次の朝ぼくたちは5:30に起床し荷物の撤収と沢登りの準備をし、7時に行動を開始した。沢登りというのが一体どういうものなのかぼくはまだよく知らず、少し緊張していたかもしれない。新品の沢靴を履く。沢靴の裏はごしごししたフェルトで出来ていて、濡れた岩のグリップがいいらしい。ぼくたちは膝まで沢につかり、ざぶざぶと歩いていった。
しばらく行くと突然15mの滝が現れた。これが今回の一番の難所だという。Tさんが最初にのぼりザイルを垂らしてくれた。それをぼくのハーネスに通し、安全を確認してからロッククライミングに取り掛かった。Tさんは何事も無いかのようにするすると登ってしまったが、ぼくには一箇所どうしても登れないところがあった。登ることも降りることもできず、だんだんと腕のちからが少なくなっていくようでぼくはちょっと怖くなった。結局Tさんに少し引っ張ってもらってその場をやり過ごしたのだけど、「コ、コ、コ、コレがクライミングというやつか!」と実に恐れ入った。沢をやる人ってほんとスゴイ。
ワンゲルの二人はほんとすごくてどんなところでも平気でするすると登っていってしまう。ぼくはびしょびしょになって両手両足をフルに使って岩にのぞんだ。この五感をフルに使った動きと、山がその奥に隠している景色は充分なご褒美だった。最初は冷たかった沢の水も、体温が上がるにつれて実に気持ちよくなった。喉が渇けば顔を岩に近づけて、流れてくる水をガブガブと飲んだ。本当に混じりけのない、美しい水である。そしておいしい。
途中、沢の水が綺麗なプールになっているところで一休みして、昼ごはんのインスタントラーメンを食べた。念のため、と思って持ってきたカヤック用のドライバックが役に立った。友達も、それほしいな、といっていたし。
がんばって登っていくにつれて少しずつではあるけど植生が変わってきて、高山植物が生えるようになってきた。だんだん沢の水も水量が減ってきて、最後は実にかぼそい流れになった。見上げると樹木はほとんど生えていない。気温も幾分さがったようだ。そしてさらに登ると、とうとう水が無くなった。沢を登りきったのだ。最後の藪を抜けてぼくたちは山の稜線へたどり着いた。午後1時であった。標高1800mだというから、沢を700m登ったことになる。
稜線からの眺めは素晴らしかった。山の上にある池が見える。那須岳の噴煙が見える。薄い雲が中腹まで隠し、雲から突き出た山頂だけが見える山もある。とても幻想的だ。なんというか、日本の山にはとても力がある。アメリカのヨセミテなんかにも確かに神秘的なダイナミズムがあるけれど、日本の山にはうねりのような、奥に宿されたエネルギーを感じる。素晴らしい。
ぼくたちはキャラメルを食べて稜線に沿って下山を開始した。大所帯のパーティがハイキングをしている。「沢を登ったあとに普通の山歩きをしている女性に会うと全員貴婦人に見える」とKさんがいう。沢を登るとどうしてもなりが汚くなるからだそうだ。
この、下山が地味にキツかった。着実に体力が減ってくるのが分かる。それでも歩く。ひざが笑ってしまう。これで体調の悪い人がいたり怪我をした人がいたらビバークをするしかないのだろう。やっぱり非常食や水、レインウエア、タープなど最小限の準備は必要なのだと思った。
途中、山小屋で休憩を入れる。温泉があるらしいのだけれど、宿泊客のみしか入浴できないということであった。ぼくたちはそこからさらに山を下り、ようやく車まで戻ってきたのであった。ぼくももっと体力をつけなくちゃいけないなあ。泥だらけになった靴を履き替えていたら雨が降り始めた。なんという幸運なタイミングだろう。
帰りは近くで温泉に入り(みんなお湯につかりながら寝てました)、銀だらの焼き魚定食を食べ、つくばに戻ったのであった。日本の山は素晴らしかった。また違う山に挑戦してみたいのである。
自分の力で進んでいって、「あそこに着いたら何が見えるんだろう」っていう感覚がシーカヤックと似ているなあと感じました。
8月、ぜひ山に行きましょうね!
もちろん出来たらシーカヤックもぜひ一緒にやりましょう!