北京ダック「日本鬼嫁・中国オニシュウトメ」日記。

再開しました。 私は今、夏に居ます。

ダック鬼嫁日記21「花婿の、母。⑪」

2006-04-27 | ㊥花婿の、母。
とりあえず、「結婚式のキャンセルを考えているのだけど・・・」というほどのことを、夫の実家に伝えることにした。 考えている、しかし決定ではない。 この曖昧さは、「せっかく準備したのだから、問題がはっきりして、それなりにオチがついたら予定通り式を行うつもりがある」ということ。 それに、「準備について会場である義鳥の叔父にいろいろお願いしてあったので、取りやめることで叔父に面子や金銭の上で迷惑をかけてしまうのであれば、何がどうあれ式は行う」、ということだった。

私の気持ちは複雑だった。 
このままでは、結婚式の日にハナ子の顔なんて見たくもない。 しかし呼ばないわけにはいかない。 それなら式なんてやらなければいいが、既に夫の親族や、日本の親しい人々は出席してくれる予定になっているわけで・・・
私のした「酷いこと」が、多少なりとも私が理解し反省できるものであって欲しい。 五分でも構わないからハナ子に正当性があって欲しい。 いっそ謝罪出来る状況であればすっきりする。 「タダの嫌がらせ」ではないのなら、まだハナ子を認められる。 夫の気持ちも随分楽になるはずだ。 見栄っぱでずうずうしくて私の夫のことを少しも大事にしてなくとも、曲りなりの理屈だけでも通して欲しい。 義母を、「一寸の虫以下のヤツ」と断じたくは無い。 何故なら夫の性格からして、何があろうとも「完全に絶縁」することはあり得ないから。 距離を置くことはあるだろうけど。

さて、キャンセルの可能性がある以上、コトは急いだ方が良い。 と言って結構なダメージを受けている夫を急かすのは躊躇われたが、幸い素早い行動を取ってくれた。

北京に戻ってきた翌日の夜、早めに帰宅した夫は夕食後、実家に電話をかけた。 電話を取ったのはハナ子。 前日の電話の際は義弟にキレられてハナ子とは話していない。
ごく普通の挨拶の後、夫が切り出した。 以下、中国語の会話。 例によって通話終了後に夫から詳細に聞いて再現。
「一昨日、弟から電話があったんだけど・・・」
義弟との会話について説明する夫。
「一体どういうこと? 具体的に話してくれなければわからないし、もし悪いところがあったら、きちんと謝罪すると言っているけど。」
「なんのことだかさっぱりわからないねえ。」
案の定な反応。 しばらく、同じような会話が続き・・・
「弟は結婚式に出ないと言ってきたし、昨夜の電話では兄弟の縁を切ると言ってきたよ。 原因がはっきりしているならともかく、一方的に俺の女房が悪いって言われて、何一つ具体的なことを言わないんじゃ、結婚式を取りやめるしかないな。
ここで初めて慌てるハナ子。 エイヨォォォッ!何を言うんだい!と叫び、
「結婚式をしないなんてとんでもないことだよ! 外婆だってすごく楽しみにしているんだから! 弟の言うことなんて気にしないの。 ちゃんと出席するように私から言っておくから。 だいたいね、オマエの弟は頭がオカシイから、わけのわからないことを言うんだよ!」
以降、度々聞くようになる、弟の頭オカシイ発言。
ハナ子はこの言葉を、次男の心の状態は医者にかかれば深刻な病名のつくようなものである、という意味で遣っている。 だから虚言癖があると言いたいらしい。 私はその方面の知識なんて何もないけれど、見る限りはそんな風に思えない。 学校も恋愛もアルバイトも友達付き合いも、一応一通りこなしている。 我慢ができない、気に入らないことがあるとキレやすい傾向にはあるが、それはハナ子に甘やかされて育ったための甘ったれ病だろう。 夫とは年も離れているし、中国の所謂「小皇帝(一人っ子であるために大事にされすぎ、我儘放題に育った子供。 結構多いと聞く。)」みたいなもの。  第一本当に深刻な状態であるなら、母であるハナ子は何らかの適切な対処をして息子を支えるのがスジってもんだろう。 にもかかわらず専門医に相談に行きもせず、他人事のように「あの子は頭がオカシイから」。 
一体どういうことだ。
次男は可愛がっていたのではなかったのか、ハナ子。
百歩譲って義弟に何かそれなりの問題があるとして、虚言癖の話なんてこれまで一度も家族親戚の誰からも聞いたことが無い、と夫は言っている。
嘘吐きはオマエじゃないのか、ハナ子。

まあこの段階でハナ子と話してもしょうがないので、夫はパパに代わってもらって、
「義鳥の叔父や、日本の家族と話してみて、理解を得られれば結婚式をキャンセルするつもり。 パパには大変申し訳ないけれど・・・」
パパは大変動揺し、しかしキャンセルしないでくれ、とは言わなかった。
「こちらでも三人でよく話し合います。 日本の家族のことも、ふたりでよく話し合ってください。 キャンセルの可能性があることは、私からも弟(つまり私たちには叔父)に伝えておきます。」
──────通話終了──────、と。

