結婚式の準備。
私は事前に下見をしていたし、田舎のことだから会場などにそれほど多くの選択肢があるわけでもない。
するべきことは教会及び宴会場の正式予約。 招待客の確認。 座席も決める。お料理の確認。 日本でいうところの引き出物にあたる、アメちゃんの確認。 中国では、アメやチョコレートの入った小さな包みを用意し、お客さんに配る。 ひとりひとつと決まっているわけではなくて、多くの場合は偶数、ふたつかよっつ、帰りがけに手渡しする。 それから、衣装の手配。 メイクはどうするか。
これらのことを、お金の算段しながら決めていく。 私たちの場合、
の両親には頼れないし、頼るつもりも無い。 私の実家からは、少々の援助をオファーされていたけれど、
は自分の力でやっていきたいひと。 移動の多い人生でもあるし、いつもいつも自転車操業状態でやりくりしている。 いつどこで出て、何月何日に入ってくるのか、きっちり計算していないと動けなくなってしまう。
中国の結婚式って、大規模にやればやるだけ祝儀で黒字になると言うけれど、我が家の状況からして、一時的にでも金を突っ込むのは、ちょっと避けたかった。 黒字目当てで手広く営業するのもイヤラシイと思う。
だから、「結婚式は極力シンプルに! 親族への挨拶と世間に対する義理を果たすのが目的!」と割り切っていた(割り切らざるを得ない)。
教会はオプション無しのシンプルなもの。 宴会は食事が美味ければそれでいい。 ケーキカット不要。 招待客は親族のみ。 引き出物のアメちゃんは、義鳥マーケットで買う。これが、上海や北京で買う十分の一ほどの安さ大爆発。 衣装は、借りるよりも安い蘇州で買う。 メイクなんか自分でする。
それで十分だと心から思っていたし、そんなやっつけ仕事みたいな結婚式でも、準備しているうち、それなりに楽しみに思えてきた。
パパの誕生会の翌日、私たちは先ず、教会へ行った。
電話で仮予約はしてあったのだけれど、正式な申し込みをするためには、結婚証明証及び身分証明証の提示が必要、ということだった。 更に、本人及び両親の最終学歴も書かされる。 そしてその情報は然るべき機関に知らされ、記録に残される。 なんでかって、それは「教会などというものは、外国勢力の尖兵である」という天草四郎時代の思想が有効だから。 日本みたいに何でもアリにした挙句政治までイカレてるのを見ると、あながち的外れでもないか。
受付担当のひとは、「奥さんは日本人だから、親の情報までは要らないですよ」と言った。 私のしょぼい中国語力でも、確かに聞こえた。
なのに、なんでハナ子は「親の学歴」って項目を示して、私にペンを渡すのかしら。
私は知ってる。
ブンカク世代で、農村改革によって大学に行ったハナ子。 お勉強の得意な子供ではあったらしいけれど、彼女が選ばれた理由は、長子として生まれたから。 それだけ。
にもかかわらず、「大卒である」ということは、ハナ子の人生で唯一の誇らしいこと。
お勉強以外得意なことが何もなく、女として自信が無く。 経済的解放の時代には、学歴で劣るはずの弟妹たちに収入で負けてしまった。
歪んだプライドは山より高く、褒め称えられたい欲望は海より深いハナ子。
「私は大卒!」「私が大卒だから、息子たちも高学歴!」という呪文を、心の中で唱えること何千回何万回。
ハナ子、私は涙が出るよ。
ハナ子、私も高等教育は意義深いと思うけどさ、そんな心が歪んでしまうくらいなら、大学なんて行かない方がいいんだよ。
ハナ子、たとえ字が読めなくても計算が出来なくても、心優しい母のほうが敬われ愛されるんだよ。
一瞬にして頭の中に「ハナ子の詩」が浮かび上がってしまった私。
でもね、だからと言って。
ウチの実家の親を小ばかにするのはNGだよ?
