limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊹

2018年09月14日 12時52分05秒 | 日記
ミスターJの朝は早い。午前6時に目覚めた彼は、コーヒーを淹れるべくお湯を沸かす事から始めた。昨夜、具合が悪そうだったリーダーは、まだ寝かせたままだ。「強行軍と緊張の連続では、疲れが出ない方がおかしい。もう暫く寝かせて置くか・・・」静かに室内を動く。ボリュームを下げて“耳”のスイッチを入れると、爆音の如きイビキが聴こえた。「“食用蛙”2匹のイビキか。これは酷い」慌て気味に“耳”のスイッチを切ると、沸いたお湯でコーヒーを淹れた。カーテンを微かに開けると、朝日が眩しい。「今日の夕方までに確たる証拠を握り、連絡を入れねば間に合わん。“基地”の方はどうしたものか?・・・。機動部隊は、どれだけの成果を掴むか?いずれにせよ、慌ただしい1日になるじゃろう」窓辺でそう呟くと、ソファーへ座り携帯をマナーモードにセットし、今日1日の各隊の動きを頭の中でもう一度吟味して見る。その最中に携帯が震え出した。

背筋に冷たいもの感じつつ、F坊は電話をかけた。「もしもし、どうしたF?トラブルか?」ミスターJの声が静かに聞こえた。「はい、Kのパソコンを調べた所、拳銃の存在が判明しました。今、裏を取る為にDBの菜園を再捜索していますが、発見した場合の処置をどうされますか?」F坊は恐る恐るミスターJに問うた。「発見した場合は、写真と鑑定書と拳銃の所在を記した地図が必要になる。こちらに拳銃などは持ち込まれる筈が無い。Kとしても“取り扱い”に困ったはずだ。9分9厘DBの菜園から出るはずだ」ミスターJは静かに確信を持って答えた。F坊が「どうして、そう言い切れるのですか?」と言うと「Kの荷物や車から出なければ、必然的にどこかに隠す以外にない。お前さん達とリーダー達が、徹底的に洗っているんだ。あるとすればDBの菜園しかない!今回の計画は、ZZZを使っての薬殺狙いだろう?物的証拠が残る拳銃を使う選択は最初から無いに等しい。そもそも、KとDBが撃てると思うか?使うなら“ヒットマン”を雇うしかないが、今までそんな情報は入っておらん。結論など最初から見えておる!」ミスターJは静かに反論した。「ところで、DBの菜園へは誰を差し向けた?」「新米と遊撃隊のドライバーです」F坊が答えると「“スナイパー”が行ったのか?ヤツなら必ず見つけ出すだろう。普段はドライバーだが、本職は予備役の軍人だ。銃火器を扱わせたら、右に出る者はおらん。幾多の戦場で培われた勘は侮れん!不幸中の幸いじゃ、銃の鑑定は“スナイパー”に任せろ。真偽など寸時に見破るだろうて。弾の不発処理も含めて彼に一任して置け!」ミスターJは落ち着いて指示を出した。F坊は「分かりました。捜索結果を待って判断します」と言うと「それでいい。ともかく落ち着けF!拳銃は間違いなくそちらにある。始末は“スナイパー”がやってくれる。お前さん達はKのパソコンから、あらゆるデーターを調べ上げて“確証”を持ち帰れ。心配はいらん。では、頼んだぞ!」そう言うと電話は切れた。

電話を終えたミスターJは、深呼吸をすると「Kのヤツ、さぞかし困っただろう。青竜会からの“強烈なプレゼント”を始末するのに、頭が痛かったに違いない。DBの菜園に隠すのが精一杯だっただろう。だが、これでまた罪状が増えるな。銃刀法違反だ!」と言うとコーヒーを飲み干した。「おはようございます!ミスターJ。不覚にも眠ってしまい申し訳ありません」リーダーが姿勢を正して頭を下げた。「おはよう、リーダー。お前さん相当に疲れておったな。まずは、コーヒーを淹れてくれ。それから朝食のオーダーを頼む。今日は例のNPO法人に探りを入れねばならん。朝食後に機動部隊へ指示を出しなさい」ミスターJは静かに言った。「F達は何と言って来たのですか?」コーヒーを淹れながらリーダーが聞く。「拳銃の存在が判明した。青竜会の連中も無茶をやるものだ。“基地”の方で拳銃の捜索にかかっておる」「拳銃ですか・・・、Kの部屋からも車からも出ていませんよね」「ああ、恐らくDBの菜園から出てくるだろう。隠す場所は、あそこしか無い」ミスターJはテーブルを突きながら答えた。リーダーは、朝食をオーダーすると「拳銃の真偽と言うか、改造品かは“スナイパー”に確かめさせるのですね?あの者が行っているとなれば、鑑定も出来る」「そうだ。鑑定が終わったら、拳銃の処置は“スナイパー”が決める。最も、あんな“物騒なモノ”は我々では運べない。DBの菜園へ戻して、写真、鑑定書、所在を記した地図があればいい。“基地”のF達にもそう言ってある」携帯を指しながらミスターJは言った。「例のNPO法人への調査は?何処まで指示してある」「はい、現地の現状調査・周辺への聞き込み・登記関係の調査等、一通りを機動部隊に命じてあります。後は、調査開始を指示するだけです」リーダーは地図を広げて「相模原市の奥地にありますので、人家も少なく得られる情報がどの程度かは未知数です」「4ヶ月前に何があったか?現在、誰の手に渡っているか?その当りが分かればいい。このNPO法人に関しては、潰れてくれていた方がありがたい」地図を見ながらミスターJは言った。その時、オーダーした朝食が部屋へ届けられた。早速、2人は食事にかかった。「今日の夕方、後12時間以内に“基地”の方もNPO法人も目途を付けなくてはならない。そうしないと、県警を動かす時間が無くなる。リーダー、NPO法人と“2匹の食用蛙”の動きについては、我々で何とかしよう。問題は“基地”だな。主な確証は向こうにある。NとFと“スナイパー”がいつ横浜へ戻れるか?これが鍵になる」「問題は、如何に速く帰れるか?ですね」2人は時計を見つつ考えた。「遅くとも“基地”を午後0時には出発しなければ、厳しい事になりそうですね」「ああ、“基地”の方でも大車輪でやっておる。NとF達もそれは承知だろう。そうでなければ、拳銃の処置について聞いて来たりはせん。2人の事だ、何としても戻るだろう」時計の針は、何時しか午前8時を指そうとしていた。タイムリミットまで4時間。ミスターJは“間に合う”と踏んでいた。“基地”に居る精鋭部隊の実力を持ってすれば、不可能ではないと。

