フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

再会

2005年09月18日 01時16分02秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
オレの足が大分治りかけてきた高二の初夏。
足の骨を固定していた金具を取る手術をするために、オレは再び、病院に入院した。

そーいや、チビハルナはどうしただろう。
結局オレは「先生になって」と言うヤツの希望をシカトして、そのまま退院してしまった。

自分のことで精一杯だった。

「退院したら、見舞いにでも行くか」

それよりも、明日の手術のことで頭はいっぱいだった。

手術はあっけないくらい無事に終った。
オレの長かった治療生活もこれで終った。

手術が終って、家に帰る日がきた。
オフクロが「ハルナちゃんが来てくれたわよ」と、笑いながら病室に入ってきた。

「お!チビハルナ?」

オフクロに続いて入ってきた女の子を見てオレは目を疑った。

オフクロと同じ位の背丈。
腰まで伸びた栗色のさらさらの髪。
白いノースリーブのワンピースに白い手足がすんなりと伸びた肢体。

キレイと言うよりはむしろ可愛らしい感じのする女の子が遠慮がちにオフクロと一緒に病室に入ってきた。


まさか……。
オレは言葉を失った。

「かずにぃ……」

聞き覚えのある声に、はっとなった。

「お久し振りです。あの、……大丈夫?」
「…………」
「ほら!かず!!聞かれてるでしょう。何、黙ってるの?」

オレは、このオフクロの言葉に気付かないくらい、目線がハルナに釘付けになってしまっていた。


オフクロは退院の身支度をしながら、オレを軽く睨み付けた。
「ハルナちゃんね。2週間程、うちで預かることにしたから、仲良くするのよ」




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愛なんて知らない

2005年09月17日 01時35分16秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
今、こうしてオレが医者の道を歩んでいるのもこの先生のお蔭だ。

「出来事には必ず必然がある」

その通りだった。


足を故障してからのオレは随分すさんでいた。
思うように進まないリハビリ。
オレがいなくても順調に勝ち進むバスケチーム。
それらのことがオレを苛立たせた。

オレはバスケの優勝戦を松葉杖をつきながら観に行った。
取るか取られるかのシーソーゲームだったが、最後に僅差で俺達が勝った。
嬉しそうに喜び合うチームに「おめでとう」と、観客席から賛辞を送りながらもやるせなさが残った。

ベンチを去ろうとした時、隣りに座っていた女が、駆け寄ってきた。

「ねぇ!あんた、すんごいカッコいいよね。良かったら今度遊んでよ」

女はそう言うなり、ボールペンでオレの杖のカバーにケーバンを書き始めた。

「今日は、これからカレシとデートだから遊べないけど、来週だったらオッケーだよ」

どうでもいい人生に、どうでもいい女……その頃のオレにはお誂え向きだった。

オレは生まれて初めて女を抱いた。
いや、正確には抱かれた。
好きでもない、どうでもいい女に。

女は「渋谷にいいラブホがあるんだ」と、アッケラカンと言った。
「そこね。ベッドのスプリングが結構ツボなんだ」
まるで大したことをする訳じゃないから来いと言わんばかりに、オレの腕をグイグイ引っ張っていった。

オレは、部屋に入るなり、杖をどけ、ベッドに体を投げ出すと、「勝手に動けよ」と言った。
どうせこの足じゃ、動けない。
女は盛りのついたメス猫みたいにオレの上で、勝手に動き、果てた。
大した事じゃないと思った。
女は満足し、オレはスカッとする。
SEXなんてそれだけだ。
単なるスポーツだ。

それから、何人も何人も女を抱いた。
どの女の顔も今は覚えていない。
愛なんて知らなかった。




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ロマネ・コンティ

2005年09月17日 00時30分42秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
「かんぱーい」と、つられてグラスを持ち上げながら、オレは尋ねた。
「で、何の?」

すると、矢部先生は、少し赤くなった顔を益々赤くさせながら、白状した。

「いや、実は結婚することになってな」
「え!息子さんが?!」

先生はオレの頭をゴツン!と殴った。

「いってぇーーー!冗談だよ!何も、グーで殴ることないだろぉ!!」
「お前は私が独身ってこと知ってて言うからだ!!」

それからオレ達はワインのアルコールの力も手伝って大いにはしゃいだ。

「で、いつ結婚するんですか?」

オレは先生のグラスにワインを注ぎながら聞いた。

「んー。実はもうしちゃったんだよ。入籍だけの、ジミ婚ってやつさ」
「はっえー。で、相手はどんな人?いつ、出会ったの?」

オレが矢継ぎ早に尋ねると、先生は照れながらも、節目がちに答えた。

「私の中学時代の初恋の人さ。彼女の旦那さんが、癌でこの病院に入院してきて、それで再会したんだよ。旦那の方は私が小さい頃から良く知っている幼馴染でね
この病院に来た時は既に末期癌だった。彼は、亡くなる間際に、彼女と子供達のことを頼むと私に言い残して亡くなったんだよ」

