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8月の例会レポート『老人と海』。

2020-09-03 15:06:20 | ・例会レポ

8月の例会も、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となりました。

課題本は『老人と海』A.ヘミングウェイ 著 高見浩 訳 新潮文庫

以下に会員からのレポートを紹介します。

 

2020年8月22日(土)。2回目のオンライン読書会。課題本はヘミングウェイ『老人と海』。
ノーベル文学賞を受賞したヘミングウェイ生前最後の作品は、
文庫本にしてわずか130ページ余でありながら、「名作」の名に恥じないずしりとした名作でした。

今回の読書会、推薦者は以下の3点について会員の皆さんに問いかけてみました。

① なぜ老人は大物をねらって船を出すのか
② 老人が常に夢見ている「ライオン」が象徴するものは何か?
③ 老人はこの闘いに勝ったのか、負けたのか、それともイーブンだったのか?

ほとんどの会員の方が、中学生か高校生の頃にこの作品は読んだことがありました。
しかし、歳を重ねてより作中の「老人」に近い環境になってから再読したことによる、

「今回は老人の心境がわかるようになった」
「少年の存在感を強く感じた」
「いつまで人は現役でいられるのか?」
「少年は老人を尊敬しながらいたわる、老人は少年を頼りにしているという関係を感じた」
「歳を重ねたからこそできることがある」
「どうにもならない「老い」だけど、まだ負けたくないという、老人に仮託したヘミングウェイの姿勢を感じた」
「歳をとって、シンプルさの中にも深いものがあることがわかった」

などの思春期とは異なる感想を聞くことができました。

そして、皆さんからの共通の感想が、「光景が目に浮かぶようなリアリティあふれる自然描写」
「海の香り、魚の血のニオイなどが立ち込めているよう」
「釣りが大好きだったヘミングウェイだからこその描写」に代表される
描写力のすばらしさ。これは皆さん、絶賛でした。

文体については、
「短い文章の連続で、息つぐヒマもない。短編小説の醍醐味」という感想に尽きるようです。
また、課題本として推薦した新訳版については「読みやすかった」という感想が聞けました。
なお、さすがおもしろ本棚と思ったのが、原書を読まれた方の感想や、英語表現に造詣の深い方からの感想でした。

「専門用語を調べながら原文で読んでみたがすごく面白かった。
例えば原文の「YOU」が、訳文では「じいさん」や「おじいさん」になっていて、それだけで印象が変わった」
「シイラは原文ではドルフィン。イルカを食べるのかと驚いた」
これについては、シイラとイルカという日本語、ドルフィン・フィッシュとドルフィンという
英語との関係についても蘊蓄が語られました。

ほかにも、

「解説と年表が良かった」
「闘う相手を愛する感覚を感じた」
「意外な結末だったけれど、この終わり方は好き」
「老人という年齢は脇においても、人間と自然の関係を思った。
生きたものを殺すことの罪悪感、人間は罪深いことをしているのでは」
「大物を狙わなくたってマグロやシイラで十分。年寄りの冷や水か?」
「お互いを対等な相手と位置づけたうえでの、一世一代の大勝負を描いている。
老人は勝利のあかしを少年に見せたかったのだろう」
「挿入される大リーグのエピソードはアメリカ人読者にはわかりやすかったのだろう」

老人はこの闘いに勝ったのか?――この疑問には、「勝ったと思う」「負けたのだろう」と、
当然のように結論は出ることはありませんでした。
ただ、「勝ったのか、負けたのかにこだわって読む必要はないのだろう」という一言には
思わず首を縦に振ってしまいました。

「何かに立ち向かっていく姿勢を描いている。
それは今の状況下においては私たちへの励ましになっているのでは」という感想が、
いつもとは異なる今年の夏に『老人と海』を読んだ記録と記憶として、
いつまでも私たちの心に残っていくのではないでしょうか。

            *

「従軍したスペイン戦争での敗北、その後のパリ時代の、
いわゆる「失われた世代」体験を理解することが、
ヘミングウェイを読み解くうえでは重要なポイント。
誰かの作品を論じるならば、その人の作家体験という原点を知ったうえで楽しんでほしい」
「大学生だったころに読んだヘミングウェイは、よくできたハードボイルド小説だったと感じた」

このように、講師からは、「作家体験」という言葉を使ってのヘミングウェイ文学への総括がありました。

続けて『老人と海』については、

「16年前に発表したエッセイにこの小説の原型がある。
老人に85日間の不漁などの負荷を与えたり、年の離れた少年を友として登場させたりと、
さまざまな伏線を張り、時代とリンクさせる工夫が見られる。
16年間寝かせることで、練達のわざが光っている」

と、まとめてくれました。
そして、日本人の老人小説といったら、
川端康成の『眠れる美女」と、谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』がお薦めと、
これまたお気に入りの2冊が挙がったところで、8月のオンライン読書会はお開きになりました。

 


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