その頃、“基地”では、シリウスを中心としてN坊とF坊が、Kのパソコンの解析を再開していた。拳銃の処置は決まった。後は、新米と“スナイパー”が戻るまでは手が出せない。シリウスは「N坊、メールの分析を中断して、Excelファイルの検索をやってくれ!職場の名簿か連絡網のファイルを探し出して欲しい」と指示を出した。「了解、でも、それが何の役に立つんだ?」N坊は不思議そうに言った。「PWの手掛かりの1つさ。言っただろう?“人間は数字の羅列を覚えるのが苦手”だって、大手企業ならば、職員番号も桁数が多い。職務上嫌でも覚える数字の羅列としては、PWに向いているんだ。企業内でも職員番号をPWに流用している所は結構あるんだ」とシリウスが説明する。「職員番号の前か後ろにアルファベット1文字を足せば、意外と強力なPWになるのさ」「成る程、そう言う仕掛けもありか。職員番号なんて企業以外では“適当な乱数”だからな」F坊が納得しつつ言った。「社員本人は忘れない様に覚えるが、部外者には意味不明。確かにPWに向いてるな」N坊も頷いた。Excelファイルの検索をかけると、ずらりとファイルが浮かび上がった。その中に“人事評価”のファイルがあった。結構容量が大きい。N坊はクリックしてファイルを開けた。「あったぞ!Kの職員番号が分かった!9桁の数字だ。意味は分からないが、ホワイトボードに書き出すぞ」早速9桁の数字が書き出された。「個々人に割り当てられた番号だ。Kがアホでもこれだけは忘れない数字だろう。恐らく、前か後ろに“k”をくっ付ければ、PWに早変わりだ。N坊、Kのメールアドレスも書いといてくれ」シリウスが指示をする。「メルアドは、これだ」N坊が職員番号の上にKのメールアドレスを書き込んだ。「これで、IDとPWの手掛かりは得られた。これが通用しない場合は、俺の“解析DVD”でこじ開けよう。F坊、裏サイトの閲覧履歴が整理できた。アクセスしてログインして見てくれ」「了解、結構あるな。この内、どれかが青竜会の物産会社の裏サイトなんだな?」「まず、間違いない。Kのヤツ手当たり次第にアクセスしているが“匂う”のをまとめたヤツだ。薬物もしくは薬殺・毒殺に関連してそうなサイトを絞って見たから、必ずヒットするだろう」シリウスにはある種の確信があった。セキュリティ・サイバー対策を生業とする彼の勘だったが、経験に裏打ちされた“目”を欺く事は中々出来るものではない。N坊は「そろそろメールに戻っていいか?“匂う”ヤツから“プンプン匂う”ヤツまで、目星は付けてあるからブリントアウトに掛かりたいんだ」と言った。「そうしてくれ。印刷する際に途中で切れない様に、縮尺に注意してくれ。そうすれば、コピーしてまとめる時に楽になる。画像をダウンロード出来るヤツは、画像も含めてくれ」シリウスが注文を付けた。「了解、紙はあるか?かなりの枚数になるぞ」N坊が心配するとシリウスは「紙なら1万枚はストックしてある。トナーもインクも心配ない」と言った。N坊が印刷を始めた時、DBの菜園から2人が帰って来た。「あったぞ!農具の陰にこの菓子箱が紛れ込んでいた」“スナイパー”が銀色の菓子箱を持っている。「その中か?」シリウスが聞くと「おっと、素手は勘弁してくれ。指紋が残っちまう。触るなら手袋をしてからにしてくれ。Kの指紋がベッタリ残ってる証拠物件だ」“スナイパー”が手で制した。彼は手術用の手袋をはめている。「“スナイパー”、ミスターJからの指示だ。お前さんが拳銃の鑑定と始末をやってくれ!」F坊が画面から目を離さずに言った。「ミスターJ直々の指示が無くても、俺がやるつもりだった。他のヤツには任せられん。危険極まりない仕事だ!新米、使えるパソコンはあるか?」後ろでスコップを片付けていた車屋の新人は「あります。直ぐに用意します!」と言って慌てて奥へ消えていった。シリウスは手術用の手袋をはめて、箱を持たせてもらった。怪しげな重さがある。「本物の拳銃なのか?」と“スナイパー”に聞いた。「どうやら、本物の様だ。ともかく開けて中身を確認して見る。どの道、分解しなきゃならん。安全に始末するなら弾から火薬も抜かなきゃならない。その過程で写真も撮って、鑑定を進めるよ。こっちは俺に任せてくれ」“スナイパー”の目が鋭く光った。「時間はあまり無い。慎重にやってくれ」シリウスが念を押す。「1時間半くれれば、ケリを付けられる。後は、シリウス、お前さん達でDBの菜園へ戻してくれ」「分かった。元あった場所は、新米が知ってるんだな?」「そうだ。そっくりそのまま置いて来てくれ。横浜なんぞへ持ち込むのは危険すぎる。さあ、箱を返してくれ。俺は拳銃の始末にかかる」“スナイパー”は、奥のスペースへ歩いて行った。「新米!デジカメと三脚も出してくれ!俺はここで作業を始める!」「了解です」車屋の新人は、また奥へと走って行った。「シリウス、ちょっといいか?」F坊が呼んでいる。「どうした?」「コイツなんだが、青竜会の物産会社の裏ページに潜り込んだんだが、ZZZ以外の麻薬や薬剤も並んでやがる。タミフルやリレンザはインフルエンザの特効薬だと分かるが、その他の薬剤はサッパリ分からねぇ。コイツは何の薬だ?」「どれどれ・・・、あー、俺にもチンプンカンプンだよ。専門家に聞くしかないな。“ドクター”に聞いて見るか?」シリウスもお手上げだった。“ドクター”は鑑定書を作成していたが、直ぐにF坊モニターの前に来てくれた。「ほう・・・、これは“抗うつ薬”に“精神安定剤”、“鎮静剤”に“睡眠薬”だ。全て医師の処方箋が無ければ、一般人は買うことが出来ないモノばかりじゃないか。どこの薬剤会社のページだ?」「青竜会の物産会社の裏ページだよ“ドクター”。と言う事は、青竜会は処方箋薬の裏販売も手掛けてるって事になるな!」「どうやって手に入れたか分からんが、よくこれだけ集めたものじゃな。こうした薬剤の中毒患者は、加速度的に増えとる!青竜会にしても旨味のある商売なんじゃないか?ヒート単位での価格提示じゃから、儲けは結構な額になる!」“ドクター”は舌なめずりをして唸っている。「一体、どこから集めたんだ?」F坊が首を捻る。「恐らく、患者からだろう。ほれ!ここを見ろ!“高価買取実施中、宅配便着払いにて受付中”と書いてある」“ドクター”は画面をスクロールさせると、下の方に出ている表示を指さした。F坊は不思議そうに「患者の薬を買い取る?!どう言う事だ?」と“ドクター”に詰め寄った。「精神科に通う患者の手元には、大方の場合“使わなくなった薬”があるからじゃ。インフルエンザと違って、精神科には“これさえ飲めば大丈夫”と言う薬はまだ無い。人間の脳については、まだ解明されていない部分が多いし、何故脳の神経細胞同士のつながりが悪くなるのか?完全には分かっておらん。だから、精神科に通う患者達は、平均して10種類くらいの薬剤を組み合わせて治療・服薬をしている。前にも言ったが、精神科で使われる薬剤は、膨大な量があるし毎年新薬も出ている。しかも、患者個人の体質や症状の変化に寄って、薬の入れ替わりが結構ある。例えば、a+b+cと言う組み合わせで良かったモノが、a+d+eに替えなくては困る事もある。50mmgだった薬剤量を25mmgに減らす事もザラにあることじゃ。そうするとb・cと言う薬剤が余る事になる。mmg数の違う薬剤も出る。通常は、処方が替われば薬は廃棄するのが原則じゃが、後生大事に取ってある患者も少なくない。“何かの時に使えるかも知れない”と言う心理が働くのじゃ。そこ付け込んだのが、青竜会の“高価買取実施中”だ。精神科の通院費+薬剤費は意外に高い。3割負担にしても、1回の通院で1500円から2500円はかかる。そこに薬代が加わるから、経済的負担は結構な重さになる。当然、会社は休職か退職になるはずじゃから、実入りは減るが出ていくモノは減らない処か逆に増える。そう言う構図からすると、青竜会の“高価買取実施中”は魅力的に映ってしまう。全国規模で搔き集めれば、量はそれなりに確保できるし、買い手はそこら中に居る。だから、商売として成り立つと言う事じゃ」“ドクター”は静かに答えた。「敵ながら、上手い所に目を付けたってことか!」F坊はため息交じりに呟いた。「捨てる者あれば、拾うものあり。蛇の道は蛇じゃ。ターゲットを絞れば、いくらでも闇商売は成り立つ。潜在的なニーズもあるなら尚更よ」“ドクター”は肩を竦めて言った。「そろそろいいかな?こっちも鑑定書が佳境を迎えておる」“ドクター”は分析室へ戻っていった。F坊は「おい、N坊!KがZZZ以外のクスリを購入した事はあるか分かるか?」と誰何した。「今の所、その痕跡は無い!ZZZだけだ」N坊はプリンターと格闘しながら答えた。そこへシリウスの指示が飛ぶ「N坊、印刷が済んだら、片っ端からスキャンをかけてPDFに変換してくれ!メールには“フラグ”は付けてあるか?」「ああ、済んでるよ。変換したデーターは、そっちに送ればいいんだな?」N坊は紙の束を揃えながら聞く。「そうしてくれ!F坊、裏サイトの閲覧履歴の確認は済んでるか?」「終わってる。シリウスが目星を付けた先は、“当り”だったよ。見てるだけでも犯罪者になりそうだ。毒殺・薬物中毒に追い込む方法のオンパレードだ。最終的に青竜会の物産会社の裏ページにたどり着いたのは間違いなさそうだ」F坊は顔をしかめながら言葉を吐き出した。「じゃあ、閲覧履歴も特定できたし、メールのデーターももう直ぐ仕上がる。そろそろまとめの作業に入るか!」シリウスはデーターの取りまとめの為の処理を開始した。「ディスクへ落とすのか?」F坊が聞く。「CD-Rじゃ容量が足りない。DVD-Rへ落っことす事になりそうだ。“ドクター”と“スナイパー”の鑑定書も全部PDFに変換してから、1枚にまとめるつもりだ。勿論、書面でも作成はするが、それはミスターJ用だ」シリウスは手早くキーボードを叩きながら答えた。「了解、俺はちょっと“スナイパー”のところへ行ってくる」F坊は“基地”奥のテーブルへ移動した。拳銃は“スナイパー”の手によってバラバラに分解されていた。丁度、火薬の始末が終わった様だった。「どうだ?本物かい?」とF坊が聞くと「ああ、間違いなく本物の“コルト・ローマンMkⅢ”だよ」と“スナイパー”は言った。「銃弾の火薬は始末したし、後は銃を組み立てればOKだ。見た目、使い込んでる様に見えるが、ご丁寧にも“オーバーホール”をしてありやがる。なりは小さいが、マグナム弾を発射する代物だ。車のガソリンタンクをぶち抜けば、爆発は免れねぇ!おっかないモノをよくも送り付けたもんだ。青竜会とすれば、何かしらの“証拠物件”なのかも知れんが、素人が使ったら間違いなく怪我だけじゃ済まないよ。後、30分ぐらいで鑑定書も仕上がる。新米、銃弾の始末が終わった。これも撮影して置いてくれ!」車屋の新人は、デジカメを構えて四方から撮影を開始した。「さてと、画像を取り込んで貼り付ければ、俺の鑑定書は完成だ。抜いた火薬は、フィルムケースに小分けにしてからシリコン樹脂で封印する。後は、今夜、DBの菜園の元あった場所へ戻せばいい」F坊は頷きながら「これがあると知った時は腰を抜かすところだったが、何とか安全に始末出来て一安心だ。もう、こんな化け物は御免だ!」とため息交じりに言った。「いずれにしても、扱いを知らないヤツの手で使われたら、それこそ死人の山が出来ちまう。きっちり県警に押収して貰わないといかんな」“スナイパー”も一息つきつつ言う。「それとだな、F坊よく聞いてくれ。帰り道は“カメさん走行”になるかも知れん。俺の記憶が正しければ、昨日から“フレンチブルー・ミーティング”が近くの高原地帯で開かれてるはずだ。それが、終わるのが今日の昼前なんだが、高速でヤツらとまともにかち合ったとすると、非常に厄介な事になりそうなんだ」「フランス車の行進かい?」「いや、行進じゃなくて“暴走行為”だ。毎年、高速機動隊に捕まるヤツが出るくらいだから、網の中をすり抜けて行かなきゃ帰れない可能性がある!」“スナイパー”が憂鬱そうに言う。「そこらじゅうに、警察がゴロゴロしてるって事かい?」「ああ、調べ直しては見るが、来た時の様な全速走行は無理だ。隙を縫って走り抜けるしかない。時間は貴重だが、確証を届けるには“我慢”をしなきゃならんかも知れない」F坊の表情が曇った。だが、何としても帰らなくてはならない。「分かった。鑑定書も含めて帰り道の件も任せる。最善の道を探してくれ」「ああ、何が何でも横浜へたどり着かなきゃならん。う回路も含めて検討しよう」“スナイパー”はパソコンで鑑定書の仕上げにかかった。シリウスも“ドクター”もN坊も作業は佳境に入っている。“確証”は手に入り、後はまとめるだけだ。「時間が無い。どうして1日は24時間しか無いんだ?!」F坊の表情は冴えない。タイムリミットから逆算すると、午後0時には出発しないと“致命傷”になりかねない。それも、多少の余裕を見込んでの計算だ。「地球の自転を止める方法はねぇのか?」F坊は無性に時間が欲しかった。だが、容赦なく時は流れていく。「やるしかねぇ」そう呟いたF坊は作業に戻った。“基地”は異様な熱気に包まれ、各自を突き動かしていた。

