copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
一本線だ。
それも、蜘蛛の糸並みの細さだ、
きっと、カンダタが、用意してくれたに違いない。
よく見ると、線は2本張られていた。
カンダタが、自分の経験を生かして、
一本では、心許ないと思い、
複線にしてくれたのだろう。
タイタイの奴は、空を飛んでいるので、
私の、この恐怖感など微塵も感じないのか、
無視したように、すいすいと手を上下させながら、
見えなくなってしまった。
私は、一本線は苦手だ。
こういう時は、サヤカに頼りきってしまう。
自分を、消し去るような気持で、
サヤカに、身を委ねてしまうのだ。
下は絶対見ない。
真正面を見据えて、無我の境地に入る。
酒の酔いも手伝って、頭は、空っぽに近い。
途中一回道を踏み外した。
くるりと回転して目眩がしたが、
サヤカが、鮮やかに空を飛んで、
元の道に戻してくれた。
「サヤカ、頼むぞ」
「オッさん、大丈夫よ。安心してね。
アクセルはいっぱい回していてね。先程は、ありがとう」
スピードが上がる。
「うん、オレ、君の裸の姿、誰にも見せたくなかった」
「ありがとう。私も鬼の目などに見られなくて助かったわ。
人の姿に戻ると、急には、衣服着られないのよ」
「知ってるよ。太平洋で、泳いだだろ。
あの時の事を、思い出したんだ」
「ああ、よく憶えていてくれたわね」
「あんな事、忘れるもんか!」
「あの時は、無神経で、ごめんなさい」
「いいよ、もう済んだことだから」
これは、彼女が謝ることかどうか、分からない。
ずっと、昔に太平洋を見に、
ツーリングに出掛けた時、泥道ばかり通ったので、
彼女は、汚れてしまった。
その時のことを言っているのだ。
彼女は、私という中年のオッさん男が居るのを無視して、
パッと裸の人間の姿に戻ったかと思うと、
そのまま太平洋に飛び込んで、泳いだのだ。
私は、見てはならないものを見てしまったので、
目のやり場に、困ってしまった。
目の前で、あっという間に裸になったので、
面食らってしまったのだ。
その時のことを、サヤカの刑の執行の時、
思い出したので、私の怒りが、沸騰してしまったのだ。
チーコちゃんが、妻のOさんの5~6才の頃の子なら、
サヤカは、Oさんの16~7才の頃の姿に、
そっくりなのだ。
チーコちゃんの方は、私が頼んで、
むりやり化けてもらっているのだが、
サヤカの方は、何故、似ているのか、
私にはわからない。
しかしながら、そんな事は、どうでもいいのだ。
Oさんが、時を超えた存在であるという事の方が、
重要なのだ。
いろんなOさんに、会える楽しみがあるからである。
サヤカと話しながら進んでいると、
前方に、金色に輝く世界が見えてきた。
あれは、天国に違いない。
つづく