とりあえず、「結婚式のキャンセルを考えているのだけど・・・」というほどのことを、夫の実家に伝えることにした。 考えている、しかし決定ではない。 この曖昧さは、「せっかく準備したのだから、問題がはっきりして、それなりにオチがついたら予定通り式を行うつもりがある」ということ。 それに、「準備について会場である義鳥の叔父にいろいろお願いしてあったので、取りやめることで叔父に面子や金銭の上で迷惑をかけてしまうのであれば、何がどうあれ式は行う」、ということだった。
私の気持ちは複雑だった。
このままでは、結婚式の日にハナ子の顔なんて見たくもない。 しかし呼ばないわけにはいかない。 それなら式なんてやらなければいいが、既に夫の親族や、日本の親しい人々は出席してくれる予定になっているわけで・・・
私のした「酷いこと」が、多少なりとも私が理解し反省できるものであって欲しい。 五分でも構わないからハナ子に正当性があって欲しい。 いっそ謝罪出来る状況であればすっきりする。 「タダの嫌がらせ」ではないのなら、まだハナ子を認められる。 夫の気持ちも随分楽になるはずだ。 見栄っぱでずうずうしくて私の夫のことを少しも大事にしてなくとも、曲りなりの理屈だけでも通して欲しい。 義母を、「一寸の虫以下のヤツ」と断じたくは無い。 何故なら夫の性格からして、何があろうとも「完全に絶縁」することはあり得ないから。 距離を置くことはあるだろうけど。
さて、キャンセルの可能性がある以上、コトは急いだ方が良い。 と言って結構なダメージを受けている夫を急かすのは躊躇われたが、幸い素早い行動を取ってくれた。
北京に戻ってきた翌日の夜、早めに帰宅した夫は夕食後、実家に電話をかけた。 電話を取ったのはハナ子。 前日の電話の際は義弟にキレられてハナ子とは話していない。
ごく普通の挨拶の後、夫が切り出した。 以下、中国語の会話。 例によって通話終了後に夫から詳細に聞いて再現。
「一昨日、弟から電話があったんだけど・・・」
義弟との会話について説明する夫。
「一体どういうこと? 具体的に話してくれなければわからないし、もし悪いところがあったら、きちんと謝罪すると言っているけど。」
「なんのことだかさっぱりわからないねえ。」
案の定な反応。 しばらく、同じような会話が続き・・・
「弟は結婚式に出ないと言ってきたし、昨夜の電話では兄弟の縁を切ると言ってきたよ。 原因がはっきりしているならともかく、一方的に俺の女房が悪いって言われて、何一つ具体的なことを言わないんじゃ、結婚式を取りやめるしかないな。」
ここで初めて慌てるハナ子。 エイヨォォォッ!何を言うんだい!と叫び、
「結婚式をしないなんてとんでもないことだよ! 外婆だってすごく楽しみにしているんだから! 弟の言うことなんて気にしないの。 ちゃんと出席するように私から言っておくから。 だいたいね、オマエの弟は頭がオカシイから、わけのわからないことを言うんだよ!」
以降、度々聞くようになる、弟の頭オカシイ発言。
ハナ子はこの言葉を、次男の心の状態は医者にかかれば深刻な病名のつくようなものである、という意味で遣っている。 だから虚言癖があると言いたいらしい。 私はその方面の知識なんて何もないけれど、見る限りはそんな風に思えない。 学校も恋愛もアルバイトも友達付き合いも、一応一通りこなしている。 我慢ができない、気に入らないことがあるとキレやすい傾向にはあるが、それはハナ子に甘やかされて育ったための甘ったれ病だろう。 夫とは年も離れているし、中国の所謂「小皇帝(一人っ子であるために大事にされすぎ、我儘放題に育った子供。 結構多いと聞く。)」みたいなもの。 第一本当に深刻な状態であるなら、母であるハナ子は何らかの適切な対処をして息子を支えるのがスジってもんだろう。 にもかかわらず専門医に相談に行きもせず、他人事のように「あの子は頭がオカシイから」。
一体どういうことだ。
次男は可愛がっていたのではなかったのか、ハナ子。
百歩譲って義弟に何かそれなりの問題があるとして、虚言癖の話なんてこれまで一度も家族親戚の誰からも聞いたことが無い、と夫は言っている。
嘘吐きはオマエじゃないのか、ハナ子。