「知らなかった」

オレはポツリと言った。

「実は、このRomanee Contiの1978年は彼女が前の旦那さんと結婚した年なんだ」
「えっ!?」

オレはワインをまじまじと見つめた。

「彼女とヤツが育ててきた大切な時間のリレーを今度は私が引き受けていきたいと思ってね。よーっく、噛み締めて飲んでみるつもりだよ」
「の、割にはピッチが早いじゃないですか」

オレが、冷やかすと、ヤブのヤツクスリと笑った。

「まぁ、多少のヤキモチくらいは入ってるかもしれないね」

ロマネ・コンティを半分も飲まないうちに先生は酔って机に突っ伏して寝てしまった。
「おーい。センセー、風邪引くぞぉ」

先生は、世界一幸せそうな顔で熟睡していた。

オレは隣室にある宿直室から、ブランケットを持ち出し、先生に掛けた。

「幸せになれよ。ヤブ」

それから、オレは残ったロマネ・コンティをヤブの寝顔をエサにチビチビ飲んだ。




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ワイン

2005年09月15日 21時29分25秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
次の朝、大学の講義が終ると、オレは一目散に大学付属の総合病院に向かった。

「かず先生、こんにちはー!」
「おー!こんにちは!!ちゃんと、宿題やったかな?」
「やってなーーい!!!」
「……おーい」

チビハルナのことがきっかけで始めた週1回の小児病棟での先生は結局、今も続けていた。

「先生が教えに来ると、看護師さん達の見学が増えるんだよね。もてるねぇ先生!嬉しいでしょう」

最近、ナマイキ盛りの篤史が言った。

「たった一人の女から振り向いてもらえれば、それでいいよ」
「えー、つまんないじゃん。そんなの!」
「お前にもいつか分かるよ」

子供達と一緒に勉強をして帰ろうとすると、看護士のかなえさんが、くすくす笑いながら声を掛けてきた。

「あ!かずと先生、矢部先生がお呼びでしたよ」
「何?何、笑ってんのさ?」
「矢部先生ったら、余程、あなたのこと気に入ってるのね。来ることが分かったら必ずお呼びになるんですもの」
「はは。孫みたいに思ってるのかもね」
「まぁ!先生はそこまでお年寄りじゃないから、聞いたらお怒りになるわよ」

かなえさんは、ぷっと噴き出して笑った。

矢部先生の研究室は、棟の真ん中に位置するエレベーターを降りて直ぐ右隣にある。
日当たりも絶好の昼寝ポイントだ。
今日もきっとヤブ、いや、矢部先生は「研究中」を理由に昼寝しているはずだ。
その証拠に、この日もオレが扉をノックしても、中から返事が無かった。

「失礼しま~す」
オレはいつものように乱暴に扉を開けると、矢部先生が扉の横から「わっ!」と飛び出して来た。
「わぁ!!」
オレはびっくりして飛び上がった。

「矢部先生、止めて下さいよぉ」
「んー。君のリアクションを楽しみたくてね」
「で、オレを呼んだ用事は何でしょうか?」

オレは半ば呆れつつ、テーブルの上に鞄を放り投げた。

「そう、むくれなさんな。昨日、ちょっと美味しいワインを手に入れてね。君と一緒に飲もうかなと思って呼んだのさ」

矢部先生は嬉しそうに腹を叩くと、ワインをテーブルに置いた。

「 Romanee Conti 1978って、先生!これ!100万円は下らないんじゃ……。オレ、飲めません」
「まぁ、飲みなさい」

先生は栓を開けてコルクに染み付いた匂いを嗅ぐと、グラスに注ぎ始めた。

「高価なワインほど独りで飲むのは虚しいもんさ。」
先生は、嬉しそうに「かんばーい」と、グラスを持ち上げた。



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葛藤

2005年09月15日 02時24分32秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
なんで、オレがお前の先生に?!
口をアングリしていると遠くから声が聞こえて来た。

