夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

月下葡萄に鷹図 天龍道人筆 その36

2018-05-17 00:01:00 | 掛け軸
天龍道人の出来の良い作品がなかなか見かけなくなりました。当方でも今回の作品紹介で「その36」となり、ひと通り年代別や画題別に揃ってきたことから厳選して天龍道人の作品を蒐集する段階になってきたことと、市場の作品の手薄さと相まって出来の良い作品の入手が難しくなってきています。

そのような状況下で本作品のように興味深い、出来の良い珍しい作品が入手できたことは蒐集する側には嬉しいものです

本日紹介する天龍道人の作品には落款に「天龍道人九三王瑾画」とあり、印章には「天龍王瑾印」の白文朱方印と右下遊印に「三国一家」の朱文白方印が押印されています。

天龍道人は92歳、文政6年(1809年)脚疾を患っており、文政7年(1810年)の8月21日に亡くなっていますので、没年近い時期の貴重な作品になります。

なお晩年には自ら三国一家(三国一:日本・唐土・天竺の中で第一であること。世界中で一番であること)と呼称しており、「三国一家」の印章が晩年の作品には押印されております。さらも天龍道人には珍しい絹本に描かれており、その点でも貴重であり、もちろん出来も良く、晩年の佳作と言えると思います。

月下葡萄に鷹図 天龍道人筆 その36
絹本水墨淡彩軸装 軸先骨 合箱
全体サイズ:縦1695*横450 画サイズ:縦1020*横330



*手前には古備前の壺を置いてみました。

佐賀県立博物館の所蔵されている「葡萄図」には「鵞湖折脚仙九十一歳天龍道人王瑾」の署名があり、最晩年の91歳の作品と判明している作品です。

この作品「葡萄図」の賛文を読み下すと、「かつて葡萄を描くもの、果を描き、花を描かず。われはこれ新様を写し、千載一家をなす。」と記されています。

賛文をふまえて、この作品の葡萄をみると、点描風に描かれているのは果実ではなく、花であり、花が咲いた状態の葡萄を描いた珍しい作品といえます。葡萄を描く場合、実をつけた状態で描かれるのが一般的ですが、天龍道人は花の状態を描いており、そのことを賛で、これまでにない新しい葡萄画を描き「一家をなす」、と自負しているようです。本作品はこの作品「葡萄図」よりさらに2年後の作で、葡萄と月、鷹を描いた非常に貴重な作品といえるでしょう。

*月や葡萄にはさすがに筆遣いに壮年期のような「きれ」はありませんが、鷹の部分には創生期のような力強さがあります。

 

また鷹の絵については文献では「70歳頃の作品が綿密に描かれ、90歳頃になると平坦な描き方になっている。」と評されていますが、本作品を観る限りその評はあてはまらないようです。最晩年のもっとも枯淡の現れた作品でありますが、非常に鷹を綿密に描いた作品であると思っていいます



根津美術館発刊「天龍道人 百五十年記念展」の解説には「葡萄図は八十代、九十代に於いて独自の境に入り完成した。」とあります。



さらに93歳の葡萄図の賛に「天下無人知我者 総道只葡桃先生 看画不敢論工拙 東西各自伝虚声 我幸好以有此癖 風流一世得遯名 鵞湖折脚仙九十三歳天龍道人王瑾併題書」とあり、ほぼ上記の記述の同様の心意気がうかがえます。

老境に入ってますます旺盛にして、本作品は一代の傑作であり、初期の五十代、六十代の作とは別人の観があります。壮年期の作品を凌ぐものであることは、磨き上げた芸術の偉大な力と言えるかもしれません。



ところで天龍道人の鷹の作品は鷹の腹部の文様が縦のものと横のものがあります。若い鷹は縦の縞文様となり、成鳥になると羽が生え変わり横の縞文様となることから、天龍道人は鷹の若鳥と成長した鷹を描き分けていたと思われます。



ちなみに本作品は「横の縞文様」であることから、鷹の成鳥を描いた作品です。



もはや93歳・・・、繰り返しになりますが、その年齢でこのような作品を描いたことには驚きを感じえません。



月の光の輝く鷹の羽・・・・、月の円をきれいに描く筆遣いはもやは無理でも、それがかえって枯淡の作となり、若々しい鷹の描き方との対比が面白い作行となっています。



晩年、自ら「三国一家」と呼称し、「三国一家」の印を本作品中に押印しています。天龍道人の作品はそのほとんどが紙本の作品ですが、本作品は珍しく絹本に描かれています。鷹と葡萄と月が一緒に描かれた作品もまた非常に貴重です。

 

さて、穴があいてちょっと痛んだ表具・・・、このままか、締め直しかするか改装か・・・、迷うところですが基本的にはこのままを良しとすべきでしょう



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