まあこの段階でハナ子と話してもしょうがないので、夫はパパに代わってもらって、
「義鳥の叔父や、日本の家族と話してみて、理解を得られれば結婚式をキャンセルするつもり。 パパには大変申し訳ないけれど・・・」
パパは大変動揺し、しかしキャンセルしないでくれ、とは言わなかった。
「こちらでも三人でよく話し合います。 日本の家族のことも、ふたりでよく話し合ってください。 キャンセルの可能性があることは、私からも弟(つまり私たちには叔父)に伝えておきます。」
──────通話終了──────、と。
私に通話内容を説明しながら、府に落ちない顔をした夫。
「ハナ子、結婚式のキャンセルについては、本当にイヤそうだったんだよねえ。 でも弟の嘘だなんてありえないし・・・」
何が目的なんだろうねえ・・・と一緒に首をかしげる私。
「でも、本当にキャンセルになったら・・・おとうさん(私の父)怒るよね。 大事な娘の結婚式・・・」
私;「いや、頭ごなしに怒るひとじゃあないけど。 まあ、伝えるのはちょっと辛いね。」
「ごめんね・・・俺から言うからね・・・」
私;「説明は私がするよ・・・大丈夫。 でも、皆エアチケットや会社の休みはもう押さえてあるし、旅行だけはしてね! 上海・杭州ツアー! 面倒なことが無くて、観光としては楽しいよきっと。」
もちろん旅行はするけどぉ・・・と落ち込む夫。
私はと言えば・・・幸い私の関係者は理解してくれそうな面々であるし、こういう事態になったもんはしょうがない。 式の代わりに何か景気のいいこと、そうねえ盛大な上海蟹パーティなんかどうかしらねえ、とポジティブに切り替えていた。 もちろん個々に電話して事情説明してお詫びして、その上でツアーの案内をしなくちゃならず、それなりにパワーの要ることには違いなかったが。
この夜は既に電話をかけるには遅く、翌日の夜に、叔父に電話、キャンセル可能かどうかを確認することとした。 可能であれば、日本に連絡。 パパも話し合うとは言っていたけれど、どうなることやら。
ところが、翌日。
夜を待たずして、ことの発端を作ってくれた義弟から、オンラインで夫に連絡があったのだった。
それは、「私のした酷いこと」に関することだった・・・
「花婿の、母。⑫」に続く
㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥㊥
気が向いたらコメントお願いします。
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私の気持ちは複雑だった。
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私のした「酷いこと」が、多少なりとも私が理解し反省できるものであって欲しい。 五分でも構わないからハナ子に正当性があって欲しい。 いっそ謝罪出来る状況であればすっきりする。 「タダの嫌がらせ」ではないのなら、まだハナ子を認められる。 夫の気持ちも随分楽になるはずだ。 見栄っぱでずうずうしくて私の夫のことを少しも大事にしてなくとも、曲りなりの理屈だけでも通して欲しい。 義母を、「一寸の虫以下のヤツ」と断じたくは無い。 何故なら夫の性格からして、何があろうとも「完全に絶縁」することはあり得ないから。 距離を置くことはあるだろうけど。
さて、キャンセルの可能性がある以上、コトは急いだ方が良い。 と言って結構なダメージを受けている夫を急かすのは躊躇われたが、幸い素早い行動を取ってくれた。
北京に戻ってきた翌日の夜、早めに帰宅した夫は夕食後、実家に電話をかけた。 電話を取ったのはハナ子。 前日の電話の際は義弟にキレられてハナ子とは話していない。
ごく普通の挨拶の後、夫が切り出した。 以下、中国語の会話。 例によって通話終了後に夫から詳細に聞いて再現。
「一昨日、弟から電話があったんだけど・・・」
義弟との会話について説明する夫。
「一体どういうこと? 具体的に話してくれなければわからないし、もし悪いところがあったら、きちんと謝罪すると言っているけど。」
「なんのことだかさっぱりわからないねえ。」
案の定な反応。 しばらく、同じような会話が続き・・・