ミスター DB ㊸

2018年09月10日 16時39分25秒 | 日記
時間は大分戻って、ここは横浜中華街の「△珍楼」
「何を心配しているDB?!さあ、食え!飲め!前祝だ!しっかり食って精を付けろ!!」Kは紹興酒のグラスを豪快に煽り、DBに料理を勧めた。アワビやフカヒレ、海鮮珍味の料理が次々と運ばれて来る。Kは終始ご機嫌で、巨大な胃袋へ料理を流し込み、酒に酔っていた。DBも同じく、巨大な胃袋を満たそうとしてはいたが、少し浮かぬ様子だった。Kは「我々は偉大な勝利を手にしたのだ!もう誰も我が行く手を阻む者は居ない!DB!もっと食って飲め!心配など無用だ。さあ、食え!飲め!」と言いながら、ドンチャン騒ぎに浮かれていた。「DB!一つ心配の種を明かしてやろう!これを見ろ!」とKはテスターの様な機器をDBに見せた。「コイツは簡易式の盗聴探知機だ。何の反応も無い。つまり、ここには盗聴を試みるヤツは居ないと言う事だ!心配はない!さあ、食え!飲め!」Kは紹興酒のボトルを追加注文して、再び料理に手を伸ばした。「杞憂だったか、では遠慮なく頂くとしよう!」DBも酒のグラスを煽り、料理を掃除機の如き勢いで吸い取って行った。とめどなく料理が運ばれ、酒のボトルも加速度的に増えつつあった。2人が飲み込んだ料理と酒は、かなりのボリュームになっていた。2人は全く気付かなかったが、その様を目の当たりにして、ゲンナリしている客が居た。ミスターJの指揮下にある機動部隊員である。特殊収音マイクでKとDBの会話を録音しつつ、彼らも「それなりに」飲み食してはいたが、“2匹の食用蛙”の暴飲暴食を前に食欲は失われつつあった。2人は「遠慮せずにちゃんと食べて来い」と言う大隊長の指示を受けて、乗り込んだのだが“2匹の食用蛙”を前にして、既に満腹と言うか気持ち悪さを感じていた。2人は口々に「いくら任務とは言え、これは拷問だ!」とか「ヤツらの胃袋は無限なのか?!食欲が失せていく一方だ!」と嘆いていた。彼らは大隊長に泣き付いたが「馬鹿者!任務を果たすまで帰るな!」と逆に怒鳴られ、帰るに帰れない状況に追い込まれた。「俺達が馬鹿だった・・・」“2匹の食用蛙”を横目に「胃薬」を飲みながら、彼らは必死の形相で料理と格闘するハメになった。“2匹の食用蛙”のドンチャン騒ぎは、夜遅くまで果てる事を知らぬかのように続けられた。すっかり酔いどれた“2匹の食用蛙”が店を出たのは、午後11時近くになってからだった。

KとDBの“食用蛙コンビ”が△珍楼を出たとの知らせは、すぐさまミスターJに伝えられた。「何?!胃もたれか胃下垂だと?!部下達はどれだけ食べたんだ?大隊長、もう少し分かりやすく説明しろ!」リーダーが呆れつつ聞き返した。「KとDBの大食いを見て、胃を壊した?!うーん、とにかく病院へ連れていけ!特殊収音マイクの音声テープは、他の誰かに届けさせろ!ああ、KとDBが部屋へ帰った後でいい。一体どれだけの量を食ったんだ?KとDBは?6人前ぐらいだと?!半端じゃないな。2人じゃなくても胃下垂になりそうだ。分かった。タクシーを拾ったんだな?こちらでも確認する。ああ、早く病院へ連れていけ。じゃあ」半ば茫然と携帯を切ったリーダーは「2名が胃下垂を起こして病院へ担ぎ込まれるそうです。KとDBは酔っぱらってタクシーに乗り込み、今しがた中華街を出たそうです」と冷や汗を拭いつつ、ミスターJに報告した。「“食用蛙”に2名が飲み込まれたか?!ジミー・フォンは相当儲かったな。今頃、ヤツはほくそ笑んで居るだろう」ミスターJは笑いながら言った。「2名の症状はどうなんだ?」「一晩病院で過ごせば大丈夫でしょう。明日の任務には支障は出ないかと」リーダーはまだ冷や汗が止まらない。「明日は、例のNPO法人に探りを入れる予定だったな?」「はい、ホームページは4か月前から更新されていません。ネット上での調査には限界がありますので、明日、機動部隊を派遣する予定です」リーダーは汗を拭い続けていた。「リーダー、顔色が悪いぞ。どうした?」ミスターJが心配そうに聞いた。「いえ、少し気持ちが悪いだけです。もうすぐ落ち着くかと」「お前さんも“食用蛙”に飲まれた様じゃな。座って楽にしなさい。ベルトとネクタイを緩めて、楽な姿勢で少し休んだ方がいい。後は、私が引き受ける」ミスターJはリーダーを休ませると、携帯を手に取り連絡を待った。「必ず有るはずだ」それは、Kが隠した“物証”に他ならなかった。40分が経過した頃、連絡が入った。「有りました!鉄の菓子箱の中に“粉状の白いモノ”とCD-Rが3枚入っていました!」シリウスが興奮気味に報告した。「うむ、ただちに“基地”へ持ち帰り、分析を開始するんだ!NとFが、今、そちらに向かっている。何としても“正体”を突き止めろ!シリウス、ZZZの情報が必要だ。“侵入”の手筈を整えて、直ぐに必要な情報をかき集めろ!“ドクター”には成分分析の用意をさせて待機する様に伝えろ。時間がない。明日の午前中に全てを完了できる様に準備にかかれ!」ミスターJは手短に素早く指示を送った。「了解。直ちに“基地”へ戻り、準備にかかります!」電話は瞬時に切れた。3人は、大急ぎで“基地”へ戻るだろう。「ともかく、急げ。明日中が勝敗の分かれ目だ!」ミスターJは窓からの夜景を見ながら呟いた。勝利か敗北か?これからの1分1秒が全てを決するのだ。「頼んだぞ」ミスターJは窓辺で静かにそう言って携帯を握りしめた。