私は親が大卒でないことに対して、特に何も思ってはいないけど。 でもハナ子の態度はいただけないな。
無視しちゃえ。
と、ハナ子。
私に無視されて寂しかったのか、結婚式申込書に目を落とし、何か勝手にマルをつけている。 確かアレはオプションリスト。
ビーッ、ビーッ、ビーッ・・・
夫に確認してもらう。
「かあちゃん! なにやってんだよ!」(←中国語)
何か言うハナ子。
どうしたの、と夫に訊くと
「教会式オプションの、一般信者参列・生バンド演奏・生花その他、全部マルつけてる・・・」
うーむ。
一般信者参列っていうのは、会場である教会に、常日頃から通ってらっしゃる信者さんたちに、結婚式に参加していただくこと。
私はいやだ、そういうの。
もしも自分自身が信者で、通っている教会にて挙式、とかだったらいいんだろうけど。
見知らぬ他人様を、親族縁者の何倍もたくさん参列させるってのはなー・・・
私;「花はいいけど、バンドと一般信者は要らないな。 ハナ子がゴネたら、バンドはちょっと高いけどいれていいよ。 でも信者は絶対イヤ。」
「俺もイヤ。」
夫、ハナ子に説明。
ハナ子、無言。
夫、オプションリストの新しいのを取って書き直す。
この日はこのように教会関係で時が過ぎ、夕刻、ハナ子&パパ、義弟&カノジョちゃんは、ハナ子実家へ移動。
私たちは誘われなかった。誘われても忙しくていけなかったし、そのへん理解されていたのだろう、と解釈していたんだけど。
夕飯は叔母ちゃん宅。
仲良し従弟、げんげん(大学生)の家でもある。
日付が変わる頃、パパとハナ子がホテルに帰還。
義弟カップルはハナ子実家から真っ直ぐ杭州に帰った。
翌日マーケットで引き出物を選び、その後、ナイナイ(父方祖母)のお墓参り。
パパはハナ子の圧力で参拝できず。
墓参り直前に、一足早く杭州へ帰ってしまった。 「パパの外せない用事のため」って言っていたけれど・・・
疑惑のまなざしを向ける私たちに、パパは
「今までで一番楽しいお誕生日でした。 息子2人と、弟妹とその家族、全員が集まってくれて。 ほんとうにありがとう。」
と、勿論日本語で言った。
ハナ子、ここで叫ぶ。
「日本語を使うなァ!!!」
早口の日本語で、「お墓参りは、ふたりに頼みましたよ。 本当に本当にありがとう。 またすぐ杭州で会いましょう。」
パパ、ご無事で。
私たちは、心から祈りつつ、走り去る車を目で追った・・・
夫、「涙でかすんで前が見えないよ」状態。
「パパはかわいそうだよね・・・」
お墓参りには従弟が同行してくれた。 この従弟は、美人従妹シェンのお兄ちゃん。
家業がお花屋さん(卸し)ということで、お墓に赤いサルビアをたくさん持っていく。
一緒にお参りして、ナイナイに「また来るからね」と声をかけて帰る。 こういうことってどこの国でも同じだ。 私も、母の田舎でお墓参りするときは、必ず言う。
お墓参りの後は、前日と同じ叔母さんの家でごはん。
昔話などして、昔の写真を見て、大いに盛り上がる。
翌日、いろいろ最終確認して、全て首尾よく整ったのを確認。
一番お世話になっている小叔叔(リンリンのお父さん)の家で、挨拶がてら昼食。
そこで、叔父さん、唐突に「ハナ子の実家に立ち寄るなら送っていくが」という。
確かに時間さえあれば寄りたいと思っていたけれど、想像以上に慌しく、外婆(母方祖母)のところに行っていなかった私たち。
夫が、前回妻(=私)が立ち寄っているし、すぐに結婚式で会うから今回はやめておく、と伝える。 既にそのように電話で伝えてあったし、叔父さんもとても忙しいので、送っていただくのは悪いなあ・・・と思ってのこと。 ハナ子実家はタクシーも無いど田舎なので、行くたびに誰かの手を煩わせなければならない。
