origenesの日記

読書感想文を淡々と書いていきます。

河合祥一郎『謎ときシェイクスピア』(新潮選書)

2008-04-28 20:14:46 | Weblog
ウィリアム・シェイクスピアという人物が存在したのはほぼ事実であろうと思われる。しかし学も教養もないはずのウィルがなぜあのような文学史に残る劇の数々を残せたのか。この疑問に答えるべくして、18世紀以降、様々な別人説が唱えられてきた。シェイクスピアではなく、別の人物が『ハムレット』や『マクベス』を書いたとする説である。
別人説の中で最も有名なのは、フランシス・ベーコン説であろう。高名な哲学者が実はシェイクスピアの演劇を書いていた、という説はミステリとしては刺激的ではあるが、ベーコンとシェイクスピアの間の文体的な共通点はあまりなく(生きた時代くらい)、実証性に乏しい。しかし、ホイットマンやラルフ・ウォルドー・エマーソン、数学者カントールなどはこのベーコン説を支持したという。
おそらく次に有名なのは、クリストファー・マーロウが実はシェイクスピアの劇を書いていたという奇説である。マーロウが死んだ年とシェイクスピアが劇作家として有名になった年は奇妙に符合する。このことから、若くして死んだマーロウが実は生きていて、シェイクスピアの劇を書いたという説が生まれた。これはベーコン説と比べても奇妙すぎる説ではあるが、さすがに無神論者のマーロウとシェイクスピアを一緒にするのは無理があるようと考えられる。
著者が推しているのが、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアが実は作者であったという説である。この説は別人説の中では最も説得力のあるものだという。エドワード・ド・ヴィアはエリザベス1世の臣下であり、親カトリックであったためにフィリップ・シドニーと対立した人物でもある。この説は名優オーソン・ウェルズが支持したことでも有名であり、またシェイクスピア学者でも支持する人がいるという。