時間を戻そう。
すっかり夜は明けて、時計は午前7時を指していた。シリウスとN坊は、Kのパソコンの分析に入っていたが“壁”に突き当たっていた。「リカバリーCDだけじゃ情報不足だ。どうやらデーター復活をやらなきゃならねぇ様だ」N坊はガックリとして言った。「だが、Kのパソコンの能力だと、相当時間を食うぞ!」シリウスの指摘は当たっていた。「でも、他に手はない。時間を食ってもやるしかあるまい」N坊は半ばあきらめかけていた。「スピードアップする方法が無い訳じゃないぞ!」背後からF坊が声をかけた。「随分と早いお目覚めだな。手はあるのか?」N坊はF坊に聞き返した。「Kのパソコンをそのまま使わなきゃいいんだ。ちょいと細工すれば時間短縮は可能だよ」F坊には考えがある様だ。「Kのパソコンからハードディスクだけを取り出して、シリウスのパソコンへ移設する。そして2台目のハードディスクとして認識させりゃ処理能力は上がる。シリウスのパソコンは“基地”では最速だ。データー復活を早く済ませるにはそれしかない」「確かに理屈上はそうだが、認識するかどうかはやって見ないと分からんぞ?」N坊は懐疑的だ。「認識云々はとりあえず別にして、やってみよう。スピードを上げるにはそれしか無いんだ」F坊はKのパソコンからハードディスクを取り出す作業を始めた。5分もかからずにハードディスクを取り出すと、シリウスのパソコンの筐体に手を付ける。「配線は簡易的でいいだろう。ともかくパソコン上で見えればOKさ」器用に結線を済ませると、シリウスのパソコンを起動した。画面を食い入る様に見つめていたF坊は、慎重に確認に入る。「よし!何とか認識した。このままデーター復活作業にかかる。こっちは処理速度が速いから、半分の時間で完了するだろう」N坊とシリウスは唖然とした。「お前さんの発想にはいつも驚かされるが、その発想力はどこにあるんだ?」N坊はため息交じりに言った。「ちょいと見方を変えれば、誰だって思い付く。汎用品だから、メーカーは違っても認識さえなんとかすりゃどうにでもなるさ」F坊は平然と言ってのけた。シリウスは「確かにそうだが、実際にやるヤツはそうは居ないだろう。F坊でなきゃ浮かばない事だよ」とお手上げのポーズを取った。「さて、暫く時間が出来たが、猛烈に腹が減って来ないか?頭脳労働には糖分を補給しなきゃならんぞ!」F坊は時計を見ながら言った。「ああ、もう午前7時を回っていやがる。食事を忘れちゃいかんな。新米、悪いがコンビニへ食糧調達に行ってくれ!」N坊が指示を出すと「俺も行くぞ!ガス欠では横浜へ帰る事もできんからな!」とドライバーが言った。車屋の新人が「何をご所望ですか?」と言う「コンビニにあるもの全部をジャックして来い。手あたり次第買い集めて来るんだ。コンビニを土台から引っ剥がして、引きずって来ても構わん」とN坊が言った。「了解、大至急行ってきますよ」「よし、新米行くぞ!」ドライバーは既に車のエンジンをかけていて、2人は最も近いコンビニへと向かった。その時、“ドクター”がやって来た。「腹が減った。何か食うものはあるか?」「今、調達に出たばかりだ。ちょっと待ってくれ。それより、分析は?」シリウスが聞くと「横浜から持って来た清涼飲料水からも、陽性反応が出た。ZZZの混入は疑いの余地が無いと言っていい。例の“粉状の物質”については、今、精密分析中だ。結果が出るまで2時間といった処だな。後は、清涼飲料水の中身を精密分析して比較すれば、薬物の特定と混入については、証拠は固まる。データーは、順次まとめて書面に印刷出来るようにしとるから、鑑定書としてまとまるのは、昼前になりそうだ」“ドクター”が見通しを説明した。「発見された薬物らしきモノがZZZだと仮定して、清涼飲料水を“彼”が飲んだとしたらどうなる?」F坊が心配そうに聞いた。「うーん、精神科で処方される薬剤は、膨大な数がある。中には“劇物”を薄めて利用している薬もある。正確な答えは、何とも言いかねるが“中毒症状からショック状態になり、最悪心肺停止”も考えられる。“劇物”由来の薬剤を服用していたら、非常に危険な事になるだろう。いずれにしても、意識不明の重体に陥るのは間違いない」“ドクター”の答えは深刻だった。「ZZZの毒性は極めて強い。例え薄められていたとしても、体内へ入れば様々な症状が出る。幻覚、妄想、などは序の口に過ぎん。いずれにしても、中毒になったら最期、治療は地獄の苦しみとの闘いになるだろうて」“ドクター”の言葉は聞く者に恐れを抱かせた。「食料が来たら呼んでくれ。わしは悪魔と格闘しなきゃならん」“ドクター”は分析室へ戻って行った。その足取りはやや重そうだった。「悪魔か・・・」N坊は茫然と呟いた。「その化けの皮を引っ剥がすのが、俺達の任務だ。Kの悪事も含めて、一切合切を明らかにするんだ。そのために俺達が居る。悪魔だろうが関係ない!」F坊は手を握りしめて声を絞り出した。「ああ、そうだ。俺達の手で、悪魔を永遠に封じ込める。Kも青竜会も叩き潰すんだ!」F坊も言い、シリウスも頷いた。「だが・・・、腹が減っては戦には勝てねぇ・・・。おい、ポットにお湯でも沸かさねぇか?このまま、力んでてもカップ麺1つも食えやしねぇ」F坊がぼやいた。「そうしますか。確か奥に転がってたはずだ」シリウスがポットを持ってくると、N坊達はお湯を沸かしにかかった。暫くするとコンビニに行っていた2人が戻って来た。両手に持ちきれない程のビニール袋には、あらゆる食べ物が詰まっていた。「ご所望の通り、コンビニにあるモノ全てを買い付けてきました」車屋の新人が自信ありげに言う。ドライバーは既にパンに食らいつきながら「ともかく食ってくれ!これからが正念場だ。俺は“ドクター”に何を食いたいかを聞いてくる」と言ってビニール袋1下げを持って分析室へ歩いて行った。束の間の食事が始まった。考えてみれば全員、昨夜からまともに食事をしていない。手あたり次第、各々が食べまくりに入った。“ドクター”も分析室から出てきて、食事の輪に加わった。「冷やし中華か?!“ドクター”他にもあるぜ?」ドライバーが言うと「わしは、猫舌でな。これが一番手っ取り早いんだ!」と意に介す風も無く冷やし中華をすすり始めた。シリウスは、デザートを手にしている。「おい、おにぎりとかはいいのか?」“ドクター”が噛みつくと「頭脳労働には、糖分が必要なんだ。まずは、甘いものからさ」とこちらも意に介す風も無い。N坊とF坊も手あたり次第に食べまくった。「これで戦に勝てなかったら、俺達は大馬鹿だな」「もうすぐハードディスクのデーター復活が完了する。これからはノンストップだ!」N坊とF坊も言い合った。「インターネットの閲覧履歴とメールの分析にかかる訳だが、IDとPWはどうするんだ?」珍しくドライバーが聞いた。「その点は、大した問題にはならないと思う」シリウスがカップ麺をすすりながら言った。「人間って言う生き物は、複雑な数字やアルファベットの羅列を覚えるのが苦手だ。多くの一般人の場合、IDとPWは1度決めたら“使い回す”事が多い。セキュリティの観点からすれば、“やっちゃいけない”事だが、PWについては、1つ乃至は2つぐらいに絞れるだろう。IDは、メールアドレスか接続先からランダムに配布される事が多い。こっちも3つぐらいに絞れるだろうよ。もし、分からなければ、俺の解析ディスクでこじ開ければいい。大抵はメールを見れば手掛かりは掴めるはずだ」「そうだな、IDとPWの“使い回し”は、大方の一般人なら日常的にやってる。1つ判明すれば、芋づる式にスマホやパソコンをこじ開けられる。女性や高齢者ならなおさらだ!」N坊とF坊も頷いた。「作業手順はどうします?」車屋の新人が聞いた。「まず、パソコンの接続をやり直す必要があるな。Kのパソコンを“サーバー”に見立てて、ネットワークを組むんだ。ネット接続も組み換える必要がある。プリンターも接続し直しだ。閲覧履歴とメールの2手に別れてかかれるようにしなきゃならん。時間はもうほとんど残されてはいない」シリウスがカップ麺の容器をゴミ袋へ投げながら、パソコンの方へ歩きつつ言った。「F坊、データー復活の作業が完了した。俺のパソコンをシャットダウンするから、ハードディスクを元に戻してくれ」「了解、お茶を飲み干したら直ぐにかかる」F坊はペットボトルを投げ捨てると、早速作業にかかった。同時にパソコンとプリンターの接続・ネット接続も組み替えた。作業班は、シリウスとF坊が閲覧履歴解析・検証。N坊と車屋の新人がメール解析。ドライバーは、ホワイトボードに情報を書き出す役に決まった。“ドクター”は既に分析室で「鑑定書」の作成にかかっている。「予備のモニターをKのパソコンにも接続してくれ。まずは、Kのパソコンが正常に動作してるかを確かめる必要がある」F坊が言った。「さーて、拝ませて貰うぜ。どこまで復活したかを」N坊が期待を込めて見入った。「どーやら、成功した様だ。丸見えだぜ!シリウスどうだ?」F坊が聞いた。「OK、こっちでもちゃんと見えてる。じゃあ、閲覧履歴を見てみますか?!」シリウスはキーボードを叩いてアクセスを開始した。「N坊はどうだ?」F坊が尋ねる。「こっちもOKだ。では、メールを開いて見ますか?!」N坊もキーボードを叩いてアクセスを開始した。「やはり、“薬物”に関するページへのアクセスが多いな。表から裏まで様々だ。結局は、青竜会系列の物産会社の裏へたどり着くんだが・・・」シリウスはずらりと並んだ情報を見て言った。「Kのヤツ、ゴミメールを消していないな。相当な量が受信トレイにそのまま残っていやがる。コイツは骨だぞ・・・」N坊が呻いた。「取り敢えず、最新の受信から追って行こう。まずは・・・、航空券の予約が3件ありやがる。出発は成田。行先は、香港に上海にシンガポールだ。明日の夕方から夜の便だ。ボードヘメモってくれ!」N坊がドライバーへ指示を出した。「航空会社は?」「全部バラバラだ。恐らく成田で決めるんだろう。高飛び先を特定されない用心のつもりだろう」N坊が画面に釘付けになりながら言った。「ZZZ発送の案内メールもあった。納品内容は・・・」そこでN坊の声は途切れた。顔には不審な表情が浮かんでいる。「どうした?N坊?!」ドライバーが誰何する。「コイツは・・・、嘘だろう?!」N坊の顔から血の気が失せた。F坊がN坊のモニター画面を覗いた。「馬鹿な・・・」F坊の顔からも血の気が失せた。「Kは青竜会からZZZ以外にもう1点買い付けをしてやがる。だが、ヤツはどこに隠し持っているんだ?!」F坊は茫然と呟いた。「Kの買い物とは何だ?」シリウスが首を捻った。「ああ・・・、“コルト・ローマンMkⅢ”と実弾12発だ・・・」N坊の声は微かに震えている。「何だと!!Kは拳銃を持ってるって事か?!」N坊の答えはシリウスの想像を超えた。「間違いない様だ。青竜会からのメールには、“コルト・ローマンMkⅢ”の文字が載っている。銃としてはそれ程大きくは無いから、バッグの底にでも入るモノだ。ヤツのセカンドバッグは調べてない。銃があるとしたらそこだろうよ」F坊の声も震えている。「それが本当だとしたら、何の為だ?!“彼”は薬殺されるはずじゃないのか?」シリウスの声も震えている。「分からないよ。分かればとっくに手を打ってる。実弾を抜くとかな。だが、調べた範囲に銃は無かったんだ。部屋の荷物にも車にも。残るはKが常に持ってるセカンドバッグしかない。肌身離さず持ち歩いてるヤツだ」N坊は唇を噛んだ。「ミスターJへ警告しないと危険だ!」シリウスは携帯を手に取った。「まて!まだ裏が取れていない。N坊、他のメールも当たってくれ!」F坊はシリウスを制して、メールを更に確認して行った。「どうやら、事実の様だぞ!Kのヤツ取引の過程でZZZを値切ったらしい。いい根性してやがる。青竜会相手に値切るなんざ自殺行為だってのに。その代償として、銃がセットになった様だ。青竜会が使ったヤバイやつを処分したのかも知れん」F坊はメールに目を通しながら言った。「横浜にKのヤツが持ち込んだとは断定できない。俺達も徹底的に洗っているから、逃れられるもんじゃない。警察の検問にかかったらイチコロだしな。もしかすると、銃はDBの菜園に埋まっているかも知れない。あそこを洗ったのは夜中だったよな」N坊がシリウスに確認する。「ああ、夜中だったから見落としがある事は否定出来ないよ」シリウスも同意した。「確認だ。裏が取りたい。DBの菜園を再捜索するしかねぇ!」F坊は決断した。「新米!!DBの菜園を再捜索だ。徹底的に調べ直せ!銃が埋まってる可能性はゼロじゃない!」ドライバーが「俺も行く。どの道ここに居てもあまり役には立たねぇ。だが、畑を掘り返すなら1人より2人の方がいい」N坊は「分かった。2人で行ってくれ!この際、手段を選んでる場合じゃない。今はスピードが最優先だ!DBの菜園の場所は、新米が知っている。直ぐに出発だ!頼んだぞ!」「了解!」2人はスコップなどを持って飛び出して行った。「ミスターJへ知らせておくか?」シリウスが尋ねた。「可能性は5分5分だが・・・、俺が知らせる。横浜で金属探知が可能だといいんだが・・・」F坊は携帯を手に取った。拳銃の存在と言う不吉な知らせをしなくてはならない。最悪の場合、誰かが撃たれる事もあるかも知れない。Kの罪状に「銃刀法違反」が加わるだけではない。ターゲットは“彼”かも知れないのだ。ミスターJへのコール中、F坊は背筋が冷たいのを感じた。横浜に銃があるとすれば、それは「地獄への花道」が用意されている事を意味するのだ!

