夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

立美人図 伝三畠上龍筆 その2

2018-08-07 00:01:00 | 掛け軸
肉筆浮世絵の分野は正直なところ当方の蒐集においては一歩外に置いています。非常に贋作が多く、また高値であることが大きな理由ですが、美的観点からは退廃的な作品が多く、優れた作品が数が少ないというのも蒐集から一歩外にある理由のひとつです。また美人画が多く、蒐集する人には男性が多く偏執的な蒐集家が多い?というのも理由かな?

時代では江戸後期の歌川派以降は美人画は退廃的な作品ばかりとなりました。国貞以降は菊川英山を含めて退廃的となり、観るべき作品は一部を除き皆無といっても過言ではありません。「退廃的」という表現は心外と思われる浮世絵ファンもいるでしょうが、このことはは客観的な事実です。

美人画の歴史を論じている著書でも「文化・文政期以降になると渓斎英泉や歌川国貞などが描くような嗜虐趣味や屈折した情念を表すような退廃的な美人画が広まる。これらは江戸での動きだが、京都でも源琦や山口素絢ら円山派を中心に、京阪の富裕な商人層に向けて盛んに美人画が描かれた。19世紀初期には祇園井特や三畠上龍のように独特なアクの強い表現の絵師も現れる。」と表現されています。

本日は上記記事にも記載されている上方肉筆浮世絵の代表格の三畠上龍の作品と思われる作品の紹介です。あくまでも「伝」ですのでご了解ください。

立美人図 伝三畠上龍筆
紙本着色軸装 軸先蒔絵 合箱
全体サイズ:縦1972*横548 画サイズ:縦411*横987

 

幕末の古伊万里皿を前に飾って掛けてみました。

上方浮世絵は江戸の浮世絵とは全く違う発展を遂げているようです。江戸でいう浮世絵とは一枚刷りの版画や版本などの「版画」が中心ですが、肉筆浮世絵は高級志向の一部の愛好者のため、あるいは絵師のこだわりで描かれました。

しかし上方では版画と言えば版本のみであり、鑑賞用の一枚絵には肉筆画が求められました。鑑賞するなら版画は嫌だという思い入れがあったかもしれません。つまり絵師としての活躍の場が版本と肉筆に絞られた背景のもとで発展してきました。それだけ絵師は腕を競い合って肉筆画を描いており、そこには日本画家、浮世絵師という区切られたジャンルが存在しなかったとも言えます。一枚刷りの版画とともに発達したのが肉筆画と考えるなら、上方には浮世絵が存在しないとも言えるかもしれませんね。

三畠上龍の説明資料として下記のものがあります。

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三畠上龍:(みはた じょうりゅう、生没年不詳)。江戸時代後期の天保期を中心に活躍した浮世絵師。

四条派の岡本豊彦の門人であったが、後に上方風俗画を描いた。京都に生まれ、岡本豊彦に絵を学んだのち大坂に住み、浮世風俗を写して一家を成した。

横山乗龍、上龍、乗龍、乗良、襄陵、真真と号す。「乗良」、「襄陵」の号から本来の読みは「じょうりょう」が正しいと考えられる。姓は三畠とされるが、それを証明する確実な資料はない。ただし「上龍」印を捺した作品の落款にしばしば「横山乗龍」の署名があることから、少なくとも横山姓を名乗っていたことは確認できる。

 

主に天保期に活躍し、肉筆美人画を専門とした絵師として知られる。天保15年(1844年)刊行の『近世名家書画壇』に、「今世又京師に乗龍、江戸に国貞あり」と記され、天保の頃には既に名声を得ていたことがわかる。また弘化4年(1847年)刊の『京都書画人名録』では、既に故人とされている。



四条派の洒脱な様式を受け継ぎその花鳥画を巧みに織り込みつつ、美人の着る衣装の描写において荒く勢いある粗笨な筆を使い、華麗な色調と磊落さを合わせ持つ独特な一人立ちの美人風俗画を多く残している。「明石駅立場図」は須磨明石街道を描いたもので、立場茶屋の様子を細かく写しており、その手腕を大いに発揮しているといえる。またその風景の描写も大変優れたものである。門人に吉原真龍がおり、その画風は幕末の上方美人画の基調となり、その影響は上村松園ら近代の美人画にまで及んでいる。



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この当時の上方肉筆浮世絵の大きな特徴は唇にあり、上唇の輪郭は紅色で内側は白っぽく描き、下唇は緑色で笹紅という特徴のある描き方になっています。これは上方浮世絵の一派の大きな特徴ですが、どうして統一的な描き方が主流として定着したかというと当時流行した化粧方法であったことが原因としてあるようです。18世紀後半から19世紀初期頃からこのような描き方が多くなり、本ブログでも紹介されている祇園井特の作品から顕著になります。



これをもって当時の上方浮世絵師らの作品の真贋のポイントとすることが多いようです。



あわせて眼の描き方など、どうしても美人画は顔中心にその見極めとなりますが、上方浮世絵の鑑賞のポイントは私は着物などの大胆な構成にあると思います。とくに四条派の影響を受けている三畠上龍は優しい顔立ちとその衣装構成によって理想形の美人画を生み出しました。