「弟は結婚式に出ないと言ってきたし、昨夜の電話では兄弟の縁を切ると言ってきたよ。 原因がはっきりしているならともかく、一方的に俺の女房が悪いって言われて、何一つ具体的なことを言わないんじゃ、結婚式を取りやめるしかないな。」
ここで初めて慌てるハナ子。 エイヨォォォッ!何を言うんだい!と叫び、
「結婚式をしないなんてとんでもないことだよ! 外婆だってすごく楽しみにしているんだから! 弟の言うことなんて気にしないの。 ちゃんと出席するように私から言っておくから。 だいたいね、オマエの弟は頭がオカシイから、わけのわからないことを言うんだよ!」
以降、度々聞くようになる、弟の頭オカシイ発言。
ハナ子はこの言葉を、次男の心の状態は医者にかかれば深刻な病名のつくようなものである、という意味で遣っている。 だから虚言癖があると言いたいらしい。 私はその方面の知識なんて何もないけれど、見る限りはそんな風に思えない。 学校も恋愛もアルバイトも友達付き合いも、一応一通りこなしている。 我慢ができない、気に入らないことがあるとキレやすい傾向にはあるが、それはハナ子に甘やかされて育ったための甘ったれ病だろう。 夫とは年も離れているし、中国の所謂「小皇帝(一人っ子であるために大事にされすぎ、我儘放題に育った子供。 結構多いと聞く。)」みたいなもの。 第一本当に深刻な状態であるなら、母であるハナ子は何らかの適切な対処をして息子を支えるのがスジってもんだろう。 にもかかわらず専門医に相談に行きもせず、他人事のように「あの子は頭がオカシイから」。
一体どういうことだ。
次男は可愛がっていたのではなかったのか、ハナ子。
百歩譲って義弟に何かそれなりの問題があるとして、虚言癖の話なんてこれまで一度も家族親戚の誰からも聞いたことが無い、と夫は言っている。
嘘吐きはオマエじゃないのか、ハナ子。
まあこの段階でハナ子と話してもしょうがないので、夫はパパに代わってもらって、
「義鳥の叔父や、日本の家族と話してみて、理解を得られれば結婚式をキャンセルするつもり。 パパには大変申し訳ないけれど・・・」
パパは大変動揺し、しかしキャンセルしないでくれ、とは言わなかった。
「こちらでも三人でよく話し合います。 日本の家族のことも、ふたりでよく話し合ってください。 キャンセルの可能性があることは、私からも弟(つまり私たちには叔父)に伝えておきます。」
──────通話終了──────、と。
私に通話内容を説明しながら、府に落ちない顔をした夫。
「ハナ子、結婚式のキャンセルについては、本当にイヤそうだったんだよねえ。 でも弟の嘘だなんてありえないし・・・」
何が目的なんだろうねえ・・・と一緒に首をかしげる私。
「でも、本当にキャンセルになったら・・・おとうさん(私の父)怒るよね。 大事な娘の結婚式・・・」
私;「いや、頭ごなしに怒るひとじゃあないけど。 まあ、伝えるのはちょっと辛いね。」
「ごめんね・・・俺から言うからね・・・」
私;「説明は私がするよ・・・大丈夫。 でも、皆エアチケットや会社の休みはもう押さえてあるし、旅行だけはしてね! 上海・杭州ツアー! 面倒なことが無くて、観光としては楽しいよきっと。」
もちろん旅行はするけどぉ・・・と落ち込む夫。
私はと言えば・・・幸い私の関係者は理解してくれそうな面々であるし、こういう事態になったもんはしょうがない。 式の代わりに何か景気のいいこと、そうねえ盛大な上海蟹パーティなんかどうかしらねえ、とポジティブに切り替えていた。 もちろん個々に電話して事情説明してお詫びして、その上でツアーの案内をしなくちゃならず、それなりにパワーの要ることには違いなかったが。
この夜は既に電話をかけるには遅く、翌日の夜に、叔父に電話、キャンセル可能かどうかを確認することとした。 可能であれば、日本に連絡。 パパも話し合うとは言っていたけれど、どうなることやら。
ところが、翌日。
夜を待たずして、ことの発端を作ってくれた義弟から、オンラインで夫に連絡があったのだった。
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