大義無き戦争

2018年09月07日 22時20分03秒 | 日記
米帝国が中華帝国に仕掛けている「関税戦争」。日を追う毎に、戦禍は拡大しているが、この戦争に「大義」はあるのだろうか?
確かに、貿易赤字は巨額なモノだが、米帝国の「依存」に寄って膨らんだ赤字でもあり、一方的な「国益重視」による戦争は、身勝手と言うしか無い。総統ジョーカーは「不公平だ!」とお怒りのアクションだが、目前に迫った「選挙対策」の為なのが、余りにも露骨な形で見えるだけに、見るに耐えない「身勝手さ」に呆れるしか無い。
近々、出版される「暴露本」によれば、総統ジョーカーの理解力は、小学4年生を下回ると書かれているらしい。とにかく「自分が1番」だと信じて疑いすらしないらしく、閣僚もさじを投げるしか無いと言う。お馬鹿丸出しの総統が「ガキ大将の喧嘩」を吹っ掛けるのだから、中華帝国もさぞ迷惑千万だろう。
総統ジョーカーの認識力は、30年は遅れている。我が国が、多額の投資をして米帝国内にどれだけの「雇用」を生んでいるか?大豆を中華帝国がどれだけ買っているのか?調べもしないで「不公平だ!」と言われても、こちらは困惑するしかない。逆に、肉や穀物が売れなくて困って居る米帝国国民の声や不満は、誰も聞かないのだろうか?売価の上昇で、米帝国国民が「多額のつけ」を払う事になれば、消費は冷え込み経済は落ち込み、やがて倒産へと続き税収は落ちる。自ら仕掛けた戦争で体力を削がれるのが分からない筈が無いのに、第3段を仕掛けると言うのは「狂気を孕んだ錯乱」である。総統ジョーカーが、ここまで愚かだと米帝国国民はいい加減に気付くべきだ。
中間選挙では、過去いずれも与党側が、議席を失っている。与党が安泰だった方が珍しい様だ。こうした「ジンクス」の他に総統ジョーカーには「ロシア疑惑」が忍び寄っている。浮かんでは消える疑惑が事実だとすれば、総統ジョーカーは安泰では居られないはずだ。故に「火消しと国民の目線を反らす「戦争」に活路を見出だそと、必死にもがいているのだろう。「大義無き戦争」は、仕掛けた側が大損害を出して終わる事が多い。私達も、総統ジョーカーから「脅されている」側だが、暫くはのらりくらりで「待ちの姿勢」を取った方がいいだろう。「高い代償を払い、苦しみもがくのは、総統ジョーカーと米帝国国民である」

ミスター DB ㊷

2018年09月05日 14時37分37秒 | 日記
闇を切り裂く様に疾走するスポーツカー。3人の男達が西に向かっていた。N坊とF坊、それに遊撃部隊1の走り屋の男。疾走するスポーツカーは、艶消しの黒い車体で明かりの少ない場所では、殊更に視認は難しかった。無論、より速く走るためのチューニングは手の入る範囲全てに渡っていて、警察無線の傍受装置や最新式の改造GPSレーダーも完備されていた。今、光の矢の如く高速道路を疾走しているが、揺れや突き上げは最小限に抑えられており、N坊は後席で爆睡中だ。「F坊、少しは寝て置いたらどうだ?」運転手が言った。「いや、俺はいい。下手に爆睡でもしたら、起きれなくなる」F坊は申し出を断った。「そうか、お前さんを叩き起こせるのはミセスAしか居ないからか?」「それもあるが、今のペースだとKの自宅に侵入するのが、明け方近くになりそうだからだ。チャンスは1度きり。失敗は許されねぇ」F坊は時計を睨みつつ言った。「この調子だと、予定より30分ぐらいは速く着けるはずだ。この先にオービスは無い。高速機動隊さえ動いていなけりゃ、かなりいいタイムが出そうだ」運転手は自信ありげに言った。「ともかく、アンタの腕に賭けるしかねぇ。何とか間に合わせてくれ!」F坊は苦しげに言った。「俺の腕とマシンを信じな!必ず間に合わせる!」運転手の男は、前方と後方を忙しなく見ながら、ギアを更に上げた。流石に組織1のドライバーだ。スポーツカーは一段と加速して進んでいく。“ともかく一刻も早く着かなくては” F坊は祈った。今できるのはそのぐらいだった。

地下駐車場への侵入はあっけなくカタが付いた。4本のペットボトルをすり替え、車内を物色したが、手掛かりになりそうなブツは出てこなかった。「司令部」に戻り、ミスターJとリーターと共に警察が使っている「簡易検査キット」で薬物反応を調べると、やはり「陽性反応」が出た。「無色透明無臭だが、間違いなくZZZが混入されておる。これを“彼”が飲めば、たちまち中毒性のショック状態に陥るだろう。恐ろしい手を使いおるなKのヤツめ!」ミスターJの目が怒りに燃えた。「だが、まだ断定は出来ない。確かにZZZだと証明しなくては県警は動かせん!至急ドクターに精密分析させるんだ!」ミスターJは言い放った。「しかし、ZZZの成分データーはどこから手に入れるんです?」リーダーが聞いた。「アメリカには子細な情報がある。シリウスに“ハッキング”させるしかあるまい。シリウスならどこでも侵入は可能なはずだ。リーダー、直ぐに指示を送れ!NとFが着くまでに情報を掴めとな。情報を入手したら、ドクターに検査の準備をさせるんだ。事は一刻を争う。NとF!車の手配は出来ている。直ぐにこのサンプルを持ってKの自宅へ向かえ!」矢継ぎ早にミスターJは指示を出した。N坊とF坊は車に乗り込んで「大返し」に取り掛かった。途中、警察の検問に会って渋滞した為、予定から大分遅れてしまった。だが、組織1のドライバーの腕とマシンの性能に助けられ、遅れを取り戻すまでになっていた。間もなく目指すKの自宅の近くのインターへ着く。問題は、Kの自宅への侵入とシリウスが情報を掴んでいるかに掛かっていた。