私に通話内容を説明しながら、府に落ちない顔をした夫。
「ハナ子、結婚式のキャンセルについては、本当にイヤそうだったんだよねえ。 でも弟の嘘だなんてありえないし・・・」
何が目的なんだろうねえ・・・と一緒に首をかしげる私。
「でも、本当にキャンセルになったら・・・おとうさん(私の父)怒るよね。 大事な娘の結婚式・・・」
私;「いや、頭ごなしに怒るひとじゃあないけど。 まあ、伝えるのはちょっと辛いね。」
「ごめんね・・・俺から言うからね・・・」
私;「説明は私がするよ・・・大丈夫。 でも、皆エアチケットや会社の休みはもう押さえてあるし、旅行だけはしてね! 上海・杭州ツアー! 面倒なことが無くて、観光としては楽しいよきっと。」
もちろん旅行はするけどぉ・・・と落ち込む夫。
私はと言えば・・・幸い私の関係者は理解してくれそうな面々であるし、こういう事態になったもんはしょうがない。 式の代わりに何か景気のいいこと、そうねえ盛大な上海蟹パーティなんかどうかしらねえ、とポジティブに切り替えていた。 もちろん個々に電話して事情説明してお詫びして、その上でツアーの案内をしなくちゃならず、それなりにパワーの要ることには違いなかったが。

この夜は既に電話をかけるには遅く、翌日の夜に、叔父に電話、キャンセル可能かどうかを確認することとした。 可能であれば、日本に連絡。 パパも話し合うとは言っていたけれど、どうなることやら。

ところが、翌日。
夜を待たずして、ことの発端を作ってくれた義弟から、オンラインで夫に連絡があったのだった。
それは、「私のした酷いこと」に関することだった・・・


                            「花婿の、母。⑫」に続く


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ダック鬼嫁日記22「花婿の、母。⑫」

2006-04-11 | ㊥花婿の、母。
インターネット上で弟に偶然遭遇したのだ、と夫は言った。 かなり早い帰宅をしての第一声。 どうやら一日中言いたかったらしい。 電話をかけてこなかったってことは、悪い話なのだろう。

念のため申し添えると、夫の職場では勤務時間中の私的なインターネット使用は、公式に許可されている。 割り当てられた仕事をこなせばそれでよく、会議以外は比較的時間の自由もきく。 ということで、夫は別に給料ドロボーの類ではない。 たぶん。

玄関先でいきなり話し始めたので、私は先に着替えをするように促した。 早く聞きたいのは山々だが、長くなりそうな予感がビシバシした。 とりあえず楽な格好をさせて、私は軽い食べ物とお茶を用意。 二人仲良く食べながら、どう考えても和やかじゃない話をしようというわけだ。 この後の展開を考えるとこれは大正解だったけれど。

さて、義弟の話だ。 兄弟揃って登録しているICQのようなもので、義弟は夫に話し掛けてきたのだ・・・という。 夫はサインインしたまま仕事をしていたのでしばらく気づかなかったらしいが、義弟は再三話し掛けてきた。 気が付いた夫がレスを返すと義弟は「兄ちゃん、この間はごめんなさい」と謝罪したのだと言う。
ああ、頭が冷えたのだな、と思った夫、(以下チャットの和訳再現)
「ごめんなさい、って何に対して謝っているの?」
義弟;「こないだは、ついカッとなって、酷い態度を取ったから。 兄ちゃんが、ママのことを考えてないように思えて、つい。」
「態度のことはね、こうして反省してくれたらいいよ。 でも、ママのことって言うけど、お前が具体的にちゃんと話さないから、こっちも考えようが無い。」
義弟;「だから、兄ちゃんの嫁が酷いことをしたんだよ。」
「お前、彼女は俺の奥さんなんだよ。 奥さんが酷いことをした酷いことをしたと言われて、何をしたかは教えてくれないなんて、俺は一体どういう反応をすればいいんだ。 もし彼女に悪いところがあれば、ちゃんと直させるから、言いなさい。」
それでも言えない言えないという義弟。
「じゃあ、彼女のしたことの中で、お前が最も酷いと思ったことは何? せめてこれくらい教えてくれてもいいでしょう。 うちの奥さんが、俺の思ってるような人間じゃないならば、俺も考えなきゃいけないんだよ。」
そこまで言うならひとつだけ教えるけどぉー・・・と重い口を開いた、というか入力した義弟。

義弟;「ママがシドニー滞在中にされた一番酷い仕打ちはね、食べ物を満足に与えて貰えなかったことだよ・・・。」

この下りを夫の口から聞いた瞬間、私は頭の中がほんっとに真っ白になってしまった。
ここまで読んで下さった皆さん、鬼嫁日記の初期の記述を憶えていてくださるだろうか。
ハナ子はシドニーで4キロ(自己申告)太った。
自己申告でコレだから、実際はもっと・・・って可能性もある。 見た目にも丸丸プリプリッとして、若返ったもん、明らかに。
チャット時の夫もまた、しばしの間固まってしまって動けなかったそうな。 それをいいことに?続々と義弟の発言が。

