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好きな画家 その3~ノーマン・ロックウェル

2008年09月07日 | Monolog
しばらく前にちょっとロックウェルのことが話題になったことがありましたが、今回はそのロックウェルのことについて考えてみました。

今日、ロックウェルの画集を眺めていて、あらためて「いいなあ」と思いました。
ロックウェルってファインアートの画家なのかイラストレーターなのか曖昧なところがありますが、まあ作品が良ければどちらでもいいことですね。

で、どこがいいかっていうと、卓越したデッサン力とハイセンスな色彩感覚を基本にしたリアルな絵のタッチ、表情・しぐさの絶妙な捉え方、空気感、それにユーモアを忘れない心憎いばかりのシーンの切り取り方でしょうか。

そう「切り取り方」っていう方がしっくりきます。
本来は絵なので、構成力っていう方がいいのかもしれませんが、ロックウェルの場合、あたかも卓越した写真家のようにシーンを切り取っていますね。(実際に自分が描きたいシーンを想定して写真を撮り、それを元に絵を描くこともよくあったようです)

絵っていろんな形があり、必ずしも具体的な何かを表現しなければならないっていう訳じゃないのですが、ロックウェルは雑誌の表紙イラストをたくさん手がけたということもあり、見事なまでに具象画家であり、その絵にはストーリーがこめられています。

たいていはノスタルジックなアメリカの市民たちの微笑ましい暮らしのワンシーンが描かれており、そこには強烈なメッセージはありませんが、画家として名声を得た後、依頼によってではなく自らの使命感から描いた人権問題を扱ったメッセージ色の強い絵もあります。(それにすら絵としての芸術性が漂うところがロックウェルの偉大なところ)

ともあれ、レンブラントなどもそうですけど、登場人物のドラマチックな動き瞬間的に捉えたストーリー性の高い絵って、芸術云々を抜きにしても何か心惹かれますよね。
絵画性といより文学性の問題かな?

ちなみに数あるロックウェルの絵の中で私が最も好きな絵は「シャッフルトンの理髪店」。
絵画的観点で見ると、この光の扱いと空気感に震えが来るほど感動します。

ストーリー画としては、奥の部屋で繰り広げられている年老いた男たちの慎ましい演奏会の様子がとてもいいです。
ロックウェルはそれを半分だけを切り取って見せます。心憎いですね。
画面の大部分は閉店した薄暗い理髪店の様子ですからね。
何という大胆な画面構成でしょう。
しかもよく見ると、薄暗い理髪店の中に黒猫が一匹。ちょこんと座って演奏会を見ています。
年老いた男たちと行儀のいい黒猫。ささやかな演奏会とすべてを心得た観客。漂う詩情。

私は以前はカメラマンとしてTV番組やCMを長年撮ってきましたが、その目で見て思います。
ロックウェルの絵ってムービーの絵作りの匂いがします。
人物をどう配置し、どう動かし、光はどこから当て、カメラはどこに据える…。

ロックウェルの絵は、まさにそいういうカメラの目で捉えた世界です。
表面ばかり派手な大作ばかりを作る今のハリウッドには無い、かつての職人監督たちがワンシーンにこだわって作り上げた古き良きムービーの世界です。

通俗的かも知れませんが、でも、ホッとする画家。絵を見て良かったなあと安心する画家。それが私にとってのノーマン・ロックウェルです。

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