ジョン・ウィリアムズ ~スピルバーグとのコラボ作品~
「続.激突!カージャック」。スピルバーグ、劇場映画デビュー作。この作品からスピルバーグとのコラボレーションが始まった。ウィリアムズ言わく「スティーブンは、初め私にシンフォニーを書いてもらいたかったようなのです。しかし、この映画には穏やかな音楽の方がふさわしくバイオリンが数丁にハーモニカがいいと言ったのです。」とウィリアムズ。ところが、スピルバーグは「本当は楽器を八十ぐらいは欲しかったんだ。それとストラヴィンスキーみたいな指揮もねだったけどジョンは、僕を説得してその考えを思いとどまらせたんだ。その時から僕らのいい関係が生まれたのさ」。お互いを尊敬し譲歩する気持ちが伺える。テーマ曲は、ハーモニカを使用し哀愁を帯びた曲。このテーマ曲が場面に合わせて効果的に絶妙にアレンジされている。ハーモニカを吹いているのは世界的な名手トーォツ・シールマン。彼を若き日のスピルバーグとジョンが起用していることに驚いた。特に私は、パトカーをカージャックして颯爽と?アメリカの田舎道を軽快に走り抜ける曲が大好きだ。
いかにもロードムービーの香りが感じられる。
また、パトカーが大追跡するシーンのティンパニーが鳴り響きスコアも印象に残る。
「ジョーズ」。大ヒット作。スピルバーグをスター監督にした作品。ウィリアムズ初のアカデミーオリジナル作曲賞受賞した記念すべき映画。ウィリアムズ言わく「初めてジョーズを観た時にアクション、アドベンチャー系のスコアが要求されるだろうということは、はっきりとわかりました」と語っているだけあってブラスが激しく唸り、バロック風のフーガのようなスコアが印象に残った。また、サントラのライナー・ノートにスピルバーグはウィリアムズに次のように賛辞を贈っている。「「シー・ホーク」のコンゴルドのように、また、「サイコ」のバーナード・ハーマンのようにジョンは「ジョーズ」で我々の映画をよりハラハラさせるものに作り上げた。そうして、それは私の考えていたよりも遥かに人の心や興味をつかむものになったのである。映画音楽の愛好家の1人として私は、ディミトリー・ティオムキンの「ナバロンの要塞」以来このような幸福感!?を味わったことはない」。
今でもメインテーマは、テレビ等で怖いシーンやサメの特集番組ではかかることが多い名曲。全編素晴らしい曲がかかるが、私が特に好きなのは3つである。まず、ブロディ署長、フーパー、そして、クイントがサメ退治に出発する曲。3人の男たちがサメ退治に向かう不安と子供のような冒険心溢れるシーンを演出している。次は、サメ退治に出かけた3人が初めて体長7メートルの巨大なホージロザメと遭遇するシーンにかかる曲。迫力満点のスコアだ。そして、ブロディ署長が1対1でサメと闘うシーンにかかる曲。この曲の良さは、「ジョーズ」のコーナーでも書いたが読んでいない方もいるかもしれないので再度、紹介する。ジョンのスコアは、有名になったサメの登場シーンにかかる「ジョーズ」のテーマとアクション音楽を見事にブレンドしたものでサメの恐怖と敢然と立ち向かうブロディ署長の活躍に大きく貢献している。
「未知との遭遇」。前衛的な手法が取り入れられた珍しい作品でジョン本人言わく1番好きな作品とのこと。この音楽については、一年前からウィリアムズとスピルバーグは話し合いの場がもたれた。あの5音階の有名な曲は、「シグナル」として考えられたものでレ・ミ・ド・ソ・ドである。
LPレコード発売時に掲載されたスピルバーグのコメントは「ジョンは未完成の脚本から来る印象と私との間で週二回もっていた夕食時の会話をベースに『未知との遭遇』が完成する二年前から実際に曲のアイデアに取りかかっていたのだ。多くの場合、ジョンが先に曲を書き、そのかなりあとにその曲に合わせて私が場面を撮っていった。『未知との遭遇』のラスト35分を飾る複雑な特殊撮影のおかげで、その特撮が完成し挿入されるまでの数ヶ月間、ジョンは映画の空白の部分に音楽をつけなければならなかった。これは、私たち二人にとって冒険だったけれども、そのことがジョンの作曲に自由さをもたらした。私が映画の最後の部分の曲に対しての具体的な映像を創り出していく力を与えてくれたのだった。」
「続.激突!カージャック」の時とは、反対にスピルバーグのアイデアをジョンは、最優先して曲をつくった。また、ジョンは、通常、撮影された映像を見て作曲することがほとんどだが、この作品は、その逆の方法で作曲したものとして記憶に残る。
「1941」。ジョンが得意とするマーチ調のテーマ曲が特に素晴らしい。しかも所々にコミカルな曲調を交えているのが面白い。私などは、子供と戦いごっこをする時などは、時としてハミングしているほどだ。
また、ダンスクラブで繰り広げられるスイングジャズ風のスコアや水兵と陸軍兵が殴り合うスペクタクルな暴動のシーンのスコアも魅力的で、ダンスと乱闘の両方の曲をシンクロナイズさせているスコアが印象に残る。
「レイダース/失われたアーク」。冒険活劇の復活を感じさせるわくわくさせるスコアが素晴らしい。ジョン言わく「この仕事をやっている間中、我々は楽しく過ごしました。録音はロンドンでやっていたんですが、スティーブンは、ジョージ・ルーカス、キャシー・ケネディ、フランク・マーシャルと一緒に現地に来ていましてね。皆でこの仕事を大いに楽しんだと言わなくては嘘になるでしょうね」また、スピルバーグはこのテーマ曲の狙いについて次のように語っている。「ジョンと僕は、劇場を出るときに、口笛を吹きながら歩いていけるようなマーチ風のものを考えていたんだ」。ところで、この映画の中で1番印象に残るスコアは、やはりサントラに収録されている「砂漠の追跡」だろう。この曲は、ブラスとストリングスを中心にして構成されている。この曲作りについて、ジョンは「バレエ音楽的なアプローチをとる。ミュージカルのナンバーみたいに導入部、中間部があって最終部がある。私は一連のテンポとテンポの変化を前もって計算しておくようにするんです」と。
シンプルなものほど作曲するのが、難しいとよく音楽家の方は、言われるが、まさにこの勇敢なインディ・ジョーンズのテーマ曲もシンプルな曲調だが、これを生み出したジョンの才能と努力に脱帽する。誰もがハミングできる記憶に残るものとなった。また、このテーマ曲の中間部に流れる愛のテーマは、カレン・アレン扮するマリオンのテーマ曲として美しい旋律を持ったものとしてとても魅力的である。さらに、インディの続編として今年の夏に世界中で公開される『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』でもカレン・アレンがマリオンとして出演しているのでこのテーマ曲を劇場で聴けるのも感慨ものがり楽しみだ。
※参考文献(「スター・ウォーズを鳴らした巨匠ジョン・ウィリアムズ/
神尾保行著 音楽之友社刊 2000年)
次回へ続く!