叔父さんもそれ以上は勧めず、話題は別のことに移った。
それから私たちは、高速バスで杭州に向かった。
「花婿の、母。⑦」に続く
㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥
気が向いたらコメントお願いします。
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するべきことは教会及び宴会場の正式予約。 招待客の確認。 座席も決める。お料理の確認。 日本でいうところの引き出物にあたる、アメちゃんの確認。 中国では、アメやチョコレートの入った小さな包みを用意し、お客さんに配る。 ひとりひとつと決まっているわけではなくて、多くの場合は偶数、ふたつかよっつ、帰りがけに手渡しする。 それから、衣装の手配。 メイクはどうするか。
これらのことを、お金の算段しながら決めていく。 私たちの場合、


中国の結婚式って、大規模にやればやるだけ祝儀で黒字になると言うけれど、我が家の状況からして、一時的にでも金を突っ込むのは、ちょっと避けたかった。 黒字目当てで手広く営業するのもイヤラシイと思う。
だから、「結婚式は極力シンプルに! 親族への挨拶と世間に対する義理を果たすのが目的!」と割り切っていた(割り切らざるを得ない)。
教会はオプション無しのシンプルなもの。 宴会は食事が美味ければそれでいい。 ケーキカット不要。 招待客は親族のみ。 引き出物のアメちゃんは、義鳥マーケットで買う。これが、上海や北京で買う十分の一ほどの安さ大爆発。 衣装は、借りるよりも安い蘇州で買う。 メイクなんか自分でする。
それで十分だと心から思っていたし、そんなやっつけ仕事みたいな結婚式でも、準備しているうち、それなりに楽しみに思えてきた。
パパの誕生会の翌日、私たちは先ず、教会へ行った。
電話で仮予約はしてあったのだけれど、正式な申し込みをするためには、結婚証明証及び身分証明証の提示が必要、ということだった。 更に、本人及び両親の最終学歴も書かされる。 そしてその情報は然るべき機関に知らされ、記録に残される。 なんでかって、それは「教会などというものは、外国勢力の尖兵である」という天草四郎時代の思想が有効だから。 日本みたいに何でもアリにした挙句政治までイカレてるのを見ると、あながち的外れでもないか。
受付担当のひとは、「奥さんは日本人だから、親の情報までは要らないですよ」と言った。 私のしょぼい中国語力でも、確かに聞こえた。
なのに、なんでハナ子は「親の学歴」って項目を示して、私にペンを渡すのかしら。
私は知ってる。
ブンカク世代で、農村改革によって大学に行ったハナ子。 お勉強の得意な子供ではあったらしいけれど、彼女が選ばれた理由は、長子として生まれたから。 それだけ。
にもかかわらず、「大卒である」ということは、ハナ子の人生で唯一の誇らしいこと。
お勉強以外得意なことが何もなく、女として自信が無く。 経済的解放の時代には、学歴で劣るはずの弟妹たちに収入で負けてしまった。
歪んだプライドは山より高く、褒め称えられたい欲望は海より深いハナ子。
「私は大卒!」「私が大卒だから、息子たちも高学歴!」という呪文を、心の中で唱えること何千回何万回。
ハナ子、私は涙が出るよ。
ハナ子、私も高等教育は意義深いと思うけどさ、そんな心が歪んでしまうくらいなら、大学なんて行かない方がいいんだよ。
ハナ子、たとえ字が読めなくても計算が出来なくても、心優しい母のほうが敬われ愛されるんだよ。
一瞬にして頭の中に「ハナ子の詩」が浮かび上がってしまった私。
でもね、だからと言って。
ウチの実家の親を小ばかにするのはNGだよ?
