水に浮かび物思う

カリフォルニアの海でカヤックに出会う。キャンプやハイキングの話も。

Mendocinoでキャンプ その1

2007年04月11日 | キャンプ

3月の最後の方の週の半ばに、職場を休んで一泊二日のキャンプへ出かけた。場所は北カリフォルニアのMendocino(メンドシーノ)。太平洋に突き出した岬にあり、コーストラインが美しいことで名が高い。また複雑なロックガーデンがあり、シーカヤッカーにはとりわけ有名な場所である。ずーっと行きたいなーと思っていたんだけど、いかんせんちょっと遠い(片道車で4時間くらい)ので後延ばしにしてきたのだ。

できればカヤックを漕ぎたい。ツアーをやってるアウトフィッターを探してみたんだけど、なかなかスケジュールがあわない。ネットで情報を探していたら、入り江の波のない場所でならカヤックをレンタルしてくれるところがあると分かったので、そこで漕ぐことに決めた。レンタルは気楽でいいや。いつも水曜日の夕方に一緒にカヤックを漕いでいる連中に、今度メンドシーノに行くんだーと伝えたら皆口をそろえてそれはいいねーと言ってくれた。これは楽しみである。

出発の日。いつもの通りシンプルなキャンプ道具をシビックにつめてハイウェイにでる。リッチモンドの橋を使ってノースベイに渡り、そのまま海岸まで出る。ちょっと時間はかかるけどやっぱり景色の美しい海岸線を走りたい。あーいつだかここでキャンプしたなーとか、あっちでもキャンプしたなーとか考えながらぼくは運転した。ベイエリア(サンフランシスコ湾の周辺のエリアをこちらではこう呼ぶ)で、まるで犬のマーキングのようにあちこちでキャンプをしてきたのだけど、その様々なキャンプの思い出がフラッシュバックする。さあ今回はどんなキャンプができるんだろう。



海岸線をぐんぐん北上していく。ワインディングした道はその懐の奥に息を呑むような美しい場所を宿し、また、やわらかな道の上がり下りは太平洋のうねりを思わせる。大きな川が海に流れ込んでいる場所ではパーっと視界が広がり、えも言われぬ自然の造形美があった。海から突き出した猛々しい岩に、音が聞こえるほどの勢いでぶつかり砕ける波。白い飛沫が驚くほど高く、またゆっくりとあがる。ぼくは静かに興奮していたように思う。忘れたくない、とぼくは強く思った。

途中にあるGualalaという不思議な響きを持つ町で止まり、ガソリンを入れて鄙びた(ひなびた)レストランに入った。その店では7ドルでハーフパウンド(約220g)のバーガーを食べさせてくれた。安い。ポテトもピクルスもうまい。縦に分厚いご機嫌なバーガー。これがアメリカで食べる最後のバーガーかもしれないと思うと、ひじをテーブルに乗せしげしげと断面を眺めてしまうぼくだった。

感慨深いバーガーを食べ終え、再度出発した。時々オーバールックで車を止め写真を撮ったりした。求める地は遠く、メンドシーノに着いたころは既に夕方に近い時間になってしまったが、一通り町の様子を見て、ウワサのロックガーデンを絶壁の上から眺めた。たしかにこれは今までに見たことのないすごい景色である。岩と岩の間の海流の流れがすごい。うーん、これはちょっとシーカヤックはきつそうだ。海況がよければ楽しいだろう。フネの上からこの景色を見てみたいものだ。



ぼくはそこから少し離れたステイトパークのキャンプ場へ向かった。



無人のステーションで定められた金額を封筒に入れて専用のスロットに入れる。今日利用するキャンプ場はVan Damme State Parkにある。割と利用者は多かったが、端っこを陣取ったぼくのサイトはずっと静かだった。森が海の近くまで迫っているこの辺りではカリフォルニアにしては湿度が高いようで、夕方のこの時間は時々刻々と気温が下がっていくのが分かった。ぼくはサーマルアンダーを着込んで上着をはおった。キャンプサイトに着くといつもそうするように、公園の周りを散策した。体が温まったところで、テントを張って食事の支度にかかる。



缶詰の牡蠣をVictrinoxであける。缶詰だけど、これがうまいんだ。缶を空けて中の液体をコッヘルに流す。クーラーボックスで冷やしておいた白ワインを取り出す。これは先日ナパバレーで買い求めたBeringerのChadnnay。これもVictrinoxであける。コクコクと音をたてて酒がコップに注がれる。不気味といわれようが何といわれようが、これは微笑みがこぼれてしまうというもの。牡蠣を塩コショウにつけ、口に運ぶ。そして目を細めて(細める必要はありません)ワインを頂く。至福の時である。清涼感の奥に微かなコクがある、うまいワインだ。こういうワインはつるつるっと呑んでしまって後で後悔しそうな気もするのだが、手は別の生き物のようで、構わず次を注ぐ。

ヘッドランプの明かりで日本語の推理小説を読む。ヘッドランプって必需品だよなー。ランタンは使わない時の方が多いが、ヘッドランプは必ず使う。

しばらくそうやって呑んだ。途中で薪を組んで火を入れる。テーブルとファイアーピットの距離がちょうどよく、暖をとりながら冷たいワインをクッと呑む。これがまたいい。さきほどコッヘルにとっておいた牡蠣のスープに水を足して米を入れる。野菜たっぷりのおかゆ(おじやかな)が今夜のメニューだ。保温に入る直前になべに牡蠣を放り込む。残った牡蠣はワインと一緒に頂く。程よく温度が下がったところでサラサラとおかゆを食べ、焚き火をいじり、また本とワインに戻った。



夜、一人森の中で推理小説は読むべきではないと知ったのはそれからしばらくしてからだった。外界と閉ざされた館の中で次々におこる殺人。雷雨の夜。軋む廊下。読み終えるには先は長いし、放り出すにはその本は面白すぎた。こうしてアホな酔っ払いを一人抱えたまま、現実の森は夜の闇に溶け込んでいったのであった。 (つづく)


【報告】 アメリカでの仕事の契約が終了し、日本への帰国が決定しました。引越しやら何やらで忙しく、しばらく更新が不定期になるかもしれません。日本でもぼくに合う遊び方を見つけて、このブログに記録を残していきたいと思います。