縁起を伝える扁額
京都木津川市山城町の「蟹満寺」を訪ねた。
この寺は、国宝の釈迦如来坐像と「今昔物語集」巻16に収められた、
蟹満寺縁起で有名な真言宗智山派の古刹である。
しかし、創建した者や年代が定かでない、謎の多いお寺でもある。
国宝の釈迦如来坐像は、初唐様式の2.6mの堂々とした仏像だが、
人間味を帯びたお顔で親しみ易く感じられた。
平安時代に大きな火災に遭い創建時の金堂が焼失し、同時にこの像も被害を受けたらしい。
平成2年、蟹満寺本堂の西側で調査が行われ、創建当初は広大な寺院だった事が判明した。
現在は本堂と観音堂などを残すだけの小さなお寺となっている。
今昔物語集等に書かれている「蟹満寺縁起」は、蟹の恩返しによって救われた娘さんの
お話で仏教説話として有名で広く伝わっている。
またこの寺は、毎年4月の蟹供養放生会でも有名で、カニ業者や一般の方々が参列して、
沢カニを放生し、その年のカニの豊魚と商売繁盛を祈願する。
本堂には、蟹と蛇の彫刻に彩色された額が掲げられている。
寺の門内横に立てられた、次の「報恩の教え」が印象的だった。
悟无(さとりな)き蟹だに 猶(なほ) 恩を受くれば 恩を返報(かえ)す
豈(あに) 人にして 恩を忘る應(べ)からむや