、という事になりそうです。
そうして実際、この新聞の記事によって河川事務所は非難される事になり、他方で圧力をかけた勢力は思惑通りめでたくその陰に隠れる事ができた模様です。
以下「飯山市報告 第二報」より引用。
『3:15 千曲川河川事務所より「立ヶ花で12mを超える水位となり、越水が各所で発生している。
これからピークが飯山へ向かうので、飯山市でも最高水位に備えるよう」連絡が入る。』
2時15分に「皿川があふれている」の連絡を住民の方から受けた飯山市はその連絡に驚きます。(注3)
「氾濫などするはずがない皿川があふれた?」
「なぜだ??」
という訳です。
そうして飯山市の混乱はここから始まりました。
それは又今回の水防計画の大前提が崩れ去った瞬間でもありました。
その混乱の中、3時15分に河川事務所から電話が入ります。
その時に飯山市は河川事務所に「氾濫するはずのない皿川が氾濫した事」を伝えたでありましょう。
それでいろいろな会話がかわされ、その結論として
『3:30 皿川へ排水ポンプ車の配備を千曲川河川事務所へ要請。』
という事になりました。
皿川が氾濫しているのにポンプ車をそこに向かわせなかった、という事では後からの説明・言い訳がたちませんから、そうする以外に方法はなかったのでした。
そうして上記の「第一報」「第二報」の「1時44分に皿川樋門は閉めた」という河川事務所の報告につながります。
しかしながら情報公開請求で明らかになった様に「通常は樋門をしめたら、樋門操作員は飯山市役所と周辺区長にその旨を連絡する事」になっていました。(注3)
さてそうであれば「飯山市は1時44分過ぎには皿川樋門は閉められた事」を知っていた事になります。
そうなりますと今度は飯山市がその様な連絡を受け取りながら3時30分まで河川事務所に対して「皿川に排水ポンプ車を出動させてくれ」と依頼していなかった事になります。
そうなりますと「飯山市は2時間近くの間、一体何をしていたのだ?」と今度は飯山市の対応に批難が集まる事になります。
そうなる事をいやがった飯山市が河川事務所に対して「皿川樋門を閉じた事の連絡は飯山市にはしなかったことにしてくれ」と、そのように要求したのかもしれません。
さて河川事務所はそのような要求があったとしてもそれを拒むことはしなかった模様です。
なんとなれば「閉じてはいない皿川樋門を閉じた事にしてくれ」と最初に飯山市に要求したのは河川事務所だったのではないか、というのが理由として挙げられます。
何故その様に思うのかといいますと、あの台風19号を迎えるに当たり「樋門を開けっ放しで対応して、皿川を氾濫させ決壊させた」などという事が公になる事は河川事務所としては到底認める事は出来ないものであろうと推察するからであります。
あるいは同じように飯山市としても「そのようなおかしな水防計画を立ててそれを実行した挙句に皿川を氾濫させ決壊させた」という様な事は知られたくはなかったことでしょう。
こうして両者の利害関係が一致したものと思われます。
飯山市としても「樋門が開いていて皿川が氾濫し、決壊した」と公表するよりも「皿川樋門は閉められた」と公表する方が都合がよかったのではないかと思われます。(注4)
まあそういう訳で後日
・皿川の水門閉鎖、国交省が飯山市に通知せず 30分後越水し中心部浸水
http://archive.md/jBxn9
という記事の公開につながったのではなかろうかと、その様に推察している次第であります。
以上が「序論」において述べた、当方の推察する所による「密室の中で行われたであろう、この奇妙なお話の全体像」となります。
そうしてこの奇妙な話を「そうであろうなあ」と受け取るか「いいやそんなことはない」と受け取るかは賢明なる読者諸氏に任されている、という事をここで再確認しておきたいと思います。
追伸
繰り返しになりますが、「それでは何時飯山市は樋門を閉じたという連絡を河川事務所から受けたのか?」については口を閉ざして公表していません。
しかしながら情報公開請求にこたえて出された河川事務所の資料によれば「樋門を閉じた後すぐに樋門操作員は飯山市にその旨、連絡をした」と報告されているのです。(注3)(追記)
追伸2
こうして飯山市の混乱は住民の方からの第一報で始まりました。
そうしてその混乱の中で「千曲川の水位が危険な状態になっている事」は注意を引かず、忘れ去られていったのでした。
追伸3
以上、見てきたことから分かります事は、「飯山市は細心の注意を払って事実のみを報告している」という事であります。
しかし報告されている事実は「自分にとって都合の良い事実のみ」であり「都合の悪い事実は報告してはいない」のです。
従ってそれは「報告内容にウソはない」というレベルでしかなく、隠ぺいしている情報は多くあり、そのために事実の全体像は隠されたままであって、それゆえに「今回の水害についての説明責任を飯山市はほとんどはたしていない」という事になるのであります。
注1
「その8」参照。
注2
「その10」参照。
注3
「その11」参照。
注4
皿川で今回発生した「バックウオーター現象」については13日の早朝時点では飯山市もそれを認識していました。
そうして以下の様な報告を県にしていました。
飯山市の当初の見解は
「氾濫の原因はバックウオーター現象による逆流の発生」
でした。
↑
県の対策会議本部報告資料「元年10月13日(日)08時:00分現在」
https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/documents/dai4.pdf
(全41ページ中31ページに記載あり。)
今回の氾濫の原因が「バックウオーター現象によるもの」という表明は、そのまま「皿川樋門は開いていた」と言っている事と同じです。
何故ならば樋門が閉じられている場合は「バックウオーター現象による」とは表現しないからです。
樋門が開いており、しかしながら「バックウオーター現象による逆流の発生」により氾濫が発生したとこの時は飯山市は県にその様に伝えているのでした。
それがいつのまにか「皿川樋門を閉めたのが氾濫の原因」とされるようになりました。
そしてそれは多分河川事務所の思惑とも一致していたものと思われます。
追記:2021/6/11:樋門操作員が樋門を閉めた後、飯山市役所に2時頃に連絡をいれた、という事実は市議会での市役所の答弁でも明らかになっています。この件、内容詳細については次の記事を参照願います。: ・参考資料の2 :
追記の2:2021/9:上記の記事内容と関連する記事は以下になります。