義弟;「ろくろくごはんも与えてもらえず、夜はお腹が空いて眠れず・・・冷蔵庫のヨーグルトや果物さえ禁止され、ママはお金も持って無かったから一番安い緑豆のお粥でしのいだんだ。 それさえも、緑豆粥を作っていいのは朝7時以降とかいうヘンなルールまで作られて・・・。 普段の食事のときは、ママだけ別皿で粗末なものを食べさせられて。あまりにもお腹が空いて倒れそうになって、教会で食べ物を恵んでもらったこともある。 ママはクリスチャンなのに、クリスマスの日は丸一日中何も食べ物を貰えなかった。 ママはなんて可哀相なんだろう。 兄ちゃんはこれを聞いて何も思わないの?」
思うところが有り過ぎて、何から言っていいやら見当もつかねーよ・・・と、夫は思ったそうな。
だって、朝と夜は殆ど夫も一緒に食べていたのだ。 
確かにハナ子だけ別の料理をあげたこともあったが、それはハナ子が「肉はあまり食べたくない」と言うので、大好物の卵料理をわざわざ別に作っていただけだ。 夫はそれも見ていた。
ハナ子は夜中におやつを食べるクセがあり、朝起きると果物の皮やヨーグルトの空パックがゴミ箱に入っていた(24時間ゴミ出しOKのアパートだったので、寝る前はいつもゴミ箱に何も入っていない状態だった)。 夫はそのことに気づいていた。
教会の婦人部の集まりがあるたびに、持ち寄り用のケーキを焼いていたのは私だ。 お弁当を作って持たせたことも何度もある。 そしてそれが休日である場合、よく夫と一緒に届けに行っていた。
クリスマスは、朝晩三人で食べた。 メニューも憶えているぞ。 ニョッキ、サラダ、ハニーポーク、シーフード、シャンパン、ケーキ二種。 確かそんな感じ。 昼は教会のオバちゃん集会で食べていたような気がするが・・・
夫の口からこぼれた、じゃない、手が入力した言葉は、
「お前、かあちゃんが太って帰ってきたとは思わなかったか?」
だった。 
それに対する義弟の答えは、
「滞在初期こそ待遇が良かったものの、後半、酷い扱いを受けた。 太ったのは初期の出来事である。」というものだった。
夫は、義弟が言うような酷い扱いなどしたことはないし、それは夫自身の目で見ていた・・・と言ったうえで、どういうつもりでそんなことを言うのかと尋ねた。
「もしも万が一、そんなことがあったなら、なんで俺に言わなかったんだ? それとも何か、俺も一緒になってかあちゃんを苛めたと言いたいのか? わざわざビザ申請して、旅費を出して、旅仕度用のこづかいまで渡してか?」
義弟;「そんな意味じゃないよ。 もちろんあの女が兄ちゃんに隠れてやったんだよ。 ママはそれを兄ちゃんに言いたかったけれど、あの女に邪魔されて、兄ちゃんとマトモに交流することさえままならなかったんだ!」
「・・・・・・あのな、お前兄ちゃんのことをバカにしてるだろう。 二ヵ月半一緒に住んでて、どうやって邪魔なんて出来るんだ。 うちの奥さん中国語わからないんだぞ。 しかもかあちゃんは国際電話も含めて電話をかけまくり、何か些細な気に入らない事があると俺の職場に電話をかけてきて泣き喚いたんだぞ。 ビジネス回線ふさがれるのがどれだけ痛いと思ってるんだ!」
さすがに、言葉に詰まったのか義弟は何の反応も返さなかったと言う。
「なんとか言えよ! お前本気でかあちゃんの言ったことを信じてるわけじゃないだろ?」
義弟;「・・・でも、ママはママだから。」
ママだから、白いもんを黒いと言っても通る・・・という意味なのだろうか。
「とにかく、人の言うことを鵜呑みにしないで、自分で判断しなさい!」
その後もなんだかんだとダラダラ話し、最終的に、義弟が「いろいろと事実を調べて、また連絡します」ということで通信は終了した、という。

2006年3月現在、このくだりを思い起こしても頭痛がする。
マザコン義弟も本当にどうなってるのか・・・と思うが、ハナ子に至っては全く以って意味不明。
一体どういうつもりなんだ、ハナ子。
自分の息子が真偽を容易に確認出来るような嘘を吐いてどうするんだ。
まさか、それまでの人生、そんな場当たり的な嘘が全て通ってきたのだろうか。

恐るべし、ハナ子。

でも、もしもハナ子の言うように、「滞在後半、絶食に近い状態を強いられた」にも関わらず、「帰国時点で誰の目にも明らかなほど太っていた」のであれば、食事制限はむしろ親切と言えるのではないだろうか。

まあ、私はハナ子の健康を積極的に気にかけようとは微塵も思わないが・・・

 

                          「花婿の、母。⑬」に続く


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ダック鬼嫁日記23「花婿の、母。⑬」

2006-04-07 | ㊥花婿の、母。
ことのあらましを話し終え、夫は妙に静かになってしまった。
黙々と食べている。
私にしても、正直なところ何と言っていいかわからなかった。
知られざる・・・と言おうか、まあ今まで気づかなかったのがどうかしていると私は思うんだが、夫にしてみれば思ってもみなかったハナ子の嘘吐きっぷり。 何がどうあれハナ子は夫の母で、夫はショックを受けている。 
そんな彼を気遣って発言しなかった、というのもないではなかったが。
実のところ私の脳内でも色々なことが駆け巡り、そのうちのどれについて表現すればいいのか、どれが最も強い感情であるのか、口に出すべき優先順位が全く持って不明だった。

ハナ子が吐いた嘘に対する怒りやショックは無論あった。 曲がりなりにも同居期間中に私が払った努力や我慢が無駄だったことへの脱力感。 あんなハナ子でも、たまには私に向けていた「げへげへっ」笑顔が愛想笑いどころか丸丸の嘘だったことへの妙な寂しさ。

