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7月の課題本 澤田瞳子『日輪の賦』

2016-06-29 16:31:40 | ・例会レポ

澤田瞳子『日輪の賦』
幻冬舎 2013年
幻冬舎時代小説文庫 2016年6月10日発売

このままでは、この国は滅ぶ。
ときは7世紀終わりーー古よりの蔑称「倭」の名に甘んじる小国は、海を挟み強大化する唐と新羅の脅威にさらされている。
国家存亡の危機を前に、改革を急ぐ女大王・讃良(さらら)と、それに反発する王族・豪族たちの対立は激化していた。一刻も早く、唐・新羅に対抗できる強力な中央集権国家を成立させなければ、国の明日はない。遅々として進まぬ律令編纂作業を横目に、讃良により新たなる律令の編纂が密かに命じられる。「倭」に代わる新たな国号、「大王」に代わる新たな名を高らかに記した完全なる律令が完成する直前、ある恐ろしい謀略が動き出したーー。 (Amazon 内容紹介より)  

==例会レポ==
 梅雨も明けて夏本番となった7月末、今回は人数少な目で参加者9人のこじんまりとした例会でした。

 今回は課題本の推薦者(本レポートの執筆者=私です…)が仕事で遅れたため、まず最初に菊池講師から解説がありました。要点は以下の通りです。
 「日輪の賦」が題材としている古代は読者からすると読みにくく売れにくいジャンル。だが著者の澤田瞳子さんはその古代を題材とした「孤鷹の天」でデビューをした作家。「日輪の賦」では持統天皇の時代を描いているが、この時期を題材とした作品としては坂東眞砂子「朱鳥の陵」や三田誠広「炎の女帝」、漫画だと里中満知子「天上の虹」などがある。これらの作品からは、作者が持統天皇という人物と向き合った時にどういう手法で彼女を造形しようとしたかという方法論の違いを読み込むこともできる。
 また、当時の東アジアの政治情勢などの解説もいただきました。


 そしてその後本題に。読了した参加者の総評としては「読みやすくて面白かった」という肯定的な意見が多数を占めていました。中でも具体的な評価ポイントとしては、
*情景描写の言葉を良く知っているし美しい。文章が好き。
*官職や登場人物の名前などを大和言葉に全て変えていて、適度にその時代の雰囲気を伝えている。
*鍛師の五瀬の存在や、不比等が草壁王子から太刀を賜ったと偽ったことなど、しっかり史実に基づいているエピソードも多く、作者は色々と勉強していると思う。
*正史の裏でどんなことが起こっていたのか、本当っぽい嘘、嘘っぽい本当という歴史小説・時代小説ならではの面白さがある。
*ナショナリズムをくすぐる話ではあるが、現代のナショナリズムとは違う。純粋に国を良くして行こうという視点で、天皇も機関とする方向に向かっていく。理想に燃えて改革しようとした人がいて、一方でそれを阻止しようと暗躍した人がいた。そのぶつかり合いのドラマとして良くできている。
*中央と地方、貴人と庶民、倭(日本)=国内と朝鮮・唐=外国、と内の視点と外の視点を対比させて、時代を浮き彫りにする手法が面白い。
といった点が挙げられていました。

 ただ少数派ながら否定的な意見もありました。具体的には以下のようなものです。
*若い男性の一人称が「僕」であるなど、どうしても表現に違和感のある部分があった。そのせいで、ストーリーに入り込めなかった。
*若い男性のお仕事小説・成長小説という面があるが、それにしては登場人物が良い子過ぎる面がある。
*状況を頭で思い浮かべながら読まされる感じで、読んでて手が止まってしまった。
*辻褄の合わない不自然なシーンが散見された。また、メインストーリーの脇のサブストーリー・エピソードが雑な印象。

 そして、読書会中にも講師からもいくつかコメントがありました。
*忍裳の気持ちを最後に直接書きすぎている。これはストーリーの中で書くべきだった。
*様々な立場の登場人物の視点を提示し、複眼的・多眼的にその時代を見せるのがこの小説の核心部分。中央と地方という構造だけでなく、朝鮮からの移民というさらに外からの視点も加えている。

 全体的には、資料も少なく難しい古代という時代を巧みに描いていて、時代小説ならではの魅力を受け取った参加者が多かったと思います。とはいえ人ぞれぞれ好みもあり、難点を挙げる人もいて、そういう受け取り方の多様性があるのが、小説の面白さでもあるなと改めて感じた次第です。 


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