時間は少し戻って、秘書課長と2名の部下達は、無事に会社へと戻って来た。かなり疲れてはいたが、Y副社長への報告を済ませなくてはならない。最後の気力を振り絞って、横浜本社3階へと上がって行った。もう、とっぷりと日は暮れていたが、Y副社長は彼らを待っていた。ドアをノックし「ただいま戻りました」と言うと、Y副社長自らドアを開け室内へ招き入れた。3名を応接席へ座るように誘うと「ご苦労だった。早速、報告を聞こう」と静かに言った。秘書課長は、報告書とテープ、Z病院の詳細な図面をテーブルに広げ、報告を行った。部下2名もZ病院での出来事と院内の様子について詳しく報告を行った。報告書を繰っていたY副社長は、ZZZの文字を見た瞬間、表情を強張らせた。「秘書課長、ZZZの件は確かなのか?」心なしかY副社長の声は暗い。「はい、報告書にもある様に、私の実弟の口からもZZZの名は出ております。県警でも青竜会とZZZの関わりについては、調べを進めている可能性は否定できません。ミスターJの情報網にも掛かっているくらいですから、残念ながらまず間違いはないでしょう」秘書課長も慙愧に堪えない表情で答えた。「そうか、マズイな。これは・・・」Y副社長も苦り切った声でポツリと言った。席を立ち窓際へ歩きながらY副社長は「県警には、既にこちらの意向は伝えてある。“Kは逮捕しても、DBは証拠不十分で解き放ってくれ”とな。だが、ここまで悪行に手を貸した以上、立件されるのは覚悟せねばならん。会社としては、逮捕・立件されても口は出せん。DBだけを社内処分で済ませる次元の問題では無くなってしまった。いくらツテがあるとは言え、反社会組織が相手ではどうにもならん。DBの首を差し出す以外に会社を守るのは不可能だ。逮捕された時点で、DBを懲戒解雇にするしかあるまい」「はい、それしか手はありません」秘書課長も同意せざるを得なかった。「ところで、今回の企てについての証拠は集まっているのか?」Y副社長は秘書課長に言った。「いえ、確証はまだ得られていません。ZZZが使われていると言うのも、まだ推測の域を出てはいません。ミスターJが必死に追っていますが、Kが青竜会と接触を持ったか否かも含めて、具体的な物証や証拠集めは、これからのミスターJの秘密組織の行動次第です。彼は“必ず間に合わせる”とは言っていましたが・・・」「時間との闘いと言う事か?」時計を見つつY副社長は言った。「そうです。しかし、彼らの組織の総力を挙げれば、時間内に確証を得る事は可能だと思います」秘書課長も時計を見ながら返した。あまり時間は残されてはいない。明後日にはKとDBはZ病院へ行くのだ。“彼”に対する卑劣な犯罪まで、約36時間あまりしか残されていない。室内は重苦しい空気に包まれていた。その時部下の1名が「Y副社長、DBは起訴されるとお考えですか?」と聞いた。「ああ、そう考えるのが普通だろう。君は何か別の意見でもあるのか?」Y副社長は怪訝そうに聞き返した。「普通に考えれば、KとDBは逮捕され取り調べを受けた後、地検へ送致されます。問題は、地検の判断です。Kは間違いなく起訴され裁判に掛けられるでしょう。一方、DBはどうなるか?ですが、現段階に措いて“DBはKに手を貸したに過ぎない”状況です。今回の計画の立案や薬物の調達、犯行の手口の選定に至るまでK1人でやっています。DBは当然の事ながら“しらを切り通す”でしょう。自分は“何も知らなかった”と。私達が“耳”で聴いたテープは証拠としては使えませんし、DBが反社会勢力や薬物に関わった証拠も出て来ないと思います。そうなると、地検は“DBを起訴できるだけの証拠を得られない”事になります。確たる証拠が出て来ない以上、DBは不起訴となるでしょう。地検としては、Kの犯行を口実にして青竜会を叩く方が急務になりますから、DBは証拠不十分のまま釈放される可能性が高いと見てもいいと思います。ですから、DBに社内処分を科す機会はまだ残っているとは言えませんか?」彼は必死に訴えた。Y副社長は目を閉じて一心に何かを考えている。やがて「君の推論には一理ありそうだ。DBが証拠不十分で不起訴になる可能性はあるだろう。今までの報告を聞く限り、DBが重い犯罪に手を染めた形跡は無い。協力はしておるが。現在に至るまでの間、DBが率先して罪を犯した訳でも無く、工作に関わった形跡もない。だとすれば、DBを裁判に掛ける必然性は無くなる。我々の手でDBを裁く道はまだ残っておるな。懲戒解雇などにしたら、危うくヤツを逃がす事になる。例え、逮捕され送検されても、こちらは待っていればいい事になる。そういう事か?!」「はい、不起訴になるのを待ってから、DBを捕縛すれば、Y副社長の当初の見込み通りに行くと考えられます!」Y副社長の顔に希望の光が浮かんだ。「危うく見誤る所だった。まだ、我々手でDBは裁ける!それには、待てばいいのだな?」「はい、それが一番の得策かと思いまして・・・」彼は遠慮がちに言った。「待とうではないか!DBが解き放立てるのを。だが、県警にも再度申し入れをして置く必要はあるな。慌てずともDBは我が手の内にありか。落ち着いて現状を分析するのを忘れ掛かっていた。指揮官としては、惑ってはいかん。君が気付いてくれねば、私は事を誤る所だった。感謝する!」Y副社長は再び席に座りながら言った。「秘書課長、それと2名の諸君。今日はご苦労だった。異次元へ放り込む様な真似をして、済まなかった。だが、よく勤め上げてくれた!私は諸君の活躍を誇りに思う。ありがとう。言うまでも無いが、今日の事は他言無用だ。くれぐれも機密保持に努めて欲しい。遅くまで済まなかった。明日は、午前10時以降に出社したまえ。疲れただろう。早く帰宅しなさい。秘書課長、テーブルに広げてあるモノは私が預かる。県警と話し合う上で、再度検討をしてみるとしよう」Y副社長は3人と握手を交わし、改めて労をねぎらった。秘書課長達は疲労困憊ながら、任務を果たしY副社長の部屋を辞して行った。部屋は静寂に包まれた。デスクの椅子に座ったY副社長は「ミスターJの事だ、あらゆる手段で核心へ迫っているだろう。後は、彼の意地と誇りに賭ける以外にはなさそうだ。さて、私は私なりに手を打つか」そう呟くと、受話器を取り県警へ電話をかけた。改めて「内諾」を得るためであった。

F坊達の乗った車がKの自宅の近くへ到着したのは、予定より40分速かった。「最速タイム更新だ!どうよ、俺の言う通りだろう?」流石に組織1のドライバーだけの事はあった。「とにかく、俺はKの自宅へ侵入する。もうすぐ夜明けだ。当りが暗いうちに済ませて来るぜ。待っててくれ、10分以内に戻る」F坊はシートベルトを外しながら言った。「N坊は?」ドライバーが後ろを指さしながら聞いた。相変わらず爆睡中だ。「俺一人で十分だ。寝かせておいてくれ。“基地”へ行ったら、大車輪で格闘してもらわなきゃならない。さて、年寄りが目覚める前に行って来るか」そっと車のドアを閉めると、F坊は住宅街へ消えた。ドライバーの男は、エンジンを絞って音を出さない様に努め、当りを伺った。人気はない。だが、空は微かに明るさが増してきている。夜明けは近い。暫くすると、白い筐体を抱えたF坊が全速力で走って来るのが見えた。F坊は車に滑り込むと「よし、“基地”へ飛んでくれ!大至急コイツを調べなきゃならん!」と苦しい息の中で言った。「分かった。“基地”へ向かう」車は静かに住宅街を抜けると、再び疾走し始めた。