私は親が大卒でないことに対して、特に何も思ってはいないけど。 でもハナ子の態度はいただけないな。
無視しちゃえ。
と、ハナ子。
私に無視されて寂しかったのか、結婚式申込書に目を落とし、何か勝手にマルをつけている。 確かアレはオプションリスト。
ビーッ、ビーッ、ビーッ・・・
夫に確認してもらう。

何か言うハナ子。
どうしたの、と夫に訊くと
「教会式オプションの、一般信者参列・生バンド演奏・生花その他、全部マルつけてる・・・」
うーむ。
一般信者参列っていうのは、会場である教会に、常日頃から通ってらっしゃる信者さんたちに、結婚式に参加していただくこと。
私はいやだ、そういうの。
もしも自分自身が信者で、通っている教会にて挙式、とかだったらいいんだろうけど。
見知らぬ他人様を、親族縁者の何倍もたくさん参列させるってのはなー・・・
私;「花はいいけど、バンドと一般信者は要らないな。 ハナ子がゴネたら、バンドはちょっと高いけどいれていいよ。 でも信者は絶対イヤ。」

夫、ハナ子に説明。
ハナ子、無言。
夫、オプションリストの新しいのを取って書き直す。
この日はこのように教会関係で時が過ぎ、夕刻、ハナ子&パパ、義弟&カノジョちゃんは、ハナ子実家へ移動。
私たちは誘われなかった。誘われても忙しくていけなかったし、そのへん理解されていたのだろう、と解釈していたんだけど。
夕飯は叔母ちゃん宅。
仲良し従弟、げんげん(大学生)の家でもある。
日付が変わる頃、パパとハナ子がホテルに帰還。
義弟カップルはハナ子実家から真っ直ぐ杭州に帰った。
翌日マーケットで引き出物を選び、その後、ナイナイ(父方祖母)のお墓参り。
パパはハナ子の圧力で参拝できず。
墓参り直前に、一足早く杭州へ帰ってしまった。 「パパの外せない用事のため」って言っていたけれど・・・
疑惑のまなざしを向ける私たちに、パパは

と、勿論日本語で言った。
ハナ子、ここで叫ぶ。


パパ、ご無事で。
私たちは、心から祈りつつ、走り去る車を目で追った・・・
夫、「涙でかすんで前が見えないよ」状態。

お墓参りには従弟が同行してくれた。 この従弟は、美人従妹シェンのお兄ちゃん。
家業がお花屋さん(卸し)ということで、お墓に赤いサルビアをたくさん持っていく。
一緒にお参りして、ナイナイに「また来るからね」と声をかけて帰る。 こういうことってどこの国でも同じだ。 私も、母の田舎でお墓参りするときは、必ず言う。
お墓参りの後は、前日と同じ叔母さんの家でごはん。
昔話などして、昔の写真を見て、大いに盛り上がる。
翌日、いろいろ最終確認して、全て首尾よく整ったのを確認。
一番お世話になっている小叔叔(リンリンのお父さん)の家で、挨拶がてら昼食。
そこで、叔父さん、唐突に「ハナ子の実家に立ち寄るなら送っていくが」という。
確かに時間さえあれば寄りたいと思っていたけれど、想像以上に慌しく、外婆(母方祖母)のところに行っていなかった私たち。
夫が、前回妻(=私)が立ち寄っているし、すぐに結婚式で会うから今回はやめておく、と伝える。 既にそのように電話で伝えてあったし、叔父さんもとても忙しいので、送っていただくのは悪いなあ・・・と思ってのこと。 ハナ子実家はタクシーも無いど田舎なので、行くたびに誰かの手を煩わせなければならない。
叔父さんもそれ以上は勧めず、話題は別のことに移った。
それから私たちは、高速バスで杭州に向かった。
「花婿の、母。⑦」に続く
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