ハナ子の言うことが真実ではないと、どうやら薄々感づいていながら、今回このような態度に出ている義弟への違和感と不信感。

今後に関する現実的なこと。 結婚式のキャンセル、関係各位へ連絡。 気を取り直して上海旅行はすること。 それら全て済んだ後、夫の実家との付き合いはどうするか。

パパのこと。 あの分断ファミリーで、唯一夫の味方だったパパ。 今回のことをいつからどこまで知っていて、どう思ってるんだろう。

「私のした酷いこと」がなんであるのか、ずっと気になっていたけれど。 それが明らかになって、今度はあらゆることに対して感情的な折り合いがつかなくなっていた。

「小叔叔に電話しないと。 キャンセルできるかどうかちゃんと確かめる・・・」
私;「なんて言うの、叔父さんに。」
「全部話す。 正直に話してわかってもらわないと。 叔父ちゃんのオーガナイズする式がイヤとか、そういう誤解は招きたくないから。 事の次第を話して、ハナ子は呼びたくない気持ちになってるけれどそういうわけにはいかないから、ってことと、あと万が一弟が暴れでもしたら困るから・・・って言ってみる。」
私;「そうだね。 先ずキャンセルの影響を先に聞いて。 お金のことと、叔父ちゃんの面子の問題と。 もしそれがクリアできたら、事情を話して。 落ち着いてからまた直接お詫びにあがるから・・・って。 ごめんなさいをちゃんとして。」
夫、こっくり頷く。 受話器を取って叔父の家にダイヤルする。 居るといいけど。

「・・・・・・小叔叔、ニーハオニーハオ。」
──────通話開始したらしい──────

夫が電話に出ている間、私はいつものように聞き取り練習に励むこともなく、止まらなくなった頭でハナ子のことを考えていた。

ハナ子は今後、との関係性において、もう私に勝てないだろう。 勿論、何かイレギュラーなことが起きない限り、ということだけど。

もともと、母子らしい感じは希薄だった。
ハナ子が要注意人物だと早い段階で認識してから、私はずっとこの母子関係について悩み、観察し、考察してきた。 
結論を言えば、夫の心の深い部分では、ハナ子は「母」ではないらしい。 私はそう思う。 
そして、「母」というか、「母性」を感じると言おうか、「男は皆マザコン」という程度のマザコンの対象となっているのは、パパ方のおばあちゃん(=ナイナイ)だ。 6歳までナイナイに育てられたのも大きいが、「ナイナイ=心の母」を決定的にしたのは、6歳以降ハナ子から受けた虐待だろう。
実の母親から日々苛められ、弟と差をつけられ、愛されていないと感じながら育つのは、子供の心に相当な負荷がかかることだと思われる。 経験無いけど。
その負荷を無効化するために夫の脳が取った手段は、「可愛がってくれるおばあちゃんをおかあさんのように慕おう」というものだった(はず)。
大人になったは、虐待から逃れ、心の負荷無効化手続きも完了し、大事なナイナイは既に亡くなり、気がつけばハナ子は妙な愛想笑いを浮かべていた。「げへへ
夫はもともと単純素直で、悪いことは素早く忘却の彼方に押しやりがちなタイプ。 12歳から寄宿舎に入り、18歳からは上海で暮らし、以降実家には滅多に帰らない生活。
「昔のことは薄れたし、一番大事にしたいおばあちゃんはもういない。 まあしょうがないから生きている人たちのことを大事にしようかな・・・」
とかなんとか思って、ハナ子にも親孝行してあげていた。
彼らの親子関係は、まあそんなところだろう。
この、お人好しが!・・・じゃなくて、これが私の考察で、おそらく真実に極めて近い。つまり、夫からハナ子へしてあげる全てのことは、無意識下では「してあげる義務も義理もないけど、好意でやってあげる」的なボランティアだったわけで。
そういった関係は、信頼が損なわれれば簡単に崩れてしまう。

だから、ありえない嘘がばれた時点で、私の勝利は固いものとなる。 なった。
それなのに何故こんなに気分が優れないのだろうか。
やはりハナ子があまりにもくだらない自爆をかましてくれたせいか。
そう、いつか来るこんな日だったはずだけれど、出来ればもう少し納得のいく、「戦いの果てに得た平和」みたいなものであって欲しかった。
ことが片付いてから、「ナイスファイトだった・・・」と思い返すくらいのものであって欲しかった。
ハナ子ったら、我が子に2秒でバレるような嘘ついて・・・

などと私が虚無感に浸っている間に、電話は終了していた。

「キャンセルは大丈夫って。」
私;「そう。 叔父さん困ってなかった? なんて言ってたの?」
「キャンセルの件は身内だけだし、小規模だし問題なし。 もっとギリギリでも大丈夫だから、パパともう一回話し合ってもいいよって。 でもね、ハナ子、叔父さんちにもお前の悪口の電話入れてた・・・
私;「・・・・・・どんな?」
「いろいろ。 結婚以来、俺がケチになって、それは嫁のせいだとかなんとか。 ・・・実家ツアーやったとき、俺、両親におこづかいあげなかったの。 例年は旧正月近くに帰ったときは必ずあげてたんだけど。」
私;「そんなの私知らないよ。 なんであげなかったの?」
「そのとき中国に引っ越してきたばかりでお金なかったでしょ。 それに、前の年の秋に、両親をシドニーに招待して、全額俺持ちだったわけで、それはおこづかいよりもずっと高いんだから、まあいいかなって。」
私;「そうねえ。」
「文句言われるとは思わなかった。 でね、叔父さんから、おまえのお母さんがおかしいのは、今に始まったことではないって言われた。 知らなかったのは俺だけ。 ばかみたい・・・」
鬱~になってしまった夫。
しかし、なまじ早く帰宅してしまったこの夜。 ここからが長かった・・・。




