北京ダック「日本鬼嫁・中国オニシュウトメ」日記。

再開しました。 私は今、夏に居ます。

ダック鬼嫁日記7 「電話の向こうのハナ子」

2006-02-28 | ㊥電話の向こうのハナ子
婚姻登録してから数ヵ月後。 
私は、北京でそれなりに平穏な生活を送っていた。
チョコチョコと中国語を習い始め、遊んでくれる友達を見つけて、買い物する場所などを確認し、地下鉄に乗れるようになり、バスに乗れるようになった。
ゴールデンウイークには里帰りし、北京の領事館で日本側の入籍も済ませた。 私の中国滞在ビザも無事新しいのが貰えた。

やれやれだ・・・と一息ついた頃、ハナ子から頻繁に電話がかかってくるようになった。 しかも、明らかに夫のワーキングタイムを狙ってかけてくる。 標的は私か。 内容はご飯食べたか、など普通の話なのだが、電話の頻度が尋常ではない。 一日おきか、下手をすると毎日かかってくる。
そして必ず言うことが「中国での生活はどうか。 大変じゃないか? 助けに行ってやろうか?」。 
意図するところは、「北京に遊びに行きたい」だ。
私の診立て(医者か?私は・・・)によれば、ハナ子は、自分の希望を口に出すことがとても嫌い
世間体或いは誰かのためになど、某かの大義名分無しには何かを申し出ることは無い。
言うまでもなく、奥ゆかしいのではなくただお高いだけだ。
「遊びに行きたい」と申し出る代わりに、「生活がすごく大変なんです、おかあさん助けに来てください」と請われて「止むを得ず、北京に行ってやる」という筋書きを望んでいるわけである。 だから電話の的は私、鬼嫁なわけだ。 夫に言ったところで「奥さんが居るんだから生活に問題があるわけないでしょ」と言われるに決まっている。
来たってどうせ家事一切私に任せっきりで、重たいものばかり買ってこさせちゃあ自分は食っちゃ寝して、北京にいるババ仲間をうちに持ち込み、息子は優秀でとか嫁はケーキ焼けるんですよとか見栄張り倒してカゲで日本の悪口言って挙句に孫はまだかって話題に行くに決まってる。
誰がそんな、アホくさい脚本を読んでやるものか。
私の答えは、いつでも「北京ライフ超バッチリっす! おかあさまのお手を煩わせる必要なんてチェアマン程もございませんです!」だった。 中国語出来ないので、実際はとてもシンプルに表現したけど。
遊びに来たいのならば、来たいと言うたらよろし!
腐っても(腐ってる。)家族なのだから、「来月遊びに行きたいけど」と申し出ても何らおかしいことではないし、そう言われたら、無碍には出来ない。 物凄く嫌ではあるけれど、顔は笑って心で中指立てて、受け入れましょう。

と、思っていたのだが。
そこはハナ子、この線で攻めるのが無理だと測るや、目的を代えた。

平日昼間の電話攻勢は、ある日を境にピタリと止んだ。
そして、休日にかかってくるようになった。
つまり、夫宛ての電話に切り替わったわけ。

「おまえたち、結婚式はいつやるんだい? かあちゃんは、おまえたちの好きにしていいと思っていたけど、もうじき90の外婆がそれはそれは楽しみにして(外婆って母方の祖母のこと)、孫の結婚式に出るのはこれが最後になるかもしれないって、だからねえ、一応形だけでも・・・」

こう言われると、は基本的に優しいやつであるから、弱いわけである。 ハナ子北京来襲についても、
「もうちょっと仕事が落ち着いたら、2週間くらい呼んでやろうと思うけど」
と、発言していたし、これについては私もOKしていた。

ともかく、ハナ子発言に端を発し、私たち夫婦は結婚式について考えざるを得なくなっていた。
これは、北京在住の私たちにとっては結構な難問だった。
何しろ親族友人仕事関係者は殆ど杭州エリアか上海、シドニー、或いは日本にいる。 北京の友人知人はまだ少なく、夫は忙しく、そして私は中国語が出来ない。
どうしろと言うのか。
挙式に憧れなどは無かったけれど、若くも無い二人(大人だという意味ね)が結婚したんだから、一応結婚式をして、世間様にご挨拶をした方がいいのかもしれん。・・・そういう気持ちはありつつ、式の手配のしようがないから式をしなかっただけなんだけど。
こんなことをハナ子に言えば、「じゃーオレが手配してやる!」と不必要に盛大な挙式に持ち込まれるに決まっているし・・・

私たちが悩んでいた折。
パパもまた、ハナ子からの圧力と息子夫婦の言い分に悩んでいた。 
そこにさっくりと救いの手を差し伸べてくれたのは、義鳥に住む小叔叔(パパの下の弟)だった。

小叔叔;「よかったら、準備してやろーか? 身内だけでやりたいと、兄ちゃんから聞いている。 義鳥でよければ、叔父ちゃんに任せなさい!」

ハナ子からすれば、式の規模には不満があるだろう。 でも外婆を式に出席させることは出来るし、場所もハナ子実家から車で30分圏と近くて皆に便利。 90に近いひとを、杭州やまして上海まで引っ張り出すよりはよろしかろう。

渡りに船。
ラッキー。

もっとも丸く収まる、平和への道を選んだつもりだった。