あの殺害実況を見守るというショッキングな暗殺・・。
■安保の政治利用 共和党は批判
【ワシントン=犬塚陽介】国際テロ組織アルカーイダの指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者殺害から2日(米東部時間1日)で1年を迎える。米情報当局は、「カリスマ」を失ったアルカーイダの求心力は著しく低下し、新たな大規模テロの可能性は低いと自信を示す。米軍のテロ戦略も大規模兵力の投入から少数精鋭部隊の投入に移行。作戦の成果を強調するオバマ政権に共和党側が「安全保障問題の政治利用」とかみつくなど、今秋の大統領選をにらんだつばぜり合いも激化してきた。
「米中枢同時テロのような新たな大規模攻撃を仕掛けられるとは思えない」
情報当局高官は、ビンラーディン容疑者の殺害後、アルカーイダは資金と組織力の両面で困窮しており、かつての勢いは「消えうせた」と自信を示している。
後任のアイマン・ザワヒリ容疑者は「カリスマ性に欠ける」(パネッタ国防長官)とされ、求心力の低下で組織の分散が進んでいるとみられる。
米当局が警戒するのは、独自路線を強める系列組織や、事前察知が困難な「一匹おおかみ」と呼ばれる単独犯の動向だ。
2009年のデルタ航空機爆破未遂事件では、イエメンが拠点の「アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)」が、単独実行犯を手助けしたことが判明。米政府高官も「ビンラーディンが死んでもテロの哲学が消え去ることはない」と述べ、テロ警戒と系列組織の壊滅の重要性を強調した。
ビンラーディン容疑者の殺害は、オバマ政権のテロ戦略にも大きな影響を与えている。昨年6月に発表した「対テロ国家戦略」では地上軍の投入を縮小し、特殊部隊の重用を明確に打ち出した。中枢同時テロのあった01年には3万3千人だった特殊部隊員は、12年2月までに6万6千人に倍増。関連予算も105億ドル(約8414億円)と01年比で3倍に達している。
国民に厭戦(えんせん)気分が広がる中、無人機などのハイテク兵器を駆使した精鋭部隊の投入は米軍の被害を最小限に抑え、最大限の効果を引き出せるとの計算もある。
今秋の大統領選をにらんだ綱引きも激化し、バイデン副大統領は4月26日の演説で「ビンラーディンは死んだ。GM(自動車大手ゼネラル・モーターズ)は生きている」と強調。公的支援で復活したGMと並べて政権の功績と胸を張った。
これに対し、08年の大統領選を争った共和党のマケイン上院議員は、安全保障上の決断を政治利用する「安っぽい宣伝」と批判。ブッシュ前大統領の次席補佐官を務めたカール・ローブ氏も「ほぼ誰でも同じ決断を下したことを実行しただけだ」と切り捨てた。
≪ビンラーディン容疑者殺害≫
■民家潜伏中の容疑者を急襲/パキスタンに事前通告なし/対テロ戦で不協和音も
2011年5月2日未明、米海軍特殊部隊(SEALS)が、パキスタンの首都イスラマバード北郊のアボタバードで、民家に潜伏していた国際テロ組織アルカーイダの指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者を急襲し殺害。作戦はパキスタン政府への事前通告なしに行われた。
米軍は遺体を直ちに北アラビア海に展開中の空母に移送し水葬した。
同居の妻の証言によると、同容疑者は05年半ば以降、アボタバードに潜伏。周辺にはパキスタン軍関連施設が多く、米政府内で、パキスタン当局が潜伏先を知っていたのではないかとの見方が浮上した。パキスタン側は反発し、対テロ戦協力をめぐり両国間で不協和音が生じた。
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