「おーい。かず坊!ビール買って来たけど飲むかい?」

リョーコの声で眠りから覚めた。
オレはいつの間にかベッドの上で熟睡してしまっていたらしい。

「あー。飲むよ。サンキュ……」
まだ、眠気が抜けきらないまま、ベッドからよろけながら立ち上がった。

「顔色悪いよ?大丈夫??飲む前に、食べた方が良くない?」
リョーコは心配そうにオレの顔を覗き込んだ。
「いや、いい。それより、飲みたい」
「いいけどさ。まぁ、なんかあったら、私を始め医者の卵が沢山いるから、安心してね♪」
「……免許取ったヤツを用意してくれ」
オレは力なく応えた。

リョーコは缶ビールの蓋を開け、「ん!」と言って、ビールを差し出した。

「あのさ。言いたくなったら言わなくてもいいんだけどさぁ。ハルナちゃんと何かあった?」
「……」
「ハルナちゃん、泣いた目をしてたから気になって」
「……抱いた」
「え?」
「抱いたんだ」
「え?!遂にヤッちゃったの?!」
「いや、正確には未遂だけど」
「そーだったんだ。それで、か」

リョーコは、くいっとビールを飲むと、ずばりと切り込んできた。

「無理矢理だったんでしょー」
「…………」

オレは無言で頷いた。


「で、これからどうするの?」
「分からない。でも、今日のような状況になれば、オレはきっとあいつを抱いてしまうかもしれない。だけど、あいつはまだ子供だから待つべきなのかもしれないと、分かっているんだけど……」
「そうかなぁ」

リョーコは首を傾げた。

「女がセックスを拒む理由は3つあると思うのよ。まず、1つには、かず坊のことが生理的に嫌いな場合。この理由はまず考えられないけどね。それから次に、彼女のかず坊に対する愛情が熟していない時ね。この可能性が高いかもね。そして、最後に、3つ目。こっちの方が厄介なんだけど……、他に好きな男がいる場合……かな?」

リョーコの分析を聞いてオレは血の気が引くのを感じた。

ハルナに、オレの他に好きな男がいる
ハルナがそいつとキスをし、そいつに抱かれる。
そう考えただけで、血が逆流しそうだ。


出来れば、お互いの合意の上で求め合って幸せなSEXがしたい。
でも、ハルナの胸の中に「トオル」と言うやつが棲んでいるとしたら、オレは無理矢理犯してでも、ハルナを奪ってしまうかもしれない。

オレは自分の中に巣食う醜い獣に慄き、心の中で何度も葛藤していた。




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チビ

2005年09月15日 00時01分03秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
オレが北尾と話していると、「ハルナちゃーーん!どこなの?」と、大声を上げながら、探している声が方々から聞こえた。

「え?!ハルナ??」

オレは、その聞き覚えのある名前に反応した。
すると、ベンチの後ろがガサガサと揺れ、オレ達のベンチの裏から、小さな小学生位の女の子が出て来た。
オレと目が合うと、「しーっ」と、人差し指を立てた。

「お前、まさかハルナって言うのか?」

オレが聞いても応えない。
その代わり、「私ね。お兄ちゃんのこと、知ってるよ。だってね、看護師さん達が外科にすんごくかっこいい男の子が入院してきたって騒いでたもん」と、オレを指差して言った。

「そりゃ、どうも」
「よっちゃんほどじゃないけどね」
「誰?よっちゃん?」
「ハルナのボーイフレンド!」
「マセガキ!で、どうしてお前は、隠れているんだ?」
「お前じゃないよ。ハ・ル・ナ!!」
「分かった。じゃ、ちびハルナはどうして、ここにいて、どうして皆が探しているんだ?」
「ちびハルナじゃなくて、ハルナ!!」
「分かったよ。で、何で隠れる必要があるんだよ」
「だってね、これからお勉強の時間なんだけど、ホームの先生は、ハルナのこと、バカバカ言って、その上、すんごく嫌味なの。だから、受けたくなくて『ぼいこっと』したの」
「はは。ボイコットか。でも、受けなきゃ、一生、バカのまんまだぜ?」

オレがからかうと北尾が肩を叩いた。

「まぁまぁ。オコチャマ相手にマジになんなよ」
「おこちゃまじゃないよ!!」

ちびハルナは北尾を睨みつけた。

「それに、ハルナ、バカでもないもっ!!教える先生が悪いんだよ」
オレに対しても自慢気に反論した。

それから、くるりとオレの方を向くと、鼻をフフンと鳴らした。
「お兄ちゃん、学年一番で頭がいいんでしょ?聞いたよ、さっき。だから、ハルナ達の先生にしてあげる!!」

これが俺とチビとの最初の出会いだった。




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焦燥

2005年09月14日 23時23分29秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
オレの病室は1週間も経たないうちに花で埋め尽くされた。
毎日、バスケのマネージャーや、クラスの女や、隣りのクラスの女や、知らない女が見舞いに花を持って来たからだ。

