ぴてのひとりごと

法務や福岡ソフトバンクホークスの話題など、徒然なるままに書き込んでいるブログです。

企業価値と株価

2005-09-28 00:16:26 | 法務

 金融法務事情の1749号に「買収防衛策と「企業価値」の意義」という非常に興味深い記事が掲載されていました。企業価値とは究極的に株主利益に還元されるのか、それとも企業価値を判断するに当たり他のステークホルダーの利益も独立して考慮できるのか、という文脈で検討されていることが多いと思います。しかし、本稿はもう少し別の角度から検討しています。簡単に言うと、

「買収防衛の場面では買収と無関係な一般株主の利益にとって、企業価値は無関係であり(少なくとも「重要ではなく」)、株価こそが重要な場面がある。」(金融法務事情No.1749 P82 大塚和成)

ということになります。確かに、ニレコがセキュリティプランを導入しようがしまいが、ニレコの将来のフリーキャッシュフローが変化するわけではなく(*1)、その意味では企業価値に変化はありません。ニレコのセキュリティプランは、ニレコ株式の流動性を阻害することにより株式そのものの価値を毀損することに問題があったわけで、そういう観点からすると企業価値と株価が一致しないという指摘は確かに納得できるものがあります。

(*1)敵対的買収防衛策を導入することにより、会社が常時「For Sale」の状態でなくなることに起因する効果については、議論の単純化のために無視してください。

 しかし、続いて筆者は「取締役は、(中略)株主に対し、直接、株価に関する義務を負うと解される。」と結論づけていますが、かならずしもこの部分の論理は明確ではありません。というのは、取締役は原則として会社に対して善管注意義務を負っているのであり、個々の株主に対して義務を負っているのではないからです。ニレコ事件は、基本的にはセキュリティプランそのものは企業価値に中立(少なくとも平時においては)だったから不公正発行として差止めの対象になったのだと思いますが、企業価値と株価が対立するような場面ではどちらが優先すべきなのか非常に難しい問題であろうと思います。筆者自身、「かかる直接の義務の具体的内容がいかなるものであるのかは、問題提起の域を出ていない」と述べています。

 よくよく考えると、一般的に会社が獲得するキャッシュフローと無関係に株主に不利益が生じた場合の取締役の責任の判断基準そのものがよく分からないですね。条文としては、商法266条ノ3の解釈問題だと思いますが、どのような場合に「職務ヲ行フニ付悪意又ハ重大ナル過失アリタルトキ」に該当するのかは、どう判断すればよいのでしょうか。


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