沈黙の春

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イランで浸透するアップル製品

2012-07-17 02:18:06 | 金融、経済

制裁と憧れの狭間で

ロイター 7月16日(月)14時24分配信

 
 
7月13日、米国による経済制裁が科されているイランだが、中東などにある裏ルートを使って持ち込まれるアップル製品への人気は高い。写真はテヘラン市内のコンピューターショップで1月撮影(2012年 ロイター/Morteza Nikoubazl)

[ドバイ 13日 ロイター] 清潔感あふれる店内には、米アップル<AAPL.O>の「iPod(アイポッド)」や「iPhone(アイフォーン)」、ノートパソコンにデスクトップ、そして最新の「iPad(アイパッド)」が並んでいる。ただ、RadanMacというこの店には普通のアップルストアとは少し異なるところがある。

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店があるのは、米国による経済制裁が科されているイランの首都テヘランだ。アップルだけではなく米国企業の製品の輸出は禁止されているはずだが、テヘランにはRadanMacを含め100の店舗が公然とアップルの製品を販売している。それも、米国での販売価格より少々高い程度だ。

「この3年間で景気が良くなった」。電話インタビューに応じてくれたのは、この店を経営するMajid Tavassoliさん(51)。1995年からアップルの製品をイラン人相手に販売しており、現在の従業員は20人以上だという。会社にはサービス部門や営業部門もあり、顧客はイラン中央銀行や国営テレビ、新聞社やデザイナーなど幅広い。

イランでアップル製品の販売が好調なのは、裏を返せばこの国に対する欧米諸国の制裁にも限界があることを示している。

欧米諸国による制裁は、イランの銀行や石油産業のほか、同国の核開発を支援していると思われる個人や企業が対象となっている。

欧米はイランの核開発プログラムを停止させようとしているが、イラン側は平和利用のためだとして互いの主張は平行線をたどっている。米企業は特別な許可がない限り、イランに対して製品やサービスを提供することを禁じられている。

しかし、消費財やコンピューター機器は別問題だ。もちろんこれらも禁輸措置が取られているが、イランの業者は中東などにある裏ルートを使って入手し続けている。

<ダウンロードへの険しい道>

イランのコンピューター関係の業者によると、同国では、アップルのコンテンツ配信サービス「iTunes Store(アイチューンズ・ストア)」への需要も急速に高まっている。イランの人たちは、国外の適当なアドレスを使ってアップルのアカウントを取得し、何かを購入する際は海外のギフトカードを使う。

なぜならイラン国内では、例えばiTunesから直接ダウンロードしようとすると、サービスがブロックされていることを示すエラーメッセージが出るからだ。

恋人のiPod用にiTunesのアカウントを作ってあげたというエンジニアのSinaさん(31)は、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使ってブロックをかいくぐり、カナダのアドレスでアップルのウェブサイトにアクセスし、iTunesからのダウンロードに成功した。

またSinaさんによると、イランの若者がiTunesで購入するのはゲームやアプリが多く、音楽はほとんどない。同国では音楽は海賊版が広く流通しており、別のところから音源を拾ってコピーする場合が多いのだという。

<浸透するアップル製品>

ひとたび人気に火がついたiPhoneやiPadは、今やイランで金銭的に余裕のある人たちの間で必需品ともなっている。最も売買が盛んなのは、イラン最大を誇るIT関連のショッピングセンターだ。イランではテクノロジーに精通する人たちが増加しており、ここでは350以上の業者が製品を販売している。

冒頭で紹介したRadanMacの競合他社の1つに、アップル・イランという企業がある。同社のウェブサイトは、本家アップルとほとんど同じ作りになっている。異なるのはペルシャ語である点と、「このサイトはアップル社とは一切関係ない」との但し書きがある点だ。事情に詳しい情報筋によると、アップルはこのサイトを閉鎖しようとしているという話もある。

同社の広報担当者Ali Afghah(28)さんは、2002年に初めてアップルのコンピューターを購入。今では友達や家族から「アップル・ガイ」と呼ばれるほど、アップルの熱狂的なファンだ。

アップル・イランもRadanMacと同様、顧客に大手銀行や国営放送、新聞社や雑誌社などを抱えている。Afghahさんによると、アップルのマックを使っている編集者は1000人は下らないという。これに対し、政府当局者やメディア関係者は、アップルの製品を使っているかどうかは明らかにしていない。

ただアップル・イランはここ数カ月、販売が落ち込んでいるという。欧米諸国がイランに科した追加制裁が原因だ。この新たな制裁によって、イランの自国通貨であるリアルは急落し、国際決済が難しくなっているという現状もある。

<低価格への挑戦>

RadanMacに話を戻そう。Tavassoliさんは以前、中東のコンピューター会社でアップル製品の修理技術者として働いていたが、同社がイランからの撤退を決めたため、RadanMacを設立したといういきさつがある。社名の一部である「Radan」には、ペルシャ語で「全てを正確に行う人」という意味がある。

撤退した会社が残したスペアの部品と数千ドルの初期投資でビジネスを始めたが、アップル製品への愛情で生計を立てていけるようになるまで15年かかったという。

「今の仕事が好きなんだ」と語るTavassoliさん。イランでは、経済制裁を科されているにも関わらず、仕事不足で困ることはないのだという。その背景には、最新テクノロジーに対するイラン人の愛があるからなのだとTavassoliさんは話してくれた。

しかし、売り上げの減少が悩みの種であることに変わりはない。Tavassoliさんは他の業者と同じように、香港やシンガポール、マレーシアの卸業者に直接発注をかけたいと考えている。しかし、今年初めからイランへの禁輸措置が厳しくなったことを受け、こういった直接発注が難しくなっている。大量調達となるとなおのことだ。

このため、ドバイやトルコを中継地点として使うのだが、それでは余計な税金や輸送費がかかってしまう。イランの税関を通過するのにも費用がかかる。携帯機器なら約4%、デスクトップのiMac(アイマック)など大きなものになると約60%の税率が課せられる。

それでもイラン国内での販売価格は、国外にある正規のアップルストアと比べても大きな差はない。最も低スペックのマックブック・プロは、テヘランで今月1250ドル(約9万9000円)の値をつけた。これよりも若干スペックの高い同じ製品が、ニューヨークでは1200ドル(税込み)で販売されていることからも価格差が小さいことがわかる。

アップル製品を販売するイランの業者は、発売開始から数週間のうちに最新モデルを入手し、手頃な価格で店頭に並べる。例えば海外で製品を購入した旅行者がイラン国内の業者に転売すれば、最新モデルでもイランで間もなく販売されることになるだろう。

予備の部品を手に入れるのも課題の1つ。RadanMacでは、安定して予備の部品を手に入れられないため、古いコンピューターを修理するのに新品から部品を取ってくることもよくあるという。

<届かぬアップル愛>

Tavassoliさんは今、自社開発したペルシャ語での教育ツールに力を入れているという。これまで開発してきたものの中には、iTunesで利用可能なiPhoneユーザー向けアプリもある。「顧客のニーズに全て応えることができれば、生き残ることができる」と語った。

Tavassoliさんの苦労は報われたかのようにみえる。しかし、人生を捧げてきたアップルと直に連絡を取れないことだけが、長く不満の原因でもある。

「私は何年もかけて、イランで4000台以上のマックを設置してきた」と話すTavassoliさん。「このことを知ったらきっとアップルは私に感謝するだろうが、向こうは私のことを知りもしない。それが本当に辛い。悲しいんだ」と漏らした。

(原文執筆:Marcus George記者、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)

*脱字を修正します。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120716-00000017-reut-bus_all



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