水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

11月の西伊豆キャンプ その1

2008年12月14日 | キャンプ

11月15,16と、西伊豆にキャンプツーリングに出かけた。ツーリングの前の一週間はいつもにもまして天気予報が気になった。ずっと行きたい行きたいと思っていた場所である。それに久しぶりのソロツーリングとなれば、なお気持ちが入ってしまうというものである。当日の朝、家の近くのレンタカーやさんでトヨタのコンパクトカーを借りた。テントやら寝袋やらをぎゅうぎゅうに押し込まれて、まるでフィッシャーマンズ・ワーフで昼寝をしているアザラシみたいにまるまるとしたウィスパーのザックを、荷台にゴロンと転がしてバタンとドアを下ろす。カーナビの目的地を西伊豆の岩地に設定する。準備完了。さあて、出かけますか!



正午を少し回ったところで目的地に到着。わあ、綺麗なところだなあ。岸壁にはさまれたそれほど広くない空間に真っ白な砂浜が弧を描いている。わくわく。ぼくはそのへんでテキパキとフネを組み、キャンプ道具をフネに入れ、西伊豆の海に漕ぎ出した。

「西伊豆ー!こんにちはー!」とこころのなかで叫ぶ。すべての海は繋がっているけれど、初めての海域を漕ぐときはいつもそんな気分になる。

今日は北東から東よりの風ということで、西伊豆のコンディションはバッチリだった。天気予報文に「○○の風やや強く」の、「やや強く」が出てると出てないのでは大きく違うと思う。出てない時の海況は大抵よい。出ている時は要注意で、「○○の風強く」の時は海に出ても危険だし、楽しくない。その日の風は弱く、曇りで肌寒かったけれど、シーカヤッカーとしては御の字の天気であった。



ぼくは岩地を出て南へ向かった。すぐに複雑な海岸線が視界に広がる。岸壁にはまだ崩れて間もないと思われる石の塊が積み重なっている。溶岩の固まったような色をしている。伊豆半島というのは火山活動が活発なのだろう。温泉もよく出るわけである。



このあたりの海岸線はなんと変化に富んでいることだろう。荒々しく突起した土地が海面上昇で沈んで今のような造形になったのだと思われる。南に向かって進めば進むほど人里からみるみる遠ざかって行くようだった。

それにしても今日の海は漕ぎやすい。穏やかな海に浮かんで見上げる伊豆の景色は壮大であった。自然とはなんとエネルギーに満ちた場所だろうと思う。それに比べて、吹けば飛ぶような小舟に乗っている自分はなんと小さな存在だろうと思う。舟を漕いだ日は、自分がわずかに自然の大きさに近づけたような気持ちがする。

波勝(はかち)崎の少し手前、そのあたりで唯一上陸ができるという小さな入り江に入り、ゴロタ浜に着岸した。いいところである。いいところだなあと思ったそのときである、忘れ物に気がついたのは。どうやら車にテントポールを忘れてきてしまったらしい。あぁ、テントポール!テントポールなんてなくてもどーとでもなるといえばなるのだけれど、つまりぼくはここで選択を迫られたことになる。

1.テントポールはない、そしていい浜があるとも限らない、けど先に進む。

2.テントポールを取りに帰り、行きにめぼしをつけておいた浜ですこやかに寝る。

なんとゆうかこの、男の尺度を測られているかのような選択問題にぼくは悩み、しゃがみこんで地面に数式などを書き連ねた結果、ぼくは少しアゴを上げてクールに言い放った。「戻ろう」

ぼくは来た方向にバウを向けた。来た道を戻るのはしんどかったけれど、その日の夜、冒険を手放したぼくは安眠を手に入れることが出来たのだった。人間、なかなか大きくなれないものである。