                            「花婿の、母。⑭」に続く


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ダック鬼嫁日記24「花婿の、母。⑭」

2006-04-05 | ㊥花婿の、母。
さて、結婚式キャンセルがほぼ決まってしまったわけである。
そのこと自体は、寂しさはあるものの、そう受け入れ難いことではなかった。 正直に鬼嫁的に言えば、「ハナ子が大嘘吐きだということが、の前に明らかになって大ラッキー!!!」なわけであるし、大嘘に加えて親戚にまで私の悪口を撒かれていたとあっては、式なぞする気も起きない。 叔父の様子からすれば、皆がハナ子の言い分を信じているわけではなさそうだが、ハナ子の実家方の親族はその限りではないだろうし、周囲の皆に冷たい目で見られながら挙式する必要なんてどこにもない。

だが、キャンセルを日本の実家に伝えるのは、それはそれは気の重い、辛いことだった。
もともとこの時の結婚式企画は、高齢の外婆(ハナ子の母)のためのもので、日本の私の親族のためではなかった。 彼らはそれでも出席すると言ってくれ、時間とお金と体力をかけようとしてくれた。 私は着飾るようなイベントが苦手で、成人式さえまともにしなかったから、実家の父にしてみればウエディングドレス姿を見たい気持ちもあったのだろう。 たいして見られたものではないが、娘は私ひとりなのだ。

夫は私の実家に電話をかけてくれると言った。 キャンセルの原因は夫の母であるハナ子だから、と。 私は、夫の母が原因だからこそ、彼に説明させるに忍びなかった。 結婚式に関して、ここまでハナ子が取ってきた行動を説明するのは辛いだろう。 いくら日本語が流暢だと言っても彼には外国語なのだし、正直で素直すぎる彼の性格もある。 一から十まで丁寧に説明し、不明な点について質問を受けるのか。 聞いているこっちが耐えられない。
問答の末、結局、先ず私が説明し、その後夫が一言詫びを言いたい・・・ということになった。
ということで、国際電話GO。

──────通話開始──────
私;「あ、お父さん。 私だけど、お母さんは? あ、フロなんだ。 それはそうとさあ、言いにくいんだけど、結婚式キャンセルになっちゃった。」
実家の父;「なんだ、もう離婚か。
いやいやそうじゃあなくってね・・・と説明に入る私。
私;「・・・・・・と、いうような事情で。 出来ればキャンセルの方向で考えていてですね、お父さん初めとして、お母さんや叔母ちゃんにも本当に申し訳なくて。 いや、このまま何事も無く続けることも出来なくはないんだけど、あの、それはやっぱり・・・」
さっくり説明のつもりが、いろいろ込み上げてきてシドロモドロ調に陥っていく私。 それなりに覚悟は決めていたが、このときはやはり辛かった。 
実家の両親はハナ子とは一度会ったきりである。
私はそれなりに甘やかされて育った娘である。
私にも相応の問題があったのではないか? と疑われ説教されることも覚悟していたし、ハナ子の行動がイマイチ意味不明な分、「私は悪くない」と言い切ることも出来ず、心のどこかが疚しいような、痛いような。 疚しいといって、この鬼嫁日記に書いた以上のことはしていないのだけれど、価値観や感じ方は人それぞれだ。

実家の父;「おい、もういいからちょっとと代われ。」

私のシドロモドロを遮って、父がこう言い出したときはドキリとした。 まあ大丈夫だとは思うけど、万が一にも夫に怒らないで欲しい。 怒るなら日を改めてくれ。お願い。
私以上に緊張した表情の夫が受話器を受け取る。
日本の家族に初めて会ったときより気の毒な顔になっていた。 初対面の前は、「中国人に娘はやれん!」とか言われるのではないかとかなり気にしていた夫。 父はそういうタイプではないし、フラフラしていた娘に引き取り手が現れて安心するよ、と言っても耳を貸さなかった。

電話に出て、先ず謝る夫。
謝罪を遮られたらしい。
何か頷く夫。
頷く。
頷く。
・・・・・・
「どうもありがとう、おとうさん。 はい、また連絡します。 上海で蟹を食べましょう。 はい、うん、はいはい、おやすみなさい。」
──────通話終了──────
なにか和やかそうで、大丈夫みたいだけど・・・
私;「なんて?」
「あのねえ、おとうさんねえ、結婚式は結婚するふたりのためのものだから、納得いくようにしなさいって。」
おお・・・父、稀には良いことを言う。
今考えると全く以って父が正しく、その以前の私たちがバカなだけなのだが、その時はほんっとーに目から鱗だった。
「詳しい事情は会うときでいいから、よく考えて話し合って決めてください、って。 日程のことは都合があるから、変更を早めに知らせるように、って。」
そっかそっか。
父にそう言ってもらって、なんだか大変すっきりした私。
頭の中に詰め込んでいたしがらみがすーっと消えたようだった。
夫も安堵の表情に変わっているし。
まあ、よかった。