その上、看護師様たちがやれ検温だ、やれ体調はいかがと日に何人と入れ替わり立ち代わりやってくる(誰だよ。オレの担当は!?)。
だから、ヤブ……矢部先生が、「んー。そろそろ松葉杖で歩いてもいいだろう」と、言ってくれた時は、心底助かったと思った。


オレは久し振りに、外に出てベンチに腰を下ろした。
木の隙間から風が流れてきて心地いい。


昨日監督と電話で話した。
「チームは順調に勝ち続けているよ。だから、お前は治療に専念しろ」

きっと、オレがいなくてもチームは優勝するだろう。
安堵する反面、自分の不甲斐無さに対する怒りも込み上げてきた。

オレは入院してから何度も同じ夢を見ていた。
バスケの試合に出ている夢だ。
ドリブルをしながら、敵をかわし、一気にリング目掛けてシュートしようとした。
ところが、リングが見つからない。
途方に暮れたオレは、気付くと切り立った岩に立っていて、今にも、谷底へまっ逆さまに落ちそうだった。
そんな夢だった。

毎日、落ち込んで行くオレを見て、ヤブが言った。
「君は態度もでかいし、口も悪いが、繊細だ。そんな君には今回の事故は確かに予想外の出来事で堪えただろうが、これは不幸ではないよ。君次第で幸運へと変える事も出来るんだよ」
「幸運??それはあり得ないだろう」

オレは冷笑した。

「まぁ。今は信じなくてもいい。でも、出来事には必ず必然がある。君がここへ入院したのも何か訳があるんだよ」

「何の訳があるんだよ!」

オレは拳に満身の力を込めてベンチを叩いた。

「何が訳だって?」

懐かしい声にふと顔を上げた。
声の主は北尾だった。

「結構、元気そうじゃん。安心したよ。ほれ、先生から預かってきたぜ」
茶封筒の中身を開けると、成績表やら、宿題やらがたんまりと入っていた。
余計なモン、持って来やがって。
オレは北尾が持ってきた書類をベンチの上に放った。

「ありがたくないな」
「それを言うなら、『有り難う』だろ。ったく。今回の期末の成績も学年1位と言い、ホント、やなヤツだぜ、お前って」

口を尖らせながら、どっかりと北尾はオレの隣に腰を下ろした。



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ヤブ医者

2005年09月13日 20時34分33秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
関節脱臼骨折。

オレは生まれて初めて聞くその病名に「ふーん」と首を傾げた。

「で、センセ。治るまでにどれ位かかんの?」

オレは足を前に投げ出すと、椅子に踏ん反り返りながら聞いた。

「うーん。ほら見てご覧」

先生はさっき撮ったレントゲン写真を板に差し込むと、背後のライトを点けた。

「見事に割けてるからねぇ。骨が……」

先生は目を細めてしみじみと写真を眺めていた。
50歳にはなろうかと思われる、そのヤブもとい、先生は、てっぷりとした腹をさすりながら「そうだなぁ……」と、勿体ぶるかのようになかなか答えようとしない。

……ボケてんじゃねぇのか?

苛立っているオレは、食って掛かった。

「で、いつ治るんだよ!」
「4ヶ月位かなぁ」
「冗談だろ!?こっちは1ヵ月後に試合があるんだよ!!」

オレはヤブ、もとい先生に立ち上がって掴みかかった。

その瞬間、ダーンと音を立てて床にすっ転んだ。

「いってぇーーーーーーー!!」
骨折した足だと言うことを忘れて急激に立ち上がったのがまずかった。

ヤブは、てっぷりとした腹を叩くとウムウムと頷いた。
「んー。今ので全治6ヶ月かなぁ」
「もっと早く治せよ!ヤブ!!」

オレは痛みを堪えながら、床の上に這いつくばり叫んだ。

「んー。それは難しいね。あ、言い忘れたけど、手術するからね、明日」
「手術?!ちゃんと説明しろ!ヤブ!!」
「全身麻酔だから大丈夫。痛くないよ。続きは君が落ち着いたらね。とりあえず、入院手続の説明を受けて下さいねぇ」

ヤブはそれはそれは嬉しそうにニヤリとほくそ笑んだ。



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故障

2005年09月13日 06時12分44秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
特に好きで始めたバスケじゃなかった。
だが、気が付くとオレは高校に入ってからもバスケをやっていて、バスケの無い生活は考えられない程になっていた。