写真では解りにくいのですが、髪飾りや襟元を中心に銀彩が施されたおり、非常にあでやかなっています。



着物をよく見ると雑な描き方のように見えますが、桜に千鳥を中心に描かれ、金泥をあしらいながら、全体にシックで格調高い作品になっています。



着物の絵の構成が大胆なゆえに人物全体を大きく見せています。上方浮世絵は顔立ちに、小物に、しぐさにと、上方ならではの美しさがあります。



本作品は保存箱もなく、題名は解りませんので仮題として「立美人図」としましたが、三畠上龍には「扇美人図」という著名な作品がありますね。



こちらは舞扇であり、芸妓か太夫か? 内掛けを独特のまといかたをしているようです。



赤い帯の千鳥が印象的です。



よくみると銀彩がゴージャス・・。写真では胡粉のように見えますが、実際はきらきら輝いています。獅子がかわいい!



表具も作品に良く似合っています。



保存箱がないのですが、保存状態は良い方でしょう。表具は改装されている可能性があります。



三畠上龍の作風は門人の吉原真龍、如龍に受け継がれていきますが、三畠上龍には及ばないものとなっています。



絵の具が剥落し始めていますので、太巻きにして保存するのが望ましいのですが、そこまで費用を費やすべき作品か否かを見極めているところです。



軸先は定番の蒔絵のようなものとなっています。

三畠上龍の似たような作品に下記の作品があるようです。



印章は白文朱方印の「襄(乗)陵」(号のひとつ)と思われますが、作例には白文連印はありますが、この単印は当方の印歴の資料がありません。「乗龍」など他の読みかもしれませんが、確認の必要があります。

前に紹介した「清涼美人舟遊図 作者不詳(伝三畠上龍筆)」の作品の朱文白長方印も読みは不明です。これらの印の確認ができないことが「伝」の大きな理由のひとつでもあります。

下の写真が「清涼美人舟遊図」との落款・印章の比較です。「清涼美人舟遊図」は元の落款を消して上書きした?可能性もあります。



上記の右の落款と印章のある作品「清涼美人舟遊図」は、不確かな作品として本ブログにて投稿しており、むろんこちらも三畠上龍という断定はできていませんと。

清涼美人舟遊図 作者不詳(伝三畠上龍筆)
絹本着色軸装 軸先木製 合箱
全体サイズ:縦1650*横430 画サイズ:縦830*横328



三畠上龍や吉原真龍の作品の特徴は唇描き方が笹紅色という「下唇は笹紅の緑色に、上唇を輪郭は紅色で内側は白っぽく描き、笹紅を描かなかったとしても、上唇の真ん中に紅の線を入れたり、濃淡を入れて描く」という描法です。

本日紹介した「立美人図の作品に比べて「清涼美人舟遊図」の作品は唇の部分が希薄になっていますが、これはよくあることで絵の具が剥落した恐れがあります。



着物の描き方が雑になったように感じますが、このような作風は三畠上龍の晩年の作?と思われる作品にはあります。なんといっても帯の特徴的な描き方は三畠上龍の描き方そのものでしょう。一概に贋作とは決めつけないほうがいいと思っています。

贋作を真作とするのはまだ罪がありませんが、真作を贋作とするのは大きな罪です。なんども鑑賞してからの結論とするのが私流です。

ところで以前に下記の作品の吉原真龍の作品を投稿したところ、その真贋についてコメントを複数の方から戴きました。

蛍狩り美人図 伝吉原真龍筆 その2→真作



その唇の特徴や顔立ちから贋作という方と真筆という方がおられましたが、当方の判断は真筆であろうと判断しました。真作とのコメントのとおり唇部分は絵の具の剥落によって後日、後筆されたというのが正しいと思います。



実際に飾ってみるといい作品であると感じることができます。



同時にもう一作品には上記の作品にコメントを戴いた両名から出来の良くない作品と判断されました

立美人図 伝吉原真龍筆 その1→贋作

 

この作品は落款がなく、印章がうっすらとあり、その印章が「真龍」と読めるものです。これは印章を後日押印したことでご指摘のように「真龍」の贋作となった作品でしょう。如龍の作風に似ていることからその頃に描かれた無銘の作品だったのでしょう。

*如龍からは上方浮世絵もあきらかに退廃的になりました。

肉筆の浮世絵のいい出来の作品の真作はそうは市場の出回らないものです。海外に流出した作品も多く、上方浮世絵、本日紹介した三畠上龍の作品についても数多くが海外に流出しています。ただし現在はそれほど評価は高くないのが実情のようです。

*ちょっと怪しげな作品を紹介すると「本ブログは贋作だらけ」という心外なコメントが投稿されますが、それも蒐集する者の偏執的な面の表れとして、また貴重なアドヴァイスとして受け流しています 真贋の論争は当方の望むところではありません。

そもそも本ブログはSNSとは違い、中傷するような軽薄な文章はお断りしていますのでご了解ください。それと海外からの英文での問い合わせには一切応じておりませんのでその点もご了解願います。


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