その頃“基地”では、留守を預かっていた3名が慌ただしく動き回っていた。ミスターJの見込みは当り、DBの菜園の小屋の裏手から「物証」が発見されたのだ。ZZZと思しき“粉末”とCD-Rが3枚。既に「物証発見」の報告は横浜へ伝達され、N坊とF坊達の到着を待っていた。“ドクター”は、発見された“粉末”の分析を始め、シリウスと車屋の新人は、複数台のパソコンの設置を終えて、ZZZの情報を検索し始めていた。CD-Rを調べていた車屋の新人は、それがバックアップ用のCD-Rである事を突き止めた。「Kはアホか?!これさえあれば、意図も簡単にパソコンを復元出来るじゃないか!1つ手間が省けた以上の効果がある。こんなモノを残して置くなんて馬鹿じゃないかな?!」と呆れていた。「それはそうだが、こっちは容易にはいかない様だ。ガードが異様に固い!別の手を考えるか・・・」シリウスはハッキングに必死になったが、侵入に手を焼いていた。彼が手を焼くのは「極めて珍しい事」であった。“ドクター”がやって来て「簡易検査の結果はクロだ。ZZZと言って間違いはなさそうだ」と言った。「今、成分分析を始めた所だが、ZZZのデーターはどうなっとる?」シリウスは「“ドクター”もう少し時間をくれ。今、別のルートに切り替えて侵入を試みている最中だ」と返した。手は素早くキーボードを叩き、目は画面から一瞬たりとも目を離さない。「お前さんが手を焼くのは珍しいな。だが、それも当然かも知れん。ZZZの原材料は、中米の某国が開発したと聞いたことがある。国家が組織的に関与しておるならば、その情報のガードは厳重にしなくてはならん。こっちも、分析にはまだ時間が必要じゃ。焦らずに腰を据えてかかれ」そう言うと“ドクター”は分析室へ戻って行った。「国そのものが開発に関わったとなると、最高レベルの機密情報って事になる。シリウスが手を焼くのも無理はねぇ」車屋の新人が納得した様に言った。「最高レベルの機密情報だか何だか知らないが、このシリウス様の手に掛かれば・・・、突破して見せる!」シリウスも意地になった。ハッカーとしての腕の見せ所だ。勿論、彼は“ホワイトハッカー”と言うセキュリティ・サイバー対策を生業とする者だ。プロとしての誇りを賭けて、闘いを挑んでいた。丁度その時、N坊とF坊を乗せた車が“基地”へ滑り込んで来た。3人の男達は、真っ直ぐにシリウスの元へ向かった。「おはよう、新米。シリウス、どうだ?いけそうか?」N坊が心配そうに聞いた。「後、3、いや5分くれ!もうすぐ最後の壁を突き破れそうだ!」彼は振り返ることなく必死に画面に見入っている。「新米、Kのパソコンを接続してくれ。早速、中身を拝ませて貰うとしよう。F坊、ここからは任せな。寝てていいぜ!」N坊は振り返ってそう言った。「悪いが、そうさせて貰う。俺達は少し休むぜ」F坊とドライバーの男は、ソファーに横になってそれこそ死んだように眠り始めた。「バックアップ用のCD-Rだって!ヤツら間抜けもいい所だ。“鍵”を置いていくなんて普通じゃ考えもつかないぞ。肝心要が抜け落ちてやがる」N坊はあきれ果てて口が塞がらない。「そうですよね!」車屋の新人がN坊の顎を塞ぎにかかる。「準備完了してます。いつでも始められます」「よし、まずは復元からだ!CD-Rがあるから、最初はそこから手を入れて行こう。新米、もう1台モニターを接続してくれ!」「了解です」N坊と車屋の新人がKのパソコンを立ち上げた。その時「よし!壁を破ったぞ!侵入出来た!」シリウスが吠えた。「新米、プリンターの用意は出来てるな?情報を出力するぞ!後、“ドクター”を呼んでくれ。必要な情報を特定して貰おう。余り長居はしたくない」車屋の新人は“ドクター”を呼んできた。N坊も輪に加わり、情報に見入った。「どこの国だ?翻訳して貰わないとサッパリ読めねぇ」N坊は首を捻った。だが、“ドクター”は熱心に読んでいる様だ。「そのものズバリだな。ここから全部出せるか?」「ああ、お安い御用だ。後でスキャナーで取り込んだら、翻訳するよ。ロシア語は流石に無理かい?N坊?」シリウスが聞いた。「ここは日本だ!翻訳してくれ。訳の分からん文字は、受け付けないのが俺の主義だ」N坊は突っぱねた。プリンターで情報を出力している間、シリウスは侵入に成功した経路を素早く記録した。「跡を辿られることはないだろうな?」N坊はシリウスに確認する。「それは大丈夫だ。複数のサーバーを迂回してアクセスしているから、心配はいらない。だが、侵入している以上、いつ遮断されてもおかしくは無い。“ドクター”これで本当に大丈夫か?」「これだけ正確な資料があれば、ZZZだと言う事の証明も分析にも支障はない。危なくなる前に離脱しても構わん」“ドクター”は保証した。「では、気付かれる前に離脱するぞ」シリウスは慎重に侵入先から離脱を図った。「だけど、よりによって何でロシアなんだ?」N坊が聞いた。「こっちの方がセキュリティが甘いからだよ。理由はそれに尽きる。それに、ロシアのシンジケートもZZZを狙っている。あわよくば、自国内で製造を企てているのは否定できない。向こうだって利権を欲しがるヤツは、わんさかと居るだろう」「どいつもこいつも、非合法に手を染めやがって」N坊が毒づくと「そう言う、我々も非合法に手を染めおって!」“ドクター”がそう言うと皆が笑い出した。「シリウス、ご苦労さん。悪いが、今度はKのパソコンの分析だ。手伝ってくれ」N坊が言うと「そっちの方がよっぽど楽だ。青竜会との繋がりを突き止めればいいのだろう?」「ああ、そうだ。こっちの方が危険度はグンと下がる」「庭先で遊ぶようなもんだ。分析には大した時間はかからないだろう」シリウスは自信を見せた。「F坊が寝不足にならなきゃいいが・・・、昼前には完全に分析も終わるだろう。横浜ですり替えた清涼飲料水はどこだ?」“ドクター”が尋ねた。「これがそうだ」N坊はスチロールの箱を指さした。「“ドクター”頼みますよ」「任せて置け。こっちの手に墜ちた以上、完璧に分析して見せよう」“ドクター”は新米にスチロールの箱を持たせると分析室へ急いだ。N坊は「とにかく時間がない。みんな頼んだぞ!さあ、俺達も急いで調べ上げよう。シリウス、閲覧履歴からアクセス先を特定してくれ。俺はメールを当たってみる」Kのパソコンの分析は急ピッチで進められた。残された時間は刻一刻と少なくなっていく。「間に合わせるしかねぇ」N坊は必死になってデーターを追った。時計を見る暇も惜しんで作業は続けられた。意地と誇りを賭けた闘いは佳境を迎えつつあった。

ミスター DB ㊶

2018年09月03日 14時03分31秒 | 日記
けたたましい笑い声が“耳”から聴き取れた。それが、KとDBのご帰還の合図だった。部屋へ雪崩れ込んだ2人は、ソファーに向かい合って座り、ネクタイをむしり取った。「DBの名演技のお陰で、万事順調だ。この調子なら、あの憎たらしい小僧は間違いなく自滅する。Yも失脚に追い込めるし、我らの復権は半ば果たされたも同然だ!」Kはご機嫌だった。「まずは、シャワーを浴びてサッパリしよう!冷や汗でベトベトして気持ちが悪い。DB、さあ、行くぞ!」「そうしよう。リフレッシュしないと酒がマズくなりそうだ」DBも同意した。バスルームからは、ギャーギャーと声が聞こえて来た。「気付かれている気配は無いな」ミスターJ達は肩をすくめて互いの顔を見合わせた。「あの脳天気がいつまでも続くとは限らんよ!」ミスターJはボリュームを絞り、コーヒーを淹れに立ち上がった。

KとDBがシャワーを浴びている隙に、N坊達とF坊達は相次いで、Pホテル5階の「司令部」に帰還した。彼らがもたらした詳細な情報によって、KとDBがZ病院で取った行動とミセスAとの話の内容、院内の詳しい図面から、Z病院内部の様子と堅固な警備体制が、明らかになった。N坊達とF坊達は、見聞き・調査した全てを子細に、ミスターJ達に伝えた。これにより、「司令部」に居ながらにして、Z病院での行動予測・推察が可能になった。「ご苦労だったな、4人共。ともかく、これでわざわざZ病院へ行かなくても予測が立てられる。N、F、部下の皆さん、一息つきなさい」DB彼らを労い、コーヒーを淹れてやり、休息を取らせた。だが、N坊とF坊の表情は冴えなかった。“ZZZ”と青竜会についての話を聞いたからである。暫しの休憩の後、秘書課長の部下2人は、早速「報告書」の作成の為、秘書課長と協議に入った。彼らにも切迫した表情が浮かんでいた。彼らを突き動かしているは「巨悪を倒す」と言う一念と、一刻も早くY副社長へ「情報を届けける」と言う執念であった。KとDBは、呑気にバスルームで「ひと風呂」浴びていて、中々出てこない。リーダーは「KとDBは何処で“祝杯”とやらを挙げるんでしょう?このままでは、次の配備に影響が生じます!」とミスターJに言った。「うむ、それはそうだが・・・、おい!誰か聞いていないか?KとDBは何処で“祝杯”とやらを挙げる?」とミスターJが誰何した。するとN坊が「中華街の△珍楼だと言ってました。裏は取ってませんが・・・」と答えた。「ジミー・フォンの店か、それは何処で聞いた話だ?」リーダーが聞き返した。「KとDBがホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら、周囲を警戒してた時です。部屋へ戻る前ですよ」N坊が答えた。「それなら、間違いないな。△珍楼なら、ロケーションとしては最高だ。リーダー、ジミー・フォンにコンタクトを取ってくれ。今夜、伺うとな」ミスターJが言う。「ジミー・フォンに、カモられるのを覚悟でですか?」リーダーは気が進まない様だ。「ジミー・フォンだって青竜会の名前を出せば、素直に協力するだろう。カモにされてるのは、フォン達だって同じだ。青竜会の力を削ぐことが出来るなら、向こうも歓迎するだろうさ!」ミスターJは意に介する様子はない。「誰を送り込みますか?」「大隊長に一任する。収音マイクが使える者なら誰でもいい。ついでに大隊長にも伝えておいてくれ。具体的な指示は、私が出すと言っておけ」「では、早速手配にかかります」リーダーは携帯を取り、連絡を取り始めた。