夏の大会に向けて、その日も朝から練習をしていた。
しかし、朝から妙に体がだるく、どんなに体を動かしてもノリが悪い。

今日はやばいかもしれない
嫌な予感がした。



予感は的中した。

練習中、オレは汗で滑り易くなっている床に足を取られて滑ってしまった。
しかも、運の悪いことにオレの足の上に勢いよく二人の大男が倒れこんできて、下敷きとなってしまった。

「大丈夫か!カズト!!」

チームメイト達が駆け寄ってきた。

足はジンジンするけど、不思議と痛みは無かった。

「大丈夫だ。でも捻挫したみたいだ」

オレは二人に抱えられるようにして、保健室へ行き、湿布をして貰った。

しかし、足の状態は段々悪化し、遂には腫れあがって来た。
普通じゃないことにここへ来てようやく気付き病院へ行った。


関節脱臼骨折


それが診断の結果だった。



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別れ

2005年09月11日 03時43分00秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
中学2年の冬。
オレと吉澤は付き合い始めた。

3回目のキスをした頃、オレは吉澤の家に誘われた。
大きな家だったが、誰もいない淋しい感じのする家だった。

「どうしたの?入って」

玄関でオレが躊躇していると、彼女に促された。

家には誰もいないことが直ぐに判った。

「やっぱ、帰るよ」

オレが帰ろうとすると、「帰んないで」と、吉澤は腕に巻きついて離そうとしなかった。

「だって、今、家に誰もいないんだろ?まずいよ」
「いいから上がって」

半ば強引に手を引っ張られ、オレは吉澤の家へあがった。

吉澤の部屋は、何にもない殺風景な部屋だった。
暫くの談笑の後、オレ達はキスを交わした。

「あのね。私、カズ君だったらいいよ……」

吉澤はオレに寄り掛かってきた。
オレは優しく吉澤の頭を撫でていた。

しかし、困ったことにバスケ三昧のオレは女の抱き方すら知らなかった。
この先、どーすりゃいいんだよぉと内心、冷や汗が出てきた。

「自分を大切にしろよ」
そう言ってその場は逃げるように家に帰った。

バスケの本の下に隠してそのテの本を必死で読み漁った。
実践経験は無くても、少しずつ自信をつけてきた頃、Hビデオの鑑賞をしてやるから来いと、当時、友達だった北尾から誘いを受けた。

想像以上にハードなビデオにオレは衝撃を受け、吐き気を催した。

「本当にこんなことするのか??」
オレは北尾に詰め寄った。

「まぁ、似たり寄ったり、こんなもんだな。で、誰とヤルのか白状しろよ」
北尾は煙草に火を点けながら笑った。

オレは正直に、「吉澤えり子」と答えた。
すると、北尾はさっと顔色が変わり、「あいつは止めとけ!」と、声を潜めた。

「なんでだよ」
自分のコイビトをこう言われてムカツかないやつなんていない。

「言いにくいんだけどさ。あいつ、昔、エンコーしてたって噂だぞ」
「エンコー??ってなんだよ」
「お前、ホント世情に疎過ぎ!ウリのことだよ」
「…………????」
「あーもー!!お前、マジでバスケ以外にも関心持てよ」
北尾は、呆れ顔で天を仰いだ。

「分かったよ。今度からそうするから。で、エンコーとかウリとかって何なんだよ」
オレは決して良い意味ではないことを察しながら尋ねた。
「つまり、どっかのオヤジに体売って金を貰うことだよ」

その言葉は、とてもショックだったように思う。
それが事実だとしたら、オレは彼女を許せないだろう……

オレはその夜、吉澤に電話した。
そして、直ぐに切り出した。

「お前さ、エンコーしてたって本当?」
「…………」
「単なる噂だよな」
「…………」

彼女の無言に堪えられずオレは電話口で叫んでいた。

「何とか言えよ!!」

それが精一杯だった。

「ごめんなさい……」

彼女は電話の向こうで泣きじゃくっていた。

オレは彼女の過去を許せるほど大人じゃなかった。
こうしてオレ達は終った。

風の便りに彼女がその後、進学した高校の同級生と同棲し、妊娠、出産したことを聞いた。
もう少しオレが大人だったら、もう少しオレが寛大だったら違う今があったのかもしれない。
時々、そう思うことがある。

楽しそうに笑いながらすれ違う親子を見る度に「淋しい」と良く言っていた吉澤を思い出す。

今は多分淋しくなんか無いだろう。

吉澤、幸せになれ!

人を……、ハルナを愛することを知った今だから、心からそう思える。



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