私;「ほんじゃあ、今後のことを決めて、行動しないと!」

ところがすーっと表情がまた曇る夫。
「いい親を持っているよね・・・。 おとうさんは、本当に良い人だね。」
比較してんのかい。
比べてもな。
ハナ子よりすごい親って、そうそういないだろう。
私はシドニーにいた頃から、中国生活の初めまでは、「国の違い、文化や教育的な背景、物価の違いがハナ子との摩擦を産むのか?」と悩んでいた。
でも違う。
金の遣い方キッチンの使い方なんかはそうとも言えるけれど、お互い外国人同士という前提で付き合っているなら、最終的には双方の人間性とか性格の問題だ。 表面的な、些細なことはともかく、相手の意図するところを見て、話し合えば大概のことは円満に解決する。 それが出来ないのは、国以外の尺度で測ったとき、属するカテゴリーが違うということ。 日本人同士でも、「ああ、自分とは違う種類の人間だ」と思うことはよくある。
こんな風に言うと当たり前のようだけど。
言うのと体感するのは大違い。
長かったねえ、悟るまで・・・(遠い目)。
とにかく、私は身近な中国人に限定すれば、付き合い難く遠い部族の者だと思ったのはハナ子と義弟だけ。 この最も身近な2名をピンポイントで当てるあたり、私の引き強加減が現れているではないか。

私;「まあ、ハナ子がヘンなのは誰のせいでもなし。 パパはいいひとだよ。 大丈夫。」
「俺の一生に一度の結婚式、なんで邪魔するかなあ。」
本人に訊いてみれば?・・・のどまで出掛かったが。
私;「ハナ子と話す?」
「いや、無駄でしょう。 言ってない私は悪くない、って叫ぶだけだと思う。 だから、式を正式に取りやめるって伝えるだけにするよ。」

少し飲み物を摂ってから、パパに電話する夫。
私はそれを黙って聞いていた。 

受話器を置いた後、パパの様子を尋ねる。
尋ねる、その間も。
頭の中にはあのエラー音が最大音量で鳴り響いていた。
夫が私の問いかけに答える間も無く、

「ぷるりらり~(我が家の電話の音)」

鉄板で、ハナ子に違いなかった。


                            「花婿の、母。⑮」に続く


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ダック鬼嫁日記25「花婿の、母。⑮」

2006-04-03 | ㊥花婿の、母。
電話は、もちろんもちろんハナ子だった。
でも、その内容は?
普通に考えて結婚式を取りやめさせたいのだとしか思えないハナ子の行動。
思い通りになったのではないか?
この上何を言うのだ・・・

電話に出て、努めて冷静に対応しようとしている
話題を知っているから、横で聞いている私にも、なんとなく内容がわかった。
ありえないことに、ハナ子は結婚式キャンセルに対する抗議の電話を、かけてきたのだった。
は、感情的にならず、義弟の電話の件、チャットで聞いた件を説明し、結婚式は取りやめざるを得ない、と話した。 
対してハナ子は、義弟のことを「頭がおかしいから」と言い、「そんな子のことを信用して結婚式を取りやめるなんてとんでもない」と言っている模様。
しばらくの間、同じ言葉が何度も何度も出てくる会話が続き、そのうち夫は受話器を置いた。

私;「どう?」
「切られた。」
私;「キレて、電話切ったってこと?」
こないだは義弟に電話を切られていたけど、今度はハナ子か。
「結婚式を取りやめるのには大反対だって。 ハナ子は何も悪いことなんてしていないし、悪口の類も言った憶えが無いって。 で、弟は病気だから、在りもしないことを言うのはしょうがない、そんなのを信じるのがおかしい、って。」
オカシイのは、ハナ子である。
「それで、俺が、親戚の家にも悪口の電話掛けたでしょう、それは弟と関係ないよ、って言ったら、キレて切れた。」
私;「・・・なにがしたいんだろう。 結婚式キャンセルさせたいんじゃなかったのかな。」
「わからない・・・。」
無言で考え込む私たち。
考えてもわかりっこないんだけど。

「キャンセルは出来たし、ハナ子のこととかは後で考えることにしてもいい?」
まあ、私としては今後の付き合いなど気になることは盛りだくさんだけれど、夫をこれ以上痛めつけても得るものは何にもない。
私;「じゃ、上海ツアーの計画でもしよっか。 ホテル選んでよ。 私お茶淹れる。」
何か果物もちょうだい、という声に答えつつ、キッチンへ。

「ぷるりらり~(我が家の電話の音)」。

途端に鳴る電話、夫の溜息、応答する声。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
どうせ同じ内容だろうし、聞きたくはないので、キッチンで適当に時間を潰す私。 不必要に丁寧に果物を剥き、レストランで出すようなきれいな盛り付けが完成した頃、電話は終わったようだった。
「さっきと同じだった。 同じことを話して同じところでキレて切れた。」