シャワーを浴びたKとDBは、バスタオルを腰に巻き付けただけの状態で、ソファーに踏ん反り返った。その様は巨大な「食用蛙」と大差なかった。DBはずっと気になっいた事をKに尋ねた。「そろそろ聞きたいんだが、あの憎たらしい小僧を自滅に追い込む手とはどんな手か聞かせて貰えないかね?」Kは指を口に当ててから「それは、俺だけが知っていればいい事だよDB!アンタが知っていると万が一の場合に、マズイ事になる。俺は会社を辞めた人間だ。だが、アンタはまだ会社に籍があるし、生き延びてもらう必要がある。俺が万が一にもしくじった場合に、鉄槌を下せる人間を残しておかなくてはならない。半年前の教訓からするとだな、Yの背後には常に陰の実働部隊が居る。それが誰なのかは分からんが、その陰の部隊は実に巧妙に我々の動きを察知し、常に先回りをしていた。今回も、その陰の部隊が動いている可能性は否定できない。今の所、そう言った気配は感じられないが、予防線を張って置くのは必要だ。それらを総合的に考えると、DB!アンタは計画の裏は覗いてはならん!万事全てを知っていると、Yの手で消されてしまうだろう。そうなれば、次の手が打てなくなるだけでなく、憎たらしい小僧が生き延びてしまう恐れもある。多分、今回の計画は成功し小僧は自滅するだろう。だが、証拠を残すのは危険だ!もし、Yが嗅ぎつけたら、DB!アンタの身もタダでは済まない。俺は、出発するにあたって、パソコンのデーターを消去しただけでなく、その他の証拠になりそうなモノは、全て処分するか、DB!アンタの菜園の小屋の下に埋めて来た。陰の部隊に悟られないためだ。俺がどんな手で物品を集め、仕掛けを用意したかは俺自身しか知って居なければ、計画が露見する心配は格段に下がるし、後腐れも考えなくていい。DB!アンタは、俺様Kに“計画実行に当たり、協力を強要された”と言う立場に居て貰わねばならないんだ!だから、悪いが“これ以上、知ろうとしないでくれ”。俺は明後日、計画を実行した後、一時的に海外へ高飛びする。ほとぼりが冷めるのを待つためだ。その間に、憎らしい小僧がどうなったか?を調べるのはDB、アンタが頼りだ。それには、Yから何の咎めも受けないで居てくれる事が絶対条件だ。俺が何をし、どんな手を用いて準備をしたか?さえ知らなければ、官憲だって証拠不十分で釈放せざるを得ない。Yだって証拠が得られなければ、処分の下しようがない。いいか!今回の実行犯はこの俺Kなのだ。DB!アンタはやむを得ず協力させられた“被害者”に成りすますんだ!そうすれば、万事が上手く行く。どうだ?納得してもらえるかな?」DBは暫く腕組みをして考えていた。ヤツもY副社長のしつこさや狡猾さはイヤと言う程、思い知っている。にくらしい小僧を葬るとすれば、ここはKの言う通りにするのが最善だった。「分かった。俺は裏を覗かない。詳細も一切知らない。それを押し通せばいいんだな?K!」「その通りだDB!俺の灰色の脳細胞に全てが格納されていば、万事が安心だ。さあ、△珍楼へ出かける時間だ。支度をしよう。今晩は“偉大なる勝利”を祝して、ぱーっと騒ぐぞ!」Kの口元が緩んだ。「では、いざ!祝いの席へ」DBも尻馬に乗った。2人は、着替えを済ませると「遂に勝った!Yも失脚だ!」などと口々に言いながら、部屋を出て行った。目指すは横浜中華街、△珍楼だ。

KとDBの会話は“耳”を通して5階の「司令部」の全員が聴いていた。ヤツらが横浜中華街、△珍楼へ向かうため、部屋を出たのを確認すると、リーダーは「司令部」から出て行った。2人の出発と移動手段を確認する為だ。間もなく戻ったリーダーは「ヤツらの出発を確認しました。タクシーに乗り込んで移動中です。ナンバーはこれです」と言ってメモをミスターJに渡した。「直ちに、機動部隊へ通報しろ。追尾開始だ」リーダーは携帯で指示を送った。「Kにしては、念の入った計画だな。DBを生かすか。だが、そうはさせん!2人揃ってお縄を頂戴して貰わなくてはならん!」ミスターJは決然と言い放った。そして秘書課長の方へ向くと「皆さんの任務は、これで終わりです。このテープと共に報告書をY副社長へ提出して下さい。なるべく正確に見聞きした全てを、ありのままに伝えるのです」そう言って秘書課長にテープを差し出した。「しかし、KとDBの計画の全貌については、何も掴めていないのと同じです。証拠も隠滅されているじゃありませんか・・・」秘書課長は肩を落としていた。手掛かりは現時点では何もないのだ。「心配は無用です。証拠は必ず掴んでご覧に入れましょう。証拠さえ揃えば、計画の全貌も見えてきます。そう私が言っていたとY副社長へお伝えください。そう言えばお分かりになりますよ」ミスターJは自信を込めて言った。「分かりました。とにかく至急戻ってY副社長へお伝えしましょう。では、失礼します。吉報を待っております」秘書課長と2名の部下達は、疲れ切ってはいたが、会社へと戻って行った。彼らは想像を絶する任務をやり遂げて、帰社するのだ。Y副社長も彼らの帰社を待っているに違いない。そんな彼らの後ろ姿を窓から見送ったミスターJは「さて、こちらも次の手を打たねばならん。NよFよ、ホテルの地下駐車場への侵入は可能か?」と聞いた。「勿論、手は考えてあります」N坊とF坊は即答した。「ただ、今すぐと言う訳には行きません。まだ、ホテルへチェックインして来る宿泊客は居るはずです。駐車場係が居なくなる時間帯になるまでは手は出せません」N坊とF坊は時計を見ながら「後、1時間後なら、頃合いを見計らって侵入出来ます」と答えた。「Kの車のこじ開けも含めてか?」ミスターJは目を細めて聞く。「はい、そっちの方が楽なくらいです。それで、何を探すんですか?」「この4本のペットボトルをKが用意したモノとすり替えるんだ。恐らくトランクだろうが・・・、その他に車内も不審なモノが無いか捜索するんだ!それだけでいい」ミスターJの指示にN坊とF坊は少々面食らった。「ZZZは探さなくていいんですか?」「ああ、Kも今回は学習をして来ている。ZZZは車内からは発見されないはずだ。ZZZは、恐らくDBの菜園の小屋の周囲に埋まっているだろう。残りがあればの話だが・・・」ミスターJはそう当りを付けた。「リーダー、“基地”に残っているメンバーは誰だ?」「はい、ドクターとシリウスと車屋の新人の3名です」「よし!3名に緊急指令を出せ。DBの菜園の小屋の周囲を徹底的に洗え!とな。丁度夜だ。誰にも見咎められずに捜索が出来る。ブツは少量の粉だ。多分、油紙にでも包まれているだろう。それにまだ、掘り返してそれ程時間が経過していない。見つけるのは難しくはないはずだ。直ちにかかれ!」ミスターJはピシリと言い放った。リーダーは直ぐに“基地”へ指示を伝えた。「彼らは、5分以内に出発します」「そうか、私の勘が当たっていれば、必ずZZZは見つかるはずだ。NよFよ、詳しく話して欲しい。Kはパソコンを初期化したと言っていた。初期化したパソコンのデーターを元に戻す手はあるか?」ミスターJは真顔で2人に尋ねた。「Kの話からすると、初期化しただけの様ですから、データー復活ソフトを使えば、覗ける可能性は高いですね。初期化しただけでは、パソコンのデーターそのものが消える訳ではありません。例えて言うなら“表面を均した”だけに過ぎません。ソフトを使って掘り返せば、中身は大抵丸見えです。ですから、データーを完全に消すとしたら、ハードディスクを物理的に破壊するか、Windowsを消してから別の暗号ソフトでハードディスクを上書きするしかありません。それをやられたとしたら、お手上げですが、Kの話ではそこまで頭は回っていませんね」N坊とF坊はなるべく分かりやすい言葉を選んで答えた。「では、Kのパソコンさえ手に入れば、ヤツが何をしたか?を見る事は可能なんだな?」「ええ、時間は必要ですが、それ程難しい話ではありません」「“基地”にシリウスが居るのなら、時間も短縮出来るでしょう。シリウスならKの足跡を辿るのも容易でしょうし」F坊は言った。「ドクターも居るのなら、Kの清涼飲料水の分析も出来る。そこに俺達が加われば、作業効率は格段に上がりますから、Kの悪行の証拠を掴むまでの時間は半日ぐらいあれば暴けるでしょう」N坊がおおよその時間を示した。ミスターJは決断した。「よろしい、2人共ご苦労だが、地下へ侵入した後、出来る限り速やかにKの自宅へ向かってくれ。そして“基地”でパソコンをこじ開けるんだ!ZZZと言う物理的証拠と、青竜会との関係を示す証拠を何としても手に入れるんだ!そして、その証拠を持って再びここへ戻ってくれ!時間との闘いになるは分かっているが、今それをやらねばKもDBも潰せない。ヤツらに正義の鉄槌を下すには、お前達2人の力が必要なのだ。済まんが宜しく頼む。遅くとも明後日の朝までに必ず戻って来るのだ!」「はい!何とかやってみましょう。まずは・・・、地下へ侵入しなきゃなりませんね。早速、準備に掛かりますよ」N坊とF坊は“侵入”の用意にかかった。ミスターJは、リーダーに「遊撃部隊に連絡して、車を1台回送させろ。2人をKの自宅へ送り込むんだ。時間が惜しい。最速で戻れる車両を手配しろ!」と命じた。「それと、リーダー。例のNPO法人について、内偵を進めてくれ!青竜会の関与について、詳しく知りたい。Kが青竜会の関与を事前に察知していたかどうか?をだ。もし、知り得ていたなら更なる罰条が付け加わる!NとFが集めてくる情報の裏を取って置かねばならん」ミスターJは決然と言った。「直ちに手配に掛かります!」リーダーは携帯を手にして、次々と指示を発し始めた。「証拠だ。確たる証拠を得ねばならん!折角ここまで計画が明らかになったのだ。県警を動かすには、確たる証拠が無くてはならん。時間は限られとるが、何としてもヤツらの尻尾を掴んで見せよう!これは、我らの意地でもあり、誇りを賭けた闘いだ!負けるわけにはいかん!」ミスターJは明後日の朝までに全てを賭けて挑もうとしていた。文字通り「意地と誇り」を賭けた時間との格闘だった。