私のコメントは敢えて無し。 二人で果物を齧りつつ、上海のホテルや、美味しいレストランについて話す。
それから少しして、

「ぷるりらり~」
また電話が。
物凄く嫌そうに電話に出る夫。

少し、間があって。

同じような経過を辿って通話終了する。
「今度は少し変化がついた。」
私;「なに?」
「おまえの、ハナ子わがまま発言について言及してきた。 カノジョちゃんに言ったでしょう、そのことについて少し文句を言っただけじゃない、って。」
うっ・・・義弟の彼女の前で「シドニーでハナ子との同居は大変でした、ハナ子はワガママ」と発言した件。 これは、状況的にいろいろあったものの、唯一明らかな私の過失。
私;「ごめん・・・」
「俺は、少なくとも嘘は言ってないということ、シドニーでのハナ子は言われてもしょうがない態度だったこと、更に、今回ハナ子が吐いた嘘は、その件とはまるで関わりの無いでっちあげだったこと、この3点を指摘しました。」
冷静な話し合いモードに入っている夫。
理屈っぽいから、こうなるとかなり強い。
「ハナ子は、今回の嘘については知らないと言い張り、おまえの発言については、ハナ子わがまま発言のほか、ハナ子の実家の関係者の悪口も言われたと主張。」
私;「うそでしょ。 私、ハナ子実家のことなんてロクに知らないんだから、カノジョちゃん相手に言うわけ無いじゃん。」
「俺もそのように主張し、かつ、俺と嫁ふたりの間の会話でも、嫁がハナ子実家の悪口を言ったことはない、と説明しました。 その上で、ハナ子の吐いた嘘及び弟に指図して結婚式にイチャモンつけたことについて、どういうつもりであるのか、結婚式を取りやめさせる意図でなければなんなのか、と質問。 言うまでも無くまともな回答は得られず、電話は切られてしまいました・・・」

どうせ次もかかってくるに決まっているので、お茶とのど飴を補給。
ふたりで準備体操などして待つ。

「ぷるりらり~」
きたっ!

この夜4度目のハナ子からの電話。
同じ経過かと思いきや、様子が違う。
それまで、ひたすら冷静だった夫が、だんだんヒートアップして、激しい口調に。 こうなると、もう私には聞き取れない。 話題はわかっているので所々は聞こえるけれど、詳しいことはさっぱり。
そのうちに、完全に怒鳴り声になった夫。
なんだか居たたまれなくて、私はベッドルームに避難。
時折飲み物の補給にリビングへ戻るほかは、布団を被って過ごす。 それでも声が聞こえるようになって、耳を押さえてみたりする。
夫はもっと疲れているはずで、それを思うと申し訳なかったけれど。
どこでどうなって、この事態に陥ったのか。
私が悪かったのか。
ハナ子の機嫌を、積極的にとるべきだったのか。
この話の落としどころはどこだ。
もしも子供が出来たら、ハナ子をおばあちゃんと呼ばせるのか。
想像は遠くに及び、なんだかお先真っ暗な気持ちになった。

と、布団の上から、夫の手が触れた。
パッと布団を開ける。
私;「あれ?」
ハナ子と通話中の夫はベッドサイドに居るのだが。
ハナ子の怒鳴り声は、リビングの電話からバリバリに流れてきている。
我が家、リビング兼ダイニング、その隣りにシャワールームと廊下とスタディルーム、その奥にベッドルーム、という構造。 他に、荷物をしまっとく収納用の小部屋とキッチン、洗濯室があるのだが、全部合わせて130㎡ほどの使用面積。 中国なので、東京の物件と比較すると大変広い。 同じ2LDKでも面積倍以上のはずだ。
それが、一番奥のベッドルームにいながら、リビングの通話が聞こえるって・・・
ハナ子は、「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅ!」という勢いで叫んでいる。
私;「近所に聞こえるかもしれないし、迷惑だからスピーカーホン切って、受話器から耳を離して聞いといた方がいいんじゃない?」

「スピーカーホンじゃないよ。」
 
夫は表情を変えず、「ほら、よく聞いてごらん。 受話器から洩れてる声だから、音が割れてるでしょ」と付け加えた。

うそでしょ・・・

                           「花婿の、母。⑯」に続く


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ダック鬼嫁日記26「花婿の、母。⑯」

2006-04-01 | ㊥花婿の、母。
ハナ子の声は、別にカン高くもなく、また野太くも無い。
ハナ子は骨太で体格が良いので、よく通る声をしている。

この電話以前にも、私はハナ子が叫ぶのを目にし、耳にもしたことがあった。
それは、少々激しくはあったが、「中年女性が怒鳴り散らしている」だけの、言語問わず世界共通の怒声だった。 これを読んでいる皆様のお母様が、奥様が、シュウトメが、泣き叫んだときの調子とも通じると思う。

しかしこの夜の怒声は違った。
普通一般の女が感情的になって叫ぶ、単純で、必死で、どこか可哀相なそれとは明らかに異質。
紙一重の向こう側のような。
呪詛のような。
少しの哀れさも感じさせない、恐ろしい声だった。
大げさかもしれないけれど、私には本当にそう感じられた。

スピーカーホンじゃないのに、周囲に響くハナ子の声。
聞きながら、夫が少し解説してくれる。
「まあ、基本はさっきまでと全く同じ。 弟は頭がおかしい・自分は悪くない・実家の悪口を言われたをエンドレスで。 俺が、実家の悪口なんて言ってないでしょう、カノジョちゃんと弟に確認するよ、っていうと私は悪くないー、悪くない-、悪くない-って大声で言って誤魔化してるから、確信犯。」
私;「なんでこんな、キレちゃったの?」
「俺が、俺たちふたり、パパ、弟、ハナ子の全員参加で話し合いを持ちましょうって言ったから。 そうしない限り結婚式なんてとんでもないし、俺の妻と実家、家族間の問題なわけだから、言いたいことは言って、お互い悪いところがあったら謝って、早期解決をしなければならない、って説明している途中で叫び始めた。」

夫がそう解説する間も、電話の声は聞こえている。
なんだかすんごいことになっているけれど、私にはどうしようもないしなあ。
何か面白いことでも言うべきか。 
ハナ子ったら、ソウルフル・・・とか。
うぉーうぉーうぉー、って言うのは、叫んでるのか、我(中国語の私、発音wo)我我って言ってるのか、どっちだかわかんないね・・・とか。
ああダメだ。
何一つ面白げなことが浮かばない。

夫は受話器の傍に戻り、耳には当てずに聞き、時折送話口に向かって何か言った。
ハナ子はそれに対して、ますます憤って何か叫ぶか、或いは電話を叩き切った。
切っても十分以内にかかってくる。
掛けなおしてきた初めは少し穏やかに話すが、五分もしないうちに絶叫モードに変わる。
そんなことがどれだけ繰り返されただろうか。
何時間だったのか、正確には思い出せない。 二時間だったか、三時間だったか。 そんなものだと思うけれど。

夫は疲弊していたが、話はまったく前が見えないままだった。
ハナ子は同じようなことを主張するだけで、都合が悪くなると叫んでは、切れた。
夫も理屈っぽく指摘するべきところは指摘し続けたので、ハナ子はだんだん「実家の悪口を言われた」というのを口にしなくなった。 そのかわり、
「嫁は私の実家が嫌いなんだ! 貧乏だからだ! パパの家とばかり仲良くして!!!」
と、何度も何度も何度も言うようになった。
夫は、「嫌い」などということはないし、シドニー時代から、旧正月・誕生日・クリスマスなどに外婆(ハナ子母)にプレゼントを贈っていたのは嫁(私)である・・・と説明。
そういった都合の悪い(?)情報に対しては、無視して絶叫するハナ子。
「そもそも俺が、パパ側と仲良しなんだから、俺の嫁がそっち寄りになるのはしょうがないでしょう!」
と、夫も叫び返す。
ついにハナ子。
もともと意味不明なのが、更に極まっちゃって。
「悪魔だ! お前には悪魔が憑いている!!!」
と、叫ぶに至った。

ハナ子、一応年季の入ったクリスチャンである。
いくらなんでも悪魔はないだろう。

これを聞いたとき、夫は咽を潤すための烏龍茶(中国人も大好きサントリーウーロン)を口に含んでいたのだが、思いっきり吹き出してしまった。

その後、うおぉぉぉぉぉぉうぉぅぉぅぉぅ・・・と、呪術師モードに入ったハナ子。
「私は悪くない! お前が悪い! お前が謝れヨオォォォォゥ!!!」

最後の一咆えをかました後、電話を叩ききってくれた。
私、夫に向かって「おつかれさま」しか言えなかったよ。

数分後、もう一度電話がかかってきた。
さすがにもう止めて欲しい・・・と思ったら、今度はパパだった。
以下、パパとの会話は後から聞いてまとめたもの。

「ママは、外に出て行きました。 しばらく散歩でもしたら、帰って来るでしょう。」
パパ大丈夫?ときく夫。
「私は大丈夫。 それよりも・・・」
パパは私のことも気遣ってくれ、それからハナ子について語り始めた。

ハナ子は、シドニーから帰ってきた直後から、今回の件の発端となった嘘を、義弟に吐き続けていたのだそうだ。
ごはんも貰えなくて、電話もかけさせてくれなくて、自分の息子と話すこともままならない・・・と、泣きながら、何度も何度も訴えたのだそうだ。
前にも書いた通り、ハナ子は太って帰国したのだし、国際電話をかけまくって、義弟ともしょっちゅう話していたのだから、嘘だということは確かめなくてもわかりそうなもの。
しかし何ヶ月にも渡って泣きながら訴えられ続けた義弟は、そのうちに洗脳された・・・というのが、パパの説明だった。

シドニーで大変世話になったというのに、申し訳ない・・・と、パパは言った。
「ママは、誰かにしてもらったこととか、ありがたいと思わなければならないこととかは、忘れてしまうのです。 どんなに大事にしてもらっても、当たり前だと思っている。 感謝はけしてしない。」
パパは、ハナ子をシドニーに2ヵ月半も置いておいたことを詫びた。
帰ってきなさい、と言えば、帰国後のハナ子が恐ろしく。
また、せっかくの「ハナ子がいない生活」を手放すことが惜しかったのだ・・・と告白した。
私はこの以前にも、パパが「ママが家にいない方がいい」と話していたのを聞いた事があった。「家にいるといつも怒っているから」。 

シドニーの件で洗脳された(というのも甚だ疑わしくはあるが)義弟は、結婚式が近づくにつれ、今度は日々結婚式についての不満を聞かされることとなった。 不満の内容は、主に「パパ側の親族ばかりが優遇されている」というもの。 「ハナ子の子」としてパパ側親族を毛嫌いしている(その背景には、ハナ子の嘘があるのだろうが)義弟は、内圧を高めていった。 パパとしては、「結婚式が無事に済むまでは、ヘンなことをしないように」と諌めてはいたのだが、力及ばず・・・

今となっては、まことにどーでもいい話ではある。
そんなおかしなご家族が、この私の結婚式に出ることが無かったのは何かの思し召しであるような気さえするし。

この日、パパとの話も終えて、げんなりと床についた私たち。
夫は小さな声で
「離婚したい?」
ときいた。
私は、「大丈夫よ、そんなことないよ。」と答えたが。
「実家と縁を切ってくれればね」というのを、やっとの思いで飲み込んだのは、言うまでも無い。
パパには恨みは無いけれど、色々な意味で疑問や不満があり。
質問したいことや、整理したいことで頭はいっぱい、耳の穴からこぼれ落ちそうなほどだった。

私はとても疲れていた。

                            「花婿